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2013年10月24日(Thu)
小さな美術館から独自の情報発信 新たなアートと伝統の調和目指す 福島県猪苗代町で
 会津富士と呼ばれる磐梯山と猪苗代湖を抱える福島県猪苗代町で、来年6月のオープン目指して小さな美術館づくりが進められている。築120年の酒蔵を改修してアール・ブリュットを展示する「はじまりの美術館」だ。日本財団の「New Day基金」の支援を受けた同県内の社会福祉団体が運営主体となり、徹底して地元住民の意見を聞いて地域に根差した美術館の構想を練り上げた。10月20日には、地元でプレオープンイベントのフォーラムが開かれ、美術関係者やまちづくりの専門家と地域の人たちなど40人が参加して美術館の役割、活用の仕方などについて活発な意見を交わした。東日本大震災後の新しい東北を創り出す目的で「はじまり」と名付けられた同美術館。人のぬくもり、伝統、新たなアートが調和した独自の情報発信が始まる。

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蕎麦屋の2階が会場
 アール・ブリュットは、フランス人画家のジャン・デュビュッフェが1945年に提唱した概念で、「生(き)の芸術」と表されるフランス語。正規の美術教育を受けていない人が流行にとらわれず、内発的に生み出した絵画や造形作品を指す。知的または精神的障害のある作家も多く含まれる。

 運営するのは同県郡山市に本拠を置く社会福祉法人の安積愛育園。障害者支援施設などを経営しており、障害のある利用者にアートや楽器演奏、スポーツなど得意分野で力を発揮させる活動に取り組んでいる。同基金は震災後の2011年11月、国内外の著名な芸術家15人が被災者支援のため作品を無償で提供、チャリティーオークションの売上金の半分3億4千万円を基に設けられた。同財団は震災復興支援の一環として酒蔵の改修費など6千万円を安積愛育園に支援した。

 フォーラムが開かれたのは、改修中の美術館の道路入り口にあるお蕎麦屋さんの2階。
地域の中での美術館の役割などについて、それぞれの専門家から報告が行われた。東京芸大特任助教の伊藤達矢さんは東京都立美術館との連携で、公募した人がアート・コミュニケーターとして同美術館を舞台に、小学生を対象にした放課後の美術館活動などを行っている例を紹介。「美術館は新しい価値感を生みだし、人とのつながりの中から社会に届けるパワースポットになれる」と主張した。「はじまりの美術館」造りに関わっているスタジオ・エルの山崎亮さんは全国の公園やデパート、島などで展開した地域住民参加型の街づくりを取り上げ、「核となる施設が課題を抱えている場合には、施設から飛び出し地元の住民に関わってもらいにぎわいを創り出すこと大事」と指摘した。

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山崎亮氏(左)、伊藤達也氏(右)

 人類史の汚点と言えるアウシュビッツ強制収容所、広島原爆、そして東日本大震災。こうした大虐殺、大惨事を前に芸術の意味を問い掛けたのは女子美術大教授の南嶌宏さん。
特に1996年にらい予防法が廃止されるまで日本の社会から隔離されたハンセン病患者の「作品」を紹介、強制的に赤ちゃんを奪われた母親の悲しみを表した人形や貝殻が現代美術の在り方を突き付けている、と指摘。これからの美術館の可能性として、アール・ブリュットを含めた作品の前で一日中、会話する人がいるような場所づくりが必要だ、と述べた。

 東京国立近代美術館主任研究員の保坂健二朗さんは、アール・ブリュットの言葉の由来や、作品の扱いについて欧米はコレクターが存在し美術館で展示されているが、日本は福祉関係者が細々と支えてきた、と違いを説明。アール・ブリュットが美術館に展示されることで「作家はプロだけでなく、作りたいからつくるというアマチュアの作家の存在感が増し、観客も見知っている人の作品を見ようと足を運ぶようになる。美術館はもっと地域に開かれ、身近な存在に感じられる」と述べた。

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南嶌宏氏(左)、保坂健二朗氏(右)

 仙台市から友人2人と参加した50代の女性は「4人の講師が様々な切り口で話をし興味深かった。アール・ブリュットに光を当てることでアートの柔軟性が増したようです」と話していた。

 「はじまりの美術館」に生まれ変わる酒蔵は明治の初め、地元の豪商が建てたもので棟木の長さが18間(約32メートル)あることから「十八間蔵」と呼ばれていた。建物は長さ34メートル、高さ8メートル、幅は7メートルある。長い年月による劣化や震災の影響で、建物の傷みはひどく、カヤ葺きや土壁、柱の一部は撤去して補強したが、棟木などの古材はそのまま活かし、街の風景に溶け込んだ建物としてよみがえらせている。

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工事中の美術館の様子

 「地域の歴史的な建物を活かし、福祉と美術が一体となった施設にするには、街の人が何を望んでいるかを知り、一緒に活用する必要がある」。愛育園で美術館準備室を立ち上げた岡部兼芳さん、千葉真利さんは地元との共生を強調した。計画スタートとともに、地元の商店街などから美術館への思いを聞き取った。「住んでいる人が集うことができるカフェが必要」「小休憩できる施設」「学校帰りの子どもが集まったり、通り抜けができたりする建物づくり」など様々な声が寄せられた。

 美術館の敷居を低くし、誰でもが気軽に立ち寄ることができるように、内部の造りはこうした地域の意見が反映されている。エントランスを入るとそのまま反対側に通り抜けができ、ホールにはゆっくりと休憩できるカフェを兼ねたコミュニティースペースも設けている。展示コーナーには靴を脱いで上がる。真中に廊下があり両脇が展示室で、奥にも小屋風のもう一つの展示室が造られる。軒下の屋根支えは豪雪地帯のため頑丈な造りにしながら連なった形でデザイン性も重視。美術館の窓からは、磐梯山がくっきりと眺望できる。

 準備室では2012年に、幅広く美術館づくりを進めるため同町役場、商工会、観光協会などの関係団体と街づくりの有識者による美術館設置検討委員会を設けた。同町は福島県でも有数の観光資源を持っているが、過疎化と高齢化の波が押し寄せ、中心市街地は空き家が目立つなど衰退が著しい。町では「歩いて暮らせる町づくり」を進めており、美術館を核の一つにして地域活性化の仕掛けづくりを想定、準備室が毎月1回発行している「はじまりだより」を町の広報誌と一緒に全戸配布している。

 岡部さんらは11月4日に「近所にできる小さな美術館」をテーマにした地域の人との話し合いを開く。来年1月には食べ物を切り口にした「イート&アート」の開催、さらに地元の人が1人ひとりホールに木製のレンガを敷き詰める催しなど多彩なイベントを予定している。美術館ではアール・ブリュットを中心に現代美術作品を展示するとともに、地域の子供を対象にした創作活動や、お年寄りが地元に伝わる工芸技術などを教える場の活用なども計画。美術館の誕生をきっかけに、地域の人が憩い、にぎわいを創出する芸術文化の発信拠点として期待されている。

 日本財団は障害者などが創作した作品を軸に据えたアール・ブリュットの展覧会への出展や、古民家などを改修した美術館の整備・企画運営支援を行っている。アール・ブリュット美術館としては、滋賀県近江八幡市を皮切りに高知市、広島県福山市、京都府亀岡市の4か所で事業支援しており、猪苗代町は5か所目。今後5か所程度で美術館設置を支援する。

 なお、今回のフォーラムは、福島藝術計画 × Art Support Tohoku - Tokyo による支援事業として実施された。(花田攻)



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