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四季折々の雑記

 05年夏まで在籍したマスコミの世界は極力、主観を排した客観報道を原則とした。しかし真の意味で「客観」を実現するのは報道の現場に限らず難しい。ブログと言うには程遠いが、忘れない程度に自分の想い、時に意見をささやかに書いていくつもりです。


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クリントンとともに敗れた米国メディア [2016年11月17日(Thu)]

米大統領選に見る影響力の低下
ヒラリー大勝利は“蜃気楼”の事前指摘も

米大統領選で不動産王ドナルド・トランプ氏が勝利した。「何でもあり」の大統領選、さらに暴言・不規則発言を重ねたトランプ氏の当選に正直、驚いた。加えて米国の有力100紙の過半がヒラリー・クリントン氏を支持しながら、「トランプ大統領」の誕生を阻止できなかった事実を前にすると、米国社会での伝統的なメディアの影響力の低下を再確認させられた気もする。「クリントン氏とともにメディアもトランプ氏に敗れた」ということである。

各種報道によると、今回の大統領選では米国の有力紙100社のうち57紙がクリントン支持を打ち出し、トランプ支持はわずかに2紙に留まった。ニューヨークタイムスやワシントンポストなど多くが、人種、女性問題などで過激な発言を繰り返すトランプ氏を批判し、「陰謀」、「うそ」と逆襲するトランプ氏と対立した。

日米のメディアは同じ客観報道の立場を取る。しかし事実を報ずる一般ニュース記事はともかく、社説・論評では、米国の新聞が社の姿勢、意見を明確に打ち出すのに対し、日本の新聞は最近でこそ原発や憲法改正などで社論を明確にする姿勢を強めているが、選挙で米国のように特定の候補の支持を明確に打ち出すことはない。

同時に、大多数の新聞やテレビにあれだけ激しく批判された候補者が当選することも、まず有り得ない。一連の女性蔑視発言を例にとれば「トランプは孤立している」、「女性蔑視発言で婦人や若者の票を完全に失った」といった報道が相次いだが、CNNの出口調査によると白人女性の53%がトランプ氏に投票したと報じられており、報道内容と結果には大きな開きがある。

米国民のニュースの取得先は新聞が20%、テレビ57%、インターネット38%といった調査結果もあるようだ。この数字に従うと5人に一人しか新聞を読んでいない、ということにもなり、新聞論調の内容云々より言論機関としての影響力そのものが大幅に落ち込んでいる、ということにもなる。新聞のトランプ氏批判よりも、SNSなどを通じトランプ氏のメディア批判を読んでいた有権者の方が多かった可能性さえある。

新聞やテレビの世論調査も適格性を欠いた。確かにクリントン氏の得票率は50・08%と過半数を超え、この点で最終的にクリントン氏が1〜2%有利とした世論調査の数字は、それなりに正確だったようにも見える。しかし現実にはトランプ氏が接戦州のほぼ全てを制し、最終選挙人獲得数で70人以上の大差をつけ勝利した。

クリントン氏は私用メール問題で連邦捜査局(FBI)が再捜査を決定したことで「勢いを止められた」と最大の敗因に挙げている。影響があったのは否定できないが、コミーFBI長官は投票日2日前に「訴追見送り」を明らかにしており、再捜査の事実だけで、これだけの大差はつくとは説明しにくい。もともと、クリントン氏優勢を裏付けるような客観状勢がなかった可能性もある。

クリントン氏にはトランプ氏の「偉大なアメリカの復活」に対抗する分かりやすいキャッチフレーズがなかった、あるいはワシントン政界の生活が長く“新味”に欠けた点なども敗因のひとつであろう。従来の大統領選で投票率が低かった白人低所得者層の投票率が大幅にアップした、事前の世論調査では明らかにならなかった“隠れトランプ支持派”が予想以上に多かった、ヒスパニック系のトランプ支持率が予測より高かったーなどの点も指摘されている。

詳しくは専門家の分析を待つとして、トランプ氏勝利の選挙結果を前に気になっている記事がある。元NHKアメリカ総局長を務めた日高義樹ハドソン研究所主席研究員が投票日前の11月1日発売の月刊誌「リベラルタイム」のコラム「THE POWER of U.S.A」に掲載した「マスコミが作り上げた『ヒラリー大勝利』」の一文だ。

日高氏はこの中で「アメリカのマスコミは、ヒラリー・クリントンを何としてもホワイトハウスに送り込まなければならないと考えているウォール街やアメリカ企業等の強い影響の下にある」と指摘した上で「アメリカ中に広がっている『ヒラリー・クリントン大勝利』というイメージは、いわば蜃気楼である。その蜃気楼に映っている幻影は、アメリカのリベラルなマスコミがつくり上げたものだと私は考えている」と言っている。

読み方はいろいろあろうが、記事は同誌の締め切りから、大統領選投票(11月8日)の3週間ほど前に書かれたとみられ、当時の報道は、クリントン楽勝が圧倒的だった。ちなみに前回10月31日付のマイブログの拙稿「TPPにみる米大統領選の“無責任”」でも、見出しの1本に「元下院議員はクリントン氏大勝の予測」を立てた。既に私用メール問題の再捜査が明らかになっていたが、マイナス影響があったとしてもクリントン候補の優位は動かないとの判断で、日本財団の姉妹団体・笹川平和財団のシンポジウムでの元民主党下院議員の発言をそのまま見出しにした。そうした経過もあるだけに、日高氏の記事が余計、印象に残っている。

今回の大統領選報道が何故これほど外れたのか。事前の世論調査一つを取っても、固定電話所有者を主な調査対象とする日米のメディアの調査方法には限界があり、調査に応じる有権者の減少など問題も多い。新聞やテレビが影響力を取り戻す方策は有り得るのか、さらにこれほど激しく敵対したメディアとトランプ新大統領の関係はどうなるのか、新大統領の政策、国際社会への影響を含め注目したい。(了)

TPPにみる米大統領選の“無責任” [2016年10月31日(Mon)]

元下院議員はクリントン氏大勝の予測
覇権国としての威信 どう取り戻す?


