CANPAN ブログ検索
Loading
  • もっと見る

四季折々の雑記

 05年夏まで在籍したマスコミの世界は極力、主観を排した客観報道を原則とした。しかし真の意味で「客観」を実現するのは報道の現場に限らず難しい。ブログと言うには程遠いが、忘れない程度に自分の想い、時に意見をささやかに書いていくつもりです。


<< 2017年06月 >>
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30  
カテゴリアーカイブ
最新記事
最新コメント
buy website traffic
インド体験記(下) 美の基準 (12/09) TNF広報ファン
音禅法要 (05/31) D.G. Internacional, S.A.
インド体験記(下) 美の基準 (04/17) ヒメ
日本文化、色濃く残すパラオ  (01/27) Bios Agriculture
ニュースから(4) (01/20) ラックバック
「凌霜隊」の街を訪れて (12/29) 早川理恵子
日本文化、色濃く残すパラオ  (10/18) 麻生英明
映画「蟻の兵隊」の試写会に参加して (03/08) 麻生英明
インド体験記(下) 美の基準 (03/08) kemukemu
映画「蟻の兵隊」の試写会に参加して (09/14)
最新トラックバック
トランプ政権への過度の期待は危険 [2017年06月21日(Wed)]

自分ファーストのパリ協定離脱
国内、国際社会での孤立進む



海をテーマにした初の国連海洋会議が6月初旬、米ニューヨークの国連本部で開催された。温暖化や酸性化、さらにはサンゴの白化現象が急速に進む海の現状に対する危機感がようやく国際的にも共有され始めた感じだ。

そうした中で米トランプ大統領は、地球温暖化対策の国際的枠組みを決めた「パリ協定」からの離脱を宣言、その後の先進7カ国(G7)環境相会合も米国を除く6カ国がパリ協定を実行する旨の共同声明を出したものの、米国に関しては「脚注」で独自に温暖化対策に取り組むと記すにとどめた。

国連本会議.jpg

国連総会本会議で政府間パネルの設置を提案する笹川陽平・日本財団会長

地球環境は現在、温暖化の原因となる世界の2酸化炭素(CO2)濃度が18世紀後半から19世紀にかけた産業革命前に比べ40%、平均気温も1度上昇し、母なる海の温暖化・酸性化が進み、北極、南極の海氷面積は減少、沖縄やオーストラリアのサンゴが死滅する恐れも出ている。

このためパリ協定では、地球の平均気温の上昇を産業革命前に比べ2度未満に抑える目標を設定、世界196ヶ国・地域が締結し2016年発効した。各国がCO2の削減目標を独自に定め、その実現に努力する内容で、目標が現実に達成された場合も、地球温度は産業革命前に比べ3度近く上昇すると言われている。

初の国連海洋会議はこうした危機感を受けて開催され、国連本部で6月9日に開催された国連総会本会議では、異例の措置として民間からの「提案」にも門戸を開放。長年、海に取り組んできた日本財団の笹川陽平会長はIMO(国際海事機関)やFAO(国連食糧農業機関)など、いくつもの組織が独自に問題に対処する縦割りの弊害を正すため、海洋の諸問題を横断的に管理する政府間パネルの設置や未だ80%以上が未解明となっている海底地形図の作成などを提案した。

トランプ大統領のパリ協定離脱表明は、こうした国際社会の流れに明らかに逆行する。パリ協定は先進国だけに排出規制を義務付けた京都議定書に代わって先進国、途上国を問わず全員参加方式で各国が排出規制を進める枠組みとなっており、その土台となる国連気候変動枠組条約を含め、主導したのは米国のオバマ前政権である。政権が変わったからと言って、国としての国際公約をいとも簡単に変更するのはあまりに無責任と言うしかない。

「中国、インドに比べ内容が不公平」、「米国経済に害を与える」を離脱の理由としており、トランプ大統領の支持基盤である中西部・ラストベルト(錆び付いた工業地帯)の石炭産業の活性化が狙いとも言われている。国連気候変動枠組条約には留まる見通しと言われるが、中西部の石炭産業が下火になった最大の原因はシュールガスの登場であり、一方で温暖化対策を念頭においた電気自動車や再生可能エネルギーの開発など新しい産業も成長、社会は温暖化対策と経済成長を両立させる方向に向かっている。

トランプ大統領の決断は中国に次ぐ温室効果ガスの発生国として責任を放棄した形で、時代錯誤的でさえある。離脱表明直後にABCテレビなどが実施した世論調査では離脱反対が59%と賛成の28%を大きく上回ったと報道されており、米国の世論を二分するどころか、トランプ大統領の支持率はさらに低下する可能性もある。

乱暴を承知で言えば、トランプ大統領は世界や米国の利益より自らの利益を優先したと言え、「米国ファースト」と言うより「自分ファースト」と言うしかない。この場合、気になるのは日米同盟との関係である。中華秩序の復興を軸に覇権を求める中国や北朝鮮・金正恩政権の冒険主義とも言える危うさを前にすると、日本の外交・安全保障は今後も日米同盟が基軸となる。

しかし、北朝鮮の核・ICBM開発ひとつとっても、トランプ流の自分ファーストに従えば、ICBMが米国に届くか否かが問題であって、そうでなければ問題はなく「日本の防衛は視界の外」となる可能性さえ出てくる。

日米同盟を軸に我国の安全保障を考えるのは、ある意味、当然として、両国関係を安倍首相とトランプ大統領の信頼・親密な関係に過度に依拠するのは危険ということになる。温暖化の原因に関しては諸説があるが、地球的規模で被害が広がる巨大台風やハリケーンなどを前にすると、人間の活動が原因の一つになっていることは否定できず、パリ協定からの離脱に対する批判はさらに増え、国際社会における米国の孤立も進む。

大統領選ではクリントン候補の“変わり身の早さ”が気になり、どちらが米国の指導者に相応しいのか、判断を迷う面があったが、その後の経過を見る限り、トランプ政権の今後はあまりに危うい。本来、首脳同士の信頼関係は国と国の相互信頼の要となるが、今度ばかりは、過度の期待をおくのは危険な気がする。(了)
生みの親の同意要件を緩和すべき [2017年05月08日(Mon)]

