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海洋汚染情報 −海の事件簿−
海上で起きた重大な汚染事件・事故について、独自の視点から鋭くメスを入れ、分析・解説する”海の社会部デスク”、その名も”元海の男”、職業”(さすらい派)研究員”による海の事件簿。
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『★日本のボランティア活動が衰退する?★』[2007年11月29日(木)]
昨日のブログでは、愛媛県・宇和島市の大内漁港で今年3月、迷いクジラの曳航救出作業中、クジラが暴れ出し漁船が転覆、男性1人が海中転落し死亡した事件の続報をお伝えしました。

さる10月4日、宇和島海上保安部が、転覆した漁船に同乗していた別の男性を業務上過失致死容疑で書類送検したことに対し、地元ではこれまでに、処分の減免を求める約8300人の署名が集まりました。

この男性は、「(行政側に)手伝ってほしいと言われ、助けになればと思って善意で協力した。」と述べていると報じられています。

すなわち、行政に懇願され、ボランティアとして参加したにもかかわらず、刑事責任の嫌疑がかけられたこととなり、この点が今回の事件の最大の特異性です。

しかも、関係行政機関がともに作業に参加したにもかかわらず、この男性だけが責任対象となり、行政側の責任は不問とされたことから、地元住民らの不満が噴出しています。

曳航中の生命体は、不規則に動き出す可能性が常にあることから、今回の事故の発生は予測不能ないわば不可抗力であり、業務上過失致死容疑を彼にかけることは適切ではない、というのが現在の私の考えです。

水産庁が発行した「鯨類座礁対処マニュアル」を紐解く限り、今回の事件のような迷いクジラの救出にあたっては、市町村が現地対策本部を設置して、その首長たる市町村長が責任者となり対応にあたり、必要に応じて地元の警察署や海上保安部、都道府県や水産試験場、民間の専門家や漁業者らが、支援・協力・指導することとしています。

しかし、今回の事件では、当時の報道を見る限り、関係機関の合議のもと、曳航による救出法、すなわち実力行使がとられたようです。

曰く、「はじめは、金属による忌避音を出すなどして漁港外に誘い出そうとしたが、うまく行かなかった。

その後、宇和島市、愛媛県宇和島地方局、宇和島海上保安部、地元漁協などが対策を協議し、県の総合科学博物館の学芸員の助言によって、漁船による曳航救出作業がなされることとなった。」とされています。

水産庁のマニュアルでは、クジラの救出にあたり、最終意思決定を含め、責任の所在が明確化されています。すなわち、市町村の首長です。今回の事件では、専門家の助言に基づき、関係機関による合議によって曳航救助が決定されたとはいえ、最終的な行政側の責任は、マニュアルに従う限り、宇和島市長にあると見るのが正しいかと思います。

末端の、しかもボランティアとして参加した一人の漁業者だけに、刑事責任のすべてを問うのは、地元住民ならずとも、首を傾げざるを得ません。

仮に、契約内容にもよりますが、宇和島市と何らかの契約を結び、金銭の支払いを条件に、クジラの救出作業を請け負った事業者であるならば、当該作業に係る責任は当該事業者が負うとされても致し方ないでしょう。

しかし、報道されているような、「(行政側に)手伝ってほしいと言われ、助けになればと思って善意で協力した。」という彼の話が正しければ、彼は行政に乞われて参加した、善意の一ボランティアにほかなりません。

行政の手伝いを行ない、何か事故があったならば、たとえ不可抗力と言えども、その刑事責任はすべてボランティアに帰属すると言う風潮が蔓延するようなことがあれば、我が国のボランティア活動は一気に衰退してしまう可能性があります。

今回のように大型鯨類に限らず、小型の鯨類が海岸に乗り揚げている場合にあっても、「ボランティアの自己責任のもとに救出活動に参加すべし。何かあったら、刑事責任を問われるが、それでも良いか?」などと行政側の見解が示されれば、誰もが作業参加に躊躇するはずです。

ところで、私が専門の一つとする、流出油災害時の海岸清掃ボランティアに関しては、「油等汚染事件への準備及び対応のための国家的な緊急時計画(通称:国家緊急時計画)」の中で、以下のように述べられています。

「関係行政機関、地方公共団体並びに港湾、漁港、河川及び海岸の管理者等は、必要に応じ、協力して、漂着した排出油等の除去のための措置を実施する。

この場合において、必要な措置を、地元住民、ボランティア等の協力を得て実施する機関等は、第7節の健康安全管理のための体制整備のほか、円滑な防除作業が実施されるよう必要な支援体制の整備に努める。」

つまり、国家緊急時計画では、関係行政機関に対し、ボランティアの健康や安全の管理や、支援体制の整備を、しっかりと求めているのです。ボランティア活動に対する、関係行政機関の役割を明確にしているわけです。

いわば、行政が本来行なうべきボランティア活動に対する行政の役割に関しては、これが正論のはずです。

さらに言わせてもらえば、落水者らが救命胴衣を使用していなかったことに関し、関係行政機関を含め、救出現場にいた誰もが指摘しなかったことも、重大な落ち度です。国家緊急時計画では、「ボランティアの健康や安全の管理に対し、十分手を尽くさなかった。」ことを意味します。

こうしたことから、今回の事件に関し、彼だけに責任を問うのは重大な誤りだと思います。




『★四国の事件・事故あれこれ★』[2007年11月28日(水)]
香川県・坂出市で、幼い姉妹と祖母が行方不明になっている事件で、昨日、急展開が見られました。被疑者として祖母の義弟が逮捕されたのでした。

義弟と祖母の間には、金銭トラブルがあったと報じられています。今回の逮捕劇により、事件の全容解明も間近と思われます。

私の職場でも職員同士、しばしば、この事件が話題に上っていました。謎だらけの事件だけに、素人探偵の興味を引き立てることは、ある意味致し方ないのかもしれません。香川県警は面目が保て、まずは一安心といったところなのでしょうか。