安倍首相が開会中の臨時国会での承認を目指すTPP(環太平洋経済連携協定)の帰趨が、米大統領選も絡み不透明になっている。共和党のドナルド・トランプ候補は「大統領就任当日に離脱を表明する」と一貫してTPP反対を打ち出し、当初、一定の修正を加えた上で推進すると見られたヒラリー・クリントン候補もその後、反対の姿勢を明確にしているからだ。

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    パネル講演会で意見を交わす左からジェイソン・アルトマイア、クリフ・スターンズ
    中山俊宏の3氏。笹川平和財団提供。

大統領選は投票日(11月8日)直前になってクリントン候補が国務長官在任中に公務で私用アドレスを使ったメール問題で連邦捜査局(FBI)が捜査を再開する新たな動きも出ているが、各種世論調査結果から見て同候補の優位は動かないのではないか。しかしクリントン候補が当選してもTPPに関しては容易に動けまい。

10月25日、東京都内で開催された笹川平和財団主催のパネル講演会「2016米国大統領選挙と民主主義」で2007年から3期6年間、ペンシルバニア州選出の民主党下院議員を務めたジェイソン・アルトマイア氏は大統領選でクリントン候補が大勝するとした上で、TPPに関しては「『大統領になっても反対する』と言い切った以上、また『考えを変えた』という訳にはいかない」と述べ、TPPが当面発効しない、との見通しを語った。

当のクリントン氏はオバマ政権の第一期、国務長官としてTPPを後押しした。TPP反対票の取り込みを多分に意識した方針変更と思うが、選挙が終わって再び元の考えに戻るのは「有権者に対する背信」となり、直ちに動くのは不可能な話だ。

一部にオバマ大統領の任期切れとなる来年1月までに、米議会が批准する可能性に期待する向きもあるようだが、民主、共和両党の大統領候補がともに反対したTPPの批准に米議会が迅速に動くことが果たして可能かー。仮にそうした可能性がなくなれば、参加各国にとって米国の対応は「無責任」ということになり、TPPを主導してきた米国の威信に傷がつく。

TPPは計12カ国による包括的な経済連携協定。シンガポール、チリなど4カ国が始めた自由貿易協定に目を向けた米国が新たな太平洋市場構築に向け7年間にわたり各国を主導し、各国の承認手続きが2年以内に終わった段階で発行する段階まで来ている。安倍首相が開会中の臨時国会での批准を目指すのは、日本政府だけでなく国会もTPPに前向きであるとの強いメッセージを米国に送る狙いがあるようだ。

TPPに対する大統領選でのクリントン発言を振り返ると、当初は米国民の雇用創出、賃金上昇、国家安全保障の強化につながる協定である必要があると指摘した上で、「現時点で把握している内容は好ましくない」と述べていた。労働者層や貧困層を意識した選挙対策であり当選した場合は内容を多少、見直した上で前に進める考え、と理解する向きが多かった。

しかしその後、民主党の大統領候補を最後まで争ったサンダース上院議員のTPP反対意見、さらに大統領選では強硬にTPPからの離脱を主張するトランプ候補の前に「選挙の前後を問わずTPPには反対する」、「大統領になってもTPPには反対する」と言い切り、自ら退路を断った。

日本財団と英国王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)が共催した第4回日英グローバルセミナー(10月12日、東京)のセッションでもTPPが取り上げられ、出席者から「TPPはアジアの主要なパートナーの関係を強化する上でも必要。そうでなければ台頭する中国の前に米国のヘゲモニーは低下することになる」といった指摘とともに、「政治家は選挙の前と後では言うことが違う」とクリントン候補が大統領に当選した場合は態度を変える、といった楽観論の一方で、仮に「大統領になってTPPをサポートしないのであれば米議会でTPPが通る可能性は50%を切り、発効も数年先になる」といった見方も出ていた。

米国は一時に比べ陰りが出てきたとはいえ依然として世界の覇権国であり、その大統領となれば世界のリーダーである。クリントン候補がトランプ候補を破り45代米国大統領に就任すれば、各国は同じ民主党の大統領としてオバマ路線の骨格を基本的に継承すると見る。そうした継続性があってこそ各国は米国を信用し、その信用の上に米国の威信は成り立っている。

TPPは中国が主導する国際開発金融機関・アジアインフラ投資銀行(AIIB)との関係を含めアジア太平洋地域でどのような経済秩序を目指すのか、米国にとっても極めて大きなテーマである。大統領を決めるのは有権者であり、その動向を無視して当選は有り得ないとしても、リーダーとしての国民を引っ張って行く覚悟も必要ではないか。納得のゆく説明がないままTPP問題を放置すれば国際社会の信用は落ちる。

今回の大統領選は何でもありの中傷合戦が続き、「史上最低の選挙」との声も聞かれる。パネル講演会には現在、米国議員経験者協会(FMC)の会長を務めるクリフ・スターンズ氏も講演者として出席。1989年から12期24年間にわたりフロリダ州選出の共和党連邦下院議員を務めた同氏は、モデレーター役の慶応大総合政策学部・中山俊宏教授の質問に対し「現状維持には満足できない中産階級の怒りが、伝統的な候補を支持しない結果につながった。トランプ候補は信頼の置ける候補ではない」と述べた。
 
史上最低の選挙になったのはネガティブキャンペーンで互いの信用が地に落ちるまで攻撃し合う米国大統領選の欠陥なのか、ヒラリー、トランプ両候補の資質に問題があるのか、世界が内向き志向を強め、米国の指導力が試される時期だけに、TPPに関しては世界を納得させる政策論争こそ必要だった。

