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2019年01月07日(Mon)
中国古典にとらわれず新元号を
(産経新聞【新春正論】2019年1月3日掲載)

日本財団会長 笹川陽平 


seiron.png天皇陛下の退位に伴い「平成」が4月30日で終わり、4月1日には新元号(年号)が公表される。元号制度は紀元前の中国・前漢時代に始まり、日本は現在も公的に使用する唯一の国とされている。

漢籍に典拠を有する二文字熟語

飛鳥時代の「大化」に始まり、現在の「平成」は247番目。歴史的に中国の漢籍に典拠を有する2文字熟語が使われてきた。しかし日本には優れた造語の歴史があり、特に明治以降は約1千語もの和製漢語が中国に導入され現在も広く使用されている。

新元号は中国の古典からの引用を止め、わが国独自の自由な発想で定めてほしく思う。それが新しい時代の元号の在り方であり、国民の親しみにもつながる。

 改元の定め方は時代とともに変わり、明治以降は一人の天皇に元号を一つに限る「一世一元」の制度が取り入れられた。

現在は昭和54(1979年)年6月に制定された元号法で「元号は政令で定める」、「皇位の継承があった場合に限り改める」とされ、その手順は元号選定手続要綱に定められている。
まず首相が複数の有識者に新しい元号にふさわしい候補名を委嘱し、提出された候補名を官房長官が中心となって複数案に絞り首相に報告、衆参両院の正副議長の意見も聴いた上、全閣僚会議の協議を経て閣議で決定される。

多くの造語が近代化に貢献した

 中国古典の引用を近年で見ると、「明治」は「易経」の「聖人南面して天下を聴き、『明』に嚮ひて『治』む」が由来。「聖人が北極星のように顔を南に向けて政治を聴けば、天下は明るい方向に向かって治まる」の意味で、明治天皇がいくつかの年号候補から選出したといわれている。

「大正」はやはり「易経」の「『大』いに亨りて以て『正』しきは、天の道なり」が由来。意味は「天が民の言葉を嘉納し、まつりごと(政治)が正しく行われる」。「昭和」は四書五経の一つ「書経尭典」の「百姓『昭』明にして萬邦を協『和』す」が由来。国民や世界各国の平和や共存共栄を願って付けられた。

そして「平成」は「史記」五帝本記の「内『平』外『成』」(内平らかに外成る)と「書経」大禹謨の「地『平』天『成』」(地平かに天成る)が由来。国の内外、天地とも平和が達成される、の意味。「修文」、「正化」も候補に残ったが、アルファベット表記がともに昭和と同じ「S」で始まるため外された。

 元号の条件は「国民の理想としてふさわしい意味を持つ」、「漢字二文字」、「書きやすい」、「読みやすい」など6項目で、それ以上の縛りはなく、中国の古典に典拠を求める規定もない。

加えて日本には江戸中期、幕政を補佐した儒学者の新井白石や江戸後期の蘭学者・宇田川榕菴らで知られる卓越した造語の歴史がある。特に明治維新後、積極的に行われた欧米の出版物の翻訳では、原文に当時の日本にはない言葉が多く、福沢諭吉や西周らが精力的に造語をした。
「文化、法律、民族、宗教、経済」といった社会用語、「時間、空間、質量、団体、理論」といった科学用語、「主観、意識、理性」といった哲学用語など、現在も日常的に使われている多くの言葉がこの時代に作られ、日本の近代化に大きく貢献した。

希望を托せるよう求めたい

清時代末期から昭和初期にかけ中国では日本留学がブームとなり、6万人を超す中国の若者が日本を訪れ、和製漢語をそのまま取り入れ日本の書物を中国語に翻訳、祖国に西洋文明を紹介した。中国、朝鮮に広く普及し、現代の中国語はこれらの日本語なしに社会的な文章は成り立たないともいわれている。

中国共産党が使う「共産党、階級、組織、幹部、思想、資本、労働、企業、経営、利益」なども、すべて明治時代に作られた和製漢語とされている。上海外国語大学の陳生保・元教授は「中国語の中の日本語」の論文で、「経済、社会、哲学などの日本語訳は、とっくに現代中国語の中に住みつき帰化している。それが日本語だということを、ほとんどの中国人はもう知らない」と指摘している。筆者も中国を訪問、大学で講演するたびに、漢字を通じた長年の両国の交流を紹介してきた。

昨年11月末、中国共産党の聖地、陝西省延安の大学を訪れた際もこの話に触れ、学生たちも静かに耳を傾けてくれた。互いに影響し合いながら独自に発展する姿こそ文化の在り方であり、今回あえて中国古典にとらわれることなく独自の手法で新元号を定めるよう求める所以もこの点にある。

 皇太子の即位に伴い5月から新しい元号が始まる。国際社会は対立と緊張感を深め、少子高齢化に伴う縮小社会の到来で国内も課題が山積している。新たな手法で、明るい希望を託せる新元号が定められるよう求めてやまない。







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