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全国キャラバン in 山形 [2008年01月07日(Mon)]
報告者:福山なおみ(NPO法人ライフリンク)


 平成19年12月15日(土)、山形市保健センター大会議室にて「全国キャラバン」22番目のシンポジウム【〜語れぬ思いを語ろう〜】が開催されました。

 はじめに、金内良一さん(山形県健康福祉部障がい福祉課長)から主催者挨拶がありました。
 次いで、山口和浩さん(NPO法人ライフリンク)が、全国キャラバンの趣旨について「遺族支援は、自殺対策基本法に明記され大綱に盛り込まれているが、対応に著しい遅れがある。山形県の自殺者数は年間300余人、遺された人たちに“私たちに何かできること”を、それぞれの地域の皆さんと一緒に考えていくこと」と伝えられました。

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 キャラバンは、3部構成で行われました。

 <第1部>自死遺族の語り

 まずは、自死遺族からのメッセージが収録されたDVDの上映がありました。上映後、山口さんは「絶対に分かってもらえないという一点で見られる、と思っていた。しかし、大学1年のときに参加したボランティア団体の合宿で仲間の存在を知り、過去に負けずに、一緒に生きていこう。≪勇気をもらった分、僕がもっている ちょっとの勇気をあげよう≫と思った」と話されました。こころに響きました。<勇気>はもらったと思ったときも、あげようと思ったときも、生きる≪力≫になると、山口さんのお話から学びました。

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 次に、ご遺族の立場から藤原匡宣さんが登壇されました。母親の自死から10年経った今、「遺族支援は、自殺という死に直面した当時者にしか感じることのできない気持ちを伝えることなのかもしれないと思う」と話されました。
 また、「自殺は防ぐことのできる死である。そのためには生きている人間同士の人間らしさが求められる。“人間らしい生活”をしていたら食い止められると思う。仕事で疲れ、ふと死にたいと思うことがあるが、遺されたものはまた悲しむことになる。だから死ねない。母親も同じ気持ちで生活してきたのだろうと、今思う」と話されました。
 そして、「今、私たちにできることは、“身近な人を気にかけること”。職場、家族、友人が、暗い声や顔をしていたら声をかけ、話を聴くことはできる。僕は支えてくれる仲間がいるので生きていこうと思う、元気に生きていこうと思う」と伝えられました。
 さまざまな社会経験を積み重ね、逞しく、頼もしく成長された藤原さんに再会できて、とても嬉しく思いました。

*ここで、山口さんより『自殺対策白書』が初めて刊行されたこと、ご自身の体験を今西乃子さんが著した書籍「ぼくの父さんは、自殺した」の紹介がありました。

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 <第2部>パネルディスカッション「自死遺族支援〜これから私たちにできること〜」



【パネラー】
佐久間正則 氏(山形県健康福祉部障がい福祉課課長補佐)
有海  清彦 氏(山形県精神保健福祉センター所長) 
東谷  慶昭 氏(山形産業保健推進センター 産業保健相談員)      
金子久美子 氏(自死遺族支援団体代表 れんげの会)

【コーディネータ】
山口 和浩 氏(NPO 法人自殺対策支援センター ライフリンク)
 
 佐久間さんは、まず県の自殺の現状について話されました。平成9年270人であった自殺者数が、翌平成10年に359人と増加した。これは全国的にも3万人を超えた時期と重なっており、原因として金融機関の貸し渋り問題が関っていることなどをあげられました。平成18年の山形県の自殺者数は、381人で全国ワースト3位。県の取り組みは、これまで保健所や精神保健福祉センターでの「うつ病対策」が主であったが、今後は@自殺の地域格差の実態調査、A見守りのシステム作り、B遺族支援(語り合いの場の立ち上げ支援)、C相談機関(窓口の設置)を目指し、行政・県民全体の課題として取り組んでいきたいと話されました。