トランプ候補の常軌を逸した言動、クリントン候補の変わり身の早さなど、さまざまな問題があるが、米国の国内事情ばかりを優先させたのでは覇権国としての威信は保てない。加えて今回の選挙では大統領の威信そのものにも傷がついた。米国は大統領選挙の在り方を改めて見つめ直す時期に来ているような気がする。(了)
福島の甲状腺がん、原因は何なのか? [2016年09月30日(Fri)]

現状を踏まえた分かりやすい議論を
放射線の影響、過剰診断説が交錯


福島で出ている甲状腺がんの原因は何なのかー。9月26、27の両日、「福島における甲状腺課題の解決に向けて」をテーマに内外の専門家、研究者を集め開催された第5回福島国際専門家会議(主催:日本財団)を聞いて、素人の筆者には分からない点がいくつかあった。当の被災者も現状を理解できないまま不安が増幅する結果になっているのではないか。いまさら繰り返すまでもないが、分かりやすい言葉で分かりやすい議論を求めたい。

国際専門家会議は甲状腺課題の解決に向け、事故発生から30年を経たチェルノブイリの教訓を事故5年目の福島に生かすのがテーマで、世界保健機関(WHO)や原子力放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)、国際原子力機関(IAEA)の専門家、ロシア、ウクライナ、ベラルーシ、さらに長崎大学や福島県立医科大の研究者ら24人が参加、フロアにも150人を超す専門家や研究者が詰め掛けた。

まず放射線と甲状腺がんの関係。原発事故に伴って放出された放射能と自然界に常在する放射能、さらに医療現場のレントゲン撮影などで受ける放射能に何ら違いはなく、甲状腺がんは原発事故がなくとも小さい割合ながら発生するという。となるとチェルノブイリ、福島とも事故後の甲状腺がんの発生率に有意な上昇があったか否かが事故の影響を占うポイントとなる。

この点についてチェルノブイリ関係では「6000人が甲状腺手術を受け、これまでに15人が亡くなった」などのデータがあるようだが、広大な被災地域全体を網羅したトータルなデータはないようだ。一方、福島に関しては18歳未満を対象にした福島県立医科大の2回にわたる県民健康調査の結果、4000人を超す人が2次検査の対象となり、さらに細胞診の結果、173人が「悪性ないし悪性疑い」と診断され、134人が甲状腺手術を受けたとされている。

しかしチェルノブイリ、福島とも比較対象となる事故前の発症率に関するデータはなく、県民調査結果をどう見るか、幅広い論争が起きる結果となっている。この点に関する専門家会議の見解は、チェルノブイリ事故では放出された放射線量が高く、小児が一定期間、汚染された牛乳を飲み続けた経過もあって甲状腺がんの発症率の上昇が認められるが、福島の場合は放出線量がわずかで疫学的にも有意差が認められるような発症率の上昇は考えにくい、とする点で、ほぼ一致しているようだ。

それでは福島の数字をどう説明するか、ここで登場するのが“過剰診断”説。小児甲状腺がんの診断は、極めて精度の高い超音波スクリーニング検査で行われており、がんではない小さな結節をがんと見る偽陽性や過剰判断が結果に反映している(スクリーニング効果)といった内容のようで、専門家会議でも韓国の学者から、4ヶ所の原子力発電所の周辺住民を対象に実施した健康調査の結果として同様の見解が示された。

あくまで事故で放出された放射線の影響とする見解と相容れないことになり、専門家会議でもフロアの学者から強い批判意見が出された。「のう胞」や「結節」、さらにそのサイズによる判定など、残念ながら素人の立場には理解し難い内容が多く、Webを検索しても、双方の意見が激しく戦わされている現状は理解できても、どちらが多数説なのかもよく分からない。

もう一点、素人なりに注目したのは、大半の甲状腺がんは進行速度が遅く良性で、前立腺がんなど同様、手術をすることなく一生を終える人も多いとい言われる点。県民調査の結果に関しても、手術を受けた134人中133人は悪性度の低い乳頭がん、残る1人も良性結節だったと報告された。

ということは直ちに手術する必要はなく、成人になるまで様子を見る選択肢もあったということなのだろうか。手術では甲状腺を全部、あるいは半分ほど摘出し、予後に特段のマイナス影響はないそうだが、必要がないのなら体にメスなど入れない方がいいし、手術は過剰治療ということにもなりかねない。

もっとも関係者によると甲状腺がんには稀に悪性度が高い未分化型のがんも含まれており、悪性ではないという保証がない以上、患者が希望すれば手術に踏み切らざるを得ないといった事情もあるという。

こうした話を聞くにつれ、あらためて甲状腺課題の解決の難しさを実感する。大半の被災者は素人であり、何らかの決断を迫られることになれば未知なる放射線に対する恐怖が先行する。まして小児甲状腺がんの場合、決断するのは親であり、子どもの将来に対する危険を少しでも除去するためにも過剰治療に傾きやすい。

原子力発電所の是非をめぐっても、とかくこの世界の議論は賛否両論が二極化する傾向にある。もっと現実を踏まえた中間的な議論があっていいように思う。その中でどこまでが客観的事実であり、どこが推論・意見であるのか、立場を越えた分かりやすい議論こそ、求められている気がする。(了)
急がれるユニバーサルデザイン・タクシーの普及 [2016年08月22日(Mon)]

「高齢者、障害者向け」の誤解解消が急務
新しい顧客、開拓の可能性も


 先ごろユニバーサルデザイン(UD)タクシーに初めて乗った。広い車内にはスロープも収納され、これならタクシー利用が難しい車椅子使用者らも十分、利用可能と理解した。 人口高齢化が進む中、高齢者や障害者の“足”を確保し、社会参加の機会を増やすためにもタクシーのUD化は急ぐ必要がある。

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鳥取市に配備されたUDタクシー、車椅子用のスロープなど多彩な機能が備えられている

 現在、国内で営業運転されるタクシーは法人、個人を合わせ約24万台。国は東京五輪・パラリンピックが開かれる2020年までにUDタクシーを含めた福祉タクシーを1割強の2万8000台まで増やす方針を決め、新規購入する事業者に対する補助金制度をスタートさせているが、一方で人口減少が続く地方、とりわけ中山間地では採算が取れないまま撤退するタクシー業者も増え、高齢者や障害者が足を失う結果にもなっている。

