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2018年04月03日(Tue)
北朝鮮の「微笑外交」と米朝首脳会談
(リベラルタイム2018年5月号掲載)
日本財団理事長 尾形 武寿


Liberal.png北朝鮮の核をめぐる動きが急展開している。4月末の文在寅韓国大統領と金正恩朝鮮労働党委員長による首脳会談に続き、トランプ米大統領も五月までに金委員長との会談に応じる考えを明らかにしている。背景には、平昌冬季五輪を利用した金委員長の政治攻勢があった。ナンバー2の金永南・最高人民会議常任委員長、妹の金余正・朝鮮労働党中央委員会第一副部長を特使として派遣。「美女軍団」と呼ばれる女性応援団も送り、 徹底的な“ほほえみ外交”を展開。文大統領も国賓並みの待遇で出迎え、マスコミも美女軍団の一挙手一党足を事細かに報道する加熱振りを見せた。

国際社会が核開発を強行する北朝鮮への経済制裁を強める中、文大統領が圧力より対話を目指し北朝鮮の五輪参加にこだわるあまり本来、政治とは無縁であるはずの五輪は北朝鮮の政治ショーと化す形となった。

女子アイスホッケーでの強引な南北合同チームの編成には韓国内からも多くの批判が出たし、美女軍団の一糸乱れぬ応援風景に独裁体制の異様さを感じ取った人も多かったはずである。

文大統領は過去に南北首脳会談を実現した金大中、盧武鉉両元大統領の系譜に連なる。金大統領は緊張緩和に向けて太陽政策を掲げノーベル平和賞を受賞し、盧大統領もその政策を基本的に引き継いだ。しかし太陽政策を受け北朝鮮が変った気配はない。

話を五輪に戻せば、日本選手団の活躍は大いに称えられていい。フィギュアスケートの羽生結弦選手をはじめ金四個、銀五個、銅四個を獲得、過去最高の成績を収めた。特にスピードスケート500mで金メダルに輝いた小平奈緒選手は、レース後、2位となった親友の李相花選手に「チャレッソ(頑張ったね)」と声を掛け、それぞれの国旗をまとってリンクを並走。韓国メディアも「美しい同行(ウイニングラン)」と称え、外国メディアやネットに賞賛の声が溢れた。

米朝首脳会談も同じように大きな成果が得られるか。トランプ大統領は歴代大統領が成し得なかった決断を自賛し、文大統領は融和ムード演出の成功に満足の表情を見せ、金委員長は満面の笑みを浮かべている。

しかし金委員長が文大統領の特使団に託した新書で何を提案したのか、首脳会談が実現した場合、北の非核化はどこまで進み、拉致問題は話し合われるのか等々、明らかになっていない点は多い。

笹川陽平・日本財団会長は理事長当時の一九九二年、初めて訪朝、金日成主席と会談し「何故、国際原子力機関(IAEA)の査察を受けないのか」と問い掛けた。これに対し金主席は「核爆弾を2、3発持って発射したら、その数百倍の攻撃を受ける。そんなものを持つ必要はない」と答えた。筆者も同席し、わずかな核兵器を装備しても米国など核大国に対抗できない、との主旨と理解したが、核開発を強行する北朝鮮の姿を前にすると、この国にとって核開発は当時も今も悲願であったような気もする。

トランプ大統領は自らのツイッターに「北朝鮮との『ディール(取引)』が進行中だ。成立すれば世界にとって非常に良いものとなろう」と書き込んでいる。しかし北朝鮮が永い間に蓄積した核を放棄するとは考えにくい。仮に新たな核・ミサイル開発の凍結で取引が成立すれば、北朝鮮は新たな核保有国として東アジアの安全保障の脅威となる。日米韓、あるいは日米の安全保障体制にも影響しよう。

首脳会談の成果には期待するが、トランプ大統領まで、微笑外交に惑わされるようなことがあってはならない。







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