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2019年11月01日(Fri)
日本の寄付文化を変える「遺贈」
(産経新聞「正論」2019年10月31日付朝刊掲載)
日本財団会長 笹川 陽平

seiron.png年間推計相続額は約50兆円に

生きた証を社会に残したい―。人生最後の社会貢献として遺贈寄付を考える人が増え、各種調査でも高い関心を示している。しかし、年間相続額が約50兆円と推計されるのに対し、現実の遺贈実績は約300億円にとどまる。遺言書を残す人が約20人に1人と少なく、遺贈寄付の存在があまり知られていない現実が遺贈の妨げになっている。

国と地方の債務残高が1千兆円を超え、想定外の大災害が常態化する中、少子高齢化に伴い膨張する社会課題に「公」だけで対応するには限界がある。「民」が可能な限り社会づくりに参加していくためにも、無料相談や受け皿の整備など遺贈の普及を急ぐ必要がある。それが日本の新しい寄付文化にもつながる。

遺贈は「遺言」によって、遺産の一部またはすべてを相続人以外の慈善団体やNPO(民間非営利団体)などに寄付する制度。遺贈先を決め遺言書を作成しておけば、死後、遺言執行者(弁護士や司法書士)が遺贈を実施してくれ、残る人生にどの程度の蓄えが必要か、迷う必要もない。少子化や未婚の増加など“おひとりさま”が増え、「疎遠な親族に譲るくらいなら社会に役立てたい」と遺贈を考える人が増えている

2人に1人が遺贈寄付に関心

日本財団が昨年末、2,000万円以上の世帯金融資産を持つ40〜70歳の男女を対象に行ったインターネット調査でも、「既に行っている」、「具体的に検討したい」、「興味・関心はある」と答えた人が有効回答2,000人のうち1,003人に上った。

これに先立ち60歳以上と59歳以下に分けて行った調査でも、60歳以上の男女約2,000人のうち22.9%が遺贈に前向きの回答。子どもも配偶者もいない人に限ると42.6%、夫婦2人だけでは32.8%に上り、59歳以下の900人のうち45.1%は親の遺贈寄付に「賛成すると思う」と理解を示した。

長子相続の伝統が長く続いた日本では遺言を残す文化が希薄だった。個人寄付より法人寄付が多く、寄付文化が低調とも言われた。しかし、こうした数字は無料相談や遺贈先となる受け皿の整備が進めば、遺贈が大きく拡大する可能性を示している。

日本ファンドレイジング協会の「寄付白書2015」によると、14年1年間の日本の個人寄付総額(推計)は7,409億円(GDP=国内総生産比0.2%)と米国の27兆3,500億円(同1.5%)、英国の1兆8,100億円(同0.6%)に比べ確かに少ない。しかし、総務省の家計調査によると、東日本大震災(11年)で6,500円台を記録した後、3,000円台に落ち込んだ1世帯当たりの寄付金は18年、4,500円台まで回復した。

ひとしきり話題となった調査結果として、日本を対象144カ国中128位と位置付けた18年の世界寄付指数がある。英国のチャリティー団体「Charity Aid Foundation」が主催したこの調査は、「外国人や見知らぬ人を助けたかどうか」など日本社会の現状を反映しにくい質問項目もあり、遺贈増加を図る上で特段の障害になる数字ではないと考える。そんな中で16年秋には、日本財団の遺贈寄付サポートセンターなど16団体が加盟する「全国レガシーギフト協会」も組織され、遺言書の書き方から相続人とのトラブルの回避法、遺贈の活用など幅広い相談に気軽に対応する態勢もスタートした。

相談窓口、受け皿整備が急務

日本財団には11年、大阪の女性の遺言執行人から「海外の恵まれない子供たちのために遺産を活用してほしい」と連絡があり、2年後、寄付された1億5,000万円を基に、長年、学校建設などに取り組んできたミャンマーで特別支援学校を完成。この経験を基に遺贈寄付サポートセンターも立ち上げた。

18年までに寄せられた相談件数は約4,300件、受領した遺言書は92件。うち8件約4億円分を昨年までに順次、事業化している。遺贈を考える人の寄付額や「貧困家庭の子どもの教育支援」、「被災地の復興支援」など希望も多彩、「本当に希望通り活用されるのか」といった疑問も強い。よりきめ細かく対応するためにも各団体やNPOの連携強化が今後の課題となる。

核家族化、高齢化が急速に進む中、煩わしい相続トラブル回避など環境を整備すれば、自分にふさわしい終活の一環として、財産の一部を家族に残し、残りを遺贈に当てるようなケースが確実に増えると思う。遺贈は次世代、地域社会への贈り物であり未来への投資でもある。その遺志は子や孫の誇りとなり、感謝の気持ちが地域社会の新たな絆にもなる。

そこで生まれる寄付文化は、格差が拡大し圧倒的な富を所有する超富豪が大口の慈善・寄付活動を行う米国などの寄付文化とは異質である。そうした日本型寄付文化の発展こそ「みんながみんなを支える社会」、政府が言う全世代型社会保障の確立につながる。


カテゴリ:地域・まちづくり







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