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全国キャラバン in 奈良 [2008年04月09日(Wed)]
報告者:藤澤克己(ライフリンク事務局長)


 2月15日(金)、奈良県医師会館・講堂(近鉄・大和八木駅から)にて、「自殺対策シンポジウムin奈良 〜自死遺族支援 私たちにもできること」が開催され、約100名の方が集まりました。



 まず、奈良県健康安全局長の竹村潔氏が挨拶に立ちました。


 
 奈良県では自殺率としては全国レベルより低いものの、平成10年以降年間300名を超える方が自殺で亡くなっており、交通事故死者数より数倍も多いことが伝えられ、自死遺族支援のためにこのシンポジウムが「きっかけ」になってもらいたいと開会を宣言されました。

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 次に、ライフリンク代表であり、全国自死遺族支援全国キャラバン実行委員会の委員長である清水康之氏より、「全国キャラバン」の趣旨説明がありました。

 昨年7月に秋田県で開催したのを皮切りに、これまで全国の都府県で開催し、奈良県が32番目の開催県、今年度末の3月30日に大阪でフィナーレを予定しているプロジェクトであることが説明されました。

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 続いて、内閣府自殺対策推進室の 森 信二 参事官補佐による基調講演があり、「自殺総合対策大綱について」の説明がありました。

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 自死遺族の体験発表は、南部節子さん。



 南部さんは、ご主人を4年前に自殺でなくされました。

 今現在は茨城県にお住まいですが、結婚してしばらく大和郡山住んでいたことがあり、奈良県は所縁の地だとのことです。

 ご主人が亡くなられたのは、そのJR大和込山駅の近くでした。

 ご主人が亡くなるまでの経過を、涙をこらえながらゆっくりと語ってくださいました。

 責任感の強いご主人は、たくさんの仕事を抱え込み、うつ病を発症して、最後には追い詰められて自殺したそうです。

 ご主人が自殺で亡くなってしまってから、悲嘆にくれていたこと、分かち合いの集いに参加して、泣きながら語るのを聞いてもらえて助けられたこと、などを教えてくださいました。

 「元気出してよ」「がんばってね」と声をかけられるのは、悪意がないとわかっていても辛かったとのこと。

 周囲の人は「辛かったよね、よかったら聞かせてね」と声をかけるのがよく、気持ちを受け止めてほしいと訴えられました。

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 休憩を挟み、「自死遺族支援 私たちにもできること」をテーマにしたパネルディスカッションがありました。(写真左から:敬称略)

<コーディネーター>
  清水 康之 (NPO法人自殺対策支援センター ライフリンク 代表)
<パネラー>
  植村 圭子 (奈良いのちの電話協会 理事長)
  神澤 創  (帝塚山大学教授・奈良県自殺対策連絡協議会 座長)
  杉本 脩子 (全国自死遺族総合支援センター 代表幹事)
  高橋 良斉 (奈良県精神保健福祉センター 所長)
  中村 聡  (奈良県福祉部健康安全局健康増進課 課長補佐)



 まず、コーディネーターを務める清水氏から、「何故、ご遺族が体験を語ってくれるのかを確認しておきたい」として始まりました。

 自分と同じ思いの人を一人でも少なくしたいという願いから、本当だったら誰にも言いたくないことを語ってくれたという、その意を汲み取って議論を進めていかなければならないという指摘がありました。

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 パネラーがひとりずつ、活動状況を発表しました。

中村 聡  (奈良県福祉部健康安全局健康増進課 課長補佐)

 まず、行政の立場から、中村課長補佐が奈良県の現状と対策状況を説明しました。

 一般的な自殺予防はやってきたが、十分ではないという認識があると率直に発言されました。

 精神保健福祉の担当課だけでなやりきれないので、庁内連絡会議を設置し、次に、自殺対策連絡協議会で関係団体の参加を呼びかけ、できところからやっていこうとしているそうです。

 昨年10月の協議会で提言を受けて、ワーキンググループも準備中とのことでした。

 現場を知らない人が自殺対策連絡協議会のメンバーにとなっていることも多いので、ワーキンググループとセットで進める体制で進んでいることを心強く思いました。



高橋 良斉 (奈良県精神保健福祉センター 所長)

 続くパネラーは高橋さんで、「行政」+「臨床医師」という立場から発表してくださいました。

 自死遺族支援に必要な態度として、強いものが弱いものを助けるといった尊大な態度では駄目で、同じ立場で助け合うことが重要と示されました。

 共感の限界を分かった上で関わることが必要で、専門家の分かった「つもり」は二次被害を生むと教えてくれました。



植村 圭子 (奈良いのちの電話協会 理事長)

 3番手は、植村さん。

 奈良いのちの電話として昨年12月から、よりそいの会 "あかり" をはじめられたそうです。

 自死遺族支援の一環として、自助グループ作りを手伝います。

 電話相談の中で、家族や身近な人の自殺が忘れられないという声が聞えてきて、ポツンポツンと孤立している自死遺族の多いことを知ったのが、自死遺族支援に乗り出そうとしたきっかけだったそうです。



神澤 創  (帝塚山大学教授・奈良県自殺対策連絡協議会 座長)

 神澤さんは、自殺対策連絡協議会の座長としても、臨床心理士としても発言をされました。

 グリーフとは喪失による反応と過程であり、各人がその人なりのグリーフワークをして、自分なりの意味を組み立てることが重要と説明されました。



杉本 脩子 (全国自死遺族総合支援センター 代表幹事)

 パネラー最後の発言は、杉本さん。ご自身の体験にも触れながら、「遺族にとって根本的な解決策は無い」というのが出発点であり、従来の援助者・被援助者という考え方が不適切であることを指摘されました。

 また、「悲しみを消す魔法はない」「人は人によって癒される」ということを教えてくださいました。

 亡くなった人が大切であれば大切であるほど感情の揺れは大きく、ネガティブな感情を含め自然に気持ちが出せればいいが、今の世の中は、それが許されない風潮があると指摘されました。

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 パネラーの発言が一通り済み、会場との意見交換もありました。

 パネラーが本音で語って展開したパネルディスカッションを通して、奈良県における自死遺族支援のスタート地点が確認できたと言っていたのが印象的でした。


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 ロビーでは、「遺族語る」のメッセージパネルが展示され、多くの来場者が足を止め、見入っていました。

 奈良キャラバンにおけるキーワードは、『人は人によって癒される』に決まりました。