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2019年07月12日(Fri)
《徒然に…》海と日本人に関する意識調査
日本財団 アドバイザー 佐野 慎輔

徒然に…ロゴ日本人の7割のひとが「海に行きたい」と答えた。四方を海に囲まれ、海から数々の恩恵を受けている海洋国家・日本にとって、頼もしい結果といっていい。

「海の日」を前に、日本財団では現在の日本人の海への意識、行動の実態を明らかにする「海と日本人に関する意識調査」を実施した。5月24日から6月3日まで、全国47都道府県の15歳から69歳までの男女5800人ずつ、計1万1600人を対象としてインターネットによる聞き取り調査を行い、12日、集計結果を発表した。

「海が好きだ」と回答した人は57%にのぼり、2017年の調査時の52%からわずか5%だが上昇している。同様に、「海にとても親しみを感じる」も43%と2年前の35%から増加した。また、「海は日本人の教育にとって、大切な存在である」は57%と前回の42%から15%も伸びており、海に親しむ活動、海洋教育を推進している日本財団にとっては、「単純にうれしい結果であり、取り組みの成果」(海野光行常務理事)となった。

さて、今回の調査の大きな眼目は、「海に行きたいか、行きたくないか」である。設問では、73%が「行きたい」と答え、年代別でもすべての世代で7割を超えた。一方で、「行きたくない」と回答した人たちは、その理由として、「日焼けが嫌だ」(43%)、「海水や海風で身体がベタベタする」(34%)をあげ、10代では「海でしたいことはない」(32%)、「慣れていない」(30%)が「日焼け」に続いてトップ3に入った。

海野常務理事は10代の傾向について、「情報の不足」「質の高い海体験のなさ」を理由にあげた。確かに、「したいことがない」「慣れていない」という回答からみて取れるのは、「海を知らない」という事実だろう。海が我々の生活にどれほど大きな関わりを持ち、文学作品や楽曲、絵画などにも数多く取り上げられて親しまれているか、海の豊かさ、楽しさを教えていく必要がある。

全体の3分の1、33%が「この1年間で1度も海に行っていない」と答えた。とくに10代では40%が海に行っていない。別の調査によれば、海水浴客はピーク時の5分の1だという。海で遊ぶ楽しさ、海の持つロマンなど、行って感じてもらうにはどうしたらいいか、大きな課題が横たわる。

調査ではこの「行きたい、行きたくない」を具体的な行動、体験を調べている。
「この1年間で海に行っている日数」の設問では、『行きたい派』の80%以上が1日以上、海に接しているに対し、『行きたくない派』は32%にとどまり、68%が年に1日も海に出かけていない。こうした行動を幼児体験で調べてみると、『行きたい派』の63%が「年に2~4日以上」海に行っており、86%が「楽しい海の思い出」を持っていることがわかった。『行きたくない派』では68%が1日以下で、「楽しい思い出がある」と答えたのは13%に過ぎなかった。子どものころの体験が大人になってからの行動の規範になるとは海の問題に限らず、しばしば指摘されることだが、この結果は原体験の大切さを雄弁に物語っている。

こうしたことから『行きたい派』の91%が「子どものうちに海体験がある大切さ」を指摘し、『行きたくない派』でも51%が大切さを認識していることがわかった。ただ、実際に「自分の子に十分な海体験を提供できている」と答えた親は、『行きたい派』でも25%に過ぎず、『行きたくない派』は11%でしかない。逆に「全く提供できていない」は『行きたくない派』で41%にのぼり、『行きたい派』でも11%が提供できていない。

理由としては、「海まで時間がかかる」(『行きたい派』45%、『行きたくない派』39%)が高く、次いで『行きたい派』では40%が「忙しい」と答え、『行きたくない派』では31%が「疲れる、疲れそう」と回答した。また、『行きたくない派』では「必要と思わない」22%、「海に行った経験が少なく、積極的には行かない」19%が特筆される理由だった。総じて、海は遠いという思い込みであり、情報提供の必要性が想起されるほか、『行きたくない派』には心理的な理由が影を落とし、ここでも原体験の重要性とともに、親を含めた「親水体験」活動の大きな意味をもつことがうかがえた。

