「日中未来創発ワークショップin 東京」の開催(その2)
[2024年03月06日(Wed)]
前日のレクチャー、フィールドワークに続いて、2日目のプログラムはチーム別ディスカッションです。
まず、笹川平和財団の安達一常務理事は、開会挨拶の中で、今回のような若者同士の交流においては、それぞれの国の事情やものの考え方を率直に共有し語り合いながら違いを理解し、共通点を見出すことが重要であるとした上で、今回のワークショップが、その名の通り「創発」つまり日中間で創り出し得る新しい未来についての意見交換を通じて違いも含めて互いの理解を深める機会となれば良いとの期待を示しました。
◆ディスカッション
続いて各チームは、前日のレクチャーやフィールドワークで得られた気づきやアイデアをもとに実現したい未来の生活、実現の課題・解決策等について意見交換し、その成果を未來新聞やイラスト、絵日記などの形で成果物に取り纏め、最終的に日本語と中国語の両語で全体発表を行いました。
発表された未来の生活は、観光・交通、都市環境、サブカルチャー、日中関係、ゴミ問題、ユニバーサル(バリアフリー)など様々な分野に関わるものでしたが、実現の鍵となるのはAI、VR、ARなど最新テクノロジーの活用、日中間の知識やノウハウの共有、相手に対する思いやり、意識の改革などに集約されました。
例えば、「誰にとっても便利な生活に!」にテーマ設定したチームは、日本では点字ブロックや信号の音声案内などバリアフリー化が進んで一方、キャッシュレス化が立ち遅れていること、また日中ともに高齢化が進展してることなどから、ユニバーサルな社会実現のための対策を考えました。具体的にはバリアフリー化とキャッシュレス化の促進で、その際、障がい者や高齢者等に対する理解促進、先行する経験やノウハウの日中共有が重要であるとしました。
また、東京の駅は複雑で分かり難いという気づきから、「未來の電車と観光」をテーマに未来の生活の姿を描いたチームもあります。東京の駅には沢山の出口があるだけでなく入口から改札までの距離が長いものもあるなど分かりづらく乗り換えも不便、またセキュリティチェックがなく安全が確保されていないという現状を踏まえ、10年後にはAI搭載ブラウザによる多言語の駅案内やセキュリティチェックシステムの活用、ホームドアの完備などにより、外国人などの観光客にも分かりやすく便利で安全な鉄道環境や観光が実現されるというものです。
この他、各チームが描き上げた未来構想には次のようなものがありました。
・「日中好朋友計画」〜10年後の相互未来〜
・「サブカルチャーの現在と今後」
・「自然と都会の共存」
・「サイバー神社」
・「破壊と創造」日常を取り戻す
・「AI活用による楽しく利便性の高い観光」
・「10年後のごみ意識」
・「迷わない街づくり」
◆講評
全体発表を受け、3名の日中関係者から講評がありました。
まず、国観智庫 総裁 任力波氏は、互いにリスペクトし理解し合おうという姿勢で多様なアイデアが出されたとした上で、今日、想像した未来と現実とはかけ離れているが、若者がより良い未來を創ってくれるかもしれないとの期待を述べました。さらに、今後も互いに尊重し理解し合う姿勢を崩さず、40年後は美しい世界になったと報告して欲しいとの希望を伝えました。
続いて、浙江越秀外国語学院 東方言語学院 院長 邱鳴氏(2024年笹川杯訪日団 団長)は、メンバーがそれぞれ得意分野を活かしながら協力して素晴らしい発表をしたとの感想を述べた上で、自国の文化を理解した上で相手の国の文化を理解することの重要性に触れ、ここで得た理解を自分たちの生活に反映させ、より良い日中関係のために頑張って欲しいとの期待を示しました。
最後に、東京大学大学院総合文化研究科 生命環境科学系 教授 渡邊雄一郎氏(2023年パンダ杯訪中団 団長、日本科学協会 理事)は、ここ10年におけるAI技術の目覚ましい進化に言及し、それを活用した両国の未来を考えるのは素晴らしいこととした上で、今日考えたことが検証される10年後、予想通りになっていることもそうでないこともあるが、そうでない場合でも、今日考えたことは無意味ではないとしてワークショップ開催の意義を評価しました。
◆参加者感想
今回のワークショップに対する参加者の感想は様々だったようです。
日本側からは「中国人の学生さんと交流できてとても楽しかった」「日本を新たな視点から見ることができた」「中国語を実践する良い機会になった」「互いのことを沢山知り日中の相違点も比較もできた」「発表内容とアイデアが重なることが多く、もっと多様なアイデアや新鮮味のある発想があればよかった」などの感想が寄せられています。
中国側参加者からは、「日本の文化や社会の体験、中日の相違についての対話を通して日本への理解が深まった」「共に行動し共に考え思いを伝えることで日本人との距離が縮まった」「もっと堅苦しいステレオタイプのものを想像していたが、今回のワークショップは全く違って斬新な体験だった」などの感想が寄せられています。
こうした感想の中から日本側、中国側それぞれ1人ずつの感想を紹介します。
岡山大学 大学院の高野かずみさん
(2023年度Panda杯訪中団OB、笹川杯訪日同行スタッフとして参加)
中国人から見た日本がいかに彼らの故郷と異なるか。日本人が中国の話を聞いた際にどこに共通点を見出すか。ワークショップでは中日両国の若者がお互いに「生」の情報を見聞することで真に迫った交流を深められたのだと身をもって体感した。
四川外国語大学大学院 日本語学院 王雲樵さん
(笹川杯訪日団員として参加)※日本語原文を活かして編集。
フィールドワークでは自分の目で確かめ足で歩いた日本で感じたものが銘々の心の奥に広がり、それらの思いを皆がワークショップ会場で隠すことなく打ち明けていた。十年先の未来や実現したい生活については、まだまだおぼろげで皆が思ったこともそれぞれだったが、中日ともに夢を抱く若者が努力していることに変わりはない。ワークショップでの協力にはグループメンバーの結束力だけでなく中日両国の繋がりも仄めかされている。
十年後、二十年後、色んなものが消え色んなものが築き上げられるだろうが、この先世界がどんなに変化しようと、中日が互いを理解し合う心でさえいれば、その絆がある限り、未来は今よりも輝くものになると信じている。
(文責:宮内孝子)