特別養子縁組 親権より子供の幸せ
日本財団調査 養親、養子に高い満足感


何らかの理由で生みの親が育てられない子どもに家庭的環境を提供する特別養子縁組。2009年に国連で採択された「子どもの代替養育に関するガイドライン」でも、子どもの健全な発育に相応しい取り組みとして推奨されている。しかし、日本での成立件数は年間500件前後と海外に比べ極めて少ない。法律的に実親との親子関係が消滅し、親権も養父母に移るため実親の同意が得にくいという事情がある。

そんな中、15歳以上の子がいる特別養子縁組家庭を対象に日本財団が行った調査では、養親の95・6%が「子ども(養子)を育ててよかった」、養子の90%が「養父母に育てられてよかった」と回答、新しい“親子関係”に満足している実態が明らかになった。

欧米では子どもを施設に預け、一定期間、面会に来ないなど適切な養護を怠った場合、親権が消失する制度が導入されている。わが国でも、乳児院で暮らす子ども約3000人のうち20%には親の面会が一切ない現実もある。大切なのは子どもの幸せである。親が責任を果たす見込みのないケースに関しては、生みの親の権利制約など、方策が検討されるべきである。それが特別養子縁組の普及にもつながる。

調査は民間団体の協力で昨年末から年明けに15歳以上の養子がいる家庭878世帯を対象にアンケート方式で行われ、養親から294件、養子から211件の回答を得た。これによると、子ども(養子)の96%は「親(養父母)から愛されていると思っている」と答え、真実(実親の存在)告知に関しても、養親の84・5%がこれを行い、養子の83%が「よかった」と受け止めている。

生みの親が養育できなかった理由は「養育拒否・困難」が30・4%、「若年での妊娠」23・5%、「行方不明17・4%」、「両親の離婚」15・4%など。子どもの26%が養子であることで嫌な思いをしたことがあるとしている半面、74%は嫌な思いをしたことがない、と答えている。

養親の年間収入は平均641万円、養育費も平均13・6万円と全国平均より高く、結果、専門学校や短大、大学への進学率も高く、養親が養子の教育に熱心に取り組む姿が数字で示されている。

日本では社会的養護を必要とする子ども約4万5000人のうち85%は乳児院や社会養護施設で暮らす。施設中心の養護の現状や戦前の家父長的な家制度による親権へのこだわりが、実親が養子縁組に消極的な一因と思われ、厚生労働省の「特別養子縁組制度の利用促進の在り方に関する検討会」の資料でも、特別養子縁組を検討すべきと考えられる事案のうち7割近くが実親の同意要件が障壁となっている、と指摘している。

民法817条は「特別養子縁組の成立には、養子となる者の父母の同意がなければならない」とする一方、「養子となる者の利益を著しく害する事由がある場合」や「父母による養子となる者の監護が著しく困難又は不適当である場合」は親の同意を義務付けていない。

しかし、現実に特別養子縁組の審判を申し立てるのは養親であり、実親の同意がなければ、養子縁組成立後の心的負担も大きい。不同意の理由も「自分では育てられないが養子には出したくない」、「何時かは引き取る」といった自分本位の内容が目立つ。昨年の児童福祉法の改正では、養子縁組に対する相談・支援が児童相談所の主要業務に位置付けられた。しかし児童相談所は近年、虐待対応などに追われ、特別養子縁組に関しても、実親とのトラブルを恐れるあまり判断をためらう傾向もみられる。

少子高齢化や1060兆円にも上る国の借金など国を取り巻く環境が厳しさを増す中、今後の社会政策は、当事者にとって意味があり、社会的費用の合理的な活用につながるといった二つの側面を満たさない限り支持は得にくい。

特別養子縁組の普及は子供に健全な養育環境を提供するだけでなく、全国で40万組もの夫婦が子供を求めて不妊治療に取り組み、一方で中絶件数が新生児の20%近くに当たる18万件にも上る現実を前にすると、条件が整えば広く普及し、助かる命が増える可能性も秘める。

公立の乳児院―社会養護施設で18歳まで育った場合、1人当たりに要する費用は人件費も含め約1億円、民間の場合は5000万円とされる中、施設より里親や養子縁組の方が公的負担は少なく、子どもたちが必要な教育を身に付けることで将来の社会貢献も期待でき、余力を子ども対策の強化に活用できる。

調査では、生みの親の病歴や養子縁組に至った背景など「生みの親に関する情報が十分でなかった」とする養親の声も39・4%に上っている。そうした部分の見直しも含め、社会全体が特別養子縁組の強化に取り組む必要がある。(了)
中国の著名ブロガーが日本に問い掛け [2017年04月13日(Thu)]

「たたくべき時には、たたくべきだ」
北朝鮮核開発で緊張感欠く知識人に


「もし米国が北朝鮮を軍事攻撃するというなら、多くの日本の学者は『戦争はしない方がいい』と反対するが、私はたたくべき時には、たたくべきだと思う。北朝鮮がこれ以上、核兵器を発展させるのなら何故に遠慮する必要があるのでしょうか」―。笹川平和財団・笹川日中友好基金が4月4日、中国の著名ブロガーを招いて開催した出版記念報告会で、元共識メディアグループ総裁・周志興氏(現・米中新視角基金会会長)は会場に向かって、こんな問い掛けをした。

北朝鮮の核・ミサイル開発を巡っては、直後の4月6、7両日に行われた米中首脳会談で「非常に深刻な段階に来ている」との認識は共有されたものの、トランプ米大統領が「中国が協力しない場合、独自の計画を立てる用意がある」と単独行動も辞さない姿勢を打ち出したのに対し、中国の習近平国家主席はあくまで対話を通じた平和的解決を主張し、具体的な合意がないまま終わった、と報じられている。

中国指導部の方針とは違う周氏の発言に会場は一瞬、静まり返ったが、周氏の発言はむしろ、弾道ミサイルの発射など挑発行為を続ける北朝鮮に対し、トランプ政権が「戦略的忍耐は終わった」とするなど危険なまでに緊張が高まる中、なお「戦争はない方がいい」と理念的に唱える日本の知識人の現状認識、緊張感の欠如に疑問を投げ掛ける点に狙いがあった気がする。中国では朝鮮半島情勢を、それほどの緊迫感を持って受け止めている、ということでもある。

