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2017年09月06日(Wed)
突き抜けた才能を伸ばす 「異才発掘」プロジェクト
(リベラルタイム2017年10月号掲載)
日本財団理事長 尾形 武寿


Liberal.png世の中には突出した才能や能力を持った人がいる。しかし幼少期に並外れた才能やIQ(知能指数)を持っているのを見極めるのは難しい。

優れた才能を持った子供は往々にして特定のことにしか興味を示さず、学校生活や集団生活に馴染めないまま“変わった子供”というレッテルを貼られ、親も対応しきれず引きこもりや不登校となるケースも多い。

しかも我国では、知的障害を持つ子供は養護学校で手厚い保護を受けるが、突出した才能を持つ子供たちを受け入れる施設や学校はない。

そんな事情もあって筆者が奉職する日本財団では2014年末、こうした特殊な才能を持つ子供達に光を当てるべく、東京大学先端科学技術研究センターと共同で、学校でも自宅でもない新しい学びの場を提供するプログラム「異才発掘プロジェクトROCKET」をスタートさせた。

対象を小学3年から中学3年までとし、全国から生徒を募集。第1期生は600人から15人、第2期生は536人から13人、第3期生は527人から31人を選抜し、現在、計59人が生徒として登録されている。

自分に関心のあることだけを家庭で勉強・研究をさせ、月に1週間、センターに集合、合宿形式で先端研が準備したプログラムに従い、様々な議論を行う。「卒業」の概念はなく、生徒は随時、自分が今、何をしたいのか、センターのスタッフに相談。「必要な物」、「行ってみたい場所」があれば、プログラム・ディレクターの中邑賢龍教授に申請書を提出させる。申請ひとつにも本人の創意工夫を反映させるためだ。

ここで教育制度の善し悪しに言及する気はないが、15年、視察に訪れた欧州や北欧では、子供が就学適齢期になると、能力、志向性、適正を総合的に判断し、学年の移行期に子供の将来を決めるシステムがとられていた。詰め込みではなく、個人の特性に合わせた教育方法である。
教育の世界では長年、個の自立より全体の調和を重んずる「結果の平等」と、個々の能力の育成を重視する「機会の平等」論が戦わされてきた。我国の教育システムはオールマイティーで協調性のある人材の養成には優れているが、突き抜けた子供たちの“凸の部分を伸ばす力”が欠けているともいわれる。

「入学は難しいが卒業は簡単」な日本の大学と、逆に「入学は簡単だが卒業は難しい」と言われる欧米の大学との違いも、こうした教育論の違いに起因しているように思われる。個人としては、飛び級も含め多彩なシステムが用意されていた戦前の方が優れていた気もしている。

既にプロジェクトに登録されている子供の中から、社会的に注目される成果も生まれている。不登校のため父親から自宅で基礎学力を学んだ小学六年生の男児は、小学2年の時から全国紙の小学生レポーターとして活躍し、今春、「12歳の文学賞」小説部門優秀賞を受賞した。

他にも一日中、絵を描いている子供や、独学で菌類学を勉強、新種の可能性もある固体も含め300種ものキノコを見つけた子供、ロボット製作に打ち込み数々のコンテストで優勝している学生等、将来が楽しみな逸材が何人もおり、事業を立ち上げた意味があったと自負している。

将来、この子供達の中からノーベル賞を受賞する人材が出てくる可能性だって有り得るー。そんな夢を託してプログラムの発展に期待を寄せている。







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