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2019年10月02日(Wed)
冷静さを欠く韓国「文在寅政権」
(リベラルタイム 2019年11月号掲載)
日本財団理事長 尾形武寿

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日韓関係が極度に悪化している。両国関係はこれまでも何度か危機に直面し、その都度、話し合いで解決してきた。しかし、今度ばかりは難しい。関係改善の糸口は容易に見えてこないからだ。

多くが文在寅政権の反日強硬姿勢に起因している。朴槿恵前政権時代の二〇一五年に日韓外相会談が慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」を確認したのを受け、日本政府が十億円を拠出した「和解・癒し財団」の解散を昨年十一月、一方的に決定した。韓国大法院(最高裁)が昨年十月、日本企業に損害賠償を命じた元徴用工判決に関しても、日韓両国間の請求権問題を「完全かつ最終的に解決された」とした一九六五年の日韓請求権協定を基に日本政府が解決済みとしているのに対し、「一度の合意で過去の問題を終わらせることはできない」と協定無視とも言える姿勢を打ち出している。

保守と革新が激しい政権抗争を繰り返す韓国では、新政権が前政権の政策を全面否定するケースは珍しくない。しかし、国家間の確認や協定をいとも簡単に反故にしたのでは、国と国との話し合いや交渉は成り立たず、国際秩序も守れない。まして元徴用工問題は、文氏が大統領秘書室長を務めた廬武鉉政権が請求権協定で解決済みと解釈した経過もある。
 
日本政府が打ち出した輸出優遇国「Aグループ(ホワイト国)」からの韓国外しに対する文政権の反応も尋常ではない。優遇手続きを通常手続きに戻すだけで禁輸措置ではない。しかし、文大統領は「徴用工判決に対する報復だ」と激しく反発、「過去を反省もせず歴史を歪曲している」などと声高に日本を批判し、日米韓三国の安全保障の要である日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄に踏み切った。日本に実体的影響はないようだが、中国、ロシア、北朝鮮を利する結果になり、アメリカ政府が不満と失望を表明する一方、トランプ大統領も八月にフランスで開催された先進七カ国(G7)首脳会議の席で「文在寅という人は信用できない」と述べたと伝えられている。

文大統領は九月九日、娘の不正入学疑惑などが取り沙汰されている゙国・前民情首席秘書官を法務部長官(法相)に任命した。検察改革を完遂するのが目的と説明されているが、韓国では近年の七代にわたる大統領全員が退任後、検察による本人や家族の逮捕など悲惨な末路を迎えており、多分に自らの退任後を意識した人事でもあろう。

韓国の調査会社リアルメーターなどの調査によると、GSOMIA破棄や゙氏の法相就任に対する世論は五〇%前後で賛否が割れ、文政権に対する支持率も三月以降、ほぼ四〇〜五〇%の間で揺れ動いている。

一方でGSOMIAの破棄、法相人事とも、支持は革新、反対は保守と極端な偏りを見せており、韓国世論の分断が一層、鮮明になりつつある。

こうした中で、韓国の経済学者ら六人の研究者が慰安婦や徴用工問題などについてまとめた学術書「反日種族主義」が七月の出版以来、十万部を超えるベストセラーとなっていると報じられている。戦前、朝鮮半島を支配した日本をすべて悪とする韓国の通説・偏見を覆す内容と言われ、日韓の歴史を冷静に見直す動きと言える。 

検察との戦いもあり、文政権が今後、日本批判を一層、高めるのは間違いなかろう。理性、冷静さを欠く文大統領の言動を見ていると、韓国の明日より政権あるいは自らの明日を優先しているのではないか、とさえ思う。「非は韓国にあり」として静観するのは、かえって事態を悪くする。すべき反論を毅然と行った上で、しばし文政権の行方を冷静に見守るのが、当面の日本の選択肢と考える。







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