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2019年05月07日(Tue)
若者の自殺対策 「孤立の防止」こそ有効
(リベラルタイム 2019年6月号掲載)
日本財団理事長 尾形武寿

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警察庁の自殺統計(速報値)によると、二〇一八年の全国の自殺者数は二万五百九十八人。ピークだった〇三年の三万四千四百二十七人の約六〇%に減少し、自殺死亡率(人口十万人当たりの自殺者数)も十六・三人と一九七八年の統計開始以来、最も低い数字となった。
しかし、先進七カ国(G7)で見ると、自殺率は日本が最も高く、しかも七ヶ国で唯一、若者の死因のトップを自殺が占めている。中でも十九歳以下の自殺者は五百九十九人と、この十年間、五百〜六百人台で高止まりしている。

念のため、厚生労働省の一八年版自殺対策白書で確認すると、対象は一六年の数字でやや古いが、十五〜四十四歳の男性、十五〜二十九歳の女性の死因第一位を自殺が占めている。二十代の男性では五〇%、二十〜二十四歳の女性では四〇%を超え、十五〜十九歳では男女とも三六・九%に上っている。

こんな情勢を受け、日本財団では一六年に「いのち支える自殺対策プロジェクト」を立ち上げ、三年目の今年は本調査とは別に十八〜二十二歳を対象に、インターネットによる自殺意識調査を実施し、三千百二十六人から回答を得た。その結果、三〇%(男性二六%、女性三四%)が「本気で自殺したいと考えたことがある(自殺念慮)」と答え、一一%(男性九%、女性一三%)は実際に自殺未遂を経験していた。

学校、家庭、健康、男女問題などが原因の上位を占め、中でも「いじめ」との関係が目立った。例えば自殺念慮を持つ人の四八%は学校問題を挙げ、うち四九%は「いじめ」を経験したとしている。四人に一人弱(二四%)の自殺念慮に「いじめ」が影響している計算で、自殺未遂に至った理由でも「いじめ」が二七%に上っている。

この他、二十二歳以下の男性の四二・九%、女性の四四・一%が今の社会に「希望が持てない」と答え、男女とも四五%前後が「自殺はしてはいけないとは思わない」と回答。自殺対策プロジェクトの本調査では、一六年時点で一年以内に自殺未遂を経験していた人の五五%が翌十七年に、さらにそのうちの七七%が十八年に新たに自裁未遂を経験したと答えている。

「自殺をしてはいけない」という精神的な歯止めの希薄さとともに、自殺未遂を繰り返す裏には同時に「生きたい」という強い思い、叫びが隠されている気がする。「いじめ」に関して言えば、被害に遭っても子どもが親には話さないケースが多く、交流サイト(SNS)などを使った「ネットいじめ」など、傍からは見えにくい実態が進行していると聞く。

若者には自分が何を望み、何をしたいのか、あるいは社会の中でどこまで必要とされているのか、実感できない不安がある。さらに不安を共有する相談相手がない現実が孤立感を一層、深める結果になっている、といった指摘もしばしば耳にする。

大津地裁は今年二月、滋賀県大津市で一一年に起きた男子生徒の自殺事件に絡み、生徒の両親の訴えを認め元同級生二人に損害賠償を命じた。判決は、いじめが男子生徒に無力感や絶望感を形成させたとした上で、「そのような心理状態に至った者が自殺に及ぶのは、一般に予見できる」との判断している。両親や家族、友人、教師らが、本人の悩みを注意深く聞く努力をすれば、何らかの予兆を感じ取り、自殺を防止できる余地も出てくる、との判断と理解する。

日本財団では「みんなが、みんなを支える社会」の実現を活動理念にしている。そんな社会を実現する努力が、ともすれば希薄となりがちな人間関係を見直し、自殺を少しでも減らす結果につながると考えている。







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