 UD化によって新しいタクシー利用客が増え、タクシー業界の経営基盤が強化されるのが望ましいが、UD車は従来のセダン型タクシーに比べ価格が100万円ほど高く、全国ハイヤー・タクシー連合会などによると、タクシーの新車切り替えは「走行距離50万`b、10年間使用」を目途としており、直ちにUD化に踏み切れない事情もあるようだ。

いずれにしてもUD化を促進するには、UDタクシーに対する一般客の需要を高めるのが先決。幸い料金は一般のタクシーと同一で、従来のセダン型と違い、ワゴンタイプの車内は天井も高く、乗り降りの際にドアの開閉に合わせて動くステップも含め、誰にとっても使い勝手はいい。シートも自由に移動でき、中にゆとりがある分、ベビーカー使用の親子連れや妊娠中の女性などにも便利で、大きな荷物を持った外国人観光客にも歓迎されよう。こうしたUDタクシーの利点が広く認識されれば、利用者のニーズも自ずと高まり、UD化の促進に弾みがつくはずだ。

しかし現状は、多くの利用者に「UD車は障害者、高齢者向け」といった誤解、勘違いがあり、UD車の利点が認識されているとは、とても言えない。全国で営業運転されているUDタクシーは昨年3月末現在、690台と少なく、UD車の存在そのものが知られていないのが一因で、今後、「誰もが便利に利用できるUD車」をどこまで広げていくかタクシー業界の課題となる。

法人、個人合わせ4万5000台のタクシーが走る東京都は今年1月、五輪開催時までに、うち1万台のUD化を目指し、新規購入事業者に1台当たり60万円を補助する新制度を発足させた。

鳥取県では、同県と共同して日本一のボランティア先進県づくりに取り組む日本財団が3年間で200台のUDタクシーを鳥取県内に配備することに決め、第一弾の14台が先ごろ鳥取市内で営業を開始した。筆者が乗車体験をしたのは、このうちの1台で、配備が一段落する3年後には、鳥取県内を走るタクシー約800台の4分の1がUDタクシーとなり、「鳥取モデル」として注目されている。

2006年にはバリアフリー新法(高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律)も施行されており、こうした動きを追い風にUD化を加速すれば、タクシー業界の新しい姿が見えてくる可能性もある。関係者によると、UD車は現在、日産車が中心だが、トヨタなど他メーカーも開発を急ぎ、今後のタクシー車両はUD仕様が基本といった事情もある。

しかし業界関係者によると、それでも国内のタクシーのUD化が完了するのは10年以上先になるという。売り上げが低迷する中、仮に公的補助があったとしても、UD車への切り替えには1台当たり200万円以上の投資が必要で、「50万`、10年」に満たない車をUD車に切り替えるのは、それほど簡単ではない、というのだ。

タクシー業界は高度成長期、近距離客の乗車拒否などが問題となった。以後、さまざまな改善策がとられたが、経営環境は厳しさを増している。UD化は、業界の体質を改善する一つの好機と思う。高齢化社会の中の新しい「国民の足」として、社会の中での立ち位置が変わる可能性さえある。

英国ロンドンでは既に「タクシーと言えばUDタクシーが当たり前」の状態になっており、UD化は世界の趨勢でもある。そのためにも、まずは「UD車は高齢者・障害者の優先車」といった誤解を解く必要がある。(了)
熊本城の石垣の痛み、白河小峰城の10倍超 [2016年07月25日(Mon)]

7割は国庫負担、新たな城作りより難作業
技術保存も視野に腰据えた修復工事を


 熊本のシンボル、県民の精神的支柱である熊本城の地震被害は、城の象徴である石垣に限っても表面積の3割に広がり、東日本大震災(2011年)で同様に石垣が崩落した白河小峰城(福島県白河市)の10倍を超す。ともに国の特別史跡に指定されており、修復作業は石を当時の手法で一つ一つ元の場所に積み直し、破損した石は新しい石材を調達して元の形に加工する必要があり、新たな石垣を作るより難しい。

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いたるところで石垣が崩落した熊本城

小峰城の場合は修復作業終了までに6年の期間が必要とされ、熊本城はこのほか櫓など建造物の痛みも激しく、詳しい内部の調査はまだ手つかずの状態。工事が始まれば急ピッチで修復が進むと期待するが、全国的な城ブームの中で匠やその技をどう保存・伝承していくかといった別の課題もある。腰を据えた修復作業こそ必要と考える。

熊本城の石垣の総表面積は7万9000平方メートル。計53ヵ所で崩落が発生し、うち約1割は完全に崩落、約2割は部分的な崩落や石と石の間の空き、膨らみが生じ、積み直しが必要な表面積は全体で2万3600平方メートルに上る。文化庁の試算による石垣の修復費用は1平方メートル当たり150万円、全体で354億円。災害復旧事業の上乗せで7割は国庫負担となる。

4月時点の現地調査を基にしており、その後の余震や激しい雨でさらに被害が拡大している可能性があるほか、国指定の重要文化財となっている13の櫓や門のうち慶長12年(1607年)に完成した東十八間櫓など5つの重要文化財が全壊、天守など昭和以降に再建・復元された20の建造物を含め、すべての建物に大きな被害が出ており、崩落した瓦の確保も大きな課題となる。

7月中旬、城の再建を支援する日本財団のメンバーと共に、熊本城総合事務所の河田日出男所長らに城内を案内していただいた。宇土櫓(重要文化財)前の通路や天守の入り口は崩れた石垣の巨石で埋まり、かろうじて倒壊を免れた建造物も壁の剥落など痛みがひどい。石垣が大きく崩れ、わずかに「隅石」と呼ばれる角の石に支えられ倒壊を免れている「飯田丸五階櫓」の前では、倒壊を防ぐためのアーム状の鉄骨の組み立て作業が行われていた。