海での体験としては海水浴、磯遊びや潮干狩り、海釣り、また海の景色を見るなどがあげられるが、総じて年代が下がるとともに減少している。一方で散歩・ジョギングやシュノーケリング、バーベキューなどは10代、20代ほど高く、若い層のマリンレジャー志向がみてとれた。海に親しむ活動を考えるうえでは大きな参考となろう。

また、海を守ることにつながると意識して、「浜辺でごみを持ち帰るようにしている」(『行きたい派』66%、『行きたくない派』41%)、「生活排水に配慮している」(『行きたい派』44%、『行きたくない派』27%)といった行動では、まだ理解が進んでいるとは言い難い。しかし、海の問題が自分の生活のなかで、どう影響があるのか、具体的に知りたいと答えた人は、『行きたい派』が80%と高く、『行きたくない派』も58%。ここから、何か行動したい、行動しなければとの意向がみてとれる。

具体的に提示されれば実行したいものとしては、「水に溶けるプラスチック袋など環境に優しい商品の利用」(『行きたい派』79%、『行きたくない派』59%)、「使用しやすい場所でのペットボトル回収機の設置」(『行きたい派』79%、『行きたくない派』59%)などがあがった。また、「企業などのエコキャンペーン」、「親子での海の環境問題での学びの場」なども高い比率を示した。

つまり、海をめぐる諸問題、諸課題にはまだ理解は進んでいないものの、関心はあり、『行きたい派』『行きたくない派』を問わず、海を守る活動に参加する気持ちがあるということができよう。

調査では、海への意識も尋ねている。「日本人の食にとって大切な存在」と78%の人が答えた。「魚食大国」日本らしい回答だろう。ほかにも73%が「海の幸を食べることが好きだ」と答えている。こうした魚食文化を推進していくことが、海を身近に感じる方策となるかもしれない。ただ、「世界の約9割以上の魚が限界のぎりぎりか、限界を超えて獲られている」ことを48%が知らなかったと回答している。

日本財団では「海と日本PROJECT」の一環として、自治体や教育機関、民間企業やNPO、NGOなどとともに全国で「海を知る」「海を守る」ための活動として約150事業1500イベントを展開している。海野常務理事は、鳥取の子供たちの取り組みを例示して、海洋ごみへの関心を身近な問題として考え、「生活のなかでごみを出さない」「海でごみを拾う」行動などを通し、日々の生活のなかでの海との結びつき考えていく教育活動の大切さを強調した。そして、今後の日本財団の活動として4つの提案を行った。

@『行きたい派』『行きたくない派』に関わらず、親子でともに海への楽しい学びにつながる機会と体験の提供
A自治体・教育機関や民間企業などのあらゆる機関を通じて誰もが参加できる海洋活動の充実。海洋問題プラットホームの設置と地方メディアとの連携
B海と生活の関係性を理解できる海洋リテラシーの促進とベースになる科学的根拠の充実やツール開発。状況を正しい理解と正確なデータを基にした行動
C海の日の固定化を含む活動の活性化。本来あるべき7月20日への固定化を促すとともに、観光事業の観点から、7月20日を含む週間化も想定

海は誰のものか?

日本国民共有の財産である。その国民の財産を守り、育み、後世に伝えていくことは、我々に課せられた責務、義務といっていい。四方を海に囲まれ、世界第6位の排他的経済水域(EEZ)を有する日本だからこそ、海を考え、海を理解し、海を守り、海とともに生きていかなければならない。一方で、「海洋ごみ」「温暖化と酸性化」「海流の変化による海洋資源の減少」といった解決すべき国際的な課題があり、2011年に発生した東日本大震災からの復興、とりわけ津波の影響への対応は依然続く大きな問題である。海で何が起きているか、海の問題を身近なものとして考えられるか、課せられた命題は少なくない。

「海と日本人に関する意識調査」は、方策を考えていくための大切な参考データである。

関連リンク
海と日本PROJECT
タグ:海と日本 徒然に…
カテゴリ:徒然に…







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