2017年10月04日(Wed)
障害者と共に楽しむ 日本財団DIVERSITY IN THE ARTS企画展(3)
今回、会場の構成・設計を担当したのは、建築設計事務所アトリエ・ワンの塚本由晴、貝島桃代、玉井洋一と筑波大学の岩田祐佳梨の各氏。アトリエ・ワンは個人住宅、公共空間、福祉施設などの設計のほか、展覧会のデザインや都市、農村のフィールドサーベイ、利用者とのワークショップなどを行っている。今回はスパイラルの会場で車いす利用者、視覚や聴覚の障害者と検証を行った。1階のギャラリーから2階に登る「エスプラナード」(大階段)は、訪れた人がそこに置かれた椅子に座って青山通りを眺められる名所のひとつであるが、車いす利用者が自由に移動できないなど、ハード面のアクセシビリティ(参加可能性)には課題が残る。
塚本さんは「それは設計者や発注者に問題があったということではなく、1985年の日本社会では現在ほど、バリアフリーが重視されていなかった。そうした設計する際の『想定』の時代変化が展示に表われるよう、エスプラナードの細かい段差をスロープで繋ぐことを提案しました」と振り返る。ただし、奥行きと高低さの関係上、勾配が現在のバリアフリー法での基準より急になってしまう。そこで当初は長い緩やかな傾斜の斜路を折りたたんだジグザグのスロープを提案したが、車いす利用者から「車いすで行ったりきたりするのは大変。少し急でもシンプルなほうがいい」と言われ、期間中、ボランティア10人を配置、人力で車いすを押す前提で解決した。貝島さんは「障害のある人たちが自由な考えを持っていることが分かり、刺激を受けた。バリアフリーなどのハード面でもっと色々な展開ができると思った」と述懐していた。 会場検証で「立体的な触れる模型があると良い」という意見を述べたのは、全盲の木下路徳さん。緑内障で高校時代に「全然見えなくなった」という木下さんは「模型があると、スパイラルの建築や空間がわかって良い。鑑賞前と後に自由に模型を触れるようにして欲しい」と語った。これを受けて、貝島さんが教えている筑波大学の院生らが50分の1と100分の1の模型をダンボールで作成、8月の会議に持参した。 実際に触ってみた木下さんは「ダンボールの触り心地がとてもいいですね」と感想を述べた。完成品は期間中、スタッフが常駐する受付「ウエルカム・ポイント」に置かれる予定だ。 会場のギャラリー担当チーフ・キュレーター、加藤育子さんは「スパイラルガーデンは構造的にも(入場無料で)運営的にも開かれた場所。『どんな人にも開かれた展覧会』という、今回の企画趣旨に共感して積極的に受け入れた」と語る。スパイラルでは、これまでも障害者が参加するイベントを開催しているが、今回は事前に実施した車いす利用者との会場検証を通じて検査を受け、入り口のドアの開閉や既存スロープへのアクセス、サイン掲出方法など、指摘された箇所を改善してきたという。 さらに、加藤さんはハード面だけでなく、ソフト面でも「ウエルカム・プロジェクト」を社内で立ち上げ、お客がどういうサービスを望んでいるか、障害者への注意点や配慮は何かなどについて研修・改善を重ねていると話した。 最後に加藤さんは「たくさんのお客様に満足していただけるよう、ギャラリーだけでなく、カフェやショップなども含む『オールスパイラル』として、今回の展覧会での学びを改善のきっかけにしたい」と抱負を語っていた。 このほか、展覧会では、アクセシビリティを高めるため、いくつかのイベントを企画している。その1つは、知的障害、精神障害、発達障害のある人のうち、知覚過敏な人を対象に、展覧会のある一定時間を開放する「クワイエットアワー」だ。期間中に17日と24日の2回、午前9時から11時までの間、実施する予定。 また、視覚障害者と健常者を対象に、音声を通して作品を知ることができる「オーディオ・ディスクリプション」も行うことになっている。 【バリアフリーに関する法律】本格的な高齢化社会の到来を迎え、高齢者と障害者の自立と積極的な社会参加を促すため、公共性のある建物を円滑に、安全に利用できるような整備を促進する目的で1994年、ハートビル法が制定された。さらに、2006年、交通バリアフリー法と統合され、バリアフリー新法が施行された。 第4回はこちら ● 障害者と共に楽しむ 日本財団DIVERSITY IN THE ARTS企画展(4) ● 日本財団DIVERSITY IN THE ARTS ウェブサイト ● ミュージアム・オブ・トゥギャザー ウェブサイト |