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2018年12月12日(Wed)
一億総活躍時代の具体的姿示せ
(産経新聞【正論】2018年12月12日掲載)

日本財団会長 笹川陽平 


seiron.png少子高齢化で深刻化する労働力不足を前に、外国人労働者の受け入れの是非が論議を呼んでいる。9月5日付の本欄で筆者は、わが国には「働きづらさ」を抱え就労できていない障害者やひきこもりなど1600万人近い潜在労働力があり、1億総活躍社会を実現する上でも、これら多様な人々が働く社会の実現が急務と指摘した。

労働力不足は600万人に

労働力の不足は、政府が今後5年間に最大34万人の外国人労働者の受け入れを計画する介護、建設業など14業種に限っても130万〜135万人に上り、多くの調査が2025年には全体の労働力不足が600万人に達すると予測している。

働きづらさを抱える人は、ほかにも薬物経験者やがん患者、貧困母子世帯など幅広い。背景には「社会的支援が必要な人」と決め付け、社会参加の道を閉ざしてきた歴史がある。健常者中心の考えに風穴を開けるため学者や前、元厚生労働省事務次官ら幅広い識者に参加してもらい11月、「日本財団 WORK!DIVERSITY」プロジェクトを立ち上げた。

全国各地の支援組織のネットワーク化や東京・渋谷区をはじめ札幌市、大阪市など全国20地域でのモデル事業の実施、全国8000カ所に整備された障害者就労支援事業所の活用などを通じ5年掛かりで、働きづらさを抱える人が就労できるモデルづくりを進める計画。全体委員会会長を務める清家篤・慶応義塾大前塾長は「人手不足と高齢化は、働きづらさを抱え就労が難しかった人々が職場に進出する絶好の機会」と語っている。

プロジェクトでは1600万人から障害と難病の重複者や物理的に就労が難しい重度の障害者らを除き500万〜600万人が週20時間程度、働くことができるモデルの確立を目指し、5年後には一つでも多くのモデル事業を実際に展開し、政府にも必要な取り組みを提言したいと思う。

もちろん容易な話ではない。しかし、重度の障害者を対象にした各地の就労継続支援B型事業で「工賃3倍アップ」を目指した結果、多くの事業所で月1万5000円前後に過ぎなかった工賃の3倍増が実現、障害者が生活保護から脱却するケースも出ており、不可能な目標とは思わない。

大きな助けとなる分身ロボット

関連して11月末、東京・赤坂の日本財団ビルに分身ロボットを活用した模擬カフェを開設した。「オリヒメ」と名付けられたロボットは株式会社オリィ研究所(東京都港区)との共同開発。高さ120センチ、カメラやマイク、スピーカーを装備し、前進、後退、旋回のほか腕や首も動く。インターネット端末で遠隔操作され、障害のある人にとって文字通り“もうひとりの自分”となる。

カフェでは岐阜県や北海道など遠隔地に住むALS(筋萎縮性側索硬化症)や脊髄損傷などで寝たきりの人たちが、自宅から音声や目線などを使ってロボットを遠隔操作して接客、飲み物をテーブルに運んだ。最初に開発された高さ22センチの小型オリヒメは既に東京都内や島根県で遠隔教育に使われ、難病や不登校の子どもがオリヒメを通じて授業に参加している。

今後、改良が進めば用途は確実に広がり、ロボットをさまざまな場所に移動させることで、身体的障害だけでなく子育てや介護、入院などで行きたいところへ行けない人も、自宅に居ながら必要な作業や会議に参加できる。加齢とともに体力が急速に衰える高齢者にとっても分身ロボットは大きな助けとなる。

日本の試みに注目が集まる

総務省統計局などの試算では、働く意欲がありながら就労できない65歳〜74歳は約320万人に上る。分身ロボットが普及すれば、豊富な知識や経験を活かして引き続き社会に貢献することも可能になる。プロジェクトにはAVATAR(分身)研究に取り組むANAホールディングス(本部・東京)も参加しており、東京五輪・パラリンピックが開かれる20年には常設カフェの開店も計画している。

そんな期待もあって、模擬カフェを開店した10日間、用意した約100席が連日満席となり、政治家や厚生労働省など省庁関係者の姿も多く見られた。初日には障害児を持つ野田聖子衆議院議員も来賓として出席、「障害児を持つ親にとって親亡き後が一番の心配。オリヒメを通じて自立できる姿こそ望ましい」と分身ロボットの今後に期待を寄せた

高齢化社会の労働力不足解消には外国人労働者の受け入れ、女性の就労率アップ、定年延長、ロボットの活用など幅広い取り組みが必要となる。分身ロボットの活用ひとつをとっても、働きづらさを抱えてきた人たちの就労は十分、実現可能と考える。

実現した時、健常者中心の社会はDiversity(多様性)を持った社会に変わり、世界も高齢化の先端を行くわが国の試みに注目している。その成否は1億総活躍社会の将来、18年度、33兆円にまで膨張した社会保障費、さらに働き方改革の行方も左右する。







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