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2019年07月24日(Wed)
《徒然に…》2020東京オリンピック・パラリンピック『文化プログラム』を考えた
日本財団 アドバイザー 佐野 慎輔

徒然に…ロゴオリンピックには文化プログラムという項目がある。いや、オリンピックの根本的な事項を定めた『オリピック憲章』では文化プログラムの開催が義務付けられている。みなさん、それはご存じだろうか?

日本財団の『18歳の意識調査第16回―東京オリンピック・パラリンピック』では、
問いかけの一環として、「文化プログラムの開催義務を知っているか」と調査対象となった17歳から19歳まで全国1000人の若者に聞いている。

発表された結果では、「知っている」と答えた人は11.7%に過ぎなかった。88.3%の人は「知らなかった」わけである。

Q1オリンピック憲章で文化プログラムの開催が義務付けられていることあなたは知っていますか?の円グラフ(回答数1000)。はい11.7%。いいえ88.3%。Q2東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の文化プログラムでは、どのような企画に力を入れて欲しいと思いますか。特に関心が高いもの3つをお選びください。の棒グラフ(回答数1000)。音楽53.2%。食文化38.3%。アニメ・漫画31.6%。伝統芸能・文化30.9%。現代芸13.8%。ファッション12.2%。ダンス11.4%。映画6.9%。文学5.2%。演劇4.2%。その他0.4%。特にない20.8%。

オリンピック開幕が7月24日で、あと1年に迫った。今年6月18日から24日に行われた調査でこの数字は少し寂しい感じもするが、ただ、この設問は「オリンピック憲章で文化プログラムの開催が義務付けられていることを知っているか」と聞いている。文化プログラムそのものを知っているか、聞いているわけではない。問い方が変わっていれば、違う値が出ていたかもしれない。

ちなみに『オリンピック憲章』(2018年版)第5章39条にはこう記述されている。
「OCOG(組織委員会)は少なくともオリンピック村の開村から閉村までの期間、文化イベントのプログラムを催すものとする。そのようなプログラムはIOC(国際オリンピック委員会)理事会に提出し、事前に承認を得なければならない」

文化プログラムって何だろう?

そもそも、文化プログラムとは何だろう。なぜ、スポーツの祭典であるオリンピックと文化がかかわりあうのか?
日本ではあまり報道されることはない。しかし、オリンピックを語るうえでは欠くことのできない要素である。それは近代オリンピックを創始したフランス人貴族、ピエール・ド・クーベルタンの思いに至る。

クーベルタンは1890年代、オリンピックの復興を考えたときから古代オリンピックの故事にならい、各国・地域の若者たちがスポーツだけではなく、芸術の分野でも技を競うことを視野にいれていた。

古代オリンピックとは、紀元前の古代ギリシャ各地で開かれていた競技祭のひとつである。ギリシャ・ペロポネソス半島西部のオリンピアで開かれていた大会は、なかでも古代ギリシャの人々に広く愛され、紀元前776年から紀元後の393年まで長く続いた。4年に1度開く祝祭は、絶対神ゼウスに捧げる宗教儀式で、競技大会を始める前の儀式がとりわけ重要視された。

儀式のありようは紀元前470年頃に定まったとされる。それによると、5日間の日程初日は午前中に開会式が催され、選手や審判の宣誓後、儀式の始まりを告げる役とラッパ奏者を選ぶコンテストが行われる。午後はゼウス神殿の森を散策し、彫像や絵画を愛でる。詩人が詩を朗読し、哲学者は独自の理論を披露、弁論家が声を張り上げ、歴史家は新たな研究を発表。ここでも優劣が競われた。ソクラテスやプラトンもここで理論を披露したという。そして、ラッパ・コンテストの優勝者が競技大会の始まりを告げるラッパを吹いた。

そうした儀式と若者による競技大会をみるため、古代ギリシャの人々は各地から何日もかけて徒歩でオリンピアをめざした。その数は4万とも5万人とも。神聖な神殿、競技会場周辺にはあらゆる娯楽が集結し、3日間の競技の後、最終日は閉会式。勝者にはオリーブの冠が授けられ、優れた詩人が競技の優勝者をたたえる詩を書き、選ばれた作者の彫像や絵画が贈られた。ゼウスに捧げられた生贄の牛を焼き、渾然一体の饗宴が続けられた。以上はトニー・ペロテット著『驚異の古代オリンピック』を参照した。

