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四季折々の雑記

 05年夏まで在籍したマスコミの世界は極力、主観を排した客観報道を原則とした。しかし真の意味で「客観」を実現するのは報道の現場に限らず難しい。ブログと言うには程遠いが、忘れない程度に自分の想い、時に意見をささやかに書いていくつもりです。


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ミャンマー・カレン州の首相に聞く [2017年02月13日(Mon)]
半世紀超す内戦で豊富な自然残った
民主化の果実、拙速より長い目線で


先月末、ミャンマーのカレン州を訪れ、ドー・ナン・キン州首相(62)に話を聞く機会があった。キン首相は昨春、政権を獲得したNLD(国民民主連盟)の活動家として軍政時代の1997年から2年間、刑務所生活も体験し、アウン・サン・スー・チー国家最高顧問兼外相とも並ぶNLDの重鎮として党の中央委員も務める。

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カレン州の将来を語るドー・ナン・キン州首相


キン首相は州の開発について「カレン州には薬草など自然資源も鉱物資源も豊富にある」とする一方、「早急にやらなければならないことがいっぱいあるが、国民の反対が強く思うように進まない」、「当面、石炭を使った火力発電所の建設を目指したい」などと語った。

カレン州はミャンマー南東部、タイ国境に位置し、1947年の独立後、2012年まで「世界でも最も長い内戦」が続いた。その結果、開発が遅れたが、豊富な自然や資源が残された。開発に向けた州トップとしての決意は理解するが、民意を尊重すればその分、手続きに時間とコストが伴う。拙速を避け、残された自然を生かす長い目線の開発こそ、州の将来に相応しい気がする。

カレン州は人口約160万人。ヤンゴンから車で約6時間の距離にあり大半が中山間地。80%が稲作やトウモロコシ、ゴムなど農業で生計を立てる。英国は植民地時代、カレン族など少数民族を多く重用して人口の7割近くを占めるビルマ族を統治したといわれ、そうした歴史が中央政府軍とカレン民族同盟(KNU)の戦いを長引かせた。

タイの難民収容所に10万人を超す住民が避難しているほか国内難民も多く、彼らが故郷に戻れるような産業基盤、インフラの整備が新政権、州政府の課題となっている。州の大半を占める中山間地には豊富な薬草がそのまま残され、州都パアン郊外では、日本財団が2012年から州政府が用意した40エーカー(約16ヘクタール)に上る広大な用地に薬草園を整備し薬草プロジェクトを進めている。

「薬草の宝庫」に相応しく既に150種に上る薬草・薬木が集められ、近く東京農業大学も保存技術の指導などに乗り出す予定。海外の製薬メーカーも注目し、指導に当たる日本財団の間遠登志郎氏のもとには沖縄の保健食品開発協同組合から、地元で古くから伝統医療に使われてきたウコンに関する問い合わせも寄せられている。

薬草園で開発した保存・加工技術を周辺農家に移転、薬草園が収穫物を買い取って内外のメーカーに出荷し、農家の自立を促すモデル事業とするのが目標で、実現すれば、かなりの数の農家の参加が可能になる。キン首相も「地元の人は石油など鉱物資源ばかりに目が行く。薬草が金になることを日本財団は教えてくれた意味は大きい」とプロジェクトの将来に大きな期待を寄せている。

同時にカレン州にはゼガビン山など観光資源も多く、キン首相は観光産業の育成にも力を入れたいという。そのためには道路や空港、ホテルなどインフラ整備が欠かせない。限られた時間で子細は確認できなかったが、北隣のカヤー州、南に隣接するモン州では、火力や水力発電所の建設計画が、「火力は大気を汚染する」、「洪水が起きたら大被害が出る」といった住民の反対で宙に浮いており、カレン州の火力発電所もこれに関連して構想されているようだ。

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朝もやに霞むゼガビン山


ミャンマーの電力不足は深刻で、その必要性は誰もが認める。ただし発電所建設のようなプロジェクトにはODA(政府開発援助)など大きな資金が必要となる。それ以上に地球温暖化が世界の深刻な課題となる中、CO2(二酸化炭素)発生量の多い石炭火力の発電所建設には疑問も残る。そうした点を研究する専門家の育成も遅れているようだ。

テイン・セイン前大統領による2011年の民主化、2015年総選挙でのNLDの大勝を通じてミャンマー経済は大きく発展し、最大都市ヤンゴンなど都市部と少数民族が多く住む周辺の中山間地の格差は一段と拡大している。

国民には「民主政権ができたのだから生活はよくなるはずだ」といった根強い信仰があるようだが、半世紀以上続いた内戦で少数民族が多く住む周辺地域の開発の遅れは教育、医療なども含め尋常ではない。ミャンマーの新しい国づくりは、ある意味で緒に就いたばかり。今後、外国資本の進出も加速しそうだが、方向を決めるのはあくまで国民である。長期の内戦という不幸の産物とはいえ、豊富に残った薬草など自然資源を精いっぱい活用する、長い目線こそ「民主化の果実」につながると思う。(了)
温暖化防止、米国の利益より世界の利益優先を [2017年01月11日(Wed)]

パリ協定、目標実現すれば漁獲高600万トン増
海の未来、ネレウスプログラムが試算


世界の平均気温上昇を、地球温暖化対策の新しい国際ルール「パリ協定」が掲げた1・5度に抑えれば、放置した場合に比べ年間の漁獲量は600万トン増える。こんな研究結果を、日本財団がブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ)など7つの大学・研究機関と共同実施するネレウスプログラムが発表し、昨年末、学術雑誌「Science」に掲載された。

