• もっと見る

前の記事 «  トップページ  » 次の記事
2017年10月03日(Tue)
障害者と共に楽しむ 日本財団DIVERSITY IN THE ARTS企画展(2)
「ミュージアム・オブ・トゥギャザー」
障害のある作家たちの願い


新幹線京都駅から山陽本線に乗り換え、草津駅を経由して約1時間。甲賀流の忍者で知られる滋賀県甲賀市の甲南駅に着いた。ここからバスで約10分、社会福祉法人やまなみ会の多機能型事業所「やまなみ工房」に到着した。山下完和(まさと)施設長らの出迎えを受け、スタッフに工房を案内してもらった。作業の種類ごとに6つのグループに分かれ、その中で障害者83人が思い思いの手法で作品を制作していた。

展覧会に出展される作品と作家の清水千秋さん

展覧会に出展される『マツコ・デラックス』(左)と作家の清水千秋さん


入り口から屋根まで、板壁にカラフルな恐竜や人間たちがびっしり描かれた「もくもく」。メンテナンス作業を中心に取り組むグループだが、男性数人が机に座ったり、突っ伏したり、あるいは畳の上に寝転んだりしていた。「1日2,30分仕事し、あとはずっと寝ている人もいます。我々は決して無理にやらせたりはしません」と早川弘志副施設長。午前9時ごろ入所し、昼食をはさんで午後3時ごろまで作業、午後4時前に帰途に付くのが日課である。

板壁に絵の具で動物や人間を描く「もくもく」のメンバー

板壁に絵の具で動物や人間を描く「もくもく」のメンバー

          
隣の建物では、「こっとん」グループのメンバーが、刺繍や絵画に取り組んでいた。糸を使った作品を製作する人が多く、部屋のあちこちに糸の山ができていた。その中でも芸能人を題材に、注目される刺繍作品を多数製作しているのが清水千秋さん。マツコ・デラックスをモチーフにした作品が、今回の出展物に選ばれた。今はお笑いタレント、ブルゾンちえみを題材に製作中だ。「雑誌などを見て、気になった人を選んで作っている。刺繍を使った作品をつくるのが好きなので、みんなに見てもらいたい」と話していた。

粘土や絵画に取り組む「アトリエころぼっくる」で、粘土を使って好きな人とのツーショットを想定した作品をつくり続けているのは鎌田一美さん。一つ一つの作品に「かき氷を一緒に食べているまさとさんと私」などのキャプションをつけている。

キャプション付きの粘土作品をつくり続ける鎌田一美さん

キャプション付きの粘土作品をつくり続ける鎌田一美さん


インスタントラーメンの包み紙をじっと見つめる酒井美穂子さん

インスタントラーメンの包み紙をじっと見つめる酒井美穂子さん

また、散歩や運動に取り組みながら表現活動を続けている「ぷれんだむ」には、入所以来20年間、インスタントラーメンの包み紙を見つめ続けている酒井美穂子さんがいる。袋を手に持って音や光を確かめているのだというが、理由は誰にもわからないらしい。

やまなみ工房の山下施設長に、今回の展覧会への思いや期待について聞いた。この工房に通っている障害者は83人で、そのうち知的障害者が過半数を占めている。今回は清水千秋さんを含め、計3人の作品が出展される。「83人のうち、芸術をやりたいといって入所してきたのは5人以下です。残りの人たちは、ここに来てから自分のやりたいことを見つけたのです。こういう環境の中で影響を受けた人が多いと思います」と語る。






インタビューに答える山下施設長(左)と早川副施設長

インタビューに答える山下施設長(左)と早川副施設長


山下施設長は、この工房で働いている障害者の胸のうちをこう推測する。

「彼らの中でかなりの人数の人が展覧会などで賞を受けているが、彼らは賞が欲しくて作品をつくっているわけではない。それよりも、作品を見に来た人たちから直接『あなた、スゴイじゃない』などと声を掛けられることです。そうすると、健常者の人たちと対等な関係が生まれ、うれしいからです。彼等をリスペクトしてくれる人たちが見に来てくれると心を開き、居心地が良くなるのです」

山下施設長は30年前に工房を始めたが、当初は利用者が3人だけだったという。今ではスタッフ17人を含め、通ってくる人は120人くらいになるとのことだ。

「ここにいる人たちのほとんどは、『じっとしていられない』とか、『問題行動がある』といって、他の施設に入れなかった人たちです。私たちがいつも考えていることは、利用者にとって日々居心地の良い環境を整えてあげることです。もし、『居心地が悪い』といって辞めるような人が出てくれば、すぐ施設を辞める覚悟があります」

最後に、日本財団ダイバーシティ・イン・ジ・アーツ企画展への期待を聞いた。

「障害者アートは、まだ社会全体では一部の人たちの間の議論にすぎません。日本財団が進める活動を通じて多くの人に知られ、正しく理解してもらえれば、彼らへのリスペクトが広がり、居心地の良い社会に変わってくると思います」

ことば解説【多機能型事業所】障害者自立支援法(2006年施行)により、障害の種類にかかわらず、共通した福祉サービスを受けられるようになった。行政が福祉サービスを決定する措置制度を廃止し、障害者がサービス提供事業所を選択、事業所との契約によってサービスを利用できように改正された。これにより、障害児通所支援(児童発達支援、医療型児童発達支援、放課後等デイサービス、保育所等訪問支援)および障害福祉サービス事業のうち、2以上の事業を一体的に行う事業所を多機能型事業所と呼んでいる。

第3回はこちら
● 障害者と共に楽しむ 日本財団DIVERSITY IN THE ARTS企画展(3)



● 日本財団DIVERSITY IN THE ARTS ウェブサイト
● ミュージアム・オブ・トゥギャザー ウェブサイト







 障害者と共に楽しむ 日本財団DIVERSITY IN THE ARTS企画展(1)  « トップページ  »  徴用工賠償問題 本質は韓国の「内政問題」