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2019年08月02日(Fri)
「電話リレーサービス」国の事業として一層の充実を
(リベラルタイム 2019年9月号掲載)
日本財団理事長 尾形武寿

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未曾有の被害が出た東日本大震災(二〇一一年三月)の半年後に日本財団が立ち上げた聴覚障害者向けプロジェクトに「遠隔情報・コミュニケーション支援事業」、いわゆる電話リレーサービスがある。

東日本大震災で障害者手帳を持っていた人の死亡率が住民全体の二倍を超え、その一因として聴覚障害者に対する災害情報の伝達システムの不備が指摘されたことから、甚大な被害が出た岩手、宮城、福島の三県でスタート。二年後、全国を対象にした「日本財団電話リレーサービス・モデルプロジェクト」に衣替えした。

同種のサービスは世界二十五カ国で制度化され、日本は先進七カ国(G7)の中で国としての取り組みが最も遅れていた。昨年十一月の参議院予算委員会で安倍晋三首相が「重大な公共インフラであり、総務省総合通信基盤局で検討を進める」と答弁され、国の取り組みが具体化する見通しとなった。

聴覚障害者が手話や文字でメッセージを全国十六カ所の通訳事業者に伝え、待機する通訳オペレーターがこれを翻訳、音声や文字を使ってリアルタイムで相手側に伝える仕組み。当初、約五百人だった聴覚障害者の登録数は約八年が経過した今年七月、九千八百七十五人に増加、月間の利用回数も約三千回から約二万九千回に増えた。

一七年六月には、愛知県西尾市の三河湾で起きたプレジャーボート転覆事故で聴覚障害者四人が海に投げ出され、うち一人が携帯端末で送った救助要請が沖縄県うるま市内の通訳事業者を通じて三河湾を管轄する第四管区海上保安本部に届けられ、四時間後、全員、巡視船に救助された。

昨年三月には岩手県八幡平市の岩手山で滑落した聴覚障害者の男性が、同十月には岐阜県高山市の奥穂高岳で遭難した男女三人のうち二人が電話リレーサービスによる通報で救出され、全日本ろうあ連盟(石野富志三郎理事長)は「聞こえない人の命や生活を守る代えがたい仕組み」として電話リレーサービスの制度化を求める要望書を総務省に提出している。

通訳オペレーターへの支払いなど運営費や先方への通話料は日本財団の負担。カナダやオーストラリアでは電気通信事業者がその費用を拠出する仕組みをとっている。事業の性格からも本来、国が行うべき公共インフラで、日本財団も国による制度化を念頭にプロジェクトに取り組んできた。

こうした中、国会では民間である日本財団に依存する現状に疑問も提示され、最終的に昨年十一月の安倍首相の答弁となった。今年一月には総務省と厚生労働省の共催による「電話リレーサービスに係わるワーキンググループ」も立ち上がり、八月にも報告書が公表される見通しだ。

電話リレーサービスは現在、原則として午前八時から午後九時までの運用となっているが、緊急度の高い利用が多い。二十四時間サービスが理想で、公的システムとして整備されれば、こうした点も含め一層、充実した事業になろう。

聴覚障害者は身体障害者手帳を持つ人だけで約二十九万人、手帳を持たない難聴者は一千万人を超え、高齢化の進行で確実に増える。情報の伝達が確保されれば、聴覚に障害がある人と健常者の間に特段の能力差はない。電話リレーサービスのような公共インフラの整備、通信のバリアフリー化が進めば、少子高齢化に伴う労働力不足の解消に一役買う事態も期待できる。

そのためにも懸案となっている手話言語法の制定が急務と考える。日本財団のサービスは二十一年度末で一段落するが、個々の企業が聴覚障害者を雇うには手話通訳者の確保など課題も多い。蓄積したノウハウを活用して引き続き協力していく考えでいる。







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