香川県警と言えば、県警のトップ、本部長のY・N君と私は、小・中学校の9年間、ずっと同じ学校で過ごした幼馴染です。

勉強ができることは無論のこと、スポーツ万能で“ひょうきん者”、男性でありながら、「ナオヨ」という可愛らしい渾名だったY君の当時の姿が、今でも脳裏に浮かびます。

たまたま、今回の事件が発覚した翌日、11月17日、都内某所で、小・中学校合同の同窓会が久々に催されました。卒業生が今年50歳を迎えることを記念した会合でした。

いつも以上に大勢の同窓生や当時の担任の先生方が、都内のみならず、全国各地から参集しました。無論、Y君の姿は見られず、皆で残念がり、かつ、心配していたところでした。今回の被疑者逮捕で、彼の肩の荷も少しは下りたことでしょう。

さて、同じ四国の愛媛県・宇和島市の大内漁港で今年3月、クジラの救出作業中に漁船が転覆、男性1人が海中転落し死亡した事件の続報です。

本日のS新聞は、この事件に関し、宇和島海上保安部が同乗の別の男性を業務上過失致死容疑で書類送検したことに対し、地元ではこれまでに、処分の減免を求める約8300人の署名が集まったことを伝えています。

嫌疑をかけられた男性は、「(行政側に)手伝ってほしいと言われ、助けになればと思って善意で協力した。」と述べていると伝えられています。すなわち、「行政に懇願され、ボランティアとして参加したにもかかわらず、刑事責任の嫌疑がかけられとは納得できない。」と言うのが、彼の本心と思われます。

一方、海上保安部側は、「“船をクジラの尻尾に近づけない”との注意を守らなかったことや、独断でロープのかけ方を変更したことが“過失”にあたり、その結果、クジラが暴れ出す状況が生じた。」と結論づけ、行政側の責任については不問としたと報じられています。

これに対し、地元住民らからは「なぜ行政の責任が問われないのか。行政に責任がないならば、彼にも責任はないはず。」との不満が噴出したと報じられ、その結果が減免署名に結びついたものと思われます。

この事件は、当時、本ブログでも何度もお伝えしました。事故発生時の映像を見る限り、事故はクジラの尻尾付近ではなく、頭部で起きたと私は認識しています。彼らは尻尾には注意を払い、曳航ロープも尾ビレではなく、胸ビレに掛けていたと見て取れます。

「最初は、クジラが頭部を水中に潜り込ませたことにより、曳航ロープを介してつながっていた小型漁船が急激に水中に引き込まれそうになり、二人が落水、続いて、今度はクジラが水面上に頭部を持ち上げたことにより、当該頭部が小型漁船の左舷後部が大きく持ち上がり、残りの一人が落水、小型漁船もそのまま転覆した。」というのが、当時の私の見解でした。

海上保安部側が、「“船をクジラの尻尾に近づけない”との注意を守らなかった。」とする点は、どのような状況を言うのか、今回の報道だけでは釈然としません。

水産庁が発行した「鯨類座礁対処マニュアル」では、確かに尻尾付近は危険とされていることから、転覆した漁船以外の他の漁船も、尻尾付近を避けた陣容でクジラを取り囲み、救助曳航を開始したように見て取れたのですが、違うのでしょうか。

曳航中の生命体は、不規則に動き出す可能性があり、それは凶器以外の何ものでもありません。はじめから人命の危険性が潜在するのです。

私は当時、「特に大型の鯨類の救出に関し、もう一度原点に返り、クジラ・人間の相互にとって極めて安全な方法を検討しなおすべきだと思う。」と述べ、「おそらくそのままほっておくことが、最善の選択肢であったような気がしてならない。」とも述べました。

また、落水者らが救命胴衣を使用していなかったことに関し、「“相手は20トンのクジラだ。念のため、救命胴衣を着けておこう”と、現場にいた誰かが提案していればと思うと、残念でたまらない。」とも述べました。

マニュアル見直しなどの話への発展を期待してブログを書いたのですが、業務上過失致死容疑は私も意外な気がしました。

最期の瞬間まで自然を愛し、宇和島の海の恩恵に感謝し、慈愛と勇気にあふれた行動を貫き続け、不幸にも尊い命を亡くされた犠牲者のYさん、彼が同僚を処罰することを望んでいるとは到底考えられません。Yさんのご冥福を、改めて心からお祈り申し上げます。



『★クジラと米海軍の仁義なき戦い?★』[2007年09月07日(金)]
このところ、米海軍が対潜哨戒(潜水艦に対する警戒)などを目的に使用しているソナー(音波探知機)に関し、米国と我が国で、類似したニュースが飛び込んできています。

まず、8月31日、米国・カリフォルニア州・高等裁判所は、米海軍の演習でのソナー使用について、これを認めるとする判決を言い渡しました。

米国の環境保護団体が、米海軍が演習時に使用するソナーの音波が、クジラなどの生態系に危害を及ぼす可能性があるとして提訴していたものです。

どうやら、ソナーに使用している音波帯が、クジラがコミュニケーションのために使用している音波帯と類似しているため、クジラが誤って浅瀬に乗り上げる(ストランディング)原因ともなり、生態系に悪影響を与えると言うのが環境保護団体の主張のようです。

なお、8月7日、下級審であるカリフォルニア州・地方裁判所は、環境保護団体の主張をほぼ全面的に認め、米国海軍がカリフォルニア州沖で実施す演習において、ソナーの使用を禁止する旨の仮処分を下していました。今回のカリフォルニア州・高等裁判所の判断は、下級審の判断を覆す結果となりました。

報道によると高等裁判所の判事は、「我が国は現在、二国間と戦争を継続中である。クジラの安全もさることながら、国家安全保障を優先すべきだ。」と述べたそうです。

なお、この環境保護団体は2002年にも、米海軍のソナー使用に関し、やはり、クジラなどの生態系に危害を及ぼす可能性がるとして、カリフォルニア州・地方裁判所に提訴しています。

