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海洋汚染情報 −海の事件簿−
海上で起きた重大な汚染事件・事故について、独自の視点から鋭くメスを入れ、分析・解説する”海の社会部デスク”、その名も”元海の男”、職業”(さすらい派)研究員”による海の事件簿。
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『★第58寿和丸転覆海難、海難原因を大胆推測(その14)!★』[2008年08月08日(金)]
6月23日午後、千葉県・犬吠崎の沖合の太平洋上で、福島県・いわき市の巻き網網漁船“第58寿和(すわ)丸(135トン)”が転覆し後に沈没、死者・行方不明者が出た海難の続報です。

(以下、前回の続き)
“第58寿和丸”は、ローラーやウインチ、ドラムなどの漁労機器を油圧ポンプによって駆動する仕様になっていたと思われます。また、ウィンドラス(揚錨機)などの係船機器や、クレーンやデリックなどの荷役機器も、同じく油圧ポンプによって駆動する仕様になっていたと思われます。

“第58寿和丸”は完全にエンジンを停止させ、シーアンカーに態勢を委ねていました。こうした状況の中、突然、二度の衝撃を船首右舷寄り部分に受けた後、右舷傾斜が止まらなくなった緊急事態に陥ったとしたら、果たして、船長ら幹部船員は、真っ先に何をするでしょうか。

衝撃の原因究明はさておき、まずは自船がおかれた状況を、可及的速やかに把握することが第一でしょう。すなわち、浸水し転覆の危機に瀕しているならば、その事実を認識し、浸水場所と浸水量を即座に判断、然るべき防水措置や排水措置を講じ、傾斜を止め、復元力を失わないための努力をするでしょう。

口にするのは極めて簡単です。しかし、実際には、転覆までに与えられた猶予は実際にはわずか1〜2分でした。時計の秒針が1、2回転する間に、これらすべてを“てきぱき”とこなすのは神業です。どんなに優秀で技量にすぐれた船員でも、不可能なはずです。

せいぜい、浸水している事実を察知するのが精一杯なのではないでしょうか。あるいは、停止中のエンジンをかけることに集中するかもしれません。

しかし、多くの場合、わずか1〜2分間では、そこまでも達せず、わけのわからないまま、右舷傾斜だけが増大し、そのまま転覆に至ってしまうに違いありません。

そこで重要なのが、「油圧を作動させろ!」という、生存者が聞いた言葉の意味です。

二度の衝撃を船首右舷寄り部分に受け、右舷傾斜が止まらなくなった緊急事態に陥った中、乗組員は原因が把握できず、慌てふためいたことでしょう。

「油圧を作動させろ!」とは、メインエンジンを始動させるための準備段階として、潤滑油ポンプをかけ、その油圧を高めるという意味だったのかもしれません。

あるいは、自船がおかれた状況の把握に努める中、船首部に位置する油圧ユニットから、油量レベルの低下を示す緊急警報が届いた、あるいは、同機の冠水など、電気的な異常を知らせるアースランプが点灯したのかもしれません。

そうであるならば、乗組員にとって、自船がおかれた状況把握のための、唯一の手掛かりだったとも推測できます。

「油圧を作動させろ!」はこうした状況の中、同機の異常の有無を点検し、自船がおかれた状況把握の手掛かりにするため、「試しに油圧ユニットを起動させてみろ!」という意味で、発せられた言葉であったのかもしれません。

あるいは、引き続く右舷への傾斜を停止させるため、デリックなどの荷役機器によって、漁具等の重量物を反対の左舷方向に移動させるべく、「油圧を作動させろ!」という言葉が発せられたのかもしれません。

さらに、パラアンカーの不具合を疑い、パラアンカーのロープを伸ばすため、係船装置を動かそうとしたのかもしれません。

いずれにせよ、この時点では既に、船首部に位置する油圧ユニットはすでに破損し、作動できる状態ではなかったような気がします。

なぜならば、“第58寿和丸”の船首部分は、右舷前方から来襲した波の衝撃によって、右舷方向からすでに破壊され、もしくは折損に近い状況に陥っていたものと推察できるからです。

当該折損による浸水は二つ以上の水密区画に達し、一気に短時間での転覆・沈没が避けられない事態に陥っていたのではないでしょうか。

在りし日の“第58寿和丸”の写真を見るたびに、しみじみ思うことがあります。同船の外観は、漁船らしからぬ、実にスマートな形状をしています(登録長:38.05メートル、型幅:8.10メートル、型深:3.35メートル)。

特に、船首部分はシャープに前方に突き出し、一見、海軍の駆逐艦をイメージするまでの精悍さが目立ちます。迅速かつ的確に巻網漁業を行なうにあたり、機動性や操縦性能を重視したからなのでしょう。