中国人ブロガー.jpg


記念報告会は中国の人気ブロガーの招聘プロジェクトを進めてきた笹川日中友好基金が、これに参加した中国人ブロガー22人の体験記を「来た!見た!感じた!! ナゾの国 おどろきの国 でも気になる国 日本」(日本僑報社)にまとめ、3月末に日本語版が出版されたのを記念して東京・虎ノ門の笹川平和財団ビルで開催され、うち10人のブロガーが報告会に出席、それぞれが日本の印象などを語った。

この中で周氏は、日本が中国の改革開放を最初に支持、天安門事件(1989年)でも日本が最初に中国支援を再開した点などを取り上げ、「こうした点は中国でもまだしっかり話されていない」と指摘した上で、「日本に一つだけ不満がある」と前置きして冒頭の発言をした。

会場からの質問に対しても、「ミサイルの発射実験は日本海に向けて行われ日本の現実的な脅威となっている」、「核開発がこれ以上続けば中国も韓国も日本も大きな影響を受ける」と述べた上で、「米国と一緒になって日本も兵を出すということなら日中関係、日ロ関係に問題が生ずる」としながらも、「アメリカが北朝鮮をたたくことに、ただ賛成しないという(日本の学者の)姿勢には疑問を持つ」と重ねて指摘、「(賛成しないというなら)どうすべきか、日本としての態度を表明すべきだ」とも述べた。

周氏ら出席者によると、北朝鮮をめぐり中国では現在、「血と汗を流した友好的な隣国」として引き続き関係維持を求める意見から、「マイナスの資産」と見て、一定の境界線を引くべきだとする意見まで幅広い意見が交わされ、「中国外交は北朝鮮に譲りすぎ」との批判がある半面、「北朝鮮を失えば(中国)東北地域のセキュリティーが侵される」と懸念する声もあるという。

「多くのエリート層が北朝鮮に対する不満を高め、嫌いになっている」、「住民の統治や国際社会への対応など問題も多く金王朝を好きな人はいない」といった現状認識のほか、「中国が何もしないとの批判があるが、北朝鮮の姿は1970年代の中国に極めて似ており中国として言いにくい面もある」(中国中央電視台コメンテーター章弘氏)、「王毅外相は『平和の希望があれば中国は(北朝鮮を)放棄しない』と言っている」(北京外国語大学教授の馬暁霖氏)といった指摘も出され、北朝鮮情勢を巡り中国国内で沸騰した議論が戦わされている現状をうかがわせている。

中国著名ブロガーの招聘事業は2011年から5年間行われ、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)大国と言われる中国で数万から数百万人のフォロワーを持つ人気ブロガー35人が来日、東日本大震災から広島や日中関係、食の安全から伝統文化、日本の祭りや選挙など幅広いテーマを取材、うち22人が「ありのままの日本」として発信し、昨年6月には中国語版が、今年3月には日本語版が出版された。(了)
ハンセン病制圧 いまだ“道半ば” [2017年03月15日(Wed)]

新規患者、なお年間20万人
特筆されるべき治療薬の無料配布


いささか時間が経ったが、今年も1月末の世界ハンセン病の日に、ハンセン病の制圧と偏見・差別の撤廃を訴えるグローバルアピールがインド・ニューデリーで発表された。ハンセン病は1981年に開発されたMDT(多剤併用療法)により「治る病気」となり、患者も順調に減少、天然痘と同様、人類が撲滅に成功するのは時間の問題とも見られたが、ここにきてやや足踏み状態にある。

世界の新規患者は年間約20万人。2000年を目途とした「人口1万人当たり患者1人未満」の国レベルでの制圧目標も、ブラジルがなお未達成の状態にあり、ハンセン病と戦う関係者に失礼を承知であえて言えば、ハンセン病の制圧は“なお道半ば”である。

MDTは3つの薬(リファンピシン、ダプソン、クロファジミン)を成人、子供などタイプに応じて半年から1年間、服用することで症状は治癒する。高校時代に見た米映画「ベン・ハ―」には、ハンセン病を患い洞窟で隔離生活をしていた主人公の母と妹が、十字架を背負いゴルゴダの刑場に向かうイエス・キリストに縋ると皮膚に残った障害が消えるシーンがあった。ハンセン病の患者にとってMDTこそ“神の手”である。

これを受け1991年には、WHO(世界保健機関)の全加盟国が出席した世界保健総会で制圧目標が打ち出され、「公衆衛生上の問題としてのハンセン病の制圧」を2000年末までに達成すると定めた。1994年には、ベトナム・ハノイで開催された初のハンセン病制圧国際会議で日本財団がMDTの購入費として1995年から5年間、毎年1000万ドルをWHOに拠出する方針を表明、世界でMDTの無料提供態勢が整備された。

2000年以降もノバルティス財団(スイス・バーゼル)がこれを継承し、これまでに世界で1600万人の患者が治癒、1985年当時、制圧目標を上回った122カ国中121ヶ国が2013年までに目標を達成した。

有史以来、ハンセン病が「天刑」、「業病」などと恐れられてきたは理由のひとつが、進行すると皮膚などに深刻な障害を残す点にある。回復した1600万人のうち400万人は何ら身体障害を残すことなく治癒しており、世界のどこでも無料で入手できる態勢を築き上げた日本財団などの貢献は、人類の病との闘いの中で特筆されていい。

しかし視野に入るかに見えたハンセン病の制圧も、ここにきて一つの壁に突き当たっている。制圧目標を未達成の最後の1カ国となったブラジルは、いまだ達成の目途はなく、国レベルで制圧目標を達成した国も、目が届きにくい山岳地域や離島など未開発地域、都市のスラムなどで依然、新たな患者の発生がみられ、インド、ブラジル、インドネシアを中心に毎年20万人前後の新しい患者の発生がWHOに報告されている。

こうした中、2013年、新規登録患者が年間1000人を超える世界17カ国の保健大臣らがタイ・バンコクに集まりハンセン病サミットを開催、新たな目標として「2020年までに“目に見える障害を伴う新規患者”を100万人に1人以下にする」とのバンコク宣言を発表した。

