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福永宗億
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「宮城県健康影響に関する有識者会議 報告書」について意見と要望 [2012年03月19日(Mon)]

 わたし達は、この大震災からの復旧・復興を県民の立場から、県民の将来を見据え、日本国憲法のたち場から実現することを強く願うものです。その点からこの「有識者会議の報告書」(以下「報告書」)に関心を持ち検討し、ここに意見を具申し要望事項を提出いたします。
 
「報告書」は低線量被ばくについてICRP勧告や報告・資料を引用し、さらに当地域の線量データ、今回実施された甲状腺エコーやホールボディカウンター検診の結果などから、「科学的・医学的な観点からは、現状では健康への悪影響は考えられず、調査継続の必要性はない」と結論し、今後、放射線に対する正しい知識の普及をしながら、一般健診やがん検診の受診奨励(コールリコールシステムの整備)、生活習慣改善による発がんリスクの軽減、がん登録の整備などを求めています。
 しかし、検討内容を見ると、低線量被ばくや内部被ばくの検討、検診結果の評価について、いくつかの楽観的仮説や推定に基づいた内容が見受けられ不透明性を残しています。
「健康問題について少しでも不確実性が残る場合、追跡調査し検証していく」のが科学的態度であり、そのことによってこそ住民の不安も軽減します。現に、県民の中には、この「報告書」に対しても不安を消すことが出来ず、県の対応に不信感が広がっています。 私たちは、この「報告書」を検討し、私どもの見解を公表し、県当局に対して、県民の健康調査に関する要望を提起いたします。

〔要望事項〕
1)県南部を含め、累積被ばく年間1mSvを超える汚染地域については、少なくとも福島県の健康調査に準じた内容と期間で健康調査を行うこと。すなわち、18歳以下については甲状腺超音波検査を行い、一般健診項目に白血球分類も加えること。 
 2)事故後、福島県から宮城県に避難している方々や宮城県の汚染地域から県外に避難した方々、事情により福島県内汚染地域に滞在した宮城県民についても、同様の検診を保証すること。
 3)県内で被ばくの不安を抱えている子供を持つ親たちがたくさんいます。この不安に応えるために最寄りの保健所での受診や検査を保証すること。県内各保健所に放射線測定器と相談窓口を置くこと。長期的な健康管理については、原爆被爆者医療指定医療機関の活用と指定の拡大を図ること。
 4)今後、外部被ばくの個別評価のため子供のガラスバッジ配布や装着を県の責任で行い、被ばくの低減や、高線量地域の早期発見及び長期モニターリングを行うこと。
 5)高濃度汚染地域においては、内部被ばくの評価のため、ホールボディカウンターや尿中放射能測定などを定期的に行うこと。食品汚染にも対応できる体制を当該保健所の責任で行うこと。広島・長崎の被ばく経験では、長期的には糖尿病、心筋梗塞、慢性肝炎、免疫不全、骨髄異形成なども増加したというデータもあり、住民検診の強化も求められます。

