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2013年06月27日(Thu)
千慮の一失
(朝雲 2013年6月27日掲載)

日本財団会長 
笹川 陽平 

 新法王フランシスコ一世が六月、聖職者や教皇庁スタッフを育成するアカデミーの演説で「キャリア主義はハンセン病(Leprosy)」と表現され、WHO(世界保健機関)のハンセン病制圧特別大使として文書で遺憾の意をお伝えした。
 ハンセン病は古くから「神罰」、「穢れた病気」として忌み嫌われ、患者・回復者は社会から排除されてきた。一九八〇年代の治療薬の開発で“治る病気”となり、世界で千二百万人に上った患者も五十万人以下に減少したが、教育や結婚、就職など差別は依然深刻。特別大使として二〇一〇年に国連総会で決議された「患者とその家族に対する差別撤廃決議」の実現に向け世界を行脚している。

 ローマ教皇庁も毎年二月の「世界病者の日」に発表するメッセージで患者・回復者の人権回復を訴え、二〇〇九年には差別撤廃を世界に訴えるアピールにも賛同署名いただいた。一九八三年には法王ヨハネ・パウロ二世が亡父・笹川良一と接見、白衣の法王が父を抱き締め「ハンセン病の取り組みに感謝する」と語る姿に感激した記憶がある。

 ハンセン病は新法王名の由来となった「アシジのフランチェスコ」の逸話にも登場する。フランチェスコは十二世紀イタリア・アシジの裕福な商人の家に生まれ騎士になるのを夢見たが、ある日、町で出会ったハンセン病患者を衝動的に抱擁したのを機に、「弱者への献身」、「病者への慈愛」の虜となったという。

 こうした話を聞くうち、新法王には何か因縁めいた親近感さえ覚える。世界十二億人のカソリック教徒の総本山である教皇庁は近年、聖職者による未成年者の性的虐待や不正な会計処理などスキャンダルに揺れている。アルゼンチン出身で、千三百年振りに欧州以外の国から選ばれた新法王は穏健な改革派といわれ“Leprosy”の一言も聖職者の出世主義を厳しくたしなめる中で出た“失言”あろう。「千慮の一失」の格言通り、どんな賢い人にも間違いや思い違いはある。

 新法王の出身地・南米にはカトリック信者の四割が住み、ハンセン病患者・回復者も多く、発言の影響も大きい。遺憾の意を伝える文書では法王への拝謁もお願いした。どんな返事をいただけるか、心待ちにしている。
タグ:ハンセン病
カテゴリ:健康・福祉




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