この時の提訴内容は、米海軍の特に低周波を使用したソナーが、大型クジラの生態系に影響を及ぼすとしたもので、世界全域での使用禁止を求めたものでした。

翌年(2003年)、この提訴に関し、米海軍と環境保護団体は、日本周辺海域に限定し低周波ソナーを使用する、ということで合意に達しています。

なぜ日本周辺海域なのでしょうか。言うまでもなく、日本周辺海域には各国の潜水艦が入り乱れ存在し、米海軍にとって対潜哨戒戦略上、外すことができない最重点海域であるからです。

他の海域での使用については環境保護団体に譲歩しても、日本周辺海域は例外であると言うことなのです。とりあえず、5年間は日本周辺海域での使用のみを認め、その後は米国・海洋水産局の判断に委ねられるというのが合意内容だったはずです。

こうした中、一昨日(9月5日)、日本周辺海域を例外として使用されてきた低周波ソナーに関し、米国・海洋水産局がさらに5年間の使用延長を認める決定を下し、米海軍に言い渡した旨が報じられました。

現在、低周波ソナーを装備した米海軍の対潜哨戒艦船は、日本周辺海域に2隻投入されていて、今後新たに1隻が加わるとのことです。こうした米国の対潜哨戒能力の強化策は、言うまでもなく近隣某国の海軍力の増強を視野に入れたものです。

安全保障を優先すべきなのか、はたまた、野生動物の保護を優先すべきなのか、米海軍対クジラの仁義なき戦いは今後も続くものと予想されますが、片方の当事者であるクジラは、そんなこと知る由もありません。

なお、米海軍はソナーの音波の生態系への影響について、「科学的根拠に乏しい。現に西太平洋地域での過去5年間の使用にあたり、クジラなどに影響を与えた形跡は一切ない。低周波ソナーと生態系の共存は確認している。」などと、以前からの主張を繰り返しているとのことです。

クジラと船との衝突問題でも、以前お伝えしたかもしれませんが、クジラの生態に関する知見はまだまだ不足しています。ストランディング(クジラが誤って浅瀬に乗り上げる現象)一つにしても、その原因については、様々な推測がなされています。

科学的視野に立ったメカニズムの分析など、その知見を十分養った上で、人間と野生動物の共存のため、必要な対策を主張する冷静な対応も必要な気がします。そうでないと、本当の原因が解明されないまま、野生動物の被害だけが継続することにもなりかねないのではないでしょうか。


 
『★クジラかフェリーか、ハワイでの確執★』[2007年08月30日(木)]
ハワイへは学生時代、帆船海王丸の遠洋航海で寄港して以来、一度も訪れたことがありません。先日、“上等兵(中一の上の娘)”が、「お父さんの子どもの頃の写真が見たい。」と言い出し、“下士官(私の妻)”と一緒に、古いアルバムの入った段ボール箱の中を探し始めました。

良からぬ写真でも出てきたら、教育上好ましくないので、しかたなく、私も立ち会いました。一冊のアルバムの中から、私が学生時代のハワイ寄港時の懐かしい写真が飛び出してきました。

日系人主催の“お祭り”に飛び入り参加し、神輿を担いで街中を練り歩いたこと。隣り合わせで停泊していた米国の軍艦に他流試合を申し込み、ラグビーでは完敗、ソフトボールでは惜負したものの、最後の相撲トーナメントでは、決勝戦で巨漢の水兵をかろうじて叩き込みで破り、私が優勝したこと。日系人のパーティーに招かれ、「憧れのハワイ航路」を熱唱したことなど、まるで昨日のことのように懐かしく思い出しました。

一昨年、年の離れた従姉妹が、ハワイで親戚だけを招いて挙式した時が、もう一度訪れる最大のチャンスだったのですが、あいにく、仕事のスケジュールが立て込み、参加することは叶いませんでした。

さて、オアフ島、ハワイ島、カウアイ島などで構成されるハワイ諸島ですが、島間の移動は航空機がメインであり、今まで定期フェリーボートは就航していなかったようです。意外でした。

先日(8月26日)、オアフ島とハワイ各島とを結ぶ初のフェリーが就航しました。飛行機と比較して時間がかかるのはやむを得ないのですが、就航記念サービスとして、期間限定ながら乗船料をわずか5ドル(600円)に設定したこともあり人気が沸騰、乗船券はあっという間に完売したそうです。

料金設定もさることながら、このフェリーの最大の“セールスポイント”は、「運がよければ航海の途中、ホエ−ル・ウオッチングが楽しめます。」なのです。しかし、このフェリー、セールスポイントであるはずのクジラが原因で、わずか二日で一部の便が運休に追い込まれてしまいました。

報道によると、このフェリーの就航に伴いカウアイ島では、クジラとの衝突などを懸念する地元住民や環境保護団体による激しい抗議行動が海陸から繰り返され、11人もの逮捕者が出る騒ぎへと発展したそうです。

この混乱を見かねた運航会社は、安全上の理由により、カウアイ島への便の休止を発表したそうです。

本ブログでも取り上げてきたとおり、近年、日本では、高速船とクジラとの衝突に伴う乗客の負傷例が後を絶ちません。一方、フェリーのような中速船による衝突事例は報道されていません。

少なくともクジラの乱獲が進む前には、中速船どころか、のろのろと進む低速船とクジラが衝突する事例も、決して珍しいことではなかったようです。

事実、私が入社した1980年頃、古手の船員の何人かから、低速船でクジラと衝突した体験談を聞いたことがありました。

クジラの乱獲が進む前の大昔の話と思っていましたが、最近、若手の船員からも同様の衝突事例を聞いいたことがあります。

公的機関に報告されないのは、高速船と違い船体損傷や負傷者などを伴わないためで、最近、中・低速船とクジラとの衝突事例も着実に増えているのではないかと言うのが私の推測です。