数字の遊びになるが、現在、世界の人口約73億人。1万人に1人に換算すると73万人となり、それだけの患者がいても数の上では制圧目標は達成できる計算になる。100万人に1人となると7300人。「目に見える障害を持つ患者」とは、外見からも障害が進行している状態がはっきりしている患者を指すようだが、毎年20万人の新規患者が見つかっている現状からも、残された後3年で達成するのは至難の業のように思う。

もっとも半年から1年間、治療すれば治癒するMDTの特質から、未把握の患者や新たな患者が順調に見つかり、迅速にMDT治療を開始すれば、達成の道も開けてくる。要は調査が行き届いていない地域で、各国が患者をいかに早期発見していくかがポイントとなる。

この点についてWHOのハンセン病制圧大使として世界を駈け回る笹川陽平・日本財団会長は自らのブログで「1万人に1人未満という制圧目標に向け患者を減らすという至上命令がトラウマとなり、新規患者の発見数が増えることを必ずしも歓迎しない、といったことが起こってきたのではないか」と指摘している。

隠れた患者がどんどん見つかれば数字上は一時的に達成目標をオーバーする事態も起きかねない。そうした事態を恐れるということであろう。1万人に1人未満を達成したことで「あとは自然に減る」といった安心感、「ハンセン病より深刻な疾病がいくつもある」といった事情もあろう。

ハンセン病は治療が遅れると皮膚などに障害を発し、差別を生む。患者は差別を恐れるあまり治療が遅れ、さらに進行した症状が新たな差別を生んできた。ハンセン病との闘いは病気の制圧と患者・回復者、家族に対する偏見・差別の撤廃の両面から進められ、ともに目を見張るほどの成果が出ているが、その意味では、患者の発生がゼロにならない限り、この悪循環は断ち切れない。(了)
ミャンマー・カレン州の首相に聞く [2017年02月13日(Mon)]
半世紀超す内戦で豊富な自然残った
民主化の果実、拙速より長い目線で


先月末、ミャンマーのカレン州を訪れ、ドー・ナン・キン州首相(62)に話を聞く機会があった。キン首相は昨春、政権を獲得したNLD(国民民主連盟)の活動家として軍政時代の1997年から2年間、刑務所生活も体験し、アウン・サン・スー・チー国家最高顧問兼外相とも並ぶNLDの重鎮として党の中央委員も務める。

P1060519.JPG

カレン州の将来を語るドー・ナン・キン州首相


キン首相は州の開発について「カレン州には薬草など自然資源も鉱物資源も豊富にある」とする一方、「早急にやらなければならないことがいっぱいあるが、国民の反対が強く思うように進まない」、「当面、石炭を使った火力発電所の建設を目指したい」などと語った。

カレン州はミャンマー南東部、タイ国境に位置し、1947年の独立後、2012年まで「世界でも最も長い内戦」が続いた。その結果、開発が遅れたが、豊富な自然や資源が残された。開発に向けた州トップとしての決意は理解するが、民意を尊重すればその分、手続きに時間とコストが伴う。拙速を避け、残された自然を生かす長い目線の開発こそ、州の将来に相応しい気がする。

カレン州は人口約160万人。ヤンゴンから車で約6時間の距離にあり大半が中山間地。80%が稲作やトウモロコシ、ゴムなど農業で生計を立てる。英国は植民地時代、カレン族など少数民族を多く重用して人口の7割近くを占めるビルマ族を統治したといわれ、そうした歴史が中央政府軍とカレン民族同盟(KNU)の戦いを長引かせた。

タイの難民収容所に10万人を超す住民が避難しているほか国内難民も多く、彼らが故郷に戻れるような産業基盤、インフラの整備が新政権、州政府の課題となっている。州の大半を占める中山間地には豊富な薬草がそのまま残され、州都パアン郊外では、日本財団が2012年から州政府が用意した40エーカー(約16ヘクタール)に上る広大な用地に薬草園を整備し薬草プロジェクトを進めている。

「薬草の宝庫」に相応しく既に150種に上る薬草・薬木が集められ、近く東京農業大学も保存技術の指導などに乗り出す予定。海外の製薬メーカーも注目し、指導に当たる日本財団の間遠登志郎氏のもとには沖縄の保健食品開発協同組合から、地元で古くから伝統医療に使われてきたウコンに関する問い合わせも寄せられている。

薬草園で開発した保存・加工技術を周辺農家に移転、薬草園が収穫物を買い取って内外のメーカーに出荷し、農家の自立を促すモデル事業とするのが目標で、実現すれば、かなりの数の農家の参加が可能になる。キン首相も「地元の人は石油など鉱物資源ばかりに目が行く。薬草が金になることを日本財団は教えてくれた意味は大きい」とプロジェクトの将来に大きな期待を寄せている。

同時にカレン州にはゼガビン山など観光資源も多く、キン首相は観光産業の育成にも力を入れたいという。そのためには道路や空港、ホテルなどインフラ整備が欠かせない。限られた時間で子細は確認できなかったが、北隣のカヤー州、南に隣接するモン州では、火力や水力発電所の建設計画が、「火力は大気を汚染する」、「洪水が起きたら大被害が出る」といった住民の反対で宙に浮いており、カレン州の火力発電所もこれに関連して構想されているようだ。

IMG_2892.JPG

朝もやに霞むゼガビン山


ミャンマーの電力不足は深刻で、その必要性は誰もが認める。ただし発電所建設のようなプロジェクトにはODA(政府開発援助)など大きな資金が必要となる。それ以上に地球温暖化が世界の深刻な課題となる中、CO2(二酸化炭素)発生量の多い石炭火力の発電所建設には疑問も残る。そうした点を研究する専門家の育成も遅れているようだ。

テイン・セイン前大統領による2011年の民主化、2015年総選挙でのNLDの大勝を通じてミャンマー経済は大きく発展し、最大都市ヤンゴンなど都市部と少数民族が多く住む周辺の中山間地の格差は一段と拡大している。

国民には「民主政権ができたのだから生活はよくなるはずだ」といった根強い信仰があるようだが、半世紀以上続いた内戦で少数民族が多く住む周辺地域の開発の遅れは教育、医療なども含め尋常ではない。ミャンマーの新しい国づくりは、ある意味で緒に就いたばかり。今後、外国資本の進出も加速しそうだが、方向を決めるのはあくまで国民である。長期の内戦という不幸の産物とはいえ、豊富に残った薬草など自然資源を精いっぱい活用する、長い目線こそ「民主化の果実」につながると思う。(了)
温暖化防止、米国の利益より世界の利益優先を [2017年01月11日(Wed)]