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日本財団ネレウスプログラム提供

パリ協定は、二酸化炭素(CO2)排出量が世界の1、2位、全体の40%以上を占める中国、米国が昨年9月そろって批准し発効した。しかしドナルド・トランプ米次期大統領は選挙戦の中で「温暖化はでっち上げ」、「米国の製造業の競争力を削ぐ」と早期離脱を表明、当選後、やや態度を軟化させたもののニューヨークタイムズ紙のインタビューに「離脱についてあらゆる可能性を排除しない」と答えるなど、消極的な姿勢を見せている。

トランプ氏にとってCO2の排出規制は、同氏が掲げる「偉大な米国の復活」の足かせになるということであろう。人類の産業活動が地球温暖化の原因、あるいはそのひとつといった認識が希薄なのかもしれない。締約国が脱退を希望する場合、協定の規則で4年間の待機時間が必要となるようだが、留まったまま国内の取り組みを緩和したり実施しなくとも罰則はない。

全ての国が協力して地球温暖化対策に取り組むのがパリ協定の狙いであり、米国の姿勢は排出量1位の中国や途上国、さらには排出量5位の日本の対応にも影響する。地球温暖化は国を越えた地球全体のテーマであり、ネレウスプログラムの研究成果も、パリ協定の趣旨の実現を促すデータとして重視される必要がある。

ネレウスプログラムは2011年にスタートし、これまでも「気候変動と海洋環境の変化」、「世界の魚資源の未来」など、海の未来を地球規模で予測する研究成果を発表、パリ協定を採択した2015年の第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)でも取り上げられた。温暖化による海水温の上昇や海水の酸性化などによって魚資源が全体に冷たい海水域に移動するため「赤道周辺などの一部地域では2050年の商業魚種の漁獲高が40〜60%減少する」といった報告も公表している。

今回の研究では漁業の変化を数値化したコンピューターモデルを使い、海水温の上昇をパリ協定が掲げた産業革命以後1・5度の上昇に抑えた場合と、放置した場合に避けられない3・5度上昇のケースを比較、海水温の上昇に伴い熱帯海域の魚が温帯海域に、温帯海域の魚が北極海域に移動することで起きる各海域の漁獲高を比べ、「地球温暖化が1度抑えられるごとに潜在漁獲量は、放置した場合に比べ300万トン以上増え、パリ協定の1・5度が達成されれば600万トン増える」と結論付けている。

対象になっているのは河川・池など内水面漁業を除いた遠洋や沿岸の海面漁業。世界の海面漁業の漁獲高は年間9000万トン前後で推移しており、600万トンは全体の6、7%に当たる。特に熱帯海域では魚が深海や環境が適した温帯海域へ移動するため漁業が絶滅する地域も発生する、などと指摘している。

地球温暖化の原因をめぐっては、さまざまな議論があるが、近年の異常気象や台風の巨大化ひとつとっても温暖化との関係を抜きにして考えにくい。疲弊した海を元に戻すのは最早難しい、といった指摘もある。海にとって気候変動は、かねて指摘されてきた乱獲以上の脅威であり、海の危機は地球の危機でもある。特定の国だけが無関係ということは有り得ず、米国も例外ではない。温暖化防止は各国が国の利益より地球全体の利益を優先させて、本腰を挙げて取り組むべき喫緊の課題である。(了)
望まれる司法の前向きな判断 [2016年12月16日(Fri)]

外務省職員署名の陳述書 どう評価
比残留日系人2世の国籍取得問題


戦後、半世紀近くも忘れ去られてきたフィリピン残留日系人2世の日本国籍取得問題にわずかな前進の兆しが見えてきたような気がする。残留2世の陳述書作成に外務省職員が立会い、フィリピン政府も2世が戦後長らく無国籍のまま暮らしてきたことに対するペナルティー(罰金)を免除する措置を打ち出している。後は2世が求めている就籍に迅速かつ前向きに対応する司法判断の流れが確立されれば問題解決は前に進む。老境に達した残留2世に残された時間は少なく個人的な期待も込め、そんな思いを強くする。

ドゥテルテ新大統領が長く市長を務めたミンダナオ島の港町ダバオ市に住む残留2世、永田オリガリオ・マサオさん(71)が11月28日来日、翌日、日本国籍の取得に向け就籍の審判を申し立てた熊本家庭裁判所の調査官面接に臨んだ。就籍が許可されると、申立書に記した住所で新たに戸籍を作り、晴れて日本国籍を取得する。

永田さんは2013年にも東京家裁に就籍を申し立てたが却下され、状況証拠から父親の出身地である可能性が強い熊本家裁に再申し立てを行った。裁判所が違うとは言え、同一の証拠で就籍許可を勝ち取るのは難しい。再申し立てには、外務省職員が立会い、署名した永田さんの陳述書が“新証拠”として提出されている。外務省の立会いは、早期解決に向けた関係者の強い要望を受けて今年5月にスタート、永田さんに対する聞き取りは同月末、他の残留2世9人とともにダバオで行われた。

陳述書は物的証拠がほとんどない就籍の審判の“重要証拠”。これまで日本財団の支援で国籍取得に取り組むフィリピン日系人リーガルサポートセンター(PNLSC)のメンバーが、本人からの聞き取りを基に作成してきた。外務省職員が立ち会ったからと言って、2世が日本人の子であること自ら隠して生きざるを得なかった戦後の空白を埋める新たな事実や証拠が出ることはまず有り得ない。

5月の調査には在フィリピン日本大使館の参事官が立ち合い、筆者も取材を兼ねて同席したが、これといった新しい事実は出なかった。日本政府の代表である外務省職員が自ら質問・署名することで、2世の申し立てに少なくとも嘘や偽りがないことを確認した点に意味があり、裁判官がこの信用性をどう見るかがポイントとなる。

