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海洋汚染情報 −海の事件簿−
海上で起きた重大な汚染事件・事故について、独自の視点から鋭くメスを入れ、分析・解説する”海の社会部デスク”、その名も”元海の男”、職業”(さすらい派)研究員”による海の事件簿。
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『★明石海峡衝突海難、当直者の言語の違いとは?★』[2008年09月19日(金)]
本年3月5日、神戸市・垂水区沖の明石海峡で3隻が関係する衝突海難が発生、ベリーズ船籍の貨物船“ゴールドリーダー(1,466総トン)”が沈没、外国人船員三人が死亡、一人が行方不明となった事故の続報です。

昨日(9月18日)、第一回目の海難審判が、神戸地方海難審判庁(竹内伸二審判長)で開かれました。

この海難審判では受審人(刑事裁判の被告に相当)として、砂利運搬船“第5栄政丸(496総トン)”の船長、ケミカルタンカー“オーシャンフェニックス(2,948総トン)”の船長及び二等航海士、また、指定海難関係人(同じく刑事裁判の被告に相当)として、“ゴールドリーダー(1,466総トン)”の二等航海士、“第5栄政丸”と“オーシャンフェニックス”を運航する二社が指定されました。

理事官(刑事裁判の検察に相当)による、三隻の見張りや動静監視の不十分など、航法上の不備を内容とする申し立てに対し、それぞれの関係者は大筋でそれを認めたとのことです。

改めて事故を振り返って見ましょう。この事故は明石海峡大橋の東方、明石海峡航路内の東側入口付近で起きました。

ケミカルタンカー“オーシャンフェニックス”と“ゴールドリーダー”は、いずれも、東方向から西方向に向って航走し、明石海峡航路の東側入口から航路内に、ほぼ同時に進入しようとしていました。

航路に入るときは、遠方より航路に沿った角度で進入するのが航法上の原則です。したがって、その点では両船とも及第点でした。

明石海峡に限らず、航路の入り口付近では、各方面から航路内進入を目指す船が集中します。互いに交差する危険な見合い関係も起こりえます。しかし、通常、最終的には、全船が航路に沿った針路に変針するため、事なきを得るのです。

たとえてみると、高速道路の料金所の入口では、各ブースを抜けてきた車が、本線への進入を目指して“逆扇状”に展開しています。お互いに譲り合いながら、徐々に本線と平行な方向に進路を変えてゆきます。やがて、全車両が一定の安全な間隔を保ちながら、本線に対し平行となり本線に進入、走り去ってゆくのです。海の世界も同じです。

しかし、砂利運搬船“第5栄政丸(496総トン)”の針路は不可解でした。明石海峡航路は東西方向に伸びているのですが、その東側入口を目指し、北東方向から向ってきたのです。簡単に言えば、横方向からの“割り込み”です。駅のエスカレーターではよく見かける光景ですが、海の世界では滅多にいません。

最初に砂利運搬船“第五栄政丸”の船首が、ケミカルタンカー“オーシャンフェニックス”の船尾に衝突しました。

衝突を避けようとした“オーシャンフェニックス”が、船首を大きく左に振ったところ、左舷至近を航行していた“ゴールドリーダー”の右舷側面に衝突、“ゴールドリーダー”が沈没に至ったのでした。

私は今回の海難審判における指定海難関係人、“オーシャンフェニックス”を運航するD社に請われ、同社が立ち上げた事故調査委員会に外部専門家として参加、事故原因の究明及び再発防止対策について指導・助言を行なってきました。今回の海難審判に対しては、関係者の一人として、並々ならぬ関心を持っています。

もう一つ、関心を持つ大きな理由があります。私は事故発生当時、都内某社の会議室で、私の意見をまとめた報告書を関係者に伝えていたところでした。

私の報告書とは、ある海運会社による有害ケミカルの海上輸送に関し、海難リスクの評価や現在の安全対策の是非を内容としたものでした。

ある海運会社とは、何を隠そう“オーシャンフェニックス”を運航するD社だったのです。海難の一報が私の携帯電話に飛び込んできたのは、午後3時20分過ぎ、事故発生からまだ30分もしないうちでした。

この時点では、「明石海峡の入り口で3隻が衝突、うち1隻が沈没、行方不明者も出ている模様」だけの情報で、事故に関係する船名や所有・運航会社名などは一切わかりませんでした。

しかし、長年の感というか、“虫の知らせ”というか、私の発表の対象であるD社のケミカルタンカーがではないかという心配が、脳裏を過ぎりました。

その旨を会議参加者にお知らせしました。「まさか?」と言いつつ、私の“虫の知らせ”の鋭さを知っている会議参加者の何人かが、会議を中断し、一斉に確認作業に奔走しました。残念なことに、不安は見事に的中してしまいましたが。

事故当時、“オーシャンフェニックス”の当直は二等航海士のA氏と操舵手のB氏でした。A氏は外航商船からの、また、B氏は漁船からの転職者でした。

“3K”の代表的職場である内航海運では、若手船員がなかなか集まりません。最近ではさらなる船員の高齢化、そして、他の企業と同様“2007年問題”も重なり、事態は一層深刻化しています。

「将来、人手不足から内航船が動かなくなるのでは」との“爆弾予言”も、かなり前から聞こえました。今となっては、決して大袈裟なものではなく、俄然真実味を帯びてきている状況にあるのです。

こうした中、内航海運にとっての期待の星が、家庭問題などさまざまな事情により、外航商船及び漁船から転職してくる中高年船員なのです。彼らもそのケースだったのです。

しかし、問題が無いとは言えないのです。外航商船と漁船の文化の違いから、“相棒”であるはずの当直者のコミュニケーションに問題が発生するケースが、しばしば見られます。今回の事故でも、背後要因として、それが見え隠れしています。

その一つが言語の問題です。たとえば、「ハード・スターボード!」という、外航商船出身者があたりまえに使うオーダーに対し、「おも舵一杯!」に慣れ親しんだ漁船出身者は、戸惑うなどの例です。

詳しくは申し上げられませんが、私は内航船が共通に抱える、当直者間のコミュニケーション問題が、如実に現れた典型的な事例と分析しています。おそらく、海難審判では、ここまで踏み込まないでしょうね。



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