個体数がより豊富なハワイ沿岸で、中・低速船とクジラとの衝突を危惧する環境保護団体らの気持ちもわからないではないです。

しかし、個体数が多い結果、障害物との回避動作が緩慢な、何らかの障害を持った個体も増え、それらが衝突に巻き込まれるなど、科学的視野に立ったメカニズムの分析を行なった上で、必要な対策を主張する冷静な対応も必要な気がします。


『★講演の余韻と相次ぐ高速船の重大事故★』[2007年05月21日(月)]
一昨日の土曜日(5月19日)、私は茨城県の神栖市に日帰り出張に行ってきました。同市に所在するM建設で行なわれた社内安全大会の講師として招かれたからです。

M建設は昨年8月14日、所有するクレーン付台船が旧江戸川を航行中、上空を横断していた高圧送電線に誤って接触、これを損傷させ首都圏を大規模停電のパニックに陥れるという大きな事故を起こした会社です。

事故自体は単純なヒューマンエラーによって引き起こされたものでした。当然のことながら、M建設は様々な形で、社会的批判や制裁を受けました。

一方、M建設はこの事故を教訓として、その後、徹底した再発防止対策を打ち出し、自らそれを厳格に実施するとともに、そのノウハウを同業他社や関連団体等にも積極的に公開してきました。

こうしたこともあり、この事故の教訓はM建設のみならず、海上工事会社全体の一大教訓として生かされ、同種事故の発生件数の減少に大きく寄与することとなりました。

私はこの事件に関する海難審判に、M建設側の証人として招かれ、その後の同社の再発防止のための取り組みの妥当性などについて、第三者の目で正当に評価した調査結果を証言しました。

こうした甲斐もあってか、理事官(通常の裁判の検察官に相当)は、海難審判の席で「M建設は同種事故の再発防止措置を講じた旨を認める。」と言及するとともに、「今後、継続的に第三者の検証が重要である。」旨をM建設に諭しました。今回の講演は、その一環として行なったものでした。

講演の内容はずばり「ヒューマンエラーと海難防止」、ヒューマンエラー分析の本質は責任追及ではなく原因追求にあるとした上で、ヒューマンエラー発生のメカニズムを解説するとともに、身近な職場環境に即した形で社員が何をすべきかについて解説しました。

細かい点を挙げれば、まだまだ語りつくせない内容もありましたが、もっとも重要な事項については、ご理解頂けたことと思っています。

午後4時前には神栖市をあとにし、午後5時過ぎには東京駅に到着、“鞄持ち”の若手研究員とともに、まだ日が暮れないうちから、自らに対する慰労の意味の“飲み会”と相成ったわけです。

こうした最中、三浦半島の沖では高速船の重大海難が発生しました。すなわち、一昨日(5月19日)午後5時5分ごろ、伊豆大島から東京・竹芝桟橋に向かっていたT汽船(東京都港区)所属の高速旅客船「セブンアイランド愛」(280総トン、乗客207人、乗員5人)が、神奈川県三浦半島沖約15キロの海上で高波に遭遇、その衝撃で前面の窓ガラスが破損し、大量の海水が船内になだれ込みました。

結果、一階部分の客室内は一時、膝のあたりまで浸水するとともに、割れた窓ガラスの破片によって、乗客27人が顔や手足に軽傷を負いました。

同船は自力で航行を続け、神奈川県・久里浜港までたどり着き、負傷者を横須賀市内の病院へ搬送しました。

横須賀海上保安部の調べによると、高波に衝突し割れた窓ガラスは、上下二層の客室構造のうち、低層前面の二枚(縦・横90センチ、厚さ1.2センチ)であったとのことです。

同船のO船長は同保安部の調べに対し「前方に約3メートルの高波が出現し、とっさに舵を切ったが間に合わず、船首が波に突っ込んだ。その際、エンジンの回転数が落ちて船体の浮力が働かなくなり、そのまま海面に突っ込んだ」と説明しているとのことです。

同船は当時、時速約70キロで高速運航していました。高波を避けられずこれに衝突、瞬間的に船体が持ち上げられ水中翼まで水面上に露出したため、エンジン出力を自動制御するためのコンピューターがレーシング(推進器の水面上露出)と判断し、エンジン出力を急激に下げたため、前のめりになって海面に突っ込んだ状況が予想されています。

当時、三浦半島沖は、気圧の谷が通過し、強風波浪注意報が出されていました。横須賀海上保安部は昨日(5月20日)午前9時半から、久里浜港において同船の実況見分を実施しました。船体には窓ガラスの破損のほか、目立った損傷は確認されないとし、さらに詳しい事故原因を調べるとのことです。

クジラや流木と思しき漂流物への衝突など、高速船の重大海難がこのところ多発しています。

今回の事故は相手が海面であったことから、窓ガラス破片での負傷程度で済みました。しかし、これが流木群などの固形物への衝突であり、しかも、これらが船室に飛び込むなどの事態であったならば、この程度ではすみません。

高速船の安全航行対策、個々の事故案件ごとの原因分析も重要ですが、初心に帰って徹底的に検証する必要があるのではないでしょうか。




『★またもクジラ? 高速船衝突海難発生★』[2007年04月13日(金)]
開始以来、受難続きの“上等兵(私の上の娘)”の電車通学ですが、今日こそはと思いきや、またもやってくれました。

電車の座席に座り、前に立つ彼女の足元に目を向けると、何となくいつもと違う気がしました。時を同じくして、妻から緊急連絡が入りました。「足―! 足―!」

彼女が通う中学校では、通学時、黒い革靴の着用を義務付けています。しかし、彼女が履いていたのは普段履きの真っ白な運動靴、昨日に引き続き、またも彼女は真っ青になりました。

再び“ドンキ・ホーテ”の登場です。昨日は見事に“鉢巻”を見つけたものの、今日の課題である黒い革靴は見つけられませんでした。

黒い油性マジック・インキは売っていたので、「塗りつぶすか?」と提案したところ、「絶対にいやだ!」と、またも目を潤ませながら主張され、あえなく私のアイデアは水泡に帰したのでした。