 残留2世と同様、終戦前後の混乱で両親と離れ離れになった中国残留孤児は同じ就籍手続きで既に約1300人が日本国籍を取得している。国籍取得が順調に進んだ背景には、日中両国の合意の下、中国政府が発行した「孤児証明書」を手掛かりに司法が肉親の身元が未判明な孤児の申し立てにも柔軟に対応した点がある。

 残留2世に関してもフィリピン政府が近年、2世の出生証明書や婚姻証明書について遅延登録を認める措置を取っており、外務省職員が立ち合い、署名した陳述書を持って、中国残留孤児と同様、前向きの対応ができないものかー。証拠に基づく厳格な証明が司法の原則であることは理解するが、国の名によって行われた戦争により2世やフィリピン人の母親が置かれた戦中・戦後の過酷な状況を踏まえれば、戦後71年も経て新たな証拠を2世に求めるのはあまりに酷であり、不可能を強いるに等しい。

 これまでに家庭裁判所の審判で就籍が認められた残留2世は188人、なお1000人を超す2世が日本国籍を求めている。5月以降、外務省職員が聞き取り調査に立ち合い陳述書が作成された2世は計18人に留まり、仮にこの陳述書の信用性が前向きに評価されても、PNLSCや外務省の現有人員でどう聞き取り調査を加速させるか、別の問題も残されている。

 しかし、司法が前向きに評価しない限り何も前に進まない。永田さんの申し立てに対する熊本家裁の審判をあらためて注目したい。残留2世の平均年齢は既に75歳を超え、問題解決は時間との戦いである。(了)
クリントンとともに敗れた米国メディア [2016年11月17日(Thu)]

米大統領選に見る影響力の低下
ヒラリー大勝利は“蜃気楼”の事前指摘も

米大統領選で不動産王ドナルド・トランプ氏が勝利した。「何でもあり」の大統領選、さらに暴言・不規則発言を重ねたトランプ氏の当選に正直、驚いた。加えて米国の有力100紙の過半がヒラリー・クリントン氏を支持しながら、「トランプ大統領」の誕生を阻止できなかった事実を前にすると、米国社会での伝統的なメディアの影響力の低下を再確認させられた気もする。「クリントン氏とともにメディアもトランプ氏に敗れた」ということである。

各種報道によると、今回の大統領選では米国の有力紙100社のうち57紙がクリントン支持を打ち出し、トランプ支持はわずかに2紙に留まった。ニューヨークタイムスやワシントンポストなど多くが、人種、女性問題などで過激な発言を繰り返すトランプ氏を批判し、「陰謀」、「うそ」と逆襲するトランプ氏と対立した。

日米のメディアは同じ客観報道の立場を取る。しかし事実を報ずる一般ニュース記事はともかく、社説・論評では、米国の新聞が社の姿勢、意見を明確に打ち出すのに対し、日本の新聞は最近でこそ原発や憲法改正などで社論を明確にする姿勢を強めているが、選挙で米国のように特定の候補の支持を明確に打ち出すことはない。

同時に、大多数の新聞やテレビにあれだけ激しく批判された候補者が当選することも、まず有り得ない。一連の女性蔑視発言を例にとれば「トランプは孤立している」、「女性蔑視発言で婦人や若者の票を完全に失った」といった報道が相次いだが、CNNの出口調査によると白人女性の53%がトランプ氏に投票したと報じられており、報道内容と結果には大きな開きがある。

米国民のニュースの取得先は新聞が20%、テレビ57%、インターネット38%といった調査結果もあるようだ。この数字に従うと5人に一人しか新聞を読んでいない、ということにもなり、新聞論調の内容云々より言論機関としての影響力そのものが大幅に落ち込んでいる、ということにもなる。新聞のトランプ氏批判よりも、SNSなどを通じトランプ氏のメディア批判を読んでいた有権者の方が多かった可能性さえある。

新聞やテレビの世論調査も適格性を欠いた。確かにクリントン氏の得票率は50・08%と過半数を超え、この点で最終的にクリントン氏が1〜2%有利とした世論調査の数字は、それなりに正確だったようにも見える。しかし現実にはトランプ氏が接戦州のほぼ全てを制し、最終選挙人獲得数で70人以上の大差をつけ勝利した。

クリントン氏は私用メール問題で連邦捜査局(FBI)が再捜査を決定したことで「勢いを止められた」と最大の敗因に挙げている。影響があったのは否定できないが、コミーFBI長官は投票日2日前に「訴追見送り」を明らかにしており、再捜査の事実だけで、これだけの大差はつくとは説明しにくい。もともと、クリントン氏優勢を裏付けるような客観状勢がなかった可能性もある。

クリントン氏にはトランプ氏の「偉大なアメリカの復活」に対抗する分かりやすいキャッチフレーズがなかった、あるいはワシントン政界の生活が長く“新味”に欠けた点なども敗因のひとつであろう。従来の大統領選で投票率が低かった白人低所得者層の投票率が大幅にアップした、事前の世論調査では明らかにならなかった“隠れトランプ支持派”が予想以上に多かった、ヒスパニック系のトランプ支持率が予測より高かったーなどの点も指摘されている。

詳しくは専門家の分析を待つとして、トランプ氏勝利の選挙結果を前に気になっている記事がある。元NHKアメリカ総局長を務めた日高義樹ハドソン研究所主席研究員が投票日前の11月1日発売の月刊誌「リベラルタイム」のコラム「THE POWER of U.S.A」に掲載した「マスコミが作り上げた『ヒラリー大勝利』」の一文だ。

