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全国キャラバン in 岐阜 [2008年02月25日(Mon)]
報告者 野々山尚志




 平成20年1月19日(土)、岐阜県羽島市文化センターみのぎくホールにて「自死」を知り・伝え・つながせるフォーラムと題したシンポジウムが開催されました。

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 実はこのタイトル、司会をされていた精神保健福祉センターの方が、滋賀県のシンポジウムで遺族体験談を語られた尾角光美さんのお話を聴かれて決めたそうです。私も滋賀県のシンポジウムに行きましたが、尾角さんの思いが、岐阜にもつながったのですね。

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 開会あいさつは精神保健福祉センター所長の丹羽伸也氏。穏やかな話し方の中にも、「体験をされた方のグループ」ができることを願う気持ちが伝わりました。また、自死という言葉のとらえ方にもふれ、追いつめられた死であることを確認し、実効性のある会にしていきたいと結ばれました。

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第1部 自死遺族体験談

 第1部は、尾角光美さん(学生・ライフリンク)による体験談。はじめに、後出しジャンケンを会場の参加者に呼びかけ、会場の参加者の多くが手を挙げてやっていました。講演が、一方通行ではなく、まず、双方のコミュニケーションがほしいという思いでされていましたが、ほとんどの方が手を挙げて参加されていました。
 「脱 他人事 お茶の間劇場撤退」と、会場に投げかけました。
 最初に、5年前にお母様がうつ病で亡くなったけれど、うつ病対策をすれば母親が亡くならなかったというわけではないこと、うつ病の末自殺で亡くなる方の原因は複雑で、一言では説明できないことを押さえてから、体験談を述べられました。

 尾角さんは最後に、お母さんへ「ごめんなさい」と「ありがとう」のメッセージを伝えて講演を終えました。

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第2部 パネルディスカッション

 休憩をはさんでパネルディスカッションが行われました。テーマは「自殺対策・自死遺族支援−今、"私"にできること」登壇者は次の通り。



<コーディネーター>
 丹羽伸也 氏(精神保健福祉センター所長)
<パネリスト>
 花井幸二 氏(リメンバー名古屋自死遺族の会代表幹事)
 清水康之 氏(NPO法人ライフリンク代表)
 尾角光美 氏(自死遺族)
 田中剛 氏(岐阜県健康福祉部保健医療課)

清水康之 氏(NPO法人ライフリンク代表)のお話

 NHKディレクター時代に、あしなが育英会の高校生のつどいに参加させてもらったとき、自死遺児の子と過ごした。その時、死別体験は個人的なもので、比べられない。病気遺児の子と違うのは、語ることができないことだと感じた。
 遺児の子みんなと輪になって語り合った時、自死遺児の子はガタガタ震えてなかなか言い出せなかった。しかし、周りの子はじっと待つ。その子を中心に支える雰囲気があった。やっと、「お父さんは自殺しました」と言えた彼の目には涙が溢れ、寂しい思いや自責の念、捨てられたのではないか、誰にも伝えられなかったことを話した。私は、打ちのめされて何の罪もない子たちが苦しめられている。この状況を社会に伝えていかなければと思い、番組を作っていた。安心して涙を流せるような社会をつくろうと。
 尾角さんが「脱 他人事」と述べたが、私たちの想像力が今問われている。遺族の話を聞いて涙して終わるのではなく、たくさんの人がつらい思いをしている、私たちも同じ社会の中で生きているということを認識し、自分自身のこととして共感できるかが大切。私自身もできることを引き続きやっていこうと思う。
 遺族支援とは何かということだが、遺族の感情や必要としているものは個性的であり、結局最終的に個人で背負っていかなければならないものが多い。ただ、これまでは個人で背負っていくしかないことと、社会で支えるべきものが、どちらも個人の悲しみのレベルにされて、個人で背負わされていた。それぞれが背負わなければならない部分と、社会や地域が担う部分を分け、より助けを求めやすいしくみをつくることが必要である。その中でも、安心して悲しめる、語れる場は、遺族個人が回復するきっかけをつかめる場として、社会・地域が支援していくべきものだろう。

花井幸二 氏(リメンバー名古屋自死遺族の会代表幹事)のお話

 リメンバー名古屋自死遺族の会は、5年前に立ち上げ、名古屋で2ヶ月に一回遺族の分かち合いの会を開催している。その他、自死遺族が生きやすくなるための活動として、地元名古屋市と連携し、名古屋市の自死遺族支援策へ反映させる活動や、遺族自身の自己実現となる活動(作文集や遠足の企画)などを行っている。
 自殺予防と遺族支援をしっかりと分けて考えていきたい。
 また、遺族当事者の話より、遺族が抱えている生きづらさや苦しみと、それらがどうなってほしいかを表にまとめた。【別紙資料】