無論、こうした船型は他の巻網漁船にも例はあり、“第58寿和丸”だけが特別であるわけではありません。

スマートな形状を思わせるのは、型深が比較的浅い(3.35メートル)ことも一つの理由です。魚網を舷側から巻き上げる際の利便性を重視したからなのでしょう。これも他の巻網漁船も同様で、“第58寿和丸”だけが特別であるわけではありません。

型深が浅いということは、それだけ海水が打ち上げられやすいことを意味します。そのため、波に襲われ、大量の海水が前部上甲板に打ち上げ、破壊された開口部から、あるいは、開いていた開口部から、船内に浸水したとする見方もあるでしょう。

仮にそうだとしましょう。しかし、海水が打ち上げられやすいということは、裏を返せば、打ち上げられた海水が逃げ出しやすいことも意味します。

また、“第58寿和丸”の前部上甲板は、船首楼と船橋に囲まれ、船体全体から見ればそれほど広くはありません。わずか1〜2分間で船体を転覆に至らしめるに十分な大量の海水を滞留させ、一気に船内侵入させるほどのスペースとは思えません。

しかも、船橋内の通路を後方に向って通行し、脱出を果たした生存者は、船橋内への浸水を目撃していません。すると、打ち上がった海水の船内への侵入箇所は、船橋内ではなく、船首楼又は前部上甲板ということになります。

前部上甲板又は船首楼、いずれの開口部が破壊され、あるいは開いていて、一つの水密区画に海水が浸入したとしても、わずか1〜2分間で船体を転覆に至らしめるとは思えません。

こうしたことから、打ち上げられた海水による浸水説には、私は否定的です。

さて、当時、現場海域は風速10メートル、有義波高2メートル程度だったと聞いています。普通に考えれば、漁船の船首部を一瞬のうちに破壊させるほどの激しい時化とは言えません。

その昔、今回の事故現場海域では、大時化(しけ)の中を航行中の大型鉱石運搬船が、船首を破断した事例がありました。20メートルクラスの巨大三角波が襲ったことが原因と指摘されました。

波を原因とする説に関しては、こうした事例に基づき、今回の事件に関し今までは、想像を超えた大きな波が“第58寿和丸”襲ったのではないかとするイメージが先行し、議論が行なわれていたように思います。

私は異常と言えるようなレベルの波が “第58寿和丸”の周囲だけに突然現れ、同船を襲ったのではないと考えています。

同船を襲った波、実は当時の有義波高の2倍程度、せいぜい4、5メートル程度、北太平洋ではさほど珍しいくもないレベルだったのではないでしょうか。

では、その程度の大きさの波の衝撃で、鋼鉄製の“第58寿和丸”の船首部分が折損、もしくはそれに近い状況に陥るものなのでしょうか。

当時、現場海域には低気圧が通過中で、“第58寿和丸”は漁を休み、パラシュートアンカーを投入し、荒天避泊をしていました。

一昨日、私はT大学のT教授と遅くまでこの海難について議論しました。私たちは本海難を以下のようにイメージするに至りました。

「低気圧の通過する中、“第58寿和丸”の周囲では、今まで風速10メートル程度であった定常風が一時的に強まり、もしくは、ごく短時間とはいえ突風が吹いた。その風向きは、船首やや右方向からだった。

たとえば、現場海域のうねりが“第58寿和丸”のほぼ正面方向から押し寄せ、かつ、その周期が船の長さ約38メートルに“ドンピシャ”と整合しているような状況下、短時間とはいえ、周期が短く(数秒程度)、かつ、比較的波高の高い(4メートル程度)風浪が一時的に発生し、その方向は船首右寄りからだった。

うねりの山が“第58寿和丸”の船首楼を通過し、船首が下に沈みこもうとした瞬間、短く鋭く切り立った風浪が続けて二発、船首右舷方向から襲ってきた。

そして、シャープに前方に突き出した“第58寿和丸”の船首部分、船首楼の後縁直下、右舷側の船底部分を下から襲った。“三角波”と表現しても間違いではないかもしれない。

エンジンをかけて航行中、あるいは、単に漂流中であったならば、軽いパンチング(船首・尾部が波によって下から衝撃を受ける現象)に見舞われた程度で、難なくかわしていたであろう。

しかし、“第58寿和丸”はパラシュートアンカーを投入し、荒天避泊していた。船首からは55ミリの丈夫なロープが繰り出されていた。

このロープが、船首部分の波による上下動を阻害する役割を果たしてしまった。船首の下からの持ち上げに対し、ロープは引っ張られ伸びたが切れることはなかった。むしろ、切れてしまえば、この参事は起きなかったであろう。

