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四季折々の雑記

 30年以上在籍したメディアでは「公」の動きを、その後10年以上は「民」の活動を中心に世の中を見てきた。先行き不透明な縮小社会に中にも、時に「民の活力」という、かすかな光明が見えてきた気もする。そんな思いを記したく思います。


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福島の甲状腺がん、原因は何なのか? [2016年09月30日(Fri)]

現状を踏まえた分かりやすい議論を
放射線の影響、過剰診断説が交錯


福島で出ている甲状腺がんの原因は何なのかー。9月26、27の両日、「福島における甲状腺課題の解決に向けて」をテーマに内外の専門家、研究者を集め開催された第5回福島国際専門家会議(主催:日本財団)を聞いて、素人の筆者には分からない点がいくつかあった。当の被災者も現状を理解できないまま不安が増幅する結果になっているのではないか。いまさら繰り返すまでもないが、分かりやすい言葉で分かりやすい議論を求めたい。

国際専門家会議は甲状腺課題の解決に向け、事故発生から30年を経たチェルノブイリの教訓を事故5年目の福島に生かすのがテーマで、世界保健機関(WHO)や原子力放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)、国際原子力機関(IAEA)の専門家、ロシア、ウクライナ、ベラルーシ、さらに長崎大学や福島県立医科大の研究者ら24人が参加、フロアにも150人を超す専門家や研究者が詰め掛けた。

まず放射線と甲状腺がんの関係。原発事故に伴って放出された放射能と自然界に常在する放射能、さらに医療現場のレントゲン撮影などで受ける放射能に何ら違いはなく、甲状腺がんは原発事故がなくとも小さい割合ながら発生するという。となるとチェルノブイリ、福島とも事故後の甲状腺がんの発生率に有意な上昇があったか否かが事故の影響を占うポイントとなる。

この点についてチェルノブイリ関係では「6000人が甲状腺手術を受け、これまでに15人が亡くなった」などのデータがあるようだが、広大な被災地域全体を網羅したトータルなデータはないようだ。一方、福島に関しては18歳未満を対象にした福島県立医科大の2回にわたる県民健康調査の結果、4000人を超す人が2次検査の対象となり、さらに細胞診の結果、173人が「悪性ないし悪性疑い」と診断され、134人が甲状腺手術を受けたとされている。

しかしチェルノブイリ、福島とも比較対象となる事故前の発症率に関するデータはなく、県民調査結果をどう見るか、幅広い論争が起きる結果となっている。この点に関する専門家会議の見解は、チェルノブイリ事故では放出された放射線量が高く、小児が一定期間、汚染された牛乳を飲み続けた経過もあって甲状腺がんの発症率の上昇が認められるが、福島の場合は放出線量がわずかで疫学的にも有意差が認められるような発症率の上昇は考えにくい、とする点で、ほぼ一致しているようだ。

それでは福島の数字をどう説明するか、ここで登場するのが“過剰診断”説。小児甲状腺がんの診断は、極めて精度の高い超音波スクリーニング検査で行われており、がんではない小さな結節をがんと見る偽陽性や過剰判断が結果に反映している(スクリーニング効果)といった内容のようで、専門家会議でも韓国の学者から、4ヶ所の原子力発電所の周辺住民を対象に実施した健康調査の結果として同様の見解が示された。

あくまで事故で放出された放射線の影響とする見解と相容れないことになり、専門家会議でもフロアの学者から強い批判意見が出された。「のう胞」や「結節」、さらにそのサイズによる判定など、残念ながら素人の立場には理解し難い内容が多く、Webを検索しても、双方の意見が激しく戦わされている現状は理解できても、どちらが多数説なのかもよく分からない。

もう一点、素人なりに注目したのは、大半の甲状腺がんは進行速度が遅く良性で、前立腺がんなど同様、手術をすることなく一生を終える人も多いとい言われる点。県民調査の結果に関しても、手術を受けた134人中133人は悪性度の低い乳頭がん、残る1人も良性結節だったと報告された。

ということは直ちに手術する必要はなく、成人になるまで様子を見る選択肢もあったということなのだろうか。手術では甲状腺を全部、あるいは半分ほど摘出し、予後に特段のマイナス影響はないそうだが、必要がないのなら体にメスなど入れない方がいいし、手術は過剰治療ということにもなりかねない。

もっとも関係者によると甲状腺がんには稀に悪性度が高い未分化型のがんも含まれており、悪性ではないという保証がない以上、患者が希望すれば手術に踏み切らざるを得ないといった事情もあるという。

こうした話を聞くにつれ、あらためて甲状腺課題の解決の難しさを実感する。大半の被災者は素人であり、何らかの決断を迫られることになれば未知なる放射線に対する恐怖が先行する。まして小児甲状腺がんの場合、決断するのは親であり、子どもの将来に対する危険を少しでも除去するためにも過剰治療に傾きやすい。

原子力発電所の是非をめぐっても、とかくこの世界の議論は賛否両論が二極化する傾向にある。もっと現実を踏まえた中間的な議論があっていいように思う。その中でどこまでが客観的事実であり、どこが推論・意見であるのか、立場を越えた分かりやすい議論こそ、求められている気がする。(了)
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