修復作業は「各建造物内部の破損状況を調べ、危険な石垣の上にある建造物を移動、石垣を積み直した後、元の位置に戻す。その上で残された部材を最大限に活用して建造物を元の状態に復元させる」(河田所長)というのが大筋の手順。肝心の石垣に関しては、小峰城の修復作業の進捗状況にも注目している。

当の小峰城は東日本大震災で全長約2キロの石垣の10ヵ所、表面積で1600平方メートルが崩落、膨らみなどが出た4ヵ所も含め修復工事が進められている。修復対象は全体で2000平方メートル前後、熊本城の10分の1以下と見られるが、それでも2013年に始まった修復工事が終わるのは2018年の見通しだ。

地元の建設会社と共同企業体を組み工事に当たる鹿島建設がWebに掲載している「小峰城跡石垣復旧工事」によると、工事ではまず崩落した石をクレーンで移動して一つ一つ番号を振って写真撮影、破損した石は新しい石材を確保して元の形に加工し、崩落前の写真などと照合しながら施工図を作成。これを基に石を仮積みした後、大きな石のすき間に「飼石」を入れて固定し、裏側に水はけをよくするための「裏込石」を敷き詰め、さらに裏込石と壁面の間を盛土で突き固めるのだという。

専門的なことは分からないが、大変な作業で、大型重機など近代機器を活用するとしても、最後は専門技術、知識を持った石工の技が欠かせない。このあたりについて河田所長は「破損した石の代わりは地元で調達できるが、石を加工し積み直す専門的な職人さんを確保するのは容易ではない。全体の修復が終わるのは10年、20年、あるいはそれ以上先になるかもしれない」と語っている。

熊本市は文化庁とも協議の上、この夏にも、修復に向けた大筋のロードマップをまとめる考えという。まずは、その内容に注目したい。(了)
中国にどんな意図・思惑が? [2016年06月24日(Fri)]
南シナ海問題も議論の対象に
笹川平和財団に第2の日中対話


 日本財団の姉妹財団・笹川平和財団(SPF)に6月21日、新たな「日中対話:東アジアの海洋問題への協調的取り組みを目指して」がスタートした。SPFでは既に2013年から東シナ海の安全環境を海、空両面から議論する「日中東シナ海安全対話」が活動しており、2つの対話が並行して進められることになる。

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21日に初開催された日中対話=笹川平和財団会議室

 新対話は、SPFに対する程永華・駐日中国大使の“打診”がきっかけになったとされ、翌22日行われた記者発表では、フィリピンが中国を相手取って起こし、近く国際仲裁裁判所(オランダ・ハーグ)の裁定が出される予定の「南シナ海問題」も第一回対話で取り上げられた。

この問題で中国は「仲裁裁判所に管轄権はない」として無視する姿勢を打ち出しているが、日本は2000年にオーストラリアとニュージーランドの間で争われた「みなみマグロ事件」で中国と同様、仲裁裁判所の管轄権を否定しながらも、当事者として仲裁裁判所の審理には参加しており、こうした日中の対応の違いについて意見が交わされた模様だ。

南シナ海問題で中国はこれまで一貫して「当事国による解決」を主張し、頑なに第3国の干渉を拒否してきており、先行の日中東シナ海安全対話でも、南シナ海問題が議論の対象になることはなかった。民間レベルとは言え、中国側の今回の対応にどのような意図・思惑があるのか、今後の成り行きが注目される。

ちなみに新対話のパートナーは「中国南海研究院」。先行の「日中東シナ海安全対話」は「中国南海研究協同創新センター」。いずれも海に関する政府系のシンクタンクで、対話の中国側責任者は前者が呉士存・研究院院長、後者はセンターの朱鋒・センター執行主任。SPF側の受け皿も前者が「笹川平和財団海洋政策研究所」、後者が「笹川日中友好基金事業室」と異なり、事前に双方で調整の結果、2つの対話を並行して進めることになったと見られる。

メンバーは日本側7人、中国側6人の学者・研究者からなり、初の対話は「海洋への取り組み」、「海洋環境の保全」、「海洋資源の管理」、「海洋の安全保障と外交」、「協調的取り組みを目指して」の5つのセッションで意見を交換。寺島紘士・海洋政策研究所長は「双方が今後の協調的取り組みの方向を探ることで一致した」として、引き続き対話を継続する考えを明らかにした。

これに対し呉院長は「双方でナショナリズムが高揚しており、何かのきっかけで事故や衝突が発生すると深刻な状況を招きかねない。トラック2の学術交流を通じ危機をコントロールするメカニズム、ルールを構築する必要がある」、「そのためにも相互信頼の構築に向け信頼できる外部環境を作っていく必要がある」、「東海(東シナ海)は日本にとっても中国にとっても共通の海のふる里。双方の協力を強化する必要がある」などと語った。

ともに将来に向けた日中両国の協力を語っており違和感はない。ただし発表後、会場から出た仲裁手続きに対する質問に対し中国側は、仲裁裁判所に管轄権がないとする従来の姿勢を説明するにとどまり、新しい「何か」をうかがわせる言質はなかった。対話が今後、どう進むのか、期待を込めて見守りたい。(了)
5年後に向けどう動く「フジモリ家」 [2016年06月13日(Mon)]

「負の遺産」解消 対立関係の融和こそ
戦術面でケイコ、ケンジ姉弟に確執?


