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2015年06月11日(Thu)
子どもが家庭で暮らす社会にむけての道しるべ
熱心に講演を聞く参加者
熱心に講演を聞く参加者


日本では現在、約3万人の子どもが施設で暮らしている。この数字は事情があって実の親に育てられない子ども全体の85%にあたる。このうちの約3,000人は0〜2歳の乳幼児だ。日本財団は、こうした赤ちゃんすべてが温かい家庭で育てられる社会を目指して「ハッピーゆりかごプロジェクト」という取り組みを続けている。その一環で6月8日、日本財団ビルにてシンポジウム「子どもが家庭で暮らす社会に向けての道しるべ〜中央・東ヨーロッパの実例から〜」を開催した。
特別講演を行ったのは、英国の国際的NGO「ルーモス」の代表であり、世界で最も影響力のあるソーシャルワーカー30人にも選ばれたジョルジェット・ムルヘア氏。ルーモスは、「ハリー・ポッター」シリーズの著者J.K.ローリング氏が2005年に英国で創設した団体で、子ども達が施設ではなく家庭で暮らすための体制作りを世界中で支援している。ルーモスの活動は中央・東ヨーロッパが中心だが、その経験・知見から日本が学べることは多い。

会場には140人の参加者が詰めかけ、この問題への関心の高さを伺わせた。子育てや教育関係の団体代表者、市民、メディア関係者に加えて、国会議員や東京都議会議員の姿も見られた。冒頭、日本財団の尾形武寿理事長があいさつし、来賓の福田峰之・衆院議員による国会議員の取り組み紹介や、特別養子縁組を推進する横須賀市長からの祝電披露がなされた後、児童精神科医の上鹿渡和宏・長野大学准教授が日本の現状を解説。これに続き、ムルヘア氏が登壇した。

ルーモス代表、ジョルジェット・ムルヘア氏
ルーモス代表、ジョルジェット・ムルヘア氏


ムルヘア氏の経歴は英国の子どもホームでスタートした。施設でありながら、子ども6人に対して、スタッフが常に3人いるという少人数制で、質が高いと評価されていた。しかし、成果(子どもが18歳で施設を出た時に社会に参加できる能力)は決して芳しいものではなかったという。ムルヘア氏は「設備がいくら良くても、スタッフがいくら優秀で熱心でも、家庭と違ってスタッフはシフトが終わると帰宅する」と説明。脳が未完成な2歳未満の赤ちゃんにとっては特に、家庭でしか与えられない安心感、刺激、絆が必要不可欠だと訴えた。

ムルヘア氏は、子どもを施設で育てることは不適切なだけではなく、コストが高いことも指摘した。ルーモスの事例では、乳児院に比べて短期里親ケアにかかる費用は3割ほど安く、地域ベースの家庭支援サービスに至っては20分の1までコストを削減できたケースがあったという。

これらを説明したうえで、ムルヘア氏は「『施設改善』ではなく、『脱施設』するしかないのは言うまでもないこと」と強調した。「脱施設」の取り組みは、既存施設の職員を退職させるわけではなく、彼らに地域ベースの家庭支援に向けてトレーニングを受け直してもらい、家庭支援のパートナーとして新たな役割を担ってもらうことを指す。NGOや政府(国、県、町村ともに)、既存施設の経営者が連携して取り組むことで、政府にはコスト削減、施設の職員にはもっと効率的に仕事ができる環境が、そして、何よりも子ども達には質のよい暮らしが実現できる。ムルヘア氏は「日本では15年以内にすべての子どもが家庭、あるいは家庭のような、一人ひとりのニーズに合う環境に住めるようになる確信があります」と期待をにじませた。

アンドル・ユルモス氏(左)、ジョルジェット・ムルヘア氏(右から二番目)、上鹿渡和宏・長野大学准教授(右)
アンドル・ユルモス氏(左)、ジョルジェット・ムルヘア氏(右から二番目)、上鹿渡和宏・長野大学准教授(右)

ムルヘア氏に続き、同じく日本財団の招きで来日した欧州委員会地域・都市政策総局政策アナリストのアンドル・ユルモス氏が「欧州構造投資基金2014〜2020年 地域ケアサービスへの移行」と題して講演した。EUでは、子どもの養育も含む「地域結束政策」に予算総額の約3分の1が充てられていることを紹介したうえで、施設から地域ケアへ移行させる欧州委員会の取り組みと成果、課題を説明した。

最後に、公益財団法人全国里親会副会長の木ノ内博道氏が日本の現状と課題を指摘し、上鹿渡准教授とムルヘア氏、ユルモス氏がまとめのコメントを発表してシンポジウムは終了した。日本財団は、これら海外の事例が多くの人の参考になり、日本でも「脱施設」の動きが進むよう期待している。(デビッド・スペングラー)

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