本題に入ります。昨日(4月12日)午後6時20分ごろ、韓国・釜山の南東約25キロの海上で、高速船が何らかの物体と衝突し、28人が重軽傷を負うという事故が発生しました。

事故を起したのは、博多港から釜山港に向かっていた、韓国の未来高速所属の高速旅客船“コビー”で、衝突の衝撃により前部の水中翼が脱落しました。

また、“コビー”には韓国人乗客215名と乗員8名が乗船していましたが、うち9名が骨折などの重傷を負い、また、19人が打撲などの軽傷を負いました。

負傷者は韓国の海洋警察庁や海軍の艦艇に救助され、いずれも釜山市内の病院に運ばれたとのことです。

何に衝突したかは今のところ不明ですが、クジラと衝突した可能性が高いと指摘されています。現に、事故現場付近の海域では、最近、クジラの目撃情報が続出していたため、“コビー”も用心して航行していた矢先の事故とのことです。

さらに、去年の3月にはJR九州の高速船が、クジラと思しき物体と衝突し、乗客ら10名以上が負傷しています。

“コビー”は、昨日午後3時45分に博多港を出航し、同日午後6時40分に釜山港に到着する予定でした。

事故当時、“コビー”は巡航速力よりやや控えめな時速約70キロで航行中、突然、大きな衝撃音とともに船体が急停止し、乗客が前方に投げ出されたとのことです。

博多・釜山間では、JR九州と韓国の未来高速社が業務提携を行い、一日5往復程度の高速船を運航しています。

所要時間は約3時間、安価と手軽さが好評を得て、観光客や行商客などを中心に、年間約60万人程度の利用者があるとのことです。便利であることは間違いないのですが、高速船と野生動物との共存、実に難しい問題です。

ところで、昨日、海事関係者が何名かが、南米ベネズエラに向け、緊急出国して行ったようです。報道されていませんが、邦船社が関与する海難でもあったのでしょうか。気になるところです。



『●●美談が突然の悲劇に!迷いクジラ救出事故(第三段)』[2007年03月16日(金)]
先日(3月13日)、愛媛県・宇和島で、漁港内に迷い込んだ大型クジラの救出中、暴れ出したクジラの衝撃により漁船が転覆、一名の方が亡くなった事故の第三報をお伝えします。

私は昨日のブログで、概略以下のような意見を述べました。

曰く、「今回の迷いクジラは、数十トンに達するかなり大型のものと聞いている。結果論になってしまうが、現状では、おそらくそのままほっておくことが、最善の選択肢であったような気がしてならない。

水産庁のマニュアルによれば、救出活動が人命に危険が及ぶと判断した場合、救出活動を禁止するか、ただちに中断するとされている。

しかし、私に言わせれば、曳航中の生命体は不規則に動き出す可能性があり、特に今回のような数十トンに達する大型生物の場合、当初から人が負傷する可能性が、多少なりとも潜在していたと言わざるを得ない。

私は迷いクジラを救助することを否定はしないが、特に大型のクジラについては、現状のマニュアルと市町村長の判断に任せるのではなく、もう一度原点に返り、クジラ・人間の相互にとって極めて安全な方法を検討しなおすべきだと思う。」

さて、今回の救出劇ですが、水産庁のマニュアルでは、昨日もお伝えしたとおり、市町村が現地対策本部を設置して、その首長たる市町村長が責任者となり対応にあたり、

必要に応じて地元の警察署や海上保安部、都道府県や水産試験場、民間の専門家や漁業者らが、支援・協力・指導する仕組みとなっています。

しかし、今回のケースでは報道を見る限り、関係機関の合議のもと、曳航による救出法、すなわち実力行使がとられたようです。

曰く、「はじめは、金属による忌避音を出すなどして漁港外に誘い出そうとしたが、うまく行かなかった。

その後、宇和島市、愛媛県宇和島地方局、宇和島海上保安部、地元漁協などが対策を協議し、県の総合科学博物館の学芸員の助言によって、ボートによる曳航救出作業がなされることとなった。」

水産庁のマニュアルでは、クジラの救出にあたり、最終意思決定を含め、責任の所在が明確化されています。すなわち、市町村の首長です。今回の事件で言えば、宇和島市長です。

しかし、今回のケースでは、専門家の助言に基づき、関係機関による合議によって曳航救助が決定されたということです。

無論、水産庁のマニュアルは確固たる強制力を持たないので、関係機関が今回のように合議して策を決定することは、法律上もまったく問題ありません。

しかしながら、合議制の一番の欠点は、言うまでも無く、最終意思決定を含め、責任の所在が明確化されないことに尽きます。

水産庁のマニュアルに従い、もし、市町村の首長が最高責任者となった場合、結果責任はすべて首長にかかるわけですから、その判断は慎重の上にも慎重を期さざるを得ません。

賛否の意見を満遍なく集め、両意見の合理性を的確に判断し、最終意思決定するという極めて重要な職務を担うこととなります。

一方、合議制の場合、多少の不安があっても、「皆がやる気なのだから。」と、潜在的危険性に関する執拗な異議が唱えられない可能性が生じてくるのです。

すなわち、当初から“実施あるのみ”の雰囲気が全体を支配し、“危険認識”に関する強硬な意見・見解が出にくい可能性があるのです。

このあたりにも、今回の事故の潜在的要因が隠されているような気がしてなりません。なお、報道では、宇和島市職員の話として、以下の主旨のコメントが載せられていました。

「皆さんが集まって『こうしたい』と話し合ってまとめたことで、責任がどこにあるか、という話ではないと思う。」

また、以下のような主旨のことも述べています。

「市民の皆さんの意向をくんだ形での救出劇だった。もし、救助しなければ、『何とかしてくれ』という声が当然こちらに来たでしょう。誰かが死ぬかとは思わなかった。万全の体制をとってクジラの救助を判断した。」