ペルー大統領選に挑んだアルベルト・フジモリ元大統領の長女ケイコ氏が、前回2011年の大統領選に続き再び決選投票で涙を飲んだ。7月に大統領に就任する元首相のペドロ・クチンスキー氏とは極めて僅差。定数130の国会(一院制)で73議席を占める「人民勢力党」の党首でもあり、41歳の年齢からいっても当然、5年後の大統領選で雪辱を期すことになるのではないか。

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「政治」を語るフジモリ・ケイコ氏、2011年6月リマの自宅で

そのためにも国を2分する「フジモリ」対「反フジモリ」の対立構造、フジモリ元大統領への抵抗感をどう解消していくかが、今後の課題となる。その中で一つ気になる点がある。一連の現地電によると、弟で国会議員でもあるケンジ氏は「ケイコが敗れた場合、2021年の次期大統領選には自分が立候補する」と語るとともに決選投票での投票を見送ったというのだ。

背景には、今回の選挙で「父の時代には誤りもあった」と、とかくマイナスイメージが強い父親と距離を置く戦術をとったケイコ氏との間に確執があったとも報じられている。少数与党のクチンスキー氏は当選確定後、「団結と対話」を訴え、2010年1月に最高裁刑事法廷で禁固25年の有罪が確定、服役中の元大統領について、議会の承認を条件に自宅軟禁に切り替えることも可能との考えを示している。

報道以上に姉弟の関係を知る材料はないが、既に77歳、舌部の腫瘍も抱える父親の処遇も含め二人がクチンスキー氏の提案や今後の国内融和をどう考えるのか、是非、聞きたい気がする。

元大統領は2000年末から約5年間、日本で亡命生活を送った。一時期、曽野綾子日本財団会長(当時)宅の食客となるなど日本財団と交流があり、2011年の大統領選直後、尾形武寿理事長がケイコ氏を自宅に、元大統領を服役先の軍警察施設に訪ねた際、同席したことがある。

この時、ケイコ氏は「(敗れたとはいえ)結果には誇りを持っている」、「過去、第2戦(決選投票)に進んだ政治家は全員、大統領になっている」と5年後の大統領選に並々ならぬ意欲を語った。

また元大統領は「政治的発言は禁じられている」としながらも、「(有罪を認める結果になる)恩赦は受けない」と言葉少なに語るとともに、「ケイコとケンジには誇りと期待を持っている」などと述べた。

あくまでその場の印象だが、元大統領の断片的な言葉の中に、ケンジ氏の将来により大きな期待を持っている感じも受けた。ケイコ氏は1994年の両親離婚後、母に代わってファーストレディ役を務め、国民から見れば、その分、元大統領のイメージが強い。負けたケイコ氏よりケンジ氏の方が次の大統領選を戦いやすい、という判断かと勝手に推測した記憶がある。

クチンスキー氏は前回大統領選の第1回投票で3位となり、決選投票ではケイコ氏を支持している。ともに自由貿易を推進する中道右派の立場にあり、決選投票では政策よりもフジモリ元大統領の功罪が争点となった。フジモリ派には元大統領が進めた強硬策も「あの時代はテロの撲滅を最優先しなければならなかった」と肯定的に見る向きが強い。

しかし今回の選挙では、フジモリ元大統領の評価を軸にした政局に対する若者の抵抗感も強かったと聞く。「負の遺産」を解消するには、対立構造の融和こそ欠かせない。クチンスキー新大統領の下、「フジモリ家」がどう動くのか、興味を持って見守りたいと思う。(了)
孤立主義への扉開いたトランプ発言 [2016年05月20日(Fri)]

避けられぬ新政権への影響
覇権国のプライドより自国利益


米大統領選の共和党候補に不動産王ドナルド・トランプ氏が事実上、決まった。前回、このコラムで米大統領選を取り上げた3月当時、「トランプ発言に共鳴している米国民は日本人の想像以上に多いのではないか」と記したが、最終的に同氏が共和党候補に決まるか半信半疑だった。11月の本選挙もデータ上、民主党候補になると予想されるヒラリー・クリントン氏の優勢は動かないと思うが、意外な結末になってもおかしくない気がする。

トランプ発言を素人解釈すれば、言わんとしているのは「米国は強い軍事力を持った裕福な国だったが、最早そうではない」という一点に尽きる。だからこれからは「米国の利益を最大限に尊重することで強い米国の復活を目指す」ということであろう。

米国弱体化の原因として、「世界の警察官」として国際社会の秩序維持のために米国が負ってきた負担や不法移民の増加に伴う社会経費の膨張を挙げ、前者に関してはNATO諸国や日韓両国の安全保障で米国が片務的な責任を負う現状はアンフェアであるとして、米軍の駐留費を全額負担しなければ米軍を撤退させる、としている。

後者に関しては「ムスリムの入国を規制する」、「メキシコとの国境に壁を作りメキシコに費用を負担させる」など荒唐無稽とも思える発言を重ねた。内政の行き詰まりに対する不満を外に転嫁する古典的な手法であり、世界が注目する大統領予備選にしては、あまりに乱暴な強弁に驚くことはあっても、手法自体は特段珍しいわけではない。

しかし現状認識の内容には問題がある。例えば日米同盟。現実がトランプ氏の指摘通りアンフェアであれば日米同盟はとっくに消滅している。日本財団の姉妹財団である笹川平和財団が米国の戦略国際問題研究所(CSIS)と立ち上げた研究会の最終報告発表会(3月)でジョン・ハムレCSIS所長が「米国こそ日米同盟を必要としている」と指摘したように、米国にも大きな利益があるが故に現在の姿がある。

驚くべきは、陰りが出てきたとはいえ今も軍事、経済両面で断トツの立場にある世界の覇権国・米国において、こうしたトランプ発言が手厚い支持を集め、共和党予備選のサバイバルレースを勝ち抜いた点だ。そこには覇権国としての責任感・プライドを捨てた内向き志向、自分主義があり、いったん封印を解かれれば際限なく広がる恐れもある。

個人としての懸念の域を出ないが、トランプ氏が大統領になった場合は言うまでもなく、クリントン氏が順当に大統領になった場合も無視できない流れとなるのではないか。失業や格差、財政赤字、人種問題などに対する広範な不満や憤りを前に、ひたすら米国の利益を追求することを余儀なくされれば、国際社会のリーダー、「世界の警察官」としての立場は弱まり、世界の不安定化が加速する。