文化は、スポーツと並ぶオリンピズムの柱だ

クーベルタンはこうした祝祭の要素を大事に考えるとともに、都市国家同士の対立、戦争が絶えなかった古代ギリシャにあって4年に1度、休戦してスポーツによって競う姿にオリンピックの理想をみた。「スポーツによって心身ともに調和のとれた若者を育成し、彼らが選手として4年に1度、世界中から集まり、フェアに競技し、異文化を理解しながら友情を育み、平和な国際社会の実現に寄与する」ことをオリンピックの根本理念とした。その理念を「オリンピズム」という。

「オリンピズムの3本柱」と称される考えがある。オリンピック精神の発露として、IOCが取り組むべき課題である。「スポーツ」「文化」「環境」の3つを指すが、環境が柱とされたのは1994年、IOC創設100周年を記念したパリ会議の席上だった。環境問題が国際社会をあげた課題となったころである。それまでは「スポーツ」と「文化」の融合がオリンピズムの柱とされていた。

クーベルタンは考えた。心身ともに調和のとれた若者を育成するためには、スポーツだけではなく芸術は欠かせない、と。その思いは「芸術競技」という形で実現した。1912年、第5回ストックホルム・オリンピック。日本が初めて参加したオリンピックである。

芸術競技は「ミューズの5種競技」と呼ばれた。ミューズとは、ミュージックやミュージアムの語源ともなった文化を司るギリシャの女神だ。ミューズがかかわる建築、彫刻、絵画、文学、音楽の5つの部門で「スポーツに関係のある作品」を条件に競われた。上位入賞者の作品は大会期間中に展示、上演され、スポーツの勝者と同様、メダルも贈られた。クーベルタンは偽名を使って文学部門に応募、金メダルを獲得するなど、芸術競技に深い思い入れを示した。芸術競技は1948年、第14回ロンドン大会まで実施され、4000作品を超えるエントリーがあったという。日本では1936年、第11回ベルリン大会の絵画部門で藤田隆治「アイスホッケー」(油絵)、鈴木朱雀「日本古典競馬」(水彩画)がともに銅メダルを獲得している。一方、棟方志功や東山魁夷は応募しながら落選の憂き目にあった。

芸術競技から芸術展示、そして文化プログラムへ

盛り上がった芸術競技だが、IOCは1949年、これを廃止し「芸術展示」に変える決定を行った。芸術作品への評価や判定が難しく、資金やプロの参加資格、作品の移送など問題が山積したことが理由だった。

1956年、第16回メルボルン大会から公式に「芸術展示」が実施された。64年第18回東京大会でも芸術展示として、能・狂言や歌舞伎、文楽、生け花や茶道などが行われ、とくに東京国立博物館で開催された「日本古美術展」は『鳥獣人物戯画』や『平家物語絵巻』などの展示が人気を呼び、40万人が来場した。

この芸術展示が「文化プログラム」に装いを変えたのは1992年、第25回バルセロナ大会から。「文化のオリンピック(カルチュラル・オリンピアード)」とよび、芸術だけではなく、開催国の文化なども含めて紹介されるようになった。「文化のオリンピック」が最も盛り上がったのが2012年、ロンドン大会といわれる。

ロンドンでは2008年9月、北京大会終了後から4年間にわたるプログラムを実施、「Once in a lifetime(一生に一度きりの経験)」をテーマに音楽、演劇、ダンス、美術、文学、映画、ファッションなど、約18万件が行われ、4340万人が参画した。注目すべきは、競技大会に選手を送った204カ国・地域のすべてから4万人以上のアーティストが参加していることだ。広く世界に門戸を開いたプログラムである。

「文化オリンピック」の重要性を知るロンドン大会組織委員会とロンドン市は地方自治体とも協力し、運営組織を創りスポンサーを募り、1億2662万ポンド(約220億円)の費用を用意した。2020年大会は強くロンドン大会を意識しているとされるが、ならばもう少し参考にすることもあるように思う。