以上のコメントが、今回の事故に至る背後要因のすべてを物語っているような気がします。

私は今回の事件に関し、「誰の責任だ。」などと申し上げるつもりはありません。

昨日も申し上げたとおり、特に大型のクジラの救出に関しては、現状のマニュアルと市町村長の判断に任せるのではなく、もう一度原点に返り、クジラ・人間の相互にとって極めて安全な方法を検討しなおすべきだと言っているのです。

無論、我々一般市民も、そしてマスコミも、今回の事件を教訓として、特に大型迷いクジラの救出に関しては、「かわいそうだ。何とかしてほしい。」という気持ちもわかりますが、そこはぐっと抑えるべきではないでしょうか。

すなわち、「これなら万全だ。」という安全な救出方法が、責任者の最終判断のもと、確実に見出せない限り、心を鬼にして「人命を考えれば、救出中止はやむなし。」という考えを、一般常識として持つことも、大切なのではないでしょうか。

この事件に関しては、ブログやホームページなど、インターネット上で様々な意見が飛び交っているようですが、以上が私の考えです。



『★美談が突然の悲劇に!迷いクジラ救出事故(第二段)』[2007年03月15日(木)]
一昨日(3月13日)、愛媛県・宇和島で、漁港内に迷い込んだ大型クジラの救出中、暴れ出したクジラの衝撃により漁船が転覆、一名の方が亡くなった事故の第二報をお伝えします。

今日は、港内に迷い込んだ、あるいは、海岸に座礁した大型クジラの救出に関し、日本の仕組みについて考えてみたいと思います。

朝早く出社し、いろいろと調べてみたのですが、一昨日の事故のような、迷いクジラの救出に関し、明確な法規定は見つけられませんでした。

唯一該当するものとして、平成16年10月12日に水産庁が発行した「鯨類座礁対処マニュアル」なるものが存在します。

これを読む限り、迷いクジラの救出に際しては、市町村が現地対策本部を設置して、その首長たる市町村長が責任者となり、対応にあたることとなっています。

また、この対策本部に対し、必要に応じて地元の警察署や海上保安部、都道府県や水産試験場、民間の専門家や漁業者らが、支援・協力・指導する仕組みとなっているようです。

聞くところによると、欧米では座礁クジラ救助専門の民間機関が存在し、大いに活躍しているそうです。一方、日本の場合、こうした民間機関は、欧米並みに整っているとは言えないようです。

特に大型クジラの救助に関しては、資金を投じ、時に大掛かりな体制を整えて行なう必要があることなどから、過去の他の事例に照らし合わせても、市町村主体に対応が行なわれているのが実情のようです。

したがって、日本の迷いクジラ救助の仕組みは、水産庁のマニュアルに従い、市町村主体の対応が行なわれていると理解して、差し支えないのでしょう。

無論、マニュアルですから、確固たる強制力には乏しいはずです。いわば実態として、水産庁が奨励した仕組みによって、市町村が対応にあたっているのが現状のようです。

マニュアルでは、特に大型の迷いクジラ(生きた個体)への対応にあたり、次のようなことを述べています。

「大型鯨類の救出にあたっては、クジラが重く力も強いだけに不用意な取り扱いが重大な事故を招くおそれがある。クジラに触れるものは、責任者が認めた者、あるいは契約した者に限定すべきである。」

また、大型クジラの曳航作業に関しては、次のようなことを述べています。

「尾びれにロープを掛けての牽引は、例え成功してもクジラの脊椎に重大な損傷を与えるとの報告があり、できれば避けるべきである。幅広のロープを脇下から掛けることが望ましい。」

「もっとも注意を要するのは尾びれの動きである。数十トンもの巨体を動かす強力な推進力を生む尾びれは、巨大な凶器となりうる。作業者は尾びれに近寄らず、尾びれの不意な動きに対応できるよう十分注意を払う必要がある。」

さらに、外国で救出中に死傷事故があったことにも触れ、作業者の安全確保と、安全の最優先も謳っています。

残念なことに、災害防止のための作業員の装備までは触れていません。しかし、マニュアルに掲載されている写真では、船上作業員の装備は、皆が救命胴衣を着用し、かつ、ヘルメットを着用していることから、この点については常識、または作業員の自己責任、もしくは他法令の範疇ということなのでしょうか。

こうしたことを踏まえ、今回の事故を振り返って見ます。今回の曳航時の映像を見る限り、確かに尾びれには注意を払い、曳航ロープも尾びれではなく、胸ビレに掛けていたようです。

また、マニュアルでは危険とされている尾びれ付近を避けた陣容で、漁船はクジラを取り囲み、曳航を開始していたようです。このあたりについては、ほぼマニュアルどおりの内容です。

しかし、事故は尾びれ付近ではなく、クジラの頭部で起きています。最初は、クジラが頭部を水中に潜り込ませたことにより、曳航ロープを介してつながっていた小型漁船が急激に水中に引き込まれそうになり、二人が落水しました。

続いて、今度はクジラが水面上に頭部を持ち上げたことにより、当該頭部が小型漁船の左舷後部が大きく持ち上がり、残りの一人が落水、小型漁船もそのまま転覆しました。

クジラの尾びれではなく、頭が凶器となったのです。尾ビレに対する注意を払い過ぎ、頭部に対しては油断していたのでしょうか。

私は頭の話でマニュアルに不備があり、それが事故原因だとはあえて言いません。しかし、少なくとも今回の事故を踏まえ、記述しなおす必要があるのではないでしょうか。

また、今回の迷いクジラは、数十トンに達するかなり大型のものと聞いています。結果論になってしまいますが、現状では、おそらくそのままほっておくことが、最善の選択肢であったような気がしてなりません。