パリ協定、目標実現すれば漁獲高600万トン増
海の未来、ネレウスプログラムが試算


世界の平均気温上昇を、地球温暖化対策の新しい国際ルール「パリ協定」が掲げた1・5度に抑えれば、放置した場合に比べ年間の漁獲量は600万トン増える。こんな研究結果を、日本財団がブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ)など7つの大学・研究機関と共同実施するネレウスプログラムが発表し、昨年末、学術雑誌「Science」に掲載された。

Science Paris Agreement paper 1.5 degrees JAPANESE-01.png

日本財団ネレウスプログラム提供

パリ協定は、二酸化炭素(CO2)排出量が世界の1、2位、全体の40%以上を占める中国、米国が昨年9月そろって批准し発効した。しかしドナルド・トランプ米次期大統領は選挙戦の中で「温暖化はでっち上げ」、「米国の製造業の競争力を削ぐ」と早期離脱を表明、当選後、やや態度を軟化させたもののニューヨークタイムズ紙のインタビューに「離脱についてあらゆる可能性を排除しない」と答えるなど、消極的な姿勢を見せている。

トランプ氏にとってCO2の排出規制は、同氏が掲げる「偉大な米国の復活」の足かせになるということであろう。人類の産業活動が地球温暖化の原因、あるいはそのひとつといった認識が希薄なのかもしれない。締約国が脱退を希望する場合、協定の規則で4年間の待機時間が必要となるようだが、留まったまま国内の取り組みを緩和したり実施しなくとも罰則はない。

全ての国が協力して地球温暖化対策に取り組むのがパリ協定の狙いであり、米国の姿勢は排出量1位の中国や途上国、さらには排出量5位の日本の対応にも影響する。地球温暖化は国を越えた地球全体のテーマであり、ネレウスプログラムの研究成果も、パリ協定の趣旨の実現を促すデータとして重視される必要がある。

ネレウスプログラムは2011年にスタートし、これまでも「気候変動と海洋環境の変化」、「世界の魚資源の未来」など、海の未来を地球規模で予測する研究成果を発表、パリ協定を採択した2015年の第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)でも取り上げられた。温暖化による海水温の上昇や海水の酸性化などによって魚資源が全体に冷たい海水域に移動するため「赤道周辺などの一部地域では2050年の商業魚種の漁獲高が40〜60%減少する」といった報告も公表している。

今回の研究では漁業の変化を数値化したコンピューターモデルを使い、海水温の上昇をパリ協定が掲げた産業革命以後1・5度の上昇に抑えた場合と、放置した場合に避けられない3・5度上昇のケースを比較、海水温の上昇に伴い熱帯海域の魚が温帯海域に、温帯海域の魚が北極海域に移動することで起きる各海域の漁獲高を比べ、「地球温暖化が1度抑えられるごとに潜在漁獲量は、放置した場合に比べ300万トン以上増え、パリ協定の1・5度が達成されれば600万トン増える」と結論付けている。

対象になっているのは河川・池など内水面漁業を除いた遠洋や沿岸の海面漁業。世界の海面漁業の漁獲高は年間9000万トン前後で推移しており、600万トンは全体の6、7%に当たる。特に熱帯海域では魚が深海や環境が適した温帯海域へ移動するため漁業が絶滅する地域も発生する、などと指摘している。

地球温暖化の原因をめぐっては、さまざまな議論があるが、近年の異常気象や台風の巨大化ひとつとっても温暖化との関係を抜きにして考えにくい。疲弊した海を元に戻すのは最早難しい、といった指摘もある。海にとって気候変動は、かねて指摘されてきた乱獲以上の脅威であり、海の危機は地球の危機でもある。特定の国だけが無関係ということは有り得ず、米国も例外ではない。温暖化防止は各国が国の利益より地球全体の利益を優先させて、本腰を挙げて取り組むべき喫緊の課題である。(了)
望まれる司法の前向きな判断 [2016年12月16日(Fri)]

外務省職員署名の陳述書 どう評価
比残留日系人2世の国籍取得問題


戦後、半世紀近くも忘れ去られてきたフィリピン残留日系人2世の日本国籍取得問題にわずかな前進の兆しが見えてきたような気がする。残留2世の陳述書作成に外務省職員が立会い、フィリピン政府も2世が戦後長らく無国籍のまま暮らしてきたことに対するペナルティー(罰金)を免除する措置を打ち出している。後は2世が求めている就籍に迅速かつ前向きに対応する司法判断の流れが確立されれば問題解決は前に進む。老境に達した残留2世に残された時間は少なく個人的な期待も込め、そんな思いを強くする。

ドゥテルテ新大統領が長く市長を務めたミンダナオ島の港町ダバオ市に住む残留2世、永田オリガリオ・マサオさん(71)が11月28日来日、翌日、日本国籍の取得に向け就籍の審判を申し立てた熊本家庭裁判所の調査官面接に臨んだ。就籍が許可されると、申立書に記した住所で新たに戸籍を作り、晴れて日本国籍を取得する。

永田さんは2013年にも東京家裁に就籍を申し立てたが却下され、状況証拠から父親の出身地である可能性が強い熊本家裁に再申し立てを行った。裁判所が違うとは言え、同一の証拠で就籍許可を勝ち取るのは難しい。再申し立てには、外務省職員が立会い、署名した永田さんの陳述書が“新証拠”として提出されている。外務省の立会いは、早期解決に向けた関係者の強い要望を受けて今年5月にスタート、永田さんに対する聞き取りは同月末、他の残留2世9人とともにダバオで行われた。

陳述書は物的証拠がほとんどない就籍の審判の“重要証拠”。これまで日本財団の支援で国籍取得に取り組むフィリピン日系人リーガルサポートセンター(PNLSC)のメンバーが、本人からの聞き取りを基に作成してきた。外務省職員が立ち会ったからと言って、2世が日本人の子であること自ら隠して生きざるを得なかった戦後の空白を埋める新たな事実や証拠が出ることはまず有り得ない。

