温暖化対策にらみ現実的な選択を
[2018年02月22日(Thu)]
原発即時停止、再稼働禁止は疑問
化石燃料の削減こそ第一義
「原発ゼロ」を目指す動きが高まっている。小泉純一郎元首相らが顧問を務める原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟が1月、稼働中の原発の即時停止や再稼動禁止などを盛り込んだ「原発ゼロ・自然エネルギー基本法案」を発表したのに続き、立憲民主党も「原発ゼロ基本法案」を3月、国会に提出する構えを見せている。将来の原発ゼロに異存はない。ただし即時停止や再稼動禁止には現時点では賛同できない。再生可能な自然エネルギーの開発になお時間が掛かる以上、温暖化防止の観点からも現存する原発の利用は避けられないと考えるからだ。
原発は発電時に温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)は発生しないものの放射性廃棄物の処理というほぼ解決不可能な難題が付きまとう。福島原発事故のように不測の事態が起きれば甚大な被害が広範囲に発生し廃炉にも膨大な時間とコストが掛かる。石油、石炭、LNG(液化天然ガス)などに比べ発電に要するトータルコストは高いと思われ、白紙の状態で建設の是非を問われれば「反対」と答えることになる。
しかし日本には現実に世界3位、40基を超す原発が存在する。自然エネルギーの開発が伴わないまま全面的に稼動をストップすれば、必要な電力の確保は石油、石炭やLNGなど化石燃料に頼らざるを得ず、もう一つの大きな課題である地球温暖化対策、即ち2015年のパリ協定で定めた二酸化炭素(CO2)の排出削減が難しくなる。
地球温暖化の原因に関しては専門家の意見も分かれているようだが、素人目にはCO2など温室効果ガスの排出が多分に影響しているのは間違いないように見える。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)も最近、地球温暖化が今のペースで進むと2040年代には世界の平均気温の上昇が1・5度に達し自然災害や生態系の破壊が深刻化し、今世紀半ばには温室効果ガスの排出をゼロにする必要があると警告する特別報告書の素案をまとめたと報じられている。
世界5位のCO2排出国である日本は、2030年までに温室効果ガスの排出量を2013年度比で26%、2050年には80%削減するとしている。2030年の電源構成は石炭・石油29%、天然ガス27%、原子力20~22%、再生可能エネルギー22~24%としており、原発ゼロとなればその分、再生可能エネルギーを増やすしかない。
小泉元首相らの原発ゼロ・自然エネルギー基本法案では自然エネルギーの電力比率を2030年までに50%、2050年までに100%に引き上げる、としており、実現できればそれに勝る策はないが、現実には再生可能エネルギーの開発が思うように進まないまま化石燃料の使用量が増えている。
2016年現在、水力を含めた自然エネルギーは全体の21%。水力以外の太陽光や風力、地熱などは8・5%に留まり、個人的には地熱に期待するが、10年後に50%を達成するのは難しいのではないか。結果、化石燃料への依存が高止まりの状態で続く事態を危惧する。温室効果ガスの排出を可能な限り抑えるためにも、当面は安全基準を満たした原発を活用していくのが現実的な選択と考える。
原発事故発生以来7年間、計20回にわたり福島の住民とのダイアログセミナーを重ねてきた国際放射線防護委員会(ICRP)のジャック・ロシャール副委員長が2月10、11両日、セミナー出席のため来日したのを機に感想を求めたところ「温暖化の関係は専門外」としながらも原発の利活用の必要性を語った。
ジャック・ロシャールICRP副委員長
「福島事故、温暖化問題も加わり、世界の多くの国が再生可能エネルギーへの転換を迫られている。しかし原子力、石炭火力、石油、再生可能エネルギーのいずれにも問題がある。要はエネルギー確保に向け、どのようなベストミックスを考えるかが重要で、原子力だけを選択から外すのは得策と思えない」
原発を中心にした電力政策を進めてきたロシャール氏の母国フランスは、マクロン大統領が稼働中の原発58基のうち17基程度を閉鎖し原発依存度を現在の70%から50%以下に引き下げる方針を発表した。原発の見直しー再生可能エネルギーへの転換は世界的な傾向となりつつあるが、一方で中国やASEAN(東南アジア諸港連合)諸国には、電力確保に向け原発を強化する動きも見える。
再生可能エネルギーの開発を急ぐべきは言うまでもなく、自然エネルギーを尊ぶ最近のトレンドからも企業の投資が再生可能エネルギーの開発に向かい、その分、開発も加速されると期待する。
原発事故を体験した日本は、その経験を踏まえた安全な原子力技術、世界の最先端を行く廃炉技術を開発して行く立場にある。原発をめぐる議論はとかく賛否が鋭く対立し中間の議論が希薄な状態にある。温暖化対策を視野に置いた現実的な議論を望みたい。