「衆の雑感」ブログより
携帯電話やパソコンなどハイテク製品に必要不可欠なレアメタル(希少金属)の一種であり、中国の輸出枠削減を受けて先高観が強まるレアアース(希土類)鉱山の開発が世界中で盛んです。しかし、レアアース鉱山で掘り出される放射性物質「トリウム」を含んだモナザイト(モナズ石)等の鉱物資源については、放射能を帯びた厄介な不純物としてトリウムを取り除かなければならず、その使い道が確立されていません。また、トリウムを安全に廃棄するための処理コストも嵩んでおり、トリウムを核燃料として使う原子力発電(トリウム原発)の普及が俄に注目されています。
モナズ石

<出所>独立行政法人産業技術総合研究所地質調査総合センター地質標本館
モナズ石は、花崗岩や片麻岩、砂鉱床から産出され、セリウム・ランタン・イットリウム等のレアアースを含む燐酸塩鉱物です。特にインド産モナズ石には、重量の約8%という高濃度のトリウムを含み高品質です。
レアアース採取とトリウム利用を両輪の如く扱うトリウム原発では、解体した核兵器や使用済み核燃料に含まれる有害な放射性廃棄物であるプルトニウムを、トリウムと一緒に燃やせば殆ど消滅できる点が最大のメリットです。トリウム自身が核分裂をしないため、火種としてプルトニウムを使うことで燃料利用と廃棄処理が両立します。また、トリウム資源保有国も米国や豪州、インド、カナダなど政情的に安定した国々に分散しており、手付かずになっているため保有量も合計130万tと潤沢です。そこで、レアアースの副産物として各国が個別で蓄積しているトリウムを戦略的に備蓄するため、“核の番人”と呼ばれる国際原子力機関(IAEA)で創設を検討している「核燃料バンク」の対象にトリウムを加え、トリウムが不用意に廃棄されることなく核燃料として保管するという観点から共同管理(トリウムの商品化・トリウムの取得保証・トリウム価格の高騰抑制等)することも一考に値するのではないでしょうか。

“Thorium Minerals Yearbook 2011(USGS)”
これまでトリウム原発が日の目を見なかった主な理由としては、第二次世界大戦後の米ソ冷戦構造や核開発競争に伴い原子力の民生利用と軍事利用が密接に結びつき、核兵器に転用可能なプルトニウムを生成する原発の核燃料としてウランを使う軽水炉(ウラン原発)が主流となった結果、トリウム原発の要諦となる溶融塩(液体)炉の実用化が遅々として進まなかったためです。溶融塩炉は、軽水炉と比べて単純なシステムであることから安全運転が確保し易く小型化(大型の軽水炉に見られる大規模集中型のベースロード電源から小規模分散型のピークカット電源への移行)に適し、軽水炉と違い沸騰しづらいため圧力が低く、高い熱効率で運用性・経済性にも優れています。温室効果ガス(二酸化炭素)の排出量や放射性廃棄物の負担を大幅削減し、設置場所の制約解消に寄与するトリウム原発がウランを代替する核燃料と新規原子力産業の興隆を促します。

溶融塩炉では、トリウム232(天然・非核分裂性)+中性子→トリウム233→ウラン233(核燃料)となります。トリウムをウランに変換する中性子源としてプルトニウムを使います。ウラン233は、強力な電磁波であるガンマ(γ)線を同伴するため核兵器への転用が困難です。そして、軽水炉で用いられる制御しづらい金属製の燃料集合体(出力変動に弱い燃料棒の束で、1年程度の間隔で交換を強いられる)格納容器やシュラウド(炉心部を構成する燃料集合体・制御棒等を内部に収納する円筒状の構造物)を冷却するための海水が不要なグラファイト(温度変化に強い黒鉛)部分で核分裂反応を冷やさずに保つ仕組みです。
日本では現在、再処理工場(青森県六ヶ所村)の本格操業が待たれるなか、発電後にウランから発生される残渣であるプルトニウムの扱いに腐心しており、苦肉の策としてプルサーマル発電や高速増殖炉「もんじゅ」開発を行っています。余り馴染みのないトリウムについてもウランと共に「原子力基本法」で既に定義されており、トリウム原発の実用化に支障は全くありません。原子力を地球温暖化対策の切り札とする先進国のみならず経済成長でエネルギー需要が伸びている新興・途上国において原発導入の動きが活発化している「原子力ルネサンス」である一方、国内では脱原発や原発反対の不毛な「原発漂流」議論が続いている原子力政策を打開すべく、今こそ地球温暖化防止やエネルギー安定供給、そして核軍縮・核不拡散という崇高な理念に基づく「核なき世界」の実現に向け、軽水炉に固執・拘泥せず高速増殖炉の呪縛に囚われることなく、“平和の灯”を点すトリウム原発開発に唯一の被爆国である日本がリーダーシップを発揮して取り組むべきであると考えます。
世界の核兵器の9割以上を占める核超大国である米国とロシアとの間で2011年2月5日、新しい核軍縮・核不拡散の枠組みとなる「第2次戦略核兵器削減条約(STARTU)」が発効しました。また、核兵器の原料となるプルトニウム等の生産に歯止めを掛けるための「兵器用核分裂性物質生産禁止(カットオフ)条約」を推進する動きも加速しています。近い将来、エネルギー戦略の要諦となるトリウム原発を梃子に、人類が核兵器のない恒久的な平和を享受しながら地球環境を守り、子々孫々に禍根を残さない持続可能な社会が構築されることを期待しています。
【補足1】1955年に制定された原子力基本法の第3条(定義)
この法律において次に掲げる用語は、次の定義に従うものとする。
1 「原子力」とは、原子核変換の過程において原子核から放出されるすべての種類のエネルギーをいう。
2 「核燃料物質」とは、ウラン、トリウム等原子核分裂の過程において高エネルギーを放出する物質であつて、政令で定めるものをいう。
3 「核原料物質」とは、ウラン鉱、トリウム鉱その他核燃料物質の原料となる物質であつて、政令で定めるものをいう。
4 「原子炉」とは、核燃料物質を燃料として使用する装置をいう。ただし、政令で定めるものを除く。
5 「放射線」とは、電磁波又は粒子線のうち、直接又は間接に空気を電離する能力をもつもので、政令で定めるものをいう。
(網掛けは筆者)
【補足2】核兵器には、大きく分けて弾道ミサイル等で大陸や大洋を跨いで攻撃する長距離の「戦略核」と、直接的な戦場で使う短距離の「戦術核」があります。STARTUの削減対象は前者です。
<参考文献>
『平和のエネルギー―トリウム原子力』
亀井敬史・(財)国際高等研究所招聘研究員著、雅粒社、2010年
ISBN 978-4-9901388-6-8
Posted by そよ風さん at 19:40 | アーカイブ | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)