社会が流動化、不安定化するとき、世論は二極化する傾向にある。国内では、対米自立のチャンスと見て自主防衛力の強化を求める声と、逆に非武装中立といった両極端の声が頭をもたげ、トランプ発言に刺激された核武装論が強まる可能性もある。

個人として言えば国のあり様は客観情勢を踏まえた理性的な現実論こそ望ましく、核武装には賛成できないが、潜在的な核開発能力は保持しておくべきだと思う。可能性を保持することが「核なき世界」を主張する力にもなるからだ。

その後の経過を見ると、過激なトランプ発言に対する反発が強まっているのは当然として、支持派の勢力も各種報道から受ける印象より、はるかに大きいのではないかということだ。多数の支持を得れば、いかなる主張も政治的な力を持つ。極端な例えになるが、ヒットラーのナチス、戦前の日本の軍国主義も、「多数の支持」があったが故に国を亡ぼすほどの力を持った。

今回のトランプ現象は「ドナルド・トランプ」という特殊な個性ではなく、戦後70年以上を経た国際社会の新たな転換点と見るのが妥当かもしれないが、どう見ても、それに備えるだけの社会の受け皿は用意されていない。トランプ氏はなおしばらく封印しておくべき孤立主義の扉を開けてしまったような気がしている。(了)
遺骨の半分、未だ未帰還! [2016年04月25日(Mon)]

改めて問われる国の本気度
戦没者遺骨収集推進法に思う


6月の決選投票に結論が持ち越されたペルー大統領選、朴槿恵大統領の与党が大敗した4月13日の韓国総選挙、そして翌14日から続く「熊本地震」と大きなニュースが続いているが、今回は3月末、成立した戦没者遺骨収集推進法をあえて取り上げることにした。

相次ぐ大ニュースにタイミングを逸した感もあるが、遺骨収集の遅れに我国の戦後処理の不徹底を感じ、この機会に厚生省(現厚生労働省)記者クラブを担当した30年前から持ち続けている素朴な疑問を書き記しておきたいと考えるからだ。

推進法は戦没者の遺骨収集を初めて「国の責務」と位置付け、今年度から9年間を「集中実施期間」と定め、計画的、効率的な遺骨収集を政府に求めているのが特徴だ。

厚生労働省によると、先の大戦で、海外で戦没した旧日本軍人、軍属、民間人は約240万人。うち収容済みの遺骨は127万柱、47%の113万柱は未収容となっている。113柱のうち約30万柱は海域、23万柱は国交のない北朝鮮や対日感情が厳しい中国に眠り、残る60万柱から少しでも多くの遺骨を収集するのが今後の目標となる。

収容済みの遺骨のうち93万柱は旧軍関係者が復員・引揚げ時に持ち帰っており、1952年に始まった国の遺骨収集で帰還したのは約34万柱、この10年間に限ると2万8千柱にとどまる。墓に空壷を埋めたままの遺族も多く、改めて国の「本気度」が問われる。

推進法は国に「基本計画」の策定を義務付け、海外の公文書館などに残る文献調査など新たな情報収集を求める一方、遺骨の収集・送還など実務に関し「適正かつ確実に行うことができると認められるものを、業務を行う者として指定することができる」としており、遺族関係団体などで構成する新法人が実働部隊に指定されるようだ。

フィリピン残留日系人2世の日本国籍取得問題などでも、しばしば指摘してきたが、戦争が国の名で行われた以上、それに伴う犠牲も国の責任で解決されなければならない。そうでなければ国の求心力は失われる。遺骨収集もその例外ではなく、戦後70年以上経た現在も半数近くが未収用に終わっている現実は国の対応のどこかに問題があったと言うしかない。

一言で戦後処理といってもテーマは広く、国が総力を挙げて取り組まない限り前に進まない。その中で遺骨収集や中国残留孤児、シベリア抑留、台湾日本兵、フィリピン残留2世など多くのテーマが厚生省、とりわけ厚生省援護局(現厚労省社会援護局)に集まっていたと記憶する。

筆者が厚生省記者クラブを担当した1984、85年当時、援護局の最大のテーマは、日中国交回復を受けて始まった中国残留孤児問題であり、両国政府が合意した訪日調査による肉親捜しが本格化的に始まろうとしていた。

30年も前の話であり、記憶に誤りがあるかもしれないが、国の予算に占める厚生省予算の割合は、社会福祉関連費が大幅に伸びた現在に比べ少なく、その中でも援護局は保健医療局や薬務局など他局に比べ目立たぬ存在だった。国の取り組み姿勢を幹部に尋ねたことがある。

「戦後の日本にとって最優先のテーマは戦争で疲弊したこの国の立て直しだった」、「戦後処理の多くは外交問題であり、遺骨収集ひとつとっても関係国の協力がどこまで得られるか手探りの状態で、国が前面に出るより民間主導で進めた方がうまくいく、という判断もあった」、「戦後しばらくは戦地からの引き揚げ、復員問題への対応が手一杯だった」といった弁明があったと記憶する。

戦争で国が疲弊した敗戦直後の状況として理解できる部分もある。しかし当時は戦後40年を経て高度経済成長期を迎えており、国力が回復する過程で見直す機会はいくらでもあったはずだ。個人としては、早い時期に「省」単位の本格的な組織を立ち上げ、必要な対策を総点検し、徹底を期すべきだったと思う。未だにこの問題を、国内的にも国際的にも引きずる結果になっているのは、そうした努力の徹底を欠いたのが原因ではないかー。

戦没者遺骨収集推進法の成立と前後して3月4日、旧日本軍のインパール作戦で戦死した日本兵の遺体10柱がミャンマー西北部のチン州から帰還、ミャンマー国民和解担当日本政府代表を務める日本財団の笹川陽平会長から塩崎恭久厚労相に引き渡された。

