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フィリピン・ミンダナオ島でのバンサモロ自治政府発足に向けての住民投票の開始[2019年01月22日(Tue)]
 フィリピンにおけるイスラム教徒の歴史は、人口の90%を占めるキリスト教徒よりも長く、16世紀にスペインの植民者が来訪した際、イスラム教徒をスペイン語のMoor人を由来としてモロ人(Moros)と呼んだとされる。以来モロ人たちは、マニラの支配に反発し、「モロ人の国」を意味するバンサモロ(Bangsamoro)の独立、あるいは自治確保のために、中央政府に抵抗してきた。過去半世紀を振り返れば、人々が貧困、失業、政治的・経済的周縁化に直面したミンダナオ島では、政府軍と反体制側イスラム武装勢力あるいは共産主義者グループとが流血の衝突と暫定的な和平が繰り返されてきた。
 2018年7月26日、長らくミンダナオ島ダバオ市で市長を務めた経験を有するドゥテルテ・フィリピン大統領は、イスラム教徒による自治政府樹立を認める「バンサモロ基本法」に署名し、同法が成立した。2017年5月には、ISISに忠誠を誓ったアブ・サヤフ・グループやマウテ・グループがミンダナオ島南部マラウィ市を占拠し、ドゥテルテ政権は、同年10月17日にマラウィ市解放を宣言したが、イスラム過激派を抑え込むためにも、モロ民族解放戦線(MNLF)から分離したモロ・イスラム解放戦線(MILF)を中心とする穏健派と手を結び、ミンダナオ島の発展を支援する必要があるとの確信を強めたものとみられる。
 2019年1月21日、バンサモロ基本法に基づき、同法の施行と関係自治体のバンサモロ自治地域加入の是非を問う住民投票がコタバト市、イザベラ市で開始された。今回の投票でバンサモロ自治政府創設が承認されれば、2月6日には北ラナオ、コタバト両州の一部で第2回目の投票が行われ、自治政府の最終的な領域が確定する。
 自治政府は、移行期間を経て2022年に正式発足する見込み。ミンダナオ島に設立されるバンサモロ自治政府には高度な自治が認められ、予算の立案や執行権を有する。自治政府発足の暁には、同自治政府は、自治区域内で徴収された税金の75%を受け取る(25%は中央政府へ)ことになり、フィリピンの経済的発展から大きく取り残され貧困状態におかれたミンダナオ島開発のきっかけになることが期待されている。また、バンサモロ地域内のイスラム教徒に対してはシャリア(イスラム法)に基づく司法が適用される予定。コタバトとイザベラ市は、現在のイスラム教徒自治区(ARMM)を構成する5州に含まれておらず、賛成多数であれば、バンサモロ自治政府発足の可能性が極めて高くなる。キリスト教徒多数のフィリピンで、イスラム教徒は全人口の約5%程度であり、今回住民投票が実施されたコタバト市でもイスラム教徒以外が約3割を占めるといわれ、キリスト教徒等の不安やMILFに従わないイスラム教徒の反発も予想されたが、非公式の速報では、バンサモロ自治地域参加賛成が多数を占めたと報じられた。
 今回の自治政府発足に向けてのプロセスは、フィリピン政府を代表するドゥテルテ大統領とミンダナオ最大の組織であるMILFを代表するアル・ハッジ・ムラード議長が手を握ったことにより、本格的に動き出した。バンサモロ自治政府の成功は、当研究会が注目している国を支配する多数派と独特のアイデンティティを有する少数派の共存のモデルになることが期待され、今後の展開が大いに注目される。

Posted by 八木 at 16:55 | 情報共有 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)