先輩研究者のご紹介(向井 幸樹さん)
[2019年05月29日(Wed)]
こんにちは。科学振興チームの豊田です。
本日は、2018年度に「貝毒原因プランクトンの高感度検出法の開発と発生動態解析」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、九州大学水産生物環境学研究室所属の向井 幸樹さんから研究について、コメントを頂きました。
<向井さんより>
冬の味覚「牡蠣」といえば広島県を想像しますが、ここ佐賀県の北部に位置する仮屋湾周辺海域においても牡蠣養殖が盛んに行われています。しかし近年、有毒プランクトンの一種、アレキサンドリウム カテネラ(以下、カテネラ、写真)を原因とした貝の毒化が問題となっており、それに関連した出荷規制により養殖業において経済的な損失が発生しています。これらの経済被害を軽減するためには、カテネラの発生動態の把握、そして環境条件に関わる増殖特性の評価が必要だと考え、本研究を行いました。
本研究では、定量PCRを使った高感度遺伝子検出法を構築後、実際に現場海域で秋から冬にかけて長期間のモニタリングを行い、さらに環境要因(水温、塩分、栄養塩)と本種出現動態の関係を解析しました。また仮屋湾で単離したカテネラ株を用いて、水温、塩分に対する培養試験を行い、増殖特性を評価しました。
その結果、本種が海水中において顕微鏡観察による検出が困難なほど低密度で存在する時期においても、遺伝子レベルで本種の存在を確認できるようになりました(図1)。特に初期発生の早期感知は、その後の増殖予測に重要なポイントであるため、本手法は有用であると考えられます。また出現動態と環境要因を比較した結果、本年度の増殖には好適な水温や塩分に加え、窒素・リンなど栄養塩濃度の増加が引き金になった可能性が高いことが明らかになりました(図2)。
増殖試験では、仮屋湾のカテネラ株は幅広い水温(10〜30℃)および塩分(15〜34 psu)で増殖可能でした。カテネラは生活史の中に、海中で過ごし貝毒を引き起こす栄養細胞期と、植物の種に匹敵する底泥中で過ごす休眠期細胞というステージを持ちます。一般的には増殖に不適合な環境を休眠期細胞で過ごすと言われていますが、我々の実験結果から、本海域で水温が最も低くなる冬期(12℃前後)においても栄養細胞として生存が可能であることがわかりました(図2)。また過去の知見と比較すると、仮屋湾で単離した株を含め九州北部海域に生息するカテネラは、和歌山県田辺湾、茨城県鹿島灘で単離された株よりも高水温耐性を有することが明らかになりました。
プランクトンの発生動態に関する研究は国内外で数多く報告されていますが、海域によって環境が大きく異なること、そしてプランクトン自体の増殖特性も異なる可能性があるため、それぞれの地域で単離した株に対して研究を行うことが重要です。有害プランクトンが引き起こす水産業への被害を軽減するためにも、今後も引き続き研究を継続していきます。
貝の毒化は水産業関係者の悩みの種であり、最前線での研究を頑張っていただきたいと思います。そして、安全でおいしい牡蠣がたくさん食べられるようになると良いなと思いました。
日本科学協会では過去助成者の方より、近況や研究成果についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
本日は、2018年度に「貝毒原因プランクトンの高感度検出法の開発と発生動態解析」という研究課題で笹川科学研究助成を受けられた、九州大学水産生物環境学研究室所属の向井 幸樹さんから研究について、コメントを頂きました。
<向井さんより>
冬の味覚「牡蠣」といえば広島県を想像しますが、ここ佐賀県の北部に位置する仮屋湾周辺海域においても牡蠣養殖が盛んに行われています。しかし近年、有毒プランクトンの一種、アレキサンドリウム カテネラ(以下、カテネラ、写真)を原因とした貝の毒化が問題となっており、それに関連した出荷規制により養殖業において経済的な損失が発生しています。これらの経済被害を軽減するためには、カテネラの発生動態の把握、そして環境条件に関わる増殖特性の評価が必要だと考え、本研究を行いました。
本研究では、定量PCRを使った高感度遺伝子検出法を構築後、実際に現場海域で秋から冬にかけて長期間のモニタリングを行い、さらに環境要因(水温、塩分、栄養塩)と本種出現動態の関係を解析しました。また仮屋湾で単離したカテネラ株を用いて、水温、塩分に対する培養試験を行い、増殖特性を評価しました。
その結果、本種が海水中において顕微鏡観察による検出が困難なほど低密度で存在する時期においても、遺伝子レベルで本種の存在を確認できるようになりました(図1)。特に初期発生の早期感知は、その後の増殖予測に重要なポイントであるため、本手法は有用であると考えられます。また出現動態と環境要因を比較した結果、本年度の増殖には好適な水温や塩分に加え、窒素・リンなど栄養塩濃度の増加が引き金になった可能性が高いことが明らかになりました(図2)。
増殖試験では、仮屋湾のカテネラ株は幅広い水温(10〜30℃)および塩分(15〜34 psu)で増殖可能でした。カテネラは生活史の中に、海中で過ごし貝毒を引き起こす栄養細胞期と、植物の種に匹敵する底泥中で過ごす休眠期細胞というステージを持ちます。一般的には増殖に不適合な環境を休眠期細胞で過ごすと言われていますが、我々の実験結果から、本海域で水温が最も低くなる冬期(12℃前後)においても栄養細胞として生存が可能であることがわかりました(図2)。また過去の知見と比較すると、仮屋湾で単離した株を含め九州北部海域に生息するカテネラは、和歌山県田辺湾、茨城県鹿島灘で単離された株よりも高水温耐性を有することが明らかになりました。
プランクトンの発生動態に関する研究は国内外で数多く報告されていますが、海域によって環境が大きく異なること、そしてプランクトン自体の増殖特性も異なる可能性があるため、それぞれの地域で単離した株に対して研究を行うことが重要です。有害プランクトンが引き起こす水産業への被害を軽減するためにも、今後も引き続き研究を継続していきます。
貝の毒化は水産業関係者の悩みの種であり、最前線での研究を頑張っていただきたいと思います。そして、安全でおいしい牡蠣がたくさん食べられるようになると良いなと思いました。
日本科学協会では過去助成者の方より、近況や研究成果についてのご報告をお待ちしております。最後までお読みいただき、ありがとうございました。