東京も力をいれている

東京大会の「カルチュラル・オリンピアード」は、すでに2016年から3つのプログラムのもと、イベントを実施してきた。組織委員会が主体となる「東京2020公認文化オリンピアード」と「東京2020応援文化オリンピアード」、そして文化庁や東京都などが進める「beyond2020プログラム」である。「公認」は文字通り、オリンピック憲章に基づいて行われる公式文化プログラムで、組織委員会や国、開催都市・東京都、競技会場のある地方自治体に加え、JOC(日本オリンピック委員会)やJPC(日本パラリンピック委員会)、そしてスポンサー企業が実施するイベントだ。「応援」は地方公共団体や非営利団体が実施し、組織委員会の認可を得て、専用のロゴを使うことができる。一方、beyondは政府と東京都が一緒になって展開、公式スポンサー以外の企業もイベントを実施できる。その意味では、広く開かれた存在といっていい。ここでも専用のロゴを使って活動できるが、さてどこまで参加意識を高めていくか、大きなポイントといっていい。2020年以降、地域創生につながるテーマも、もっと織り込まれていいと考える。

始まって3年、すでに数多くのイベントが実施された。この秋もオリンピック・イヤー前年の活動が繰り広げられる。そして、来年は組織委員会による『東京2020NIPPONフェスティバル』が華々しく実施される予定だ。しかし、それをどれだけの人が理解し、参加しようと考えているだろうか。アピール不足、PRの足りなさは指摘されて久しい。

日本は長い伝統に育まれた豊かな文化を持ち、近年では海外からの観光客も日本文化に親しんでもらうよう積極的な取り組みも始まった。アニメや漫画、和食など、世界にも受け入れられている日本文化も少なくない。それらも含めて、2020年大会を通して世界に発信していくことが、さらに国際社会の日本理解を深める大きな一歩となろう。より一層の国民の理解、後押しを期待したい。

「音楽」、「食文化」、「アニメ・漫画」

『調査』では、「力を入れて欲しい文化プログラムの企画」も聞いている。
対象全体でみると、音楽(53.2%)がトップ、食文化(38.3%)、アニメ・漫画(31.6%)、伝統芸能・文化(30.9%)と続き、以下、少し離れて現代芸術(13.8%)、ファッション、ダンス、映画、文学、演劇となる。

これをもう少し細かくみてみると、「文化プログラムの開催義務を知っている」層では音楽が67.5%と高いが、次は伝統芸能・文化の43.6%。そして、食文化(38.5%)、アニメ・漫画(26.5%)と続き、現代芸術が23.9%と高い数値を示した。一方「知らない」層では音楽(51.3%)、食文化(38.3%)、アニメ・漫画(32.3%)の順で、「特にない」が22.9%と高い(知っている層では5.1%)のが特徴だ。知らなければ、何も思わないというわけか。

また、「会場観戦チケット抽選に応募した」人たちの間では、音楽が63.8%、食文化51.8%と全体よりも大会数値を示し、以下、伝統芸能・文化(40.2%)、アニメ・漫画(35.7%)と続き、特にないは4.5%と低い。やはり関心の差といえよう。これは「ボランティアに応募した」層でも同じような結果が現れた。

やはり、関心の高い人たちは積極的に文化プログラムをとらえており、関心のない層にいかに取り組みをアピールしていくかが重要となろう。

お祭りをプログラムに盛り込みたい

近年のオリンピックではより競技の比重が増す一方、祝祭的な要素を失っているのではないかと思う。大成功だったとされるロンドン大会でも、警備のために自動小銃を構えた兵士が要所に立ち、競技会場では有刺鉄線によって選手と観衆が厳格に分かたれた。そして、地対空ミサイルがマンションの屋上に据えられ、物々しい中での開催ではあった。選手たちはドーピングが気になるからと、コップの水さえ、飲むことに躊躇する。

磨き抜かれたトップ選手の技と力の競い合いは観るに値していても、する側、見る側の楽しい交流は影を潜め、祭りのような猥雑な楽しみはそこにない。それが進歩であり、時代が違うといえばそれまでだが、さまざまに夢想するような古代の面白みは消えてしまった。

唐突だが、せめて「祭り」の要素を文化プログラムに込められないか。芸術という格調や博物館から埃を払って披露する展示だけではなく、観衆が一緒になって騒ぎ、楽しむ催しを期待したい。幸い日本には、それぞれの郷土に素晴らしい祭りが存在する。それをオリンピック・パラリンピックの場で披露したい。「祭りの持つ力」を2020年に生かすこと、それもまた「文化プログラム」「文化オリンピアード」の役割だろうと考える。


18歳意識調査
日本財団「18歳意識調査」第16回 テーマ:東京オリンピック・パラリンピックについて








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