仕事の合間に、
京都大学市民講座の若手研究者の講座に行ってきました。
「「社会性」という視点から心の病気について考える」というテーマで医学研究科教授の村井俊哉先生が講演。今、仕事で関わっている福祉事業に役立つだろうと参加したが、期待した病気の治療や支援についてのお話はなかったが、一方で人間が社会的動物であることや、治療にあたる医師としての倫理観のジレンマについて例をあげて話されて、それは医療だけでなく私たちの日常生活にも多いに関係あることで大変興味ぶかかった。
例えば、
社会の中でうまくやれるには、社会的・情報をうまくキャッチして、その情報をもとに社会的に適切に振舞う力が必要になるが、この情報をキャッチするには、恐怖を感じる扁桃体が大きな役割を果たしていると。扁桃体が大き人ほど社会的ネットワークが大きいという実験結果も。また社会的な状況を正しく認識するには他者の視点にたってモノを見る力が必要となるが、3歳児まではそれができない。発達障害のなかには、このような視点の変換が難しくなるものがある。
人によって程度の差はあるが、基本人間は褒めてもらって喜ぶ社会的動物で、社会的報酬と感じるものには、食物やお金以外に、他人のために尽くすという利他的な行為も含まれる。
しかし、他者を傷つけても反省や後悔の感情がうまれないサイコパスとよばれる障害があり、これは3歳までの前頭葉の損傷が原因と考えられるとのこと。大人になってから前頭葉に傷がついてもこういうことにはならないとのこと。こういうサイコパスの人の犯罪の裁判は難しいだろうな・と感じた。
面白かったのが、利他性の程度に大きな個人差があることを示すクイズ。
「配送業の経験のあるあなたが、一日仕事を頼まれ見習いの助手もつけてもらったが、その助手は彼なりにがんばったが段取りが悪くかえって足でまといとなった。仕事が終わり1万円の報酬がでたが、あなたは助手にいくら支払うか。あなたは助手とも見習いとも二度と合いません。さて、あなたはどうしますか?」
一番多いのが助手に3千円、自分が7千円だそう。実際に会場で手を上げている人もそうでした。
社会の中で人の行動を決めるものには、利他性のような社会的価値や、義務観、美徳の倫理、社会的な状況、柔軟性などが複雑にからみ、人間は皆異なる価値観のもと、異なる視点での葛藤を抱えている。このことから、利益最大化に向けて人間は合理的な行動をするという市場の経済学の論理による予測が外れることとなる。
これは同時に、医師が患者を支援する時の難しさにもつながる。例えば、長年喫煙していた患者三に対して、健康を理由にやめさせるべきか、入院中の唯一の楽しみを奪うべきではないか、といった問題である。
村井教授は、日々の医療判断はこのようなモラル・ジレンマの連続で、このような問題に対応するには、すべての医療従事者に信念・根拠・覚悟が必要だとのこと。
最後に年間3万人を超える自殺者対策をどうするかという投げかけ。
精神科医は一人一人の幸福に対峙しているが(といっても、一日50人の治療で一人5分程度しか時間が避けないという状況だが・・・)、本当は社会全体の幸福が実現されることが必要。菅直人が「最小不幸社会」と言っていたが、それを目指すために、誰にどの程度幸福でいてもらうために、資源を分配するかという問題を解決するのは難しい。
また、経済状況の良い時期に自殺者が少ないことを考えると、就労というのは幸福に大きく関与していている。
ただし、幸福は多数の要因が複雑に関与しており、簡単ではない。その時代の価値も反映されている。
などなど。。考えさせることが沢山ありました。それにしても、脳の働きは奥が深く、その謎が解決されることで多くの病気・障害が治癒できることを考えると、医学の研究への投資は大事だと思いました。あまりにも忙しい医療現場。先生方が過労死している状況を解決してほしいものです。