日本財団の再犯防止の取り組みは、刑務所から出所する障害者や高齢者の再犯問題がきっかけで始まりました。現在、進行しているプロジェクトはいずれも“就労に視点”を置くことにありますが、当初は“福祉の視点”で更生を支援しようと始まりました。
再犯防止の取り組みに着手した当時に「毎日フォーラム」に寄稿した記事がありますので、参考まで紹介します。
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毎日フォーラム【視点】
2011/02/10
元受刑者の自立に向けて
障害・高齢者の再犯防止へ司法と福祉の有機的連携を
行く当てがなく「刑務所に戻りたい」という動機から罪を犯す障害者や高齢者の累犯者が増えている。報道された中で、2006年1月の下関駅放火事件は、福岡刑務所を出所した軽度の知的障害のある70代の男性が起こした。出所後に北九州市の区役所に生活保護を求めたものの、住所不定を理由に拒否され下関駅行きの鉄道切符だけを渡されていた。出所後わずか8日目の犯行だった。
法務省の06年の調査では、親族などの受け入れ先がない満期釈放者は約7200人、うち自立困難な障害者や高齢者は約1000人と推計されている。65歳以上の満期釈放者では半数以上が2年以内に再犯に及び、刑務所に再入所している。知的障害者、または知的障害が疑われる人で障害者手帳所持者は1割にも満たず、さらには4割近くが困窮・生活苦を理由に罪を犯している。社会に居場所を見つけられない障害者や高齢者にとって、刑務所は最後の砦となり、「刑務所に入るよりも出る方が怖い」という釈放者の声もある。本来、社会福祉の支援を受けられるはずの障害者や高齢者が、セーフティーネットからこぼれ落ちている。犯罪を生む現実を変えるために日本財団は有識者などを入れた委員会を発足させ検討を始めている。
法務省と厚生労働省は、自立が困難な障害者や高齢者による再犯を福祉の視点から食い止めようと地域生活定着支援事業を創設した。当事者と出所前から面談を重ね、出所後の生活拠点を確保することが狙いだ。その中核が各都道府県の「地域生活定着支援センター」で、現在37道府県に設置され、生活保護や障害者手帳の取得、グループホームなどの社会福祉施設への入所手続きなど、出所後に福祉サービスにつなぐ役割を担っている。行く当てもなく街中をさまよい、あるいは孤独で不安や恐怖におびえることなく、福祉による支援が受けられる基盤作りだ。しかし、解決に向かう制度のはずが、聞こえてくる声は必ずしも歓迎の声ばかりではない。
地域生活定着支援センターが抱える大きな悩みは、出所者が生活を送るために必要な福祉サービスを提供してくれる社会福祉施設が少ないことだ。特に高齢者は、厚労省の統計でも明らかなように、特別養護老人ホームの待機者が42万人を超える現状では、再犯防止を理由に優先的に受け入れる施設は皆無といっても過言ではない。頼れる身寄りがなく、収入源のない障害者や高齢者にとって、住所不定では生活保護や障害年金の受給も受けられない。再犯防止には、心理的な不安を少しでも取り除き、安心して生活できる居場所を見つけ、提供することが必要なのである。
次善の策として、受け入れ先が見つかるまでの間の一時期を過ごせるシェルター(簡易宿泊施設)の必要性が指摘されている。だが、治安の悪化を懸念する住民の理解や協力を得るのは難しい。京都では計画から3年たった今も、住民の反対でシェルターの「自立更生促進センター」の建設が進んでいない。新たな施設を作り障害の種類や程度などに合わせた支援体制を構築していくことは難しく、社会福祉士などの福祉職員や安定した財源の確保をどうするかという新たな問題を抱えることになる。
一方では、出所者の更生を支援し、社会復帰を助ける「更生保護施設」をはじめ、既存の制度や施設が活用されていないという現実もある。09年には全国104カ所ある更生保護施設のうち、57カ所がそれ以前は対象とはならなかった高齢、または障害により自立が困難な出所者を一時的に受け入れられる施設として指定され、福祉職員も配置されるようになった。しかし連携して受け入れた実績はない。
また、刑務所を出所後、行き先がなく路上生活を余儀なくされる出所者も多い。路上生活者の支援を行っている組織との連携を模索することも一つの方策である。福祉だけでなく、就労への新たな扉も開かれることになる。この路上生活者の一時保護施設の活用には、法務省も具体的な支援に動きつつあり、更生保護施設と併せて地域生活定着支援センターとの連携した支援体制の構築を提案したい。
司法と福祉の連携のもとに創設された制度において、互いに重なり合う支援が欠けていては、社会に生じた歪みや穴を埋められるものではない。また、形式上の連携では何ら意味を持たないし、解決への一歩を踏み出したことにもならない。
社会福祉施設は福祉的なサービスは提供できても、更生という側面からの支援は専門外である。そのため、施設側が社会復帰できると判断し、自立の道を歩ませたにもかかわらず、その直後、再び罪を犯し、苦労が報われなかったという福祉施設の例も報告されている。司法から福祉にバケツリレーのように対応していては根本的な解決にはならない。社会に生きづらさを感じている高齢者や知的障害のある人が窃盗や無銭飲食を繰り返さないように、近くで見守る家族的な存在が必要だ。
そのためには心のケアや社会教育、生活相談や社会復帰の手助けの経験のある保護観察官、保護司、社会福祉士らの連携が必要だ。お互いの専門性を生かし、補完する継続的な伴走型の支援を提案したい。この伴走型支援では、地域生活定着支援センターとの連携の実績はないが、内閣府が開始した「パーソナル・サポート・サービス」との連携による包括的、かつ安定した支援体制の構築が考えられる。
司法は司法の領域だけ、福祉サービスは福祉の領域だけで解決しなければならないという考え方だけでは、犯罪を繰り返している障害者や高齢者を救うことはできない。仮に一つ二つの成功例が見られても将来的には行き詰まってしまう恐れがある。既存の社会資源と有機的に連携が肝要である。
既存の組織や制度との連携では解決できないことも当然出てくる。その場合は前例にこだわることなく、現行制度を改め、法的整備を検討することも重要だ。例えば、きめ細かな福祉サービスを実現するために、刑務所内において施された治療や投薬の種類、社会復帰に必要となる個人情報は開示するように、一部法律で認めることも必要ではなかろうか。
それぞれの立場による狭い視点から問題解決を探るのではなく、より多くの関係者・機関に横串を通し、社会に復帰できる支援策を考えることが大切である。そして、一つでも多くの成功モデルを社会に示すことが新たな社会資源との連携の端緒となる。連携を模索する日本財団の研究は始まったばかりだが、具体的な連携モデルを構築し、全国で展開するとともに司法と福祉で横断的に活動できる人材を養成したい。その輪が広がることで地域の理解や協力も深まり、自立困難な障害者や高齢者が暮らせる拠点が増えていくことになると考える(福田英夫)。
Posted by 再犯防止チーム at 10:32 |
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