日高氏はこの中で「アメリカのマスコミは、ヒラリー・クリントンを何としてもホワイトハウスに送り込まなければならないと考えているウォール街やアメリカ企業等の強い影響の下にある」と指摘した上で「アメリカ中に広がっている『ヒラリー・クリントン大勝利』というイメージは、いわば蜃気楼である。その蜃気楼に映っている幻影は、アメリカのリベラルなマスコミがつくり上げたものだと私は考えている」と言っている。

読み方はいろいろあろうが、記事は同誌の締め切りから、大統領選投票(11月8日)の3週間ほど前に書かれたとみられ、当時の報道は、クリントン楽勝が圧倒的だった。ちなみに前回10月31日付のマイブログの拙稿「TPPにみる米大統領選の“無責任”」でも、見出しの1本に「元下院議員はクリントン氏大勝の予測」を立てた。既に私用メール問題の再捜査が明らかになっていたが、マイナス影響があったとしてもクリントン候補の優位は動かないとの判断で、日本財団の姉妹団体・笹川平和財団のシンポジウムでの元民主党下院議員の発言をそのまま見出しにした。そうした経過もあるだけに、日高氏の記事が余計、印象に残っている。

今回の大統領選報道が何故これほど外れたのか。事前の世論調査一つを取っても、固定電話所有者を主な調査対象とする日米のメディアの調査方法には限界があり、調査に応じる有権者の減少など問題も多い。新聞やテレビが影響力を取り戻す方策は有り得るのか、さらにこれほど激しく敵対したメディアとトランプ新大統領の関係はどうなるのか、新大統領の政策、国際社会への影響を含め注目したい。(了)

TPPにみる米大統領選の“無責任” [2016年10月31日(Mon)]

元下院議員はクリントン氏大勝の予測
覇権国としての威信 どう取り戻す?


安倍首相が開会中の臨時国会での承認を目指すTPP(環太平洋経済連携協定)の帰趨が、米大統領選も絡み不透明になっている。共和党のドナルド・トランプ候補は「大統領就任当日に離脱を表明する」と一貫してTPP反対を打ち出し、当初、一定の修正を加えた上で推進すると見られたヒラリー・クリントン候補もその後、反対の姿勢を明確にしているからだ。

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    パネル講演会で意見を交わす左からジェイソン・アルトマイア、クリフ・スターンズ
    中山俊宏の3氏。笹川平和財団提供。

大統領選は投票日(11月8日)直前になってクリントン候補が国務長官在任中に公務で私用アドレスを使ったメール問題で連邦捜査局(FBI)が捜査を再開する新たな動きも出ているが、各種世論調査結果から見て同候補の優位は動かないのではないか。しかしクリントン候補が当選してもTPPに関しては容易に動けまい。

10月25日、東京都内で開催された笹川平和財団主催のパネル講演会「2016米国大統領選挙と民主主義」で2007年から3期6年間、ペンシルバニア州選出の民主党下院議員を務めたジェイソン・アルトマイア氏は大統領選でクリントン候補が大勝するとした上で、TPPに関しては「『大統領になっても反対する』と言い切った以上、また『考えを変えた』という訳にはいかない」と述べ、TPPが当面発効しない、との見通しを語った。

当のクリントン氏はオバマ政権の第一期、国務長官としてTPPを後押しした。TPP反対票の取り込みを多分に意識した方針変更と思うが、選挙が終わって再び元の考えに戻るのは「有権者に対する背信」となり、直ちに動くのは不可能な話だ。

一部にオバマ大統領の任期切れとなる来年1月までに、米議会が批准する可能性に期待する向きもあるようだが、民主、共和両党の大統領候補がともに反対したTPPの批准に米議会が迅速に動くことが果たして可能かー。仮にそうした可能性がなくなれば、参加各国にとって米国の対応は「無責任」ということになり、TPPを主導してきた米国の威信に傷がつく。

TPPは計12カ国による包括的な経済連携協定。シンガポール、チリなど4カ国が始めた自由貿易協定に目を向けた米国が新たな太平洋市場構築に向け7年間にわたり各国を主導し、各国の承認手続きが2年以内に終わった段階で発行する段階まで来ている。安倍首相が開会中の臨時国会での批准を目指すのは、日本政府だけでなく国会もTPPに前向きであるとの強いメッセージを米国に送る狙いがあるようだ。

TPPに対する大統領選でのクリントン発言を振り返ると、当初は米国民の雇用創出、賃金上昇、国家安全保障の強化につながる協定である必要があると指摘した上で、「現時点で把握している内容は好ましくない」と述べていた。労働者層や貧困層を意識した選挙対策であり当選した場合は内容を多少、見直した上で前に進める考え、と理解する向きが多かった。

しかしその後、民主党の大統領候補を最後まで争ったサンダース上院議員のTPP反対意見、さらに大統領選では強硬にTPPからの離脱を主張するトランプ候補の前に「選挙の前後を問わずTPPには反対する」、「大統領になってもTPPには反対する」と言い切り、自ら退路を断った。

日本財団と英国王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)が共催した第4回日英グローバルセミナー(10月12日、東京)のセッションでもTPPが取り上げられ、出席者から「TPPはアジアの主要なパートナーの関係を強化する上でも必要。そうでなければ台頭する中国の前に米国のヘゲモニーは低下することになる」といった指摘とともに、「政治家は選挙の前と後では言うことが違う」とクリントン候補が大統領に当選した場合は態度を変える、といった楽観論の一方で、仮に「大統領になってTPPをサポートしないのであれば米議会でTPPが通る可能性は50%を切り、発効も数年先になる」といった見方も出ていた。