 有海さんは、遺族のVTR、体験談、あしなが育英会の手記などを通して悲しみが伝わり、やっとここで語り合えた、と感想を述べたられた後、どのように周囲の人の理解を深めていくか、また“人間らしい生活”をいかに支援していくか、が重要課題である、と話されました。心の健康センターでは、専任の保健師が年間1300〜1400件の相談を受けており、その内自殺に関する当事者・遺族・関係者からの相談は、5〜10%である。今後取り組む課題は、@相談窓口体制の整備、A後追い自殺などの緊急対応の整備、B自助グループの組織作りと運営の促進をすること。そのために、場所の提供・リーダーシップの育成とネットワーク作り、である。そして、長く、先の見えないトンネルを短くすることが必要ではないか、と語られました。山口さんは、「これならいけるかな!」という思いは、遺族支援をする際の≪力≫になる、と結ばれました。

 東谷さんは、まず「社会の人のメンタルヘルス」について、臨床と産業保健の立場で事業所における自殺既遂事例や調査結果を述べられた後、自殺予防と対策をお話くださいました。うつ病で通院中の方が「首になった。働きたいが、働けない。もうここにも来ないよ」という言葉を最後に受診されず、自殺された事例を語られました。気がかりだと思ったときに医療につなげることの重要性を伝えられました。重症度にかかわらず「うつ病」と診断された人は92%。しかし、精神科クリニックの現状は、電話予約で2週間待ちであり、一日60〜80件。内科医と連携診療を行っているのが実情で、よりよい精神医療につなげるために内科医と勉強会を行っている。さらに、医療改革の影響を受け2ヶ所の病院では精神科病棟が閉鎖され、精神科医がいなくなり、精神診療を受けることができなくなった、と自殺対策の推進を阻むお話をされ、今後の地域自殺対策強化の必要性を痛感しました。

 金子さんは、まずDVDで語られたメッセージを行動に移し、継続していくことが大切である、と感想を述べられました。また、「身近な人を気にかけることの大切さ」「苦しいときに訴える場所があることの大切さ」を話されました。分かち合いのよさは、@思いを語れる場であること、A言葉に込められた相手からの思いやりは、社会の中で居心地のよさを体験する通過点であること、B仲間がいることで≪力≫を得、帰ることができる と伝えられました。さらに、行政に望むことは、「遺族は分かち合いに出てくるにもエネルギーがないと出てくることができない。相談機関を探すことにも多大なエネルギーを要するので行政の手助けが必要である。そのためには、必要な場所と支援が選択できるようサポートすること。そして、行政主導ではなく会の尊重・信頼が大事である」と、遺族支援を実践しておられる立場からの心強いご提言をいただきました。

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 <第3部>今後の自死遺族支援について

【全体討議】
 山口さんから「山形の事情に合った支援について、こういう支援があるとよいのではないかと思われることをお話ください」と、パネラーの方々に投げかけられました。
 有海さんは、「遺族の問い合わせ窓口として固定電話の窓口があるとよい」、東谷さんからは「守秘義務を踏まえた公の場での勉強会がもてるとよい」と話され、山口さんからは「行政だけで取り組むのではなく、秋田など隣県とのつながりを持つことも大切である」と話され、結ばれました。

【参加者の発言】
 会場からは、@会場を確保する場合は、遺族は雑居ビルなどの方が入りやすい、A広報活動は、市や県が行ってくれるとよい、の2点についてご提言がありました。
 また、精神障がい者の団体の方からは、県の保健所・市町村の役割の変化をあげ、「家族教室」(4回)の開催を行政や医療機関に持ちかけたが、35%しか協力を得られなかったことへの不満を話されました。精神障がい者に対する偏見を無くし、啓発活動の促進が必要。自殺をどのように捉えてきたのか、遺された人たちへの支援と併せて予算化をして欲しいと語られ、最後に“遺族も人間らしい生活ができるのです”と、話を終えられました。

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 「全国キャラバン」には、シンポジウムやご遺族の語りとともに『遺族語る』のパネルが展示されます。このパネルは、自殺で大切な人を亡くされたご遺族の皆様に「自死された方の生きた軌跡」や「死に追いつめられた状況と経緯」を語っていただいた“声なき声”を形に表したものです。山形の会場でも、多くの方たちがパネルと向き合い、その声に耳を傾けて下さっていました。



 山形のキャラバン・キーワードは、「語れぬ思いを語ろう わかりあいたい輪」となりました。