確かに、マニュアル(救出の可否及びその判断並びに救出方法)を読む限り、クジラ救出時の安全確保に関し、十分注意を呼びかけています。

たとえば、「救出活動が人命に危険が及ぶと判断した場合、救出活動を禁止するか、ただちに中断する。」とされています。

マニュアルによれば、最終的には、責任者である市町村長が、救出活動の適否を判断するわけです。

しかし、私に言わせれば、今回のような数十トンに達する大型クジラの場合、はじめから人が負傷する可能性が、多少なりとも潜在していたのです。

遠い昔、私は重量物運搬船に乗船していました。数十トン、時に数百トンのプラントなどを、自らのクレーン操作で揚げ荷役したこともありました。

したがって、ひとたびこれらの重量物が、吊り上げた状態で制御不能となったときの危険性は、肌身に染みて知っているつもりです。

いわんや、曳航中の生命体が、不規則に動き出す可能性があるとしたら、それは凶器以外の何ものでもありません。はじめから人命の危険性が潜在するのです。

私は迷いクジラを救助することを否定はしません。しかし、特に大型のクジラについては、現状のマニュアルと市町村長の判断に任せるのではなく、もう一度原点に返り、クジラ・人間の相互にとって極めて安全な方法を検討しなおすべきだと言っているのです。

そうでなければ、尊い人命が失われた意味がないのではないでしょうか。


『★迷いクジラ救出劇 美談が突然の悲劇に!』[2007年03月14日(水)]
昨日(3月13日)は、衝撃的な二つの事件の映像が、ニュース番組の画面に登場し、驚かされました。

一つは、高知空港での全日空ボンバルディアDHC8―400型機の緊急胴体着陸のシーン、もう一つは本日の話題である四国・宇和島での迷いクジラ救出中の悲劇のシーンでした。

両事故は明暗をくっきりと分けました。前者の事故では、機長の冷静な判断と優れた操縦技能、加えて運も加わり、乗客・乗員にけがはなく、全員無事に地上に生還することができました。

一方、後者の事故では、残念なことに、転覆した漁船に乗っていた真珠養殖業の男性Yさんが帰らぬ人となりました。事故を振り返って見ましょう。

昨日(3月13日)朝6時ごろ、愛媛県宇和島市の大内漁港の中に、クジラが迷い込んでいるところを地元の漁業者が発見しました。

この迷いクジラはマッコウクジラと見られ、体長約15メートル、体重は推定約20トンに及ぶ大型の個体でした。

クジラは漁港内の岸から約10数メートル、水深約3メートルの浅瀬に、ほぼ“座礁”状態で迷い込んでいて、体の表面には擦過傷などが見られ、かなり衰弱した個体であったようです。いわゆる、ストランディング状態であったようです。

勇気ある地元の漁業者の皆さんらは、一致団結して、気の毒な迷いクジラの救助作業に着手しました。

まず、海上保安庁や愛媛県の職員などが、金属棒などを使い、クジラの嫌がるとされる忌避音を海中で流し、沖へ誘い出そうと試みましたが、クジラは動きませんでした。

忌避音に関しては、人間と同様、クジラの場合も種類や個体差があって、金属音が一概にすべてのクジラに通用するとは限りません。あるいは、忌避音に反応できないほど衰弱しきっていたのかもしれません。

その後、迷いクジラの救出作戦は、実力行使へと移行しました。すなわち、午後3時頃から、地元漁協の小型漁船数隻(全長6・5メートル)などが出港し、クジラの胸びれなどにロープを巻きつけ、沖まで曳航しようとしたのです。

その時、悲劇は起こりました。突然、クジラが暴れ出し、小型漁船のうちの一隻に接触、乗っていた漁業者ら3人が海に投げ出されたのです。

小型漁船は転覆し、うち2人は近くの船に救助されましたが、真珠養殖業の男性Yさん(58)が行方不明になり、約2時間後に引き揚げられましたが、死亡が確認されたのでした。

テレビの映像を見る限り、クジラの頭部付近で作業を行っていたこの小型漁船は、クジラが暴れたことによって、二段階の衝撃を受けています。

最初は、クジラが頭部を水中に潜り込ませたことにより、曳航ロープを介してつながっていた小型漁船は、左舷側から急激に水中に引き込まれそうになりました。

この一段階目の衝撃により、船上にいた3人のうち、2人が小型漁船の左舷側から落水しています。ただ一人、船外機のハンドルを握っていた方が落水を免れています。

続いて、今度はクジラが水面上に頭部を持ち上げたことにより、当該頭部が小型漁船の左舷後部を大きく持ち上げました。この二段階目の衝撃により、船外機のハンドルを握っていた方が右舷後部から落水し、直後に小型漁船もそのまま転覆しました。

状況を文章にするとこのように長くなるのですが、一段階目から二段階目に至り、最終的に小型漁船が転覆するまで、ほんの数秒であったと記憶しています。

まず、一段階目で二人が落水した際、船外機のハンドルを握っていた方は瞬間的に、船外機のスロットルグリップを戻しているように見えました。しかし、停止スイッチを押すまでは、達していないように思われます。

落水者が発生した時、スクリューに巻き込まないため、エンジンを停止するのは鉄則ですが、次の瞬間には自身も落水したわけですから、これとて最善の手段だったでしょう。いたしかたありません。

なお、スクリューは小型漁船の転覆に伴い、船外機が海水を吸引したことにより、ほんのコンマ何秒で止まっている映像が映し出されていました。

やはり、最大のポイントは、落水した皆さんが救命胴衣を着用していなかったことに尽きるようです。港内での出来事であり、また、ベテランの漁業者ですら、めったに経験することの無い、迷いクジラの救助ですから、多少の油断があったのかもしれません。