米国は一時に比べ陰りが出てきたとはいえ依然として世界の覇権国であり、その大統領となれば世界のリーダーである。クリントン候補がトランプ候補を破り45代米国大統領に就任すれば、各国は同じ民主党の大統領としてオバマ路線の骨格を基本的に継承すると見る。そうした継続性があってこそ各国は米国を信用し、その信用の上に米国の威信は成り立っている。

TPPは中国が主導する国際開発金融機関・アジアインフラ投資銀行(AIIB)との関係を含めアジア太平洋地域でどのような経済秩序を目指すのか、米国にとっても極めて大きなテーマである。大統領を決めるのは有権者であり、その動向を無視して当選は有り得ないとしても、リーダーとしての国民を引っ張って行く覚悟も必要ではないか。納得のゆく説明がないままTPP問題を放置すれば国際社会の信用は落ちる。

今回の大統領選は何でもありの中傷合戦が続き、「史上最低の選挙」との声も聞かれる。パネル講演会には現在、米国議員経験者協会(FMC)の会長を務めるクリフ・スターンズ氏も講演者として出席。1989年から12期24年間にわたりフロリダ州選出の共和党連邦下院議員を務めた同氏は、モデレーター役の慶応大総合政策学部・中山俊宏教授の質問に対し「現状維持には満足できない中産階級の怒りが、伝統的な候補を支持しない結果につながった。トランプ候補は信頼の置ける候補ではない」と述べた。
 
史上最低の選挙になったのはネガティブキャンペーンで互いの信用が地に落ちるまで攻撃し合う米国大統領選の欠陥なのか、ヒラリー、トランプ両候補の資質に問題があるのか、世界が内向き志向を強め、米国の指導力が試される時期だけに、TPPに関しては世界を納得させる政策論争こそ必要だった。

トランプ候補の常軌を逸した言動、クリントン候補の変わり身の早さなど、さまざまな問題があるが、米国の国内事情ばかりを優先させたのでは覇権国としての威信は保てない。加えて今回の選挙では大統領の威信そのものにも傷がついた。米国は大統領選挙の在り方を改めて見つめ直す時期に来ているような気がする。(了)
福島の甲状腺がん、原因は何なのか? [2016年09月30日(Fri)]

現状を踏まえた分かりやすい議論を
放射線の影響、過剰診断説が交錯


福島で出ている甲状腺がんの原因は何なのかー。9月26、27の両日、「福島における甲状腺課題の解決に向けて」をテーマに内外の専門家、研究者を集め開催された第5回福島国際専門家会議(主催:日本財団)を聞いて、素人の筆者には分からない点がいくつかあった。当の被災者も現状を理解できないまま不安が増幅する結果になっているのではないか。いまさら繰り返すまでもないが、分かりやすい言葉で分かりやすい議論を求めたい。

国際専門家会議は甲状腺課題の解決に向け、事故発生から30年を経たチェルノブイリの教訓を事故5年目の福島に生かすのがテーマで、世界保健機関(WHO)や原子力放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)、国際原子力機関(IAEA)の専門家、ロシア、ウクライナ、ベラルーシ、さらに長崎大学や福島県立医科大の研究者ら24人が参加、フロアにも150人を超す専門家や研究者が詰め掛けた。

まず放射線と甲状腺がんの関係。原発事故に伴って放出された放射能と自然界に常在する放射能、さらに医療現場のレントゲン撮影などで受ける放射能に何ら違いはなく、甲状腺がんは原発事故がなくとも小さい割合ながら発生するという。となるとチェルノブイリ、福島とも事故後の甲状腺がんの発生率に有意な上昇があったか否かが事故の影響を占うポイントとなる。

この点についてチェルノブイリ関係では「6000人が甲状腺手術を受け、これまでに15人が亡くなった」などのデータがあるようだが、広大な被災地域全体を網羅したトータルなデータはないようだ。一方、福島に関しては18歳未満を対象にした福島県立医科大の2回にわたる県民健康調査の結果、4000人を超す人が2次検査の対象となり、さらに細胞診の結果、173人が「悪性ないし悪性疑い」と診断され、134人が甲状腺手術を受けたとされている。

しかしチェルノブイリ、福島とも比較対象となる事故前の発症率に関するデータはなく、県民調査結果をどう見るか、幅広い論争が起きる結果となっている。この点に関する専門家会議の見解は、チェルノブイリ事故では放出された放射線量が高く、小児が一定期間、汚染された牛乳を飲み続けた経過もあって甲状腺がんの発症率の上昇が認められるが、福島の場合は放出線量がわずかで疫学的にも有意差が認められるような発症率の上昇は考えにくい、とする点で、ほぼ一致しているようだ。

それでは福島の数字をどう説明するか、ここで登場するのが“過剰診断”説。小児甲状腺がんの診断は、極めて精度の高い超音波スクリーニング検査で行われており、がんではない小さな結節をがんと見る偽陽性や過剰判断が結果に反映している(スクリーニング効果)といった内容のようで、専門家会議でも韓国の学者から、4ヶ所の原子力発電所の周辺住民を対象に実施した健康調査の結果として同様の見解が示された。

あくまで事故で放出された放射線の影響とする見解と相容れないことになり、専門家会議でもフロアの学者から強い批判意見が出された。「のう胞」や「結節」、さらにそのサイズによる判定など、残念ながら素人の立場には理解し難い内容が多く、Webを検索しても、双方の意見が激しく戦わされている現状は理解できても、どちらが多数説なのかもよく分からない。

もう一点、素人なりに注目したのは、大半の甲状腺がんは進行速度が遅く良性で、前立腺がんなど同様、手術をすることなく一生を終える人も多いとい言われる点。県民調査の結果に関しても、手術を受けた134人中133人は悪性度の低い乳頭がん、残る1人も良性結節だったと報告された。