5月の調査には在フィリピン日本大使館の参事官が立ち合い、筆者も取材を兼ねて同席したが、これといった新しい事実は出なかった。日本政府の代表である外務省職員が自ら質問・署名することで、2世の申し立てに少なくとも嘘や偽りがないことを確認した点に意味があり、裁判官がこの信用性をどう見るかがポイントとなる。

 残留2世と同様、終戦前後の混乱で両親と離れ離れになった中国残留孤児は同じ就籍手続きで既に約1300人が日本国籍を取得している。国籍取得が順調に進んだ背景には、日中両国の合意の下、中国政府が発行した「孤児証明書」を手掛かりに司法が肉親の身元が未判明な孤児の申し立てにも柔軟に対応した点がある。

 残留2世に関してもフィリピン政府が近年、2世の出生証明書や婚姻証明書について遅延登録を認める措置を取っており、外務省職員が立ち合い、署名した陳述書を持って、中国残留孤児と同様、前向きの対応ができないものかー。証拠に基づく厳格な証明が司法の原則であることは理解するが、国の名によって行われた戦争により2世やフィリピン人の母親が置かれた戦中・戦後の過酷な状況を踏まえれば、戦後71年も経て新たな証拠を2世に求めるのはあまりに酷であり、不可能を強いるに等しい。

 これまでに家庭裁判所の審判で就籍が認められた残留2世は188人、なお1000人を超す2世が日本国籍を求めている。5月以降、外務省職員が聞き取り調査に立ち合い陳述書が作成された2世は計18人に留まり、仮にこの陳述書の信用性が前向きに評価されても、PNLSCや外務省の現有人員でどう聞き取り調査を加速させるか、別の問題も残されている。

 しかし、司法が前向きに評価しない限り何も前に進まない。永田さんの申し立てに対する熊本家裁の審判をあらためて注目したい。残留2世の平均年齢は既に75歳を超え、問題解決は時間との戦いである。(了)
クリントンとともに敗れた米国メディア [2016年11月17日(Thu)]

米大統領選に見る影響力の低下
ヒラリー大勝利は“蜃気楼”の事前指摘も

米大統領選で不動産王ドナルド・トランプ氏が勝利した。「何でもあり」の大統領選、さらに暴言・不規則発言を重ねたトランプ氏の当選に正直、驚いた。加えて米国の有力100紙の過半がヒラリー・クリントン氏を支持しながら、「トランプ大統領」の誕生を阻止できなかった事実を前にすると、米国社会での伝統的なメディアの影響力の低下を再確認させられた気もする。「クリントン氏とともにメディアもトランプ氏に敗れた」ということである。

各種報道によると、今回の大統領選では米国の有力紙100社のうち57紙がクリントン支持を打ち出し、トランプ支持はわずかに2紙に留まった。ニューヨークタイムスやワシントンポストなど多くが、人種、女性問題などで過激な発言を繰り返すトランプ氏を批判し、「陰謀」、「うそ」と逆襲するトランプ氏と対立した。

日米のメディアは同じ客観報道の立場を取る。しかし事実を報ずる一般ニュース記事はともかく、社説・論評では、米国の新聞が社の姿勢、意見を明確に打ち出すのに対し、日本の新聞は最近でこそ原発や憲法改正などで社論を明確にする姿勢を強めているが、選挙で米国のように特定の候補の支持を明確に打ち出すことはない。

同時に、大多数の新聞やテレビにあれだけ激しく批判された候補者が当選することも、まず有り得ない。一連の女性蔑視発言を例にとれば「トランプは孤立している」、「女性蔑視発言で婦人や若者の票を完全に失った」といった報道が相次いだが、CNNの出口調査によると白人女性の53%がトランプ氏に投票したと報じられており、報道内容と結果には大きな開きがある。

米国民のニュースの取得先は新聞が20%、テレビ57%、インターネット38%といった調査結果もあるようだ。この数字に従うと5人に一人しか新聞を読んでいない、ということにもなり、新聞論調の内容云々より言論機関としての影響力そのものが大幅に落ち込んでいる、ということにもなる。新聞のトランプ氏批判よりも、SNSなどを通じトランプ氏のメディア批判を読んでいた有権者の方が多かった可能性さえある。

新聞やテレビの世論調査も適格性を欠いた。確かにクリントン氏の得票率は50・08%と過半数を超え、この点で最終的にクリントン氏が1〜2%有利とした世論調査の数字は、それなりに正確だったようにも見える。しかし現実にはトランプ氏が接戦州のほぼ全てを制し、最終選挙人獲得数で70人以上の大差をつけ勝利した。

クリントン氏は私用メール問題で連邦捜査局(FBI)が再捜査を決定したことで「勢いを止められた」と最大の敗因に挙げている。影響があったのは否定できないが、コミーFBI長官は投票日2日前に「訴追見送り」を明らかにしており、再捜査の事実だけで、これだけの大差はつくとは説明しにくい。もともと、クリントン氏優勢を裏付けるような客観状勢がなかった可能性もある。

クリントン氏にはトランプ氏の「偉大なアメリカの復活」に対抗する分かりやすいキャッチフレーズがなかった、あるいはワシントン政界の生活が長く“新味”に欠けた点なども敗因のひとつであろう。従来の大統領選で投票率が低かった白人低所得者層の投票率が大幅にアップした、事前の世論調査では明らかにならなかった“隠れトランプ支持派”が予想以上に多かった、ヒスパニック系のトランプ支持率が予測より高かったーなどの点も指摘されている。

詳しくは専門家の分析を待つとして、トランプ氏勝利の選挙結果を前に気になっている記事がある。元NHKアメリカ総局長を務めた日高義樹ハドソン研究所主席研究員が投票日前の11月1日発売の月刊誌「リベラルタイム」のコラム「THE POWER of U.S.A」に掲載した「マスコミが作り上げた『ヒラリー大勝利』」の一文だ。

日高氏はこの中で「アメリカのマスコミは、ヒラリー・クリントンを何としてもホワイトハウスに送り込まなければならないと考えているウォール街やアメリカ企業等の強い影響の下にある」と指摘した上で「アメリカ中に広がっている『ヒラリー・クリントン大勝利』というイメージは、いわば蜃気楼である。その蜃気楼に映っている幻影は、アメリカのリベラルなマスコミがつくり上げたものだと私は考えている」と言っている。