田中剛 氏(岐阜県健康福祉部保健医療課)のお話

 岐阜県での自殺による死亡率は全国30位(平成18年552人)。平成10年くらいから自殺者の数が急激に増え続けた。男性が68%で、85歳以上の高齢者の数が6.1%と、全国(3.3%)よりやや多い。原因・動機は「健康問題」265人(48%)、「経済・生活問題」108人(20%)である。
 岐阜県自殺予防対策協議会を平成19年8月15日に設置し、9月13日に第1回開催、3月17日の第2回を開催予定。
愛知県知事の呼びかけで中部圏自殺対策連絡会議が発足。広域的な自殺対策に取り組んでいく。

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続いて、パネラー同士の意見交換。

清水氏
 自殺対策基本法は当初、「自殺予防対策基本法」であった。遺族の声をきっかけに始まったのに、遺族支援に配慮しない名称に反対した。また、自殺未遂者と遺族の支援が同じ条文だったが、分けることで、どちらもそれぞれやらなければならないものとした。未遂者支援や遺族支援を通して、生きやすい社会の実現を目指す。
 ライフリンクで現在行っている実態調査は、遺族の声を聞くことで、遺族自身に参加してもらい、対策につなげることがねらい。遺族の方の中には、同じ思いをしている人たちを増やしたくないと思って話をしてくれる人もいる。自分の体験が、役立つならと。遺族が予防に関わることで、回復の足がかりとなる。

尾角氏
 予防が遺族支援につながることを実感した例として、小中学校での「いのちの授業」を行った経験がある。自死遺族の生きづらさのひとつに、偏見によって語れないというものがある。それをまさに実感した。
 児童生徒に自殺する人のイメージを聞いたところ、マイナスの言葉が多かったが、授業の後の感想には、話を聴いて、深く考えてくれた生徒が多かった。
 子どもでうつになった経験のあるのは40%以上。想像以上に子どもにとって「死」というテーマが近いものであることがわかった。

花井氏 
 リメンバー名古屋でも「自殺」でなく、「自死」という言葉を使っている。他の「病死」や「事故死」と同じような扱われ方を望むからだ。「自殺」という言葉には、その道を選んだ人への偏見が込められている。私たちは、亡くなった人たちの尊厳も守っていきたい。
 自死遺族が減ることはなく、常に増え続けている。自殺対策が、予防に偏ることなく、遺族支援と両輪ですすめていってほしい。

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 この後、会場からも発言がありました。
 岐阜県の断酒会の方からは、「アルコール中毒の患者の中には、自殺願望者が多い。私自身も家族が支えてくれたから命がある。日常の生活で家族が気づくことがとても大切である。」と述べられました。
 神戸の司法書士の方からは「多重債務の相談を受けたとき、もう助かるかなと思ったときに自死される方がいて悔しい思いをすることがあった。異業種間の連携が必要。合同研修会なども必要なのでは。」と述べられました。
 会場の意見がおさまったころ、土岐市の自死遺族の方が、勇気を振り絞ってご発言されたことがとても印象的でした。「妻と子どもを亡くしましたが、自分も遺族会をやるなら関わりたい」と述べられました。
 今後、私もこの方とつながりながら、岐阜県で遺族会が立ち上がるとなれば、何かお手伝いできないかと思っています。

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 最後にパネリストから一言ずつ。

花井氏
 岐阜県で遺族会を立ち上げるときは、リメンバー名古屋自死遺族の会としても協力したい。

清水氏
 多くの方は水際でいくと止められにくい。もっと手前で追い込む原因や生きづらさを解明して総合対策をしていきたい。

尾角氏
 誰にとっても、一番大事なのは日常。自殺、死、重たいものを見て光を見ることができる。みなさんが、「脱 他人事」として、自分自身の問題として考えていってほしい。

田中氏
 行政としては、ある程度客観的にやっていかなければならない。地道な積み上げを行政官としてバランスを持ってやっていきたい。

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 会場に参加された方の人数は少なかったのですが、だからこそご遺族の方が発言できたり、会場全体に一緒に考えようとする雰囲気ができのだと思います。岐阜県の遺族会が立ち上がることを強く願っています。

 なお、岐阜県でのキャラバン・キーワードは、『「自死」を知り・伝え・つながることから始まる』となりました。


「遺族語る」のパネル展示の様子