ということは直ちに手術する必要はなく、成人になるまで様子を見る選択肢もあったということなのだろうか。手術では甲状腺を全部、あるいは半分ほど摘出し、予後に特段のマイナス影響はないそうだが、必要がないのなら体にメスなど入れない方がいいし、手術は過剰治療ということにもなりかねない。

もっとも関係者によると甲状腺がんには稀に悪性度が高い未分化型のがんも含まれており、悪性ではないという保証がない以上、患者が希望すれば手術に踏み切らざるを得ないといった事情もあるという。

こうした話を聞くにつれ、あらためて甲状腺課題の解決の難しさを実感する。大半の被災者は素人であり、何らかの決断を迫られることになれば未知なる放射線に対する恐怖が先行する。まして小児甲状腺がんの場合、決断するのは親であり、子どもの将来に対する危険を少しでも除去するためにも過剰治療に傾きやすい。

原子力発電所の是非をめぐっても、とかくこの世界の議論は賛否両論が二極化する傾向にある。もっと現実を踏まえた中間的な議論があっていいように思う。その中でどこまでが客観的事実であり、どこが推論・意見であるのか、立場を越えた分かりやすい議論こそ、求められている気がする。(了)
急がれるユニバーサルデザイン・タクシーの普及 [2016年08月22日(Mon)]

「高齢者、障害者向け」の誤解解消が急務
新しい顧客、開拓の可能性も


 先ごろユニバーサルデザイン(UD)タクシーに初めて乗った。広い車内にはスロープも収納され、これならタクシー利用が難しい車椅子使用者らも十分、利用可能と理解した。 人口高齢化が進む中、高齢者や障害者の“足”を確保し、社会参加の機会を増やすためにもタクシーのUD化は急ぐ必要がある。

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鳥取市に配備されたUDタクシー、車椅子用のスロープなど多彩な機能が備えられている

 現在、国内で営業運転されるタクシーは法人、個人を合わせ約24万台。国は東京五輪・パラリンピックが開かれる2020年までにUDタクシーを含めた福祉タクシーを1割強の2万8000台まで増やす方針を決め、新規購入する事業者に対する補助金制度をスタートさせているが、一方で人口減少が続く地方、とりわけ中山間地では採算が取れないまま撤退するタクシー業者も増え、高齢者や障害者が足を失う結果にもなっている。

 UD化によって新しいタクシー利用客が増え、タクシー業界の経営基盤が強化されるのが望ましいが、UD車は従来のセダン型タクシーに比べ価格が100万円ほど高く、全国ハイヤー・タクシー連合会などによると、タクシーの新車切り替えは「走行距離50万`b、10年間使用」を目途としており、直ちにUD化に踏み切れない事情もあるようだ。

いずれにしてもUD化を促進するには、UDタクシーに対する一般客の需要を高めるのが先決。幸い料金は一般のタクシーと同一で、従来のセダン型と違い、ワゴンタイプの車内は天井も高く、乗り降りの際にドアの開閉に合わせて動くステップも含め、誰にとっても使い勝手はいい。シートも自由に移動でき、中にゆとりがある分、ベビーカー使用の親子連れや妊娠中の女性などにも便利で、大きな荷物を持った外国人観光客にも歓迎されよう。こうしたUDタクシーの利点が広く認識されれば、利用者のニーズも自ずと高まり、UD化の促進に弾みがつくはずだ。

しかし現状は、多くの利用者に「UD車は障害者、高齢者向け」といった誤解、勘違いがあり、UD車の利点が認識されているとは、とても言えない。全国で営業運転されているUDタクシーは昨年3月末現在、690台と少なく、UD車の存在そのものが知られていないのが一因で、今後、「誰もが便利に利用できるUD車」をどこまで広げていくかタクシー業界の課題となる。

法人、個人合わせ4万5000台のタクシーが走る東京都は今年1月、五輪開催時までに、うち1万台のUD化を目指し、新規購入事業者に1台当たり60万円を補助する新制度を発足させた。

鳥取県では、同県と共同して日本一のボランティア先進県づくりに取り組む日本財団が3年間で200台のUDタクシーを鳥取県内に配備することに決め、第一弾の14台が先ごろ鳥取市内で営業を開始した。筆者が乗車体験をしたのは、このうちの1台で、配備が一段落する3年後には、鳥取県内を走るタクシー約800台の4分の1がUDタクシーとなり、「鳥取モデル」として注目されている。

2006年にはバリアフリー新法(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)も施行されており、こうした動きを追い風にUD化を加速すれば、タクシー業界の新しい姿が見えてくる可能性もある。関係者によると、UD車は現在、日産車が中心だが、トヨタなど他メーカーも開発を急ぎ、今後のタクシー車両はUD仕様が基本といった事情もある。

しかし業界関係者によると、それでも国内のタクシーのUD化が完了するのは10年以上先になるという。売り上げが低迷する中、仮に公的補助があったとしても、UD車への切り替えには1台当たり200万円以上の投資が必要で、「50万`、10年」に満たない車をUD車に切り替えるのは、それほど簡単ではない、というのだ。

タクシー業界は高度成長期、近距離客の乗車拒否などが問題となった。以後、さまざまな改善策がとられたが、経営環境は厳しさを増している。UD化は、業界の体質を改善する一つの好機と思う。高齢化社会の中の新しい「国民の足」として、社会の中での立ち位置が変わる可能性さえある。

英国ロンドンでは既に「タクシーと言えばUDタクシーが当たり前」の状態になっており、UD化は世界の趨勢でもある。そのためにも、まずは「UD車は高齢者・障害者の優先車」といった誤解を解く必要がある。(了)
熊本城の石垣の痛み、白河小峰城の10倍超 [2016年07月25日(Mon)]