読み方はいろいろあろうが、記事は同誌の締め切りから、大統領選投票(11月8日)の3週間ほど前に書かれたとみられ、当時の報道は、クリントン楽勝が圧倒的だった。ちなみに前回10月31日付のマイブログの拙稿「TPPにみる米大統領選の“無責任”」でも、見出しの1本に「元下院議員はクリントン氏大勝の予測」を立てた。既に私用メール問題の再捜査が明らかになっていたが、マイナス影響があったとしてもクリントン候補の優位は動かないとの判断で、日本財団の姉妹団体・笹川平和財団のシンポジウムでの元民主党下院議員の発言をそのまま見出しにした。そうした経過もあるだけに、日高氏の記事が余計、印象に残っている。

今回の大統領選報道が何故これほど外れたのか。事前の世論調査一つを取っても、固定電話所有者を主な調査対象とする日米のメディアの調査方法には限界があり、調査に応じる有権者の減少など問題も多い。新聞やテレビが影響力を取り戻す方策は有り得るのか、さらにこれほど激しく敵対したメディアとトランプ新大統領の関係はどうなるのか、新大統領の政策、国際社会への影響を含め注目したい。(了)

TPPにみる米大統領選の“無責任” [2016年10月31日(Mon)]

元下院議員はクリントン氏大勝の予測
覇権国としての威信 どう取り戻す?


安倍首相が開会中の臨時国会での承認を目指すTPP(環太平洋経済連携協定)の帰趨が、米大統領選も絡み不透明になっている。共和党のドナルド・トランプ候補は「大統領就任当日に離脱を表明する」と一貫してTPP反対を打ち出し、当初、一定の修正を加えた上で推進すると見られたヒラリー・クリントン候補もその後、反対の姿勢を明確にしているからだ。

DSC_4806.JPG

    パネル講演会で意見を交わす左からジェイソン・アルトマイア、クリフ・スターンズ
    中山俊宏の3氏。笹川平和財団提供。

大統領選は投票日(11月8日)直前になってクリントン候補が国務長官在任中に公務で私用アドレスを使ったメール問題で連邦捜査局(FBI)が捜査を再開する新たな動きも出ているが、各種世論調査結果から見て同候補の優位は動かないのではないか。しかしクリントン候補が当選してもTPPに関しては容易に動けまい。

10月25日、東京都内で開催された笹川平和財団主催のパネル講演会「2016米国大統領選挙と民主主義」で2007年から3期6年間、ペンシルバニア州選出の民主党下院議員を務めたジェイソン・アルトマイア氏は大統領選でクリントン候補が大勝するとした上で、TPPに関しては「『大統領になっても反対する』と言い切った以上、また『考えを変えた』という訳にはいかない」と述べ、TPPが当面発効しない、との見通しを語った。

当のクリントン氏はオバマ政権の第一期、国務長官としてTPPを後押しした。TPP反対票の取り込みを多分に意識した方針変更と思うが、選挙が終わって再び元の考えに戻るのは「有権者に対する背信」となり、直ちに動くのは不可能な話だ。

一部にオバマ大統領の任期切れとなる来年1月までに、米議会が批准する可能性に期待する向きもあるようだが、民主、共和両党の大統領候補がともに反対したTPPの批准に米議会が迅速に動くことが果たして可能かー。仮にそうした可能性がなくなれば、参加各国にとって米国の対応は「無責任」ということになり、TPPを主導してきた米国の威信に傷がつく。

TPPは計12カ国による包括的な経済連携協定。シンガポール、チリなど4カ国が始めた自由貿易協定に目を向けた米国が新たな太平洋市場構築に向け7年間にわたり各国を主導し、各国の承認手続きが2年以内に終わった段階で発行する段階まで来ている。安倍首相が開会中の臨時国会での批准を目指すのは、日本政府だけでなく国会もTPPに前向きであるとの強いメッセージを米国に送る狙いがあるようだ。

TPPに対する大統領選でのクリントン発言を振り返ると、当初は米国民の雇用創出、賃金上昇、国家安全保障の強化につながる協定である必要があると指摘した上で、「現時点で把握している内容は好ましくない」と述べていた。労働者層や貧困層を意識した選挙対策であり当選した場合は内容を多少、見直した上で前に進める考え、と理解する向きが多かった。

しかしその後、民主党の大統領候補を最後まで争ったサンダース上院議員のTPP反対意見、さらに大統領選では強硬にTPPからの離脱を主張するトランプ候補の前に「選挙の前後を問わずTPPには反対する」、「大統領になってもTPPには反対する」と言い切り、自ら退路を断った。

日本財団と英国王立国際問題研究所(チャタム・ハウス)が共催した第4回日英グローバルセミナー(10月12日、東京)のセッションでもTPPが取り上げられ、出席者から「TPPはアジアの主要なパートナーの関係を強化する上でも必要。そうでなければ台頭する中国の前に米国のヘゲモニーは低下することになる」といった指摘とともに、「政治家は選挙の前と後では言うことが違う」とクリントン候補が大統領に当選した場合は態度を変える、といった楽観論の一方で、仮に「大統領になってTPPをサポートしないのであれば米議会でTPPが通る可能性は50%を切り、発効も数年先になる」といった見方も出ていた。

米国は一時に比べ陰りが出てきたとはいえ依然として世界の覇権国であり、その大統領となれば世界のリーダーである。クリントン候補がトランプ候補を破り45代米国大統領に就任すれば、各国は同じ民主党の大統領としてオバマ路線の骨格を基本的に継承すると見る。そうした継続性があってこそ各国は米国を信用し、その信用の上に米国の威信は成り立っている。

TPPは中国が主導する国際開発金融機関・アジアインフラ投資銀行(AIIB)との関係を含めアジア太平洋地域でどのような経済秩序を目指すのか、米国にとっても極めて大きなテーマである。大統領を決めるのは有権者であり、その動向を無視して当選は有り得ないとしても、リーダーとしての国民を引っ張って行く覚悟も必要ではないか。納得のゆく説明がないままTPP問題を放置すれば国際社会の信用は落ちる。