以下、有識者会議「報告書」に対するわたし達の見解です。
1)会議の出発点・位置づけの問題点
第一回目の会議の冒頭から「県民の不安を払拭するため」という位置づけがされておりますが、不安の根拠が何かの分析もなされず、「最初に結論ありき」といわれかねない検討内容です。
2)低線量被ばくの健康影響について
 有識者会議では、低線量被ばくの健康影響について、広島・長崎の被爆者寿命調査、それらを参考にした国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告などを大きな論拠として引用しています。
しかし、100mSv以下の低線量被ばくについては、高線量被ばくと障害の比例関係をそのまま外挿するLNT仮説を中心に、研究者により、閾値仮説、健康に良いという「ホルミシス効果」、よりリスクを高めるという「バイスタンダー効果」まで諸説あり、明示的に確認できないという現状です。しかし、それは「影響がない」ということではなく「明らかになっていない」ということでしかありません。
 しかも、基礎となっているABCCやその後の放射線影響研究所による広島・長崎の被爆者の寿命調査は、間接被ばくや内部被ばくの評価が不十分であること、そのため比較対照群が一定の被ばくを受けている可能性があることなどから国内の研究者からも健康被害が過小評価されているという批判があります。
 また、ICRPは核保有国や原発推進国の資金や研究者の影響が強く、内部被ばくを重視していないなど被ばくと健康に関する科学的中立性は必ずしも担保されていません。WHOも同様に政治的背景による制約を免れません。
 有識者会議が「科学的・医学的観点」を語るのであれば、低線量被ばくや内部被ばくについて厳しい指摘をしている欧州放射線リスク委員会(ECRR)や内部被ばくを重視する国内外の研究者の資料や論文も全面的に検討すべきです。
3)チェルノブイリの調査と甲状腺がんについて
 チェルノブイリ原発事故による子供の甲状腺がんの増加の事実を否定する研究者は、今はほとんどいません(ICRPは検査精度向上のためと主張し最初は認めなかった)が、有識者会議では、「汚染された牛乳摂取が主要因で内陸部ではヨウ素摂取が少なかったためで、日本では海藻からヨウ素摂取が大きいのでリスクは相当低いと考えられる」と楽観的推論を展開しつつ、甲状腺エコーで64人中12人に結節が認められた件について「微小甲状腺がんは普通でもよく見つかる」「甲状腺がんと被ばく線量との関係を論じるのは難しい」というあいまいな論理展開になっています。これは、私たち素人が読んでも理解に苦しむ説明で、ここにも「たぶん大丈夫」を押し付ける姿勢が見受けられます。
 福島原発事故直後、警告もないまま、県境付近の丸森地域の住民は無防備に被ばくを受けています。放射性ヨウ素は半減期が短く、数ヶ月も後になってその被ばく量を正確に把握するのは困難です。チェルノブイリの経験から甲状腺癌は事故の数年後から多発してきています。このような事実に対し、被ばくから9か月後の1回の健診で「心配ない」という結論についてはとても住民の納得は得られないと思います。
 なお、有識者会議は、「WHOや国連によれば、チェルノブイリ原発事故では、25年を経ても甲状腺がん以外の固形がんや白血病は統計的に示すことができるほどの増加は確認されていない。」と一方の主張を引用していますが、ECRRなどは相反する調査結果を提出しています。
4)ほかの発がんリスクの相対化について
 原発事故による被ばくについては、報告書の多くを割いて、自然放射能、医療被ばく、喫煙などの生活習慣による発がんリスクと相対化し、影響は軽微であるから「心配ない」という論理を展開しています。この説明は、原発事故当初から政府側の広報でさかんに使用されていますが、この論理は、責任のすり替えであり、国民的な納得は得られません。
 さらに、耕野地区4.1mSv/年、筆甫地区2.8mSv/年の外部被ばく推定値を出しながら、「ICRPのLNTモデルを用いても、年間5mSvの過剰死亡率は、我が国の死亡原因の30%を超えるがん死亡全体の中では僅かで、検出不可能と考えられる」と「軽微安心論」を持ち出しています。
被ばくによる過剰死亡率に関して、「累積100mSvの過剰被ばくで、0.5%の過剰発がん死」は、一般的に引用され、0.5%以下を軽微であることの代名詞のように使われます。しかし、200万福島県民が生涯100mSvの累積被ばくをすれば、生涯で1万人が過剰発がん死に見舞われることであり、その10分の1の10mSvとしてもLNT仮説に基づけば1千人が「罹患するはずでなかった癌で死亡する」ことであり決して是認できる問題ではありません。
耕野地区(4.1mSv/年)、筆甫地区(2.8mSv/年)に、このまま30年以上住み続ければ累積被ばくは100mSvは超過する可能性があり、しかもその線量は外部被ばくの積算であり、より深刻とされる内部被ばくについては考慮されていません。
自然放射能は地球上の生命が不可抗力的に背負ってきたものであり、医用放射線は益と不益を勘案しながら同意のもとで受けるものであり、喫煙などの生活習慣は自らの選択責任に依存します。しかし原発事故による被ばくは、かつての水俣や大気汚染公害と同様、なんら非のない住民に強制された害毒であり、それを被害の量的な問題にすり替え、矮小化する説明は倫理的に許されません。
5)ホールボディカウンターと内部被ばくについて
 健診で使用されたホールボディカウンターは、セシウムなどガンマ線を放出する核種の内部被ばくを検出するものであり、ストロンチウムやプルトニウムなどベータ線やアルファ線核種は検出できず、内部被ばくの一面的な評価しかできません。また、半減期の短い放射性ヨウ素の初期内部被ばくについては、数か月以上も経過してからでは、全く評価できません。
 従って、今回の「ホールボディカウンターで検出感度以下=内部被ばくはなかった=心配ない」とはなりません。
しかも、除染しない限り今後とも汚染地域では環境中に放射性物質は存在し、雨風や食物連鎖の中で再循環し、呼吸や食物を通して体内に入り込む可能性は続きます。そのような環境下では内部被ばくについても継続的な監視が必要になります。
6)検診の勧めと発がんリスクファクターの低減について
 これは、従来から言われてきたことであり、広範囲の住民被ばくという事態の中で、住民検診を徹底することについて全く異議はありません。むしろ、検診による早期発見体制や発がんリスク低減のための生活習慣改善運動は、今まで以上に費用や制度面で充実し、受けやすい仕組みにする必要があります。特に宮城県は、長年の先進的なかつ地道な「がん登録」の活動の実績があり、今後も全県的協力の下に「がん発生」の疫学的調査を充実させ、県民の健康管理に生かされることをのぞむものです。
 しかし一方、従来の検診制度だけでは、高濃度被ばく地域の健康調査は補完できません。特に感受性の高い若年被ばく者の丁寧な定期健康調査は特別な体制を組むべきと考えます。
 なお、被ばくと健康障害については、発がんを中心に議論されていますが、広島・長崎の被爆者寿命調査から、晩発性障害として、がんだけでなく糖尿病、心筋梗塞、慢性肝炎、免疫不全、骨髄異形成なども増加しているデータがあり、長期的な追跡調査が必要になります。この点も含め従来の健診活動の更なる充実を求めるものです。