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公園の利用で地域住民の交流が活性化!健康増進にもつながる!/大塚芳嵩 [2018年11月09日(Fri)]
2018年・第49回/設立30周年記念大会(東京都市大学)でポスター賞を受賞された大塚芳嵩さんからの投稿が届きました!

ポスター賞_大塚さん.jpg

都市公園における利用行動の多様性と地域における交流状況との関係性
産総研人工知能研究センター 大塚芳嵩



受賞ポスターはこちら!
Otsuka01_Poster.jpg


 この度、第49回日本緑化工学会大会において優秀ポスター賞(論文部門)をいただきました。大変栄えある賞をいただきましたこと、誠にありがとうございます。また、本研究に関わられた共同研究者、関係者各位に対しこの場を借りて厚く御礼申し上げます。
 本研究の目的は、都市緑地の利用促進により地域住民のソーシャル・キャピタルの向上が可能であるか検討することです。

 ソーシャル・キャピタルとは、地域住民間の信頼関係や日頃の交流頻度、地域活動への参加などの“地域の結束力”あるいは“交流状況”を指す用語で1)、公衆衛生学や社会経済学においては地域住民の健康状態と密接に関係することが示されています2)
 このため、現在は地域のヘルス・プロモーションや地域活性化のため、ソーシャル・キャピタルの向上させる取り組みや研究が行われています。しかし、多くの研究者がソーシャル・キャピタルを向上させる方法を模索しているにもかかわらず、実効性やあらゆる地域に対して普及可能性がある取り組みは未だ少ないのが現状です。
 また、公衆衛生学においては、“0次予防”による健康増進が進められようとしています。この0次予防は、従来までの生活習慣の改善、病気の早期発見や再発防止などの個人レベルに対するアプローチから、住むだけで健康になってしまう都市環境や社会制度の整った包括的なまちづくりへ予防医療の枠組みを拡大した点に特徴があります。現代の公衆衛生学においては、都市計画的なアプローチによる健康増進や交流促進に関する研究が、高い期待を寄せられるテーマとなっています。

 そこで、我々が着目したのが公園を中心とした都市の緑地です。公園は、どの地域にも必ずあり、いつでも誰でも無料で利用できる公共施設です。一方で、公園は老朽化などの維持管理上の問題から今後再開発が必要とされ、この際に健康増進や交流促進など多面的な効果の発揮することが求められています3)。WHOのレビュー資料によると、公園や森林などの緑地は周辺住民への健康増進効果や健康格差の縮小効果があること4)、緑地の利用頻度が高まるほど住民の健康状態が向上することや孤独感が緩和することが示されています5,6)。また、公園の利用形態と交流状況を検証することで、交流促進に有効な利用形態を特定することができ、その利用形態を誘発しやすくするデザインや公園の環境整備へ示唆を与えることができると考えました。

 本研究の結果としては、地域住民の公園の利用形態は5つに区分することができ、これらは「低利用型→散歩型→休憩型→活動型→多様型」と段階的に活動的な利用形態へと行動変容していくことが示されました。また、公園における行動変容が進むほど、ソーシャル・キャピタルが高まることが示されました。つまり、公園の利用促進や行動変容により、地域住民の交流状況が改善する可能性が示されました。詳細は、上記のポスターと論文を参照してください。
 これらの結果から、我々のグループでは、下図のようなフローにより地域住民の健康増進と交流促進を進めていきたいと考えています(図-1)。

@多様な利用形態に対応できるように地域の公園を再整備する
A地域住民の公園の利用頻度が向上し、段階的に行動変容する
B利用頻度の向上や行動変容に伴い、交流状況も段階的に発展する
C交流促進により、地域住民の健康状態も段階的に改善していく
D健康状態の改善に伴い、さらなる行動変容や交流促進につながる
E健康的なライフスタイルが定着しやすくなる

Otsuka02_Fig_1.jpg
図-1 公園の利用による健康増進の想定フロー

 今後は、地域の環境と社会経済状態、ソーシャル・キャピタル、住民の心理・生理・行動と健康状態を包括した統合モデルの構築とシミュレーション解析を人工知能により行い、より健康増進や交流促進に効果的で普及可能性の高い公園の利用形態を探っていきたいと思います!
 また、地域レベルでの社会環境と健康状態の関係性を解析するためには、社会疫学との連携、研究成果の社会実装には地域看護学や公衆衛生看護学との現場レベルでの取り組み推進が必要となります。課題は山積していますが、これからも緑の普及とより良い社会を目指すため、研究を続けていきたいと思います!

以上

参考文献等(引用は本文中該当箇所に青字で表示してあります)

1) Putnam, P. D・河田純一訳 (2001), 哲学する民主主義―伝統と改革の市民的構造―. NTT出版, pp.1-318.
2) 相田 潤・近藤克則 (2014) ソーシャル・キャピタルと健康格差. 医療と社会, 24(1): 57-74.
3) 国土交通省, 公園とみどり, 「新たなステージに向けた緑とオープンスペース政策の展開について」, http://www.mlit.go.jp/toshi/park/toshi_parkgreen_tk_000064.html (2018年10月11日閲覧)
4) World Health Organization (2016) Urban green spaces and health - a review of evidence. 1-91.
5) 大塚芳嵩・那須 守・高岡由紀子・金 侑映・岩崎 寛 (2014) 都市公園における利用行動と健康関連QOLの関係性. 日本緑化工学会誌, 40(1): 90-95.
6) Maas, J., Van Dillen, S. M. E., Verheij, R. A. and Groenewegen, P. P. (2009) Social contacts as a possible mechanism behind the relation between green space and health. Health & Place, 15(2): 586–595.

Posted by JSRT・Web担当 at 00:00 | 会員より | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
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