毎回、結果論になってしまいすが、やはり今回のケースも、救命胴衣の着用があれば、人命についてはほぼ助かったケースであったと言わざるを得ません。

「相手は20トンのクジラだ。念のため、救命胴衣を着けておこう。」と、現場にいた誰かが提案していればと思うと、残念でたまりません。

末筆となりましたが、最期の瞬間まで自然を愛し、宇和島の海の恩恵に感謝し、慈愛と勇気にあふれた行動を貫き続け、不幸にも尊い命を亡くされた、Yさんのご冥福を心からお祈り申し上げます。


クジラ衝突事故に一言[2006年04月13日(木)]
今回は、知床の海鳥漂着事件や油流出事故から脇道にそれた話題を一つ。

最近、クジラと思しき物体と高速船との海上衝突事故が、対馬沖や鹿児島沖など、九州地方を中心に、各地で相次いで発生しています。怪我をされた皆様の一日も早い回復を、心からお祈り申し上げる次第です。

衝突相手が本当にクジラなのかどうかの問題も、一部から提起されています。確かに、鹿児島の事故の場合、クジラにしては船体ダメージが大きすぎるような気もします。すべてクジラに原因を集約することなく、あらゆる可能性を検討すべきでしょう。ですがここでは、一連の事故がクジラが原因として考えてゆきましょう。

マスコミでは、続発するこうした事故の原因について、クジラに詳しい有識者の見解として、「クジラの個体数が、近年、増加している。特に、親子連れのクジラは回避動作が緩慢で、その存在を無視できない」、「時速約80kmの高速船の動きに対し、クジラの回避動作が順応できない」などと報じています。

私はクジラの専門家ではありません。前半に関しては有識者のおっしゃるとおりだと思います。現に、船乗り仲間の目撃情報などからも、近年、日本近海でのクジラの個体数が増えていることを薄々感じていました。しかし、後半部分、すなわち、高速船の動きに対する回避動作う云々については、”(さすらい派)研究員”としては、少々、物を申したいところなのです。

果たして高速船だから、スピードが速すぎて回避動作が覚束ないのでしょうか。低中速船ならば大丈夫なのでしょうか。そこが、私の疑問点です。高速船の速度にクジラは順応できない。なるほど、説得力はあります。ですが、そう言い切るためには、少なくとも、低中速船のクジラとの衝突実態を確認しておく必要があるのではないでしょうか。

すなわち、高速船の場合、ひとたびクジラと衝突すれば、必ず船は大きなダメージを受け、乗客にもそれなりの被害が出るのは、物理の法則からも明らかです。「係る衝突事故は低中速船でも最近増えている。しかし、高速船だから、被害が目立つ」、ということはないのでしょうか。今後の対策を検討するに当たっては、念のため、そのあたりを確認しておく必要があると私は思います。

船乗りを長年やっていると、珍しい出来事や事象を見たり、経験したりすることがあります。無論、海難や海洋汚染事故の経験は論外です。これは省きます。代表的なものベスト10を列挙します(あくまで、私のオリジナルで、公的な機関の見解ではありません。悪しからず)。

1) 生まれたて、ピンク色に輝くイルカの赤ちゃんを目撃した
2) 月夜の晩、空に虹がかかったのを目撃した
3) 日没時、水平線が緑に光る”グリーンフラッシュ”を目撃した
4) ウミガメの大群を目撃した
5) アホウドリが甲板に上陸したので助けてやった
6) 隕石が落下した(・・・と思われる)のを目撃した
7) マンボウが海上に浮いているのを目撃した
8) 海上での同時多重竜巻に遭遇した
9) マンタの大群が船底を通過していった
10)自船がクジラと衝突した

うち、私は1)から9)まで、すべて目撃・経験しています。しかし、幸いなことに、唯一、10)だけは未経験のまま、船乗り生活を終えました。

しかし、私より経験の浅い対面に座っている、若手研究員のWは、あろうことか、1)〜9)の経験は無いくせに、唯一10)だけは経験があるようです。無論、高速船ではなく、低中速の一般商船での経験です。

私が海運会社に入社した頃、船内には戦中からの船乗りが何人もいました。確かに、彼らと”肩振り(船乗りの無駄話)”をしていると、決まって2、3人は、クジラとの衝突の経験を話してくれたものでした。

したがって、低中速の一般商船にとっても、クジラとの衝突は、少なくともクジラの乱獲が進む前の当時は、決して珍しいことではなかったのです。近年、若手のWが経験するくらいですから、案外、低中速船の事例も増えてきているのではないでしょうか。

無論、その原因は、クジラの個体数が増えて来ているからでしょうか。ただし、低中速の衝突の場合、スピードがスピードですし、衝撃こそあれ、船体ダメージは無いに等しいのです(相手は生身ですから、そうではないでしょうが)。

高速船だからクジラと衝突云々を論じる前に、やるべきことは、事例が存在してもダメージが少なく、報告がなされていない、低中速船の事例を調査することが先決ではないでしょうか。高速船とクジラとの衝突防止のため、新たな研究開発を進める前に、まずやるべきはこの調査です。

低中速船でも事例が多いならば、例えば、個体数が増えた結果、障害物との回避動作が緩慢な、何らかの障害を持った個体なども目立つようになった、こうした可能性も視野に入れ、対策を講じるべきではないでしょうか。

事実、クジラとの衝突を昼間に目撃した、昔の船乗りの話では、そのクジラはシャチにでも襲われたのか、あるいは病気なのか、かなり弱っていたように見受けられた、とのことでした。個体数が増えれば、それだけ弱者が増えるのは、残酷ですが自然の摂理ではないでしょうか。

話はそれますが、知床で油に汚染された海鳥を捕食し死亡したオオワシ(1羽目の発見固体)、実は、足や内臓に深刻な障害をもった特別の固体でした。他のオオワシと比べ、餌の捕獲能力に劣っていたため、やむを得ず、汚染鳥に手を出したとも考えられます。あるいは、油の毒性影響を受けやすかったのかもしれません。

最後に、本当に衝突相手がクジラなのかを含め、一部の専門家の主張のみに全面的に頼るのではなく、幅広い視野から推論し物事を論じることが大切かと思います。












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