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2014年09月11日(Thu)
被災者の心理面でのケアを支援 福島国際会議 政府に提言
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内外の専門家が参加

東京電力福島第一原発事故から3年半。福島県民の健康への影響を国内外の専門家が検証し、今後の復興施策を議論する国際専門家会議「放射線と健康リスクを超えて〜復興とレジリエンス〜」が9月8、9の両日、福島市で開かれた。

世界保健機関(WHO)などの国際機関や福島県立医科大学の調査・分析結果では放射線の直接的な健康被害は考えられないという認識で一致したが、住民には依然として放射線に対する不安があるほか、長期にわたる避難生活などにより肥満やうつ病など精神面や健康面で2次的な影響が深刻化している実態が明らかになった。
2日間の論議を踏まえ、同会議は政府への提言をまとめた。放射線防護基準については地域の状況や個人の生活に応じて柔軟に設定するとともに、個人が自らの放射線状況をコントロールできるように、情報伝達のインフラを整備することを求めている。保健医療などのサービス従事者も大幅に増やし、被災者の心理的・社会的福祉の向上を図るため支援すべきだと要望した。

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安倍首相に提言を提出

主催者の日本財団笹川陽平会長が11日、首相官邸で安倍晋三首相に提出。提言書を受け取った安倍首相は「科学的、医学的な分析・助言でコミュニケーションをとっていくことが重要だ。提言を参考に地元市町村、福島県立医科大学とともに健康で安心した生活が取り戻せるよう全力を尽くす」と述べた。

専門家会議は日本財団が主催し、笹川記念保健協力財団と福島県立医科大学が共催、長崎大学が協力した。今年で3回目の開催で、参加した国際機関はWHOのほか国連科学委員会(UNSCEAR),国際原子力機関(IAEA)、国際放射線防護委員会(ICRP)の4機関。国内外の放射線や医療専門家ら300人が参加した。

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挨拶する笹川会長

冒頭、笹川会長は会議の特徴について専門家の論議に加え、原発事故の影響を受けた地域住民や医療サービス関係者の話を聞き、事故による心理面での影響への理解を深めることだと指摘。「科学的に福島の現状について議論し、福島のレジリエンスと復興の強化を確かなものにすることを願っている」と挨拶した。

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県民健康調査結果を報告する福島県立医科大学の長谷川有史氏

会議では2日間にわたり、4つのセクションと2つのパネルが開かれた。初日のセッションで福島県立医科大学が県民健康管理調査の結果を報告。全県205万人を対象とした外部被ばく線量調査(回答率26.4%)によると、事故発生後4カ月間で最大数値は25ミリシーベルト(mSv)、全県平均では0.8 mSvで「放射線による健康影響があるとは考えにくい」と指摘している。

不安視されている子どもの甲状腺影響については、事故発生時満18歳以下の子ども36万8000人を対象にした調査で、8月末時点で57人と5月公表時から7人増えているが発症率には地域差はなかったという。

健康診断では、肥満や高脂質、高血圧など生活習慣病による健康障害が年齢とともに増加している。精神問題ではうつ症状やPTSD症状も有病率が日本の一般集団より高い。自殺者は2011年から2012年にかけて被災3県では減少しているが、福島県沿岸部では増加していることが分かった。

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IAEAの「福島報告」に触れたゴンザレス氏

4つの国際機関からも事故後の放射線被ばくレベルと健康リスク評価が発表された。このうちアルゼンチン原子力規制庁のアベル・ゴンザレス氏はIAEAが来年発表する「福島報告」に触れた。この中で他の国際機関が公表した福島の被ばく線量について「早い時期での調査で空間線量から住民の被ばく量を推計したもので、現在行われている実測値より高い数値になっている」と指摘。県立医大と同様に健康への直接的な影響はないと述べた。

チェルノブイリで多くの子どもが発症した甲状腺がんでも、同氏は「チェルノブイリでは対応が遅れ、汚染された牧草を食べた牛からのミルクにより子どもに障害が起きた。福島まではこの経路が断たれている」と対応の違いを強調した。

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子どもの被ばくを報告するメトラー氏

UNSCEARのフレッド・メトラー氏(二ユーメキシコ大教授)も子どもへの放射線被ばく影響を発表。「子どもは大人に比べて甲状腺の影響を3−5倍受けやすい」とされていることについて「リスクが高いわけではない」との見方を示した。

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高い評価を受けた大槻さん

2日目のセッションで、心理的社会的問題について現場からの報告があった。原発から北西部に位置する伊達市在住の大槻真由美さん。チェルノブイリを思い出し「今すぐ逃げなければ」。事故発生直後の3月14日に1歳と3歳の子どもを連れて青森県の実家に避難した。政府の避難指示から早い対応だった。それでも20日余りで帰宅した。自分で線量計を購入し、家の回りも除染した。「正しい知識を持てば、前向きに生きていける」。大槻さんの対応について多くの専門家から自助努力のお手本として高い評価が寄せられた。

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避難者の実情を報告する草野さん

同県西部の会津地域には沿岸部からピーク時には1万人が避難した。避難者の心のケアに携わったのが保健師の草野つぎさん。今までの生活から切り離されたことで、引きこもりになり飲酒が進んだり、発作的に自殺しようとしたりなど精神面で追い詰められている被災者の実情を説明した。

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記念撮影する参加者

事故発生以来、被ばく線量の数値をめぐって住民に不安が広がった。今回の会議で専門家から「これまで上から目線で話をしてきた。住民の居住・生活環境など個別事情が後回しになった」と指摘する意見が相次いだ。今後、科学的知見を伝えるには、住民との信頼関係を築いてコミュニケーションをとることの重要性が改めて示された。(花田攻)




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東日本の震災復旧と福島の放射能対策は直近の重要な課題であります。
2011年(平成23年)3月に東日本大震災により福島原発の事故が発生し、約3年半が経過しましたが、放射能の浸出水問題や除染ガレキの最終処分の方向が未だ定まらず、現在に至っています。
 このような中で、1滴の水も漏らさない水の器の技術を発明し、「海洋(水域)のうつろ」(3)として今年4月に「福島原発の「海洋のうつろ」を利用した放射能の海洋汚染と廃棄物処理対策」を出版し、大変好評を頂いています。
この技術は『1滴の汚染水も漏らさない「海洋の空(UTSURO)」を利用した巨大な貯水池(水の器)』を構築し、汚染水をはじめ、海底の放射能泥や放射能の貯除染ガレキを海底泥深く封じ込めると共に廃棄物の浸出水や放射能を遮断して、津波を防御する技術であります。
この要約ポスターを作成し、整理致しましたので同封いたします。大変お手数ですが、適当な場所に掲示の上、ご批判賜りますようお願いするものであります。


〒649−6261和歌山市小倉201番地
    NGO「海洋の空」研究グループ
         代表者  赤井 一昭
   メール net@akai-f.co.jp
FAX  073−477−1185
   電話番号 090−8504−8516
Posted by: 赤井 一昭  at 2014年09月16日(Tue) 11:15


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