今回の大統領選は何でもありの中傷合戦が続き、「史上最低の選挙」との声も聞かれる。パネル講演会には現在、米国議員経験者協会(FMC)の会長を務めるクリフ・スターンズ氏も講演者として出席。1989年から12期24年間にわたりフロリダ州選出の共和党連邦下院議員を務めた同氏は、モデレーター役の慶応大総合政策学部・中山俊宏教授の質問に対し「現状維持には満足できない中産階級の怒りが、伝統的な候補を支持しない結果につながった。トランプ候補は信頼の置ける候補ではない」と述べた。
 
史上最低の選挙になったのはネガティブキャンペーンで互いの信用が地に落ちるまで攻撃し合う米国大統領選の欠陥なのか、ヒラリー、トランプ両候補の資質に問題があるのか、世界が内向き志向を強め、米国の指導力が試される時期だけに、TPPに関しては世界を納得させる政策論争こそ必要だった。

トランプ候補の常軌を逸した言動、クリントン候補の変わり身の早さなど、さまざまな問題があるが、米国の国内事情ばかりを優先させたのでは覇権国としての威信は保てない。加えて今回の選挙では大統領の威信そのものにも傷がついた。米国は大統領選挙の在り方を改めて見つめ直す時期に来ているような気がする。(了)
福島の甲状腺がん、原因は何なのか? [2016年09月30日(Fri)]

現状を踏まえた分かりやすい議論を
放射線の影響、過剰診断説が交錯


福島で出ている甲状腺がんの原因は何なのかー。9月26、27の両日、「福島における甲状腺課題の解決に向けて」をテーマに内外の専門家、研究者を集め開催された第5回福島国際専門家会議(主催:日本財団)を聞いて、素人の筆者には分からない点がいくつかあった。当の被災者も現状を理解できないまま不安が増幅する結果になっているのではないか。いまさら繰り返すまでもないが、分かりやすい言葉で分かりやすい議論を求めたい。

国際専門家会議は甲状腺課題の解決に向け、事故発生から30年を経たチェルノブイリの教訓を事故5年目の福島に生かすのがテーマで、世界保健機関(WHO)や原子力放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)、国際原子力機関(IAEA)の専門家、ロシア、ウクライナ、ベラルーシ、さらに長崎大学や福島県立医科大の研究者ら24人が参加、フロアにも150人を超す専門家や研究者が詰め掛けた。

まず放射線と甲状腺がんの関係。原発事故に伴って放出された放射能と自然界に常在する放射能、さらに医療現場のレントゲン撮影などで受ける放射能に何ら違いはなく、甲状腺がんは原発事故がなくとも小さい割合ながら発生するという。となるとチェルノブイリ、福島とも事故後の甲状腺がんの発生率に有意な上昇があったか否かが事故の影響を占うポイントとなる。

この点についてチェルノブイリ関係では「6000人が甲状腺手術を受け、これまでに15人が亡くなった」などのデータがあるようだが、広大な被災地域全体を網羅したトータルなデータはないようだ。一方、福島に関しては18歳未満を対象にした福島県立医科大の2回にわたる県民健康調査の結果、4000人を超す人が2次検査の対象となり、さらに細胞診の結果、173人が「悪性ないし悪性疑い」と診断され、134人が甲状腺手術を受けたとされている。

しかしチェルノブイリ、福島とも比較対象となる事故前の発症率に関するデータはなく、県民調査結果をどう見るか、幅広い論争が起きる結果となっている。この点に関する専門家会議の見解は、チェルノブイリ事故では放出された放射線量が高く、小児が一定期間、汚染された牛乳を飲み続けた経過もあって甲状腺がんの発症率の上昇が認められるが、福島の場合は放出線量がわずかで疫学的にも有意差が認められるような発症率の上昇は考えにくい、とする点で、ほぼ一致しているようだ。

それでは福島の数字をどう説明するか、ここで登場するのが“過剰診断”説。小児甲状腺がんの診断は、極めて精度の高い超音波スクリーニング検査で行われており、がんではない小さな結節をがんと見る偽陽性や過剰判断が結果に反映している(スクリーニング効果)といった内容のようで、専門家会議でも韓国の学者から、4ヶ所の原子力発電所の周辺住民を対象に実施した健康調査の結果として同様の見解が示された。

あくまで事故で放出された放射線の影響とする見解と相容れないことになり、専門家会議でもフロアの学者から強い批判意見が出された。「のう胞」や「結節」、さらにそのサイズによる判定など、残念ながら素人の立場には理解し難い内容が多く、Webを検索しても、双方の意見が激しく戦わされている現状は理解できても、どちらが多数説なのかもよく分からない。

もう一点、素人なりに注目したのは、大半の甲状腺がんは進行速度が遅く良性で、前立腺がんなど同様、手術をすることなく一生を終える人も多いとい言われる点。県民調査の結果に関しても、手術を受けた134人中133人は悪性度の低い乳頭がん、残る1人も良性結節だったと報告された。

ということは直ちに手術する必要はなく、成人になるまで様子を見る選択肢もあったということなのだろうか。手術では甲状腺を全部、あるいは半分ほど摘出し、予後に特段のマイナス影響はないそうだが、必要がないのなら体にメスなど入れない方がいいし、手術は過剰治療ということにもなりかねない。

もっとも関係者によると甲状腺がんには稀に悪性度が高い未分化型のがんも含まれており、悪性ではないという保証がない以上、患者が希望すれば手術に踏み切らざるを得ないといった事情もあるという。

こうした話を聞くにつれ、あらためて甲状腺課題の解決の難しさを実感する。大半の被災者は素人であり、何らかの決断を迫られることになれば未知なる放射線に対する恐怖が先行する。まして小児甲状腺がんの場合、決断するのは親であり、子どもの将来に対する危険を少しでも除去するためにも過剰治療に傾きやすい。

原子力発電所の是非をめぐっても、とかくこの世界の議論は賛否両論が二極化する傾向にある。もっと現実を踏まえた中間的な議論があっていいように思う。その中でどこまでが客観的事実であり、どこが推論・意見であるのか、立場を越えた分かりやすい議論こそ、求められている気がする。(了)
| 次へ
検索
検索語句
プロフィール

日本財団 宮崎さんの画像
日本財団 宮崎
プロフィール
ブログ
リンク集
http://blog.canpan.info/miyazaki/index1_0.rdf
http://blog.canpan.info/miyazaki/index2_0.xml