船首部分、船首楼の後縁直下、右舷側の船底部分を下から襲ったパンチングは、応力を一箇所に集中させ、一発目で船底外板に亀裂を発生せしめ、二発目でその亀裂が増大、広範な破壊へと至らせた。二区画以上に及ぶ水密区画が破られ、海水が一気に船内に浸入した。」

以上です。ダウンに至るほどではない、ボクシングの軽いジャブ攻撃も、片方の手で髪の毛を掴まれ、顔を固定された状態で叩き込まれたとしたら、それは必殺パンチになる理屈と一緒です。

それ以外にも、副次的な要因はいろいろと推察されます。たとえば、損傷部分付近の部材に、平素の運航の積み重ねによって疲労が生じ、既に発見困難な小さなクラックなどが生じていたとか、たまたまその時の清水や燃料、漁具等の積み付け状態が応力を増長させる方向に働いたとかなどです。

いずれにせよ、今回の事故に関し、“第58寿和丸”の乗組員はおろか、僚船を含む船団、船主などに大きな過失はなく、責められるべき点はなかったと考えています。言うなれば、大自然を前にした、不可抗力だと考えます。

パラシュートアンカーによる荒天避泊時、エンジンを停止していた点についても、仮にエンジンをいつでも使える状態にしていたとしても、今回の事故を回避できたかと聞かれれば、極めて難しいと言わざるを得ません。

また、この程度の海・気象状況下にあっても、そもそもパラシュートアンカーによる荒天避泊を行なうこと事態が不適切だと言う声があるとすれば、それを、長年にわたり一般的運用法の一つとして捉えてきた、行政、海事、漁業、教育に係るすべての関係機関は再検討を行なわなければなりません。

いずれにせよ、深海潜水調査船による沈没船の船体調査を実施すれば、事故原因に関し、すべてでないにしろ、ある程度のことは判明する可能性はあります。私もそれを期待しています。以前、船体調査実施の可能性を示唆する報道もありました。

しかし、5,000メートルの海底ともなると、船体調査はおろか、沈没船体の存在場所の確認ですら極めて困難であり、巨額の費用を必要とします。期待は大いにするものの、その可能性は極めて低い気がします。

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コメント
ご愛読、コメント有難うございます。

今後ともよろしくお願い申し上げます。
Posted by:さとし様 元海の男  at 2008年08月15日(金) 19:44

とてもためになるサイトで、勝手ながら勉強させてもらってます。
これからも頑張って下さい。
Posted by:さとし  at 2008年08月14日(木) 21:27

とてもためになるサイトで、勝手ながら勉強させてもらってます。
これからも頑張って下さい。
Posted by:さとし  at 2008年08月14日(木) 21:26

コメント有難うございます。
今回は波による損傷とする分析を行ないました。
たしかに、比較的建造年数が新しく、また、自然の外力による船体損傷と言い切れるだけの確証はありません。
したがって、今回の分析はあくまでも推測の一つに過ぎません。
他船との衝突や漂流物の激突も、可能性ゼロではないと思います。
今後、仮説に基き、本当に損傷するのか否か実験・解析が必要です。
損傷しないことがわかれば、次の仮説を打ち出すこととなります。
運輸安全委員会がどこまで本腰を入れて実験・解析を行なうのか、あるいは深海調査を行ない一気に原因を探るのか、注目しています。
そこまで委員会がやらないのであれば、我々民間機関や大学がやるべきと考えています。
原因を探り再発防止に役立てることが、亡くなった方、行方不明となっている方、そしてご家族・関係者の無念を少しでも晴らすことにつながるのではないかと考えています。
Posted by:野崎様 元海の男  at 2008年08月12日(火) 10:30

冷静な分析ありがとうございました。参考になりました。しかし、船体になんらかの損傷を受けたと思いますが、平成11年できの58寿和丸が損傷に至る原因を思い悩んでおります。
また、行方不明の13名のこと、懊悩しております。
まずは、お礼まで、本当にありがとうございました。
Posted by:野崎 哲  at 2008年08月12日(火) 09:37

コメント有難うございます。

やはり、デリックブームの移動による傾斜抑制ですね。わかりました。

昨日、わけあって、大手スーパーに夜、家族で買出しに出かけました。

鮮魚コーナーに売れ残った大量のカツオの刺身の値札が、すべて半額に書き換えられていました。

海で起こる悲しい現実と、消費社会とのギャップをまざまざと見せ付けられ、なんともやりきれない気持ちになりました。
Posted by:野崎様 元海の男  at 2008年08月11日(月) 08:14

油圧を作動させるのは、本船中央に揚網用のメインブームがありそれを傾斜と反対側に振ることで傾斜を止めることができるので、その対応をとっていたと思います。
Posted by:野崎 哲  at 2008年08月09日(土) 10:51

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