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海洋汚染情報 −海の事件簿−
海上で起きた重大な汚染事件・事故について、独自の視点から鋭くメスを入れ、分析・解説する”海の社会部デスク”、その名も”元海の男”、職業”(さすらい派)研究員”による海の事件簿。
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『★第58寿和丸転覆海難、海難原因を大胆推測(その15)!★』[2008年08月18日(月)]
6月23日午後、千葉県・犬吠崎の沖合の太平洋上で、福島県・いわき市の巻き網網漁船“第58寿和(すわ)丸(135トン)”が転覆し後に沈没、死者・行方不明者が出た海難の続報です。

報道によると、先週の木曜日(8月14日)、横浜地方海難審判理事所は、静岡県・沼津市の戸田漁港で、第58寿和丸と類似した他の漁船を使った調査を実施したとのことです。

調査に参加したのは理事官ら6人、第58寿和丸とほぼ同船型の巻網漁船H丸を借り受け、巻網の重量や保管場所、船体構造などについて調査したとのことです。

無論、類似しているとはいえ、所詮は別の漁船、しかも、第58寿和丸の遭難時の状況を再現させることもままなりません。したがって、巻網漁船の一般的な構造等を把握し、今後の原因究明の基礎資料にする程度の調査かと思われます。

私も機会があれば、一度見ておきたいと思っていました。先を越されてしまいましたが、今後、チャレンジしたいと思っています。

さて、第58寿和丸の事故の原因について、私は以下のように推測しました。

「“第58寿和丸”はパラシュートアンカーを投入し、荒天避泊していた。船首からは55ミリの丈夫なロープが繰り出されていた。

現場海域のうねりが“第58寿和丸”のほぼ正面方向から押し寄せ、かつ、その周期が船の長さ約38メートルに“ドンピシャ”と整合しているような状況下、短時間とはいえ、周期が短く(数秒程度)、かつ、比較的波高の高い(4メートル程度)風浪が一時的に発生し、その方向は船首右寄りからだった。

うねりの山が“第58寿和丸”の船首楼を通過し、船首が下に沈みこもうとした瞬間、短く鋭く切り立った風浪が続けて二発、船首右舷方向から襲ってきた。

エンジンをかけて航行中、あるいは、単に漂流中であったならば、軽いパンチング(船首・尾部が波によって下から衝撃を受ける現象)に見舞われた程度で、難なくかわしていたであろう。

しかし、このロープが、船首部分の波による上下動を阻害する役割を果たしてしまった。船首の下からの持ち上げに対し、ロープは引っ張られ伸びたが切れることはなかった。むしろ、切れてしまえば、この参事は起きなかったであろう。

船首部分、船首楼の後縁直下、右舷側の船底部分を下から襲ったパンチングは、応力を一箇所に集中させ、一発目で船底外板に亀裂を発生せしめ、二発目でその亀裂が増大、広範な破壊へと至らせた。二区画以上に及ぶ水密区画が破られ、海水が一気に船内に浸入した。」

すなわち、直接の原因は波の衝撃に伴う船体損傷による浸水としながらも、損傷を受けた理由として、パラシュートアンカーが船首部の運動を阻害したことに起因するものとしました。

パラシュートアンカーとは、正確には、抵抗体の形をパラシュート状にしたシーアンカーのことを指します。

漁船が洋上で荒天に遭遇した際、シーアンカーを使用して避泊(正確には“漂躊(ひょうちゅう))する対処方法は、海事関係者などの間では、古くからポピュラーな運用術の一つとして認められてきました。

昭和40年10月7日に発生した、マリアナ沖漁船集団海難(207名死亡)を契機に、緊急時におけるその有効活用に期待が寄せられました。

こうしたことから、昭和40年代前半、使用時の船体の動き、船の大きさに適した抵抗体の面積、安全な展張方法など、シーアンカーに関する様々な調査研究が行なわれ、その成果は使用にあたっての指針として現在に受け継がれています。

実際問題、シーアンカーを使用した漂躊中の漁船の海難は、極めて珍しいと言えます。にもかかわらず、今回発生してしまった第58寿和丸の悲劇は、偶然が重なった、めったに起きない“例外”として片付け、果たして良いのでしょうか。

私はシーアンカーに関する調査研究が盛んに行なわれた、昭和40年代当時の調査研究報告書や論文などを集め、改めて読み直してみました。

するとあることに気付きました。抵抗体をどの位の大きさにすれば、どのような形状にすれば、船の大きさに適した漂躊効果が得られるのか、あるいは、安全に展張するためにはどうすればよいのか、こうした課題についての研究は十分なされています。

しかし、漂躊時の船体運動に関する解析が十分ではなかったのです。当時、今のように、数値シミュレーション等の解析技術が発達していませんでした。そのため、シーアンカー使用後における風浪等の影響に伴う船体運動についての解析は、十分行なわれていなかったのです。

当時の論文の一つには、この点を今後の課題として挙げてありました。また、報告書の一つには、シーアンカーによる荒天漂躊は、あくまでも緊急避難的手法であり、余裕があれば、他の海域や港に避難することがベストな方法だとする記述もありました。

どうやら、当時の研究は、緊急避難的手法としての有効性を検証したにとどまり、漂躊後の安全性の検証、すなわち、船体運動に伴う次の危険に関しては、十分な解析ができていなかった(できなかった)のが真相のようです。

こうしたことから、今回の第58寿和丸の海難は、当時の技術では解析し切れなかった何らかの事象が偶発的に起こった可能性も否定できません。

皆さんご存知のとおり、今般、漁船の燃料費の高騰が漁業経営の根幹を圧迫している現状に対し、政府は値上がり分の大半を事実上、直接補填する方針を決めました。

具体的には、燃料の消費量を通常より1割以上削減する省エネ努力を行なった漁業者グループに対し、燃料費の値上がり分の9割に相当する金額を負担することとしています。

今後、漁船に対し、ますます省エネ対策の推進が求められる中、少々の荒天に際しては、港に戻ることなく、シーアンカーを使用して現場海域で漂躊する漁船のニーズがますます増えることが予想されます。

私は、シーアンカーを使用した漂躊の安全性について、最新の知見を持って再検証する必要があると思います。



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