自衛隊判決―市民を見張る考え違い
「朝日新聞」が3月30日付に社説 [2012年04月04日(Wed)]
「朝日新聞」が3月30日付で掲載した社説を紹介します。
自衛隊判決―市民を見張る考え違い 自衛隊のイラク派遣に反対する市民活動を自衛隊が監視していた問題で、仙台地裁は「正当な目的や必要性がないのに、個人情報を集めて保有した」と述べ、国に賠償を命じた。 個人には「自分の情報をコントロールする権利」がある。それを侵したとの判断である。 法律に明文のさだめがなく、判例上も確立したとはいえない権利を積極的にとらえ、行政機関の無軌道な情報収集に歯どめをかけた意義は大きい。 一方で、この考えがひとり歩きすると、逆に国民の知る権利をそこなうことも考えられる。どう調整をはかるか、今回の判決も材料にしながら議論を深めていく必要がある。 自衛隊がしたことの違法性ははっきりしたが、賠償が認められたのは、たまたま明るみに出た文書に所属政党などが書いてあった共産党議員ら5人にとどまった。個人情報が載っていなかった約100人の原告はすべて請求を退けられた。 原告側は「監視されると、活動への参加をためらうことになり、表現の自由の萎縮をもたらす」とも主張したが、地裁は取りあわなかった。 結果として、論点は個人情報の扱いの当否にしぼられてしまい、問題の本質に迫る内容になったとは言いがたい。判決にも大きな疑問が残った。 それにしても、裁判で国側の姿勢は驚くべきものだった。 まず、証拠として提出された文書が自衛隊のものかどうか、肯定も否定もしない姿勢を貫いた。「公務に関する秘密を明らかにすることになり、ひいては国の安全保障に影響を及ぼす」という言い分だ。 そして、市民は情報収集されているのを知らなかったのだから、表現の自由が萎縮することもありえないと主張した。 開き直りと言うほかない。誰のために自衛隊はあるのか。 折しも政府は、国の安全などにかかわる情報を守るとして、違反者に重罰を科す秘密保全法の制定を検討している。 だが、主権者である国民を敵対する存在とみなし、説明を拒み続ける組織や政府に、そのような強い権限を与えたらどうなるか。暮らしや人権がおびやかされる方向に流れるとみるのが自然だろう。 市民監視が発覚したのは5年前だ。その後、政権は交代したが何の検証もなく、法廷での主張もそのままだった。問題意識の低さが見てとれる。 政治がしっかりリードし、自衛隊に潜む危うい体質を変えてゆく。それが文民統制である。 |