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2015年08月03日(Mon)
どうあるべきか 日本のホスピス、レスパイト施設
(リベラルタイム 2015年9月号掲載)
日本財団理事長 尾形 武寿


Liberal.png我国では約20万人の子どもが小児がんや脳性まひ等の難病と闘っている。しかし、子どもホスピスや、日々、看護に追われる家族のレスパイト(小休止)施設の整備は遅れており、日本財団では「民」の立場から、全国30ヵ所を目標に“受け皿”づくりに取り組むことになった。
そんなわけで7月初旬、福祉先進国・イギリスを訪れ、世界最初の子どもホスピスである「ヘレン&ダグラスハウス」等、三つの施設を視察した。

同施設の基となった「ヘレンハウス」は1982年、オックスフォードに開設された。受け入れ対象者は16歳未満。2004年、十六―三十五歳が対象の「ダグラスハウス」も併設され、現在は「ヘレン&ダグラスハウス」と呼ばれる。

何よりも感心したのは、広大な緑の環境に囲まれた施設全体の素晴らしさ。子ども用の寝室は全て庭に面し、家族用の宿泊施設も明るく高級感が漂う。

子どもが亡くなった際の「祈りの部屋」も、冷房の活用で五日間の遺体安置が可能。“別れの時間”が十分確保され、家族に対する心のケアも用意されている。

現在、施設に登録しているのは二270人。年間21日の宿泊が可能で利用料は無料。8人の医師、70人の看護師が、近くの子ども病院と連携して交代で対応し、これを1,200人のボランティアが支える。

運営費用は年間約550万ポンド(約10億5千万円)。国の補助は100万ポンド(18%)弱、過半の300万ポンドを寄付、残りを36のチャリティーショップの売り上げ等でカバーする。

寄付は、年会費1万ポンド以上の富裕層や企業の協力が中心だが、月会費2〜20ポンドの個人会員も4千人を超え、チャリティーショップの運営も専任職員とは別に800人のボランティアが参加。地域を挙げた支援態勢が組まれている。

訪問した三ヵ所とも規模は多少違うが、施設の性格や運営方法はほぼ同じ。そのうちのひとつブリストルの「チャールトンファーム・チルドレンホスピス」には日本人医師、馬場恵さんの姿もあった。父の仕事の関係で渡英し、イギリスの大学を卒業、医師の道を選んだ。

馬場さんによると、イギリスでは難病の子どもと家族を、医師や看護師、カウンセラー、ボランティアが一体となって支える施設がすでに40ヵ所以上、整備されている。カナダやオーストラリア、ドイツ、米国などにも、この方式が広がっているようだ。

これに比べ、我国の取り組みはやはり遅れが目立つ。我々は最近、国立成育医療研究センター(東京・世田谷区)と「喜谷記念財団」、さらに一般社団法人「こどものホスピスプロジェクト」(大阪市中央区)と株式会社「ユニクロ」と協力し東西2ヶ所の施設づくりに着手した。
前者は、重い病気を持つ子どもを家族が在宅でケアできる「第二のわが家」、後者はコミュニティ型の「子どもホスピス」の建設が目標だが、国内の態勢整備は緒に就いたばかり。

確かにイギリスは国民扶助法や児童法等、各種の社会保障制度が整備され、手厚い寄付やボランティア文化もある。しかし日本と同じ島国で、近年の国家財政の逼迫も共通している。

イギリスでできて日本で不可能ということはないはずだ。しかも難病の子どもたちに限らず、高齢化に伴う介護等、家族の負担は今後、確実に増える。

家族社会、地域社会が崩壊した日本でのホスピスやレスパイトはどうあるべきか、あらためて考えさせられる英国訪問だった。






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