(016)残高より「変動」
[2009年04月04日(Sat)]
(最終更新:2011/12)
★目次に戻る
■残高より「変動」に着目する★目次に戻る
B/Sは「財政状態」を示しますが、あくまで「一定時点」の状態です。
さまざまな経営の意思決定によって変動します。
私たちの会社は「継続する企業」です。
静止状態の安全性分析もそれなりに意味があるメーターですが、「変動」にも着目しましょう。
たとえば、2期間のB/Sの残高を比較することによって
まず、B/Sの合計(総額)の変動から、事業活動に投じているお金の増減変動(額)を把握します。
それに対して、2つのなぜ?が生まれてくるはずです。
@ なぜそれだけのお金を必要とした(▲の場合は必要としなくなった)のか?
A それだけのお金をどのように調達した(▲の場合は減らした)のか?
@は資金ニーズ(使途)に対するなぜ?ですから、B/Sの左側の変動の内容を確認します。
一方、Aは資金の調達に対するなぜ?ですから、B/Sの右側の変動の内容を確認します。
安全性分析のメーターが上がった下がったと論じるよりも、ずっと値打ちがあります。
実は、B/Sの「変動」に着目するということは、
「キャッシュフロー」を診ていることにほかならないのです。
■左右それぞれの「変動」を診る
下記のグラフは、A社のB/Sの右側の変動です。(構成比をそのままに金額は変更しています)
(通常はB/Sに表示されない「割引手形」の期末残高を加えています)
A社は中小企業(製造業)です。しかも、ハイテク産業ではなく、むしろローテクで安い海外製品との競争で片隅に押しやられている厳しい業界。その中で、社長のAさんは、どうすれば生き残れるか、いつも考えておられます。(決して悩んでおられません、常に考えておられます)
一番左が、Aさんが社長を引き継いだ時のB/Sの右側です。この時、決算書の見方を学ぶために中小企業大学校で私の研修に参加されました。
それから数年経って、別の研修で久しぶりに再会。過去の決算書を見せていただいたらビックリ、華麗なる変身に感動しました。それが上のグラフです。
@総資本(自己資本+他人資本)が年々減少
なぜ減少したかは、B/Sの左側の変動を診れば一目瞭然です。
いわゆる「財務リストラ」はなく、将来に向けた設備投資も着実に実施しておられます。
筋肉質の経営を目指して効率化の徹底に取り組まれ、甘かった資金管理も見直されました。
いわゆる「財務リストラ」はなく、将来に向けた設備投資も着実に実施しておられます。
筋肉質の経営を目指して効率化の徹底に取り組まれ、甘かった資金管理も見直されました。
A自己資本は年々増加
この間、増資はありません。
自己資本(自分のお金)の積み上げは、すべて毎年の「利益」の積み重ねです。
自己資本(自分のお金)の積み上げは、すべて毎年の「利益」の積み重ねです。
B総資本は減っているのに、自己資本は増加
結果として「自己資本比率」は飛躍的に向上しています。
A社長の目標は「自分の金で経営する」、自己資本比率50%を目指しておられます。
A社長の目標は「自分の金で経営する」、自己資本比率50%を目指しておられます。
C手形の割引をゼロに
かつては回収した手形を銀行で割り引いて資金繰りに充てていましたが、
資金管理の徹底により2年がかりで手形の割引をゼロに。そのための一時借入も返済。
A社長の次の目標は、支払手形(仕入債務の3/4を占める)をゼロにすることです。
資金管理の徹底により2年がかりで手形の割引をゼロに。そのための一時借入も返済。
A社長の次の目標は、支払手形(仕入債務の3/4を占める)をゼロにすることです。
A社長の素晴らしい点は、過去の決算書を分析しながら、常に次の「課題」を考えておられること。
本来はそのための分析のはずですが、「メーターの算出」や「反省」だけで終わる方が多いです。
研修で学ばれたことを、しっかりと「自分のもの」にして自らの実務に活かす――見事です。
■決算書は「結果」
グラフに示されたA社のB/Sの変動は「結果」です。
もしA社長が、今までどおりのやり方や別のやり方をされていたら、結果は違っていました。
「結果」を評価するのではなく、どう取り組んだのか(プロセス)を確認することが大事です。
結果が良いか悪いかは関係ありません。むしろ失敗や問題の方が色々と学べます。
求める「結果」を得るためには、プロセスの選択を誤るわけにはいきません。
A社長は常に真剣に考えておられたので、問題の本質を見極め、正しいプロセスを選択できました
B/Sの変動がこのようなグラフになるのは必然のことです。