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2017年10月10日(Tue)
障害者と共に楽しむ 日本財団DIVERSITY IN THE ARTS企画展(6)
「ミュージアム・オブ・トゥギャザー」
主催者側の狙いと展覧会への期待


障害者や現代美術家の作品を東京・南青山のスパイラルガーデンに展示する「ミュージアム・オブ・トゥギャザー展」のオープンまであと3日。いよいよ会場の設営が始まり、作品の搬入が開始される。目の回るような忙しさの中、計画当初から障害福祉分野のアート事業を担当している日本財団の溝垣春奈・国内事業開発チーム職員に、展覧会の狙いや期待を聞いた。

インタビューに答える溝垣春奈さん

インタビューに答える溝垣春奈さん


溝垣さんは2010年からこの事業を担当していて、昨年6月から本格的な準備作業が始まった。2020年の東京五輪・パラリンピックをきっかけに、日本財団は全ての人が尊厳を持って生きるインクルーシブな社会の実現に向け、ビジュアル・アーツの展覧会やフォーラムの開催のみならず、パフォーミング・アーツの障害者国際芸術祭を開催するなど、障害者の文化芸術に本格的に取り組むことになった。

溝垣さんは今回のアート展の特徴について次のように語る。

「東京五輪・パラリンピックの開催が決まってから、障害福祉分野のアート事業をダイバーシティ・イン・ジ・アーツ(アートの多様性の意味)という名称でやることになり、同事業の重要性が増した。これまでの『アール・ブリュット』=フランス語で生(き)の芸術の意味=という言葉が展覧会の名称から拡大する形で改まり、全国で展開されている様々なアート活動の考え方、あり方と向き合う日本財団の姿勢が明確になった」

日本財団はアール・ブリュットを「障害者アート活動の一分野として可能性がある」として積極的に助成してきたが、美術界や福祉界から「アール・ブリュットの本来の意味を間違えて伝えてきた」などと批判を受けたため、「本来の意味には障害者アートという文脈もカテゴリーもないので、本来の意味に立ち返って考えていきたい」とリセットを宣言している。

このため、溝垣さんは今回の展覧会では「むしろ障害者アートに余り関心のない人、関係のうすい人に見に来てもらい、『面白かったね』『気持ち良かったね』と感じてもらいたい。これまでと違う関係の人が見に来てくれることで、新しい人たちが呼び込まれてくると思う。同時に、一方的に作品を展示するだけでなく、会場に色々な人たちが集い、コミュニケーションが生まれる状況が非常に大切だと考えている」と語った。

その上で、今回の展覧会の意義について「少しでもご来場いただく方々と障害との距離を近づけたい。なぜか日常で気が付かなかったことに気づく、そんな場となってほしい」と話した。

さらに、溝垣さんはキュレーターや建築家だけでなく、障害者にも会場検証に立ち会ったり、話し合いに加わったりしてもらい、障害者が参加しやすいような設備や案内表示をこの展覧会が提案したことを強調し、「日本財団ではこれまでなかった試みです。協力者も含めれば、約60人の人たちの意見を聞いて準備を進めてきた」と述べた。

展覧会を主として担当する(左から)溝垣さん、今野優紀さん、金亭淑さん

展覧会を主として担当する(左から)溝垣さん、今野優紀さん、金亭淑さん


続いて、今回の展覧会への期待について聞いた。

「理想としては、展覧会に気負わずにプラっと来て、楽しんで帰ってもらえればいいと思う。障害者も健常者も同じ人間なので、あんまり障害、障害といいたくない。障害福祉分野で出会ったアートも面白いし、現代アートの世界も面白い。両方ともあるからいいなと思う」

溝垣さんは学生の時、展覧会の運営に興味を持ち、アートのメッカ、ニューヨークにあるニューヨーク大学大学院に2年間国費留学した。また、日本で学芸員の資格を取り、日本財団に入会後も、アート関係の事業を担当してきた。

一方、今回の展覧会に対して、障害者団体や福祉業界も注目している。NPO法人エイブル・アート・ジャパンの柴崎由美子代表理事は「展覧会の準備に関わった障害者の方たちは、障害者が文化を楽しむノウハウを体得したので、それを周囲に波及してほしい。そうすることで障害者の芸術活動を地方に広げる起爆剤になる。また、キュレーターや建築家が協力して展覧会を作る作業をしたので、この仕組みが地方を活性化することにつながれば、大きなレガシーになる」とエールを送っている。

(終わり)



● 日本財団DIVERSITY IN THE ARTS ウェブサイト
● ミュージアム・オブ・トゥギャザー ウェブサイト







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