7割は国庫負担、新たな城作りより難作業
技術保存も視野に腰据えた修復工事を


 熊本のシンボル、県民の精神的支柱である熊本城の地震被害は、城の象徴である石垣に限っても表面積の3割に広がり、東日本大震災(2011年)で同様に石垣が崩落した白河小峰城(福島県白河市)の10倍を超す。ともに国の特別史跡に指定されており、修復作業は石を当時の手法で一つ一つ元の場所に積み直し、破損した石は新しい石材を調達して元の形に加工する必要があり、新たな石垣を作るより難しい。

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いたるところで石垣が崩落した熊本城

小峰城の場合は修復作業終了までに6年の期間が必要とされ、熊本城はこのほか櫓など建造物の痛みも激しく、詳しい内部の調査はまだ手つかずの状態。工事が始まれば急ピッチで修復が進むと期待するが、全国的な城ブームの中で匠やその技をどう保存・伝承していくかといった別の課題もある。腰を据えた修復作業こそ必要と考える。

熊本城の石垣の総表面積は7万9000平方メートル。計53ヵ所で崩落が発生し、うち約1割は完全に崩落、約2割は部分的な崩落や石と石の間の空き、膨らみが生じ、積み直しが必要な表面積は全体で2万3600平方メートルに上る。文化庁の試算による石垣の修復費用は1平方メートル当たり150万円、全体で354億円。災害復旧事業の上乗せで7割は国庫負担となる。

4月時点の現地調査を基にしており、その後の余震や激しい雨でさらに被害が拡大している可能性があるほか、国指定の重要文化財となっている13の櫓や門のうち慶長12年(1607年)に完成した東十八間櫓など5つの重要文化財が全壊、天守など昭和以降に再建・復元された20の建造物を含め、すべての建物に大きな被害が出ており、崩落した瓦の確保も大きな課題となる。

7月中旬、城の再建を支援する日本財団のメンバーと共に、熊本城総合事務所の河田日出男所長らに城内を案内していただいた。宇土櫓(重要文化財)前の通路や天守の入り口は崩れた石垣の巨石で埋まり、かろうじて倒壊を免れた建造物も壁の剥落など痛みがひどい。石垣が大きく崩れ、わずかに「隅石」と呼ばれる角の石に支えられ倒壊を免れている「飯田丸五階櫓」の前では、倒壊を防ぐためのアーム状の鉄骨の組み立て作業が行われていた。

修復作業は「各建造物内部の破損状況を調べ、危険な石垣の上にある建造物を移動、石垣を積み直した後、元の位置に戻す。その上で残された部材を最大限に活用して建造物を元の状態に復元させる」(河田所長)というのが大筋の手順。肝心の石垣に関しては、小峰城の修復作業の進捗状況にも注目している。

当の小峰城は東日本大震災で全長約2キロの石垣の10ヵ所、表面積で1600平方メートルが崩落、膨らみなどが出た4ヵ所も含め修復工事が進められている。修復対象は全体で2000平方メートル前後、熊本城の10分の1以下と見られるが、それでも2013年に始まった修復工事が終わるのは2018年の見通しだ。

地元の建設会社と共同企業体を組み工事に当たる鹿島建設がWebに掲載している「小峰城跡石垣復旧工事」によると、工事ではまず崩落した石をクレーンで移動して一つ一つ番号を振って写真撮影、破損した石は新しい石材を確保して元の形に加工し、崩落前の写真などと照合しながら施工図を作成。これを基に石を仮積みした後、大きな石のすき間に「飼石」を入れて固定し、裏側に水はけをよくするための「裏込石」を敷き詰め、さらに裏込石と壁面の間を盛土で突き固めるのだという。

専門的なことは分からないが、大変な作業で、大型重機など近代機器を活用するとしても、最後は専門技術、知識を持った石工の技が欠かせない。このあたりについて河田所長は「破損した石の代わりは地元で調達できるが、石を加工し積み直す専門的な職人さんを確保するのは容易ではない。全体の修復が終わるのは10年、20年、あるいはそれ以上先になるかもしれない」と語っている。

熊本市は文化庁とも協議の上、この夏にも、修復に向けた大筋のロードマップをまとめる考えという。まずは、その内容に注目したい。(了)
中国にどんな意図・思惑が? [2016年06月24日(Fri)]
南シナ海問題も議論の対象に
笹川平和財団に第2の日中対話


 日本財団の姉妹財団・笹川平和財団(SPF)に6月21日、新たな「日中対話:東アジアの海洋問題への協調的取り組みを目指して」がスタートした。SPFでは既に2013年から東シナ海の安全環境を海、空両面から議論する「日中東シナ海安全対話」が活動しており、2つの対話が並行して進められることになる。

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21日に初開催された日中対話=笹川平和財団会議室

 新対話は、SPFに対する程永華・駐日中国大使の“打診”がきっかけになったとされ、翌22日行われた記者発表では、フィリピンが中国を相手取って起こし、近く国際仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)の裁定が出される予定の「南シナ海問題」も第一回対話で取り上げられた。

この問題で中国は「仲裁裁判所に管轄権はない」として無視する姿勢を打ち出しているが、日本は2000年にオーストラリアとニュージーランドの間で争われた「みなみマグロ事件」で中国と同様、仲裁裁判所の管轄権を否定しながらも、当事者として仲裁裁判所の審理には参加しており、こうした日中の対応の違いについて意見が交わされた模様だ。