ミャンマーでは13万7千人の日本兵・軍属が命を落とし、終戦時に7万柱が帰還、1950年代にミャンマー政府の支配地域で2万柱以上が収容されたが、少数民族と政府軍が対立する周辺地域の調査は長い間、手付かずの状態にあった。

収容場所はインパール作戦で敗れた日本兵の敗走路に当たり、民族和解が進む中で39年振りにミャンマーからの遺骨帰還が実現した。今後、2千柱以上の収容が期待できると聞く。

近年、戦後処理問題は、中国・韓国の一方的な歴史認識批判も含め、戦争を全く知らない世代にも重く圧し掛かっている。久し振りに厚生労働省を訪れ拝礼式を見ながら、遺骨収集に限らず戦後処理問題の多くが未解決のまま残る現状をどう理解したらいいのか、改めてそんな思いがした。(了)
「米国こそ日米同盟を必要としている」 [2016年03月17日(Thu)]
米CSIS所長がトランプ発言批判
日米安全保障研究会の報告書発表会

 11月の米大統領選に向けた共和党の指名争いで、当初、泡沫候補と見られたドナルド・トランプ氏の勢いが止まらない。論戦というより“ののしり合い”に近い経過を見ると、米国流民主主義の「負の側面」を垣間見る思いもするが、驚くのは、日米関係に関しても、安全保障や貿易面で日本への不満をあおるトランプ発言に共鳴する米国民が、日本人の想像以上に多いのではないかと見られる点だ。

 2月29日、東京都内のホテルで開催された「日米安全保障研究会」の最終報告書発表会。日本財団の姉妹団体である笹川平和財団(SPF)が米国の「戦略国際問題研究所」(CSIS)などと立ち上げた研究会の共同議長を務めるジョン・ハムレCSIS所長は、「日米同盟は「(米国にとって)アンフェア」とするトランプ発言をわざわざ取り上げ、「米国こそ、この同盟を必要としている」と強調し、発言の裏に、トランプ支持が危険な領域まで広がっている現実への危機感があるように感じた。

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トランプ発言を批判するハムレCSIS所長(笹川平和財団提供)

 「メキシコ国境に壁を作って不法移民を締め出す」、「イスラム教徒の入国全面禁止」など暴言に近い一連のトランプ発言は、民主主義を掲げる米国民には馴染まないはずで、本来なら指名争いでも早々に脱落していたはずだ。予想外の展開の背景には、拡大する格差に対する白人低中所得者層の反発、かつての「強いアメリカ」への復帰願望、プロが主導するワシントン政治への不信など、さまざまな要因が指摘されているが、トランプ現象がここまで広がった以上、大統領選の結果がどうなろうと、今後の米国社会、ひいては日米関係にも大きな影響を与える。

 日米安全保障研究会は2013年、アジア太平洋地域が直面する諸問題を踏まえ2030年までの日米同盟の展望を示す目的で設立された。メンバーは米国側がハムレ所長のほかハーバード大のジョセフ・ナイ教授、第一期オバマ政権で国家情報長官を務めたデニス・ブレアSPF・USA会長ら6人、日本側が加藤良三・元在米特命全権大使、折木良一・前統合幕僚長、羽生次郎・SPF会長ら7人。29日は過去6回の議論を踏まえ、日米両政府に対する提言などを盛り込んだ最終報告書を発表した。

 日米同盟が「半世紀以上にわたり、アジア太平洋地域をはじめとする広範な国際社会の安全保障と繁栄に貢献してきた」とした上、軍事力を増強する中国に対応するため、日米両国が「ひとつに調整された対中戦略」を確立する必要性などを指摘、さらに同盟を持続し世論の支持を得る方策として「将来の日本における米軍基地は、日本の国旗を掲げた基地を借りるテナントとして自衛隊とともに駐留する形が望ましい」といった提案も盛り込んでいる。

 米国側メンバーは時に「ジャパン・ハンドラーズ」などとも表現され、日本政治にも影響力を持ってきた。「日米同盟はアジア全体の平和と繁栄に欠かせない」として日米同盟の一層の強化を目指す立場からもトランプ発言は、無視できないことになる。

トランプ氏は「誰かが日本を攻撃したら、われわれは救援に駆けつけなければならない。しかし、われわれが攻撃を受けても日本は助けに来ない」と日米安全保障条約の“片務性”を取り上げた上で、「日本はわずかなリスクとコストで自国を防衛するためアメリカとの軍事同盟に付け込んでいる」と日本を非難。通商関係でも、中国、メキシコと並べて日本を名指しした上で「これらの国から雇用を取り戻す」と主張している。

安保で言えば基地提供など日本の負担も大きく、貿易面では日本が米国の不動産などを買いあさった高度成長期ならともかく、現在は共存関係にある。ハムレ所長は「おかしな大統領選になっているかもしれない」とこれまでとは違う指名争いの現状に苦言を投げ掛けた上、英フィナンシャル・タイムズ紙記者の会場からの質問に対しても「日米同盟は何よりもわが国の安全保障に重要」と重ねてトランプ発言を否定した。

トランプ現象には、様々な分析や意見があり、いちいち「なるほど」と思う面もあるが、無謀とも思えるトランプ発言が何故ここまで米国民を引き付けるのか、実感できない面がある。民主党の指名争いを有利に展開するヒラリー・クリントン氏に関しても、別の意味で疑問を持つ。

クリントン氏はオバマ政権を引き継ぐと言明しながら、オバマ大統領が主導したTPP(環太平洋連携協定)は支持しない立場を表明している。労働組合を含めた民主党支持者が「国内製造業が打撃を受ける」と反対しているのが大きな理由のようだが、これでは米国に対する信用、指導力はどうなるのか。

難民問題をきっかけにした欧州各国の保守主義、排外主義の台頭や中東の民族・宗教紛争、歴史問題を軸にした中国、韓国の日本批判とこれに対するわが国の反発・・。突き詰めればどの現象にも、排外主義とナショナリズムの高揚が共通しているように思われ、不安定な時代を迎えたと憂慮する。(了)
  
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