南シナ海問題で中国はこれまで一貫して「当事国による解決」を主張し、頑なに第3国の干渉を拒否してきており、先行の日中東シナ海安全対話でも、南シナ海問題が議論の対象になることはなかった。民間レベルとは言え、中国側の今回の対応にどのような意図・思惑があるのか、今後の成り行きが注目される。

ちなみに新対話のパートナーは「中国南海研究院」。先行の「日中東シナ海安全対話」は「中国南海研究協同創新センター」。いずれも海に関する政府系のシンクタンクで、対話の中国側責任者は前者が呉士存・研究院院長、後者はセンターの朱鋒・センター執行主任。SPF側の受け皿も前者が「笹川平和財団海洋政策研究所」、後者が「笹川日中友好基金事業室」と異なり、事前に双方で調整の結果、2つの対話を並行して進めることになったと見られる。

メンバーは日本側7人、中国側6人の学者・研究者からなり、初の対話は「海洋への取り組み」、「海洋環境の保全」、「海洋資源の管理」、「海洋の安全保障と外交」、「協調的取り組みを目指して」の5つのセッションで意見を交換。寺島紘士・海洋政策研究所長は「双方が今後の協調的取り組みの方向を探ることで一致した」として、引き続き対話を継続する考えを明らかにした。

これに対し呉院長は「双方でナショナリズムが高揚しており、何かのきっかけで事故や衝突が発生すると深刻な状況を招きかねない。トラック2の学術交流を通じ危機をコントロールするメカニズム、ルールを構築する必要がある」、「そのためにも相互信頼の構築に向け信頼できる外部環境を作っていく必要がある」、「東海(東シナ海)は日本にとっても中国にとっても共通の海のふる里。双方の協力を強化する必要がある」などと語った。

ともに将来に向けた日中両国の協力を語っており違和感はない。ただし発表後、会場から出た仲裁手続きに対する質問に対し中国側は、仲裁裁判所に管轄権がないとする従来の姿勢を説明するにとどまり、新しい「何か」をうかがわせる言質はなかった。対話が今後、どう進むのか、期待を込めて見守りたい。(了)
5年後に向けどう動く「フジモリ家」 [2016年06月13日(Mon)]

「負の遺産」解消 対立関係の融和こそ
戦術面でケイコ、ケンジ姉弟に確執?


ペルー大統領選に挑んだアルベルト・フジモリ元大統領の長女ケイコ氏が、前回2011年の大統領選に続き再び決選投票で涙を飲んだ。7月に大統領に就任する元首相のペドロ・クチンスキー氏とは極めて僅差。定数130の国会(一院制)で73議席を占める「人民勢力党」の党首でもあり、41歳の年齢からいっても当然、5年後の大統領選で雪辱を期すことになるのではないか。

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「政治」を語るフジモリ・ケイコ氏、2011年6月リマの自宅で

そのためにも国を2分する「フジモリ」対「反フジモリ」の対立構造、フジモリ元大統領への抵抗感をどう解消していくかが、今後の課題となる。その中で一つ気になる点がある。一連の現地電によると、弟で国会議員でもあるケンジ氏は「ケイコが敗れた場合、2021年の次期大統領選には自分が立候補する」と語るとともに決選投票での投票を見送ったというのだ。

背景には、今回の選挙で「父の時代には誤りもあった」と、とかくマイナスイメージが強い父親と距離を置く戦術をとったケイコ氏との間に確執があったとも報じられている。少数与党のクチンスキー氏は当選確定後、「団結と対話」を訴え、2010年1月に最高裁刑事法廷で禁固25年の有罪が確定、服役中の元大統領について、議会の承認を条件に自宅軟禁に切り替えることも可能との考えを示している。

報道以上に姉弟の関係を知る材料はないが、既に77歳、舌部の腫瘍も抱える父親の処遇も含め二人がクチンスキー氏の提案や今後の国内融和をどう考えるのか、是非、聞きたい気がする。

元大統領は2000年末から約5年間、日本で亡命生活を送った。一時期、曽野綾子日本財団会長(当時)宅の食客となるなど日本財団と交流があり、2011年の大統領選直後、尾形武寿理事長がケイコ氏を自宅に、元大統領を服役先の軍警察施設に訪ねた際、同席したことがある。

この時、ケイコ氏は「(敗れたとはいえ)結果には誇りを持っている」、「過去、第2戦(決選投票)に進んだ政治家は全員、大統領になっている」と5年後の大統領選に並々ならぬ意欲を語った。

また元大統領は「政治的発言は禁じられている」としながらも、「(有罪を認める結果になる)恩赦は受けない」と言葉少なに語るとともに、「ケイコとケンジには誇りと期待を持っている」などと述べた。

あくまでその場の印象だが、元大統領の断片的な言葉の中に、ケンジ氏の将来により大きな期待を持っている感じも受けた。ケイコ氏は1994年の両親離婚後、母に代わってファーストレディ役を務め、国民から見れば、その分、元大統領のイメージが強い。負けたケイコ氏よりケンジ氏の方が次の大統領選を戦いやすい、という判断かと勝手に推測した記憶がある。

クチンスキー氏は前回大統領選の第1回投票で3位となり、決選投票ではケイコ氏を支持している。ともに自由貿易を推進する中道右派の立場にあり、決選投票では政策よりもフジモリ元大統領の功罪が争点となった。フジモリ派には元大統領が進めた強硬策も「あの時代はテロの撲滅を最優先しなければならなかった」と肯定的に見る向きが強い。

しかし今回の選挙では、フジモリ元大統領の評価を軸にした政局に対する若者の抵抗感も強かったと聞く。「負の遺産」を解消するには、対立構造の融和こそ欠かせない。クチンスキー新大統領の下、「フジモリ家」がどう動くのか、興味を持って見守りたいと思う。(了)
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