狛犬の佐助
[2018年04月10日(Tue)]
伊藤遊さんの『狛犬の佐助 迷子の巻』(ノベルズ・エクスプレス19)(岡本順/絵 ポプラ社 2013.2)をご紹介します
『狛犬の佐助 迷子の巻』は、第62回(2013年)小学館児童出版文化賞を受賞しました。
本書は、伊東さんの作品で初めて、あやかしが主人公です。江戸時代の石工の魂が宿った狛犬です。
明野神社の狛犬には、彫った石工の魂が宿っていた。狛犬の〈あ〉には親方、〈うん〉には弟子の佐助の魂が――。
二頭は神社を見張りながらしょっちゅう話をしていたが、その声を聞くことができるのは、数え年7歳になるまえか100歳をこえた者だけだという。
佐助は近頃、愛犬をさがし続ける参拝客、大工見習いの耕平のことが気になってたまらない。
そんな佐助を、親方は「狛犬らしくない」とたしなめるのだが……。
150年前の石工たちの魂を宿した狛犬と、神社で出会う人々との心躍るファンタジー。
伊藤遊、9年ぶりの待望の書き下ろし長編。
長編『つくも神』、絵本『きつね、きつね、きつねがとおる』でコンビを組んだ岡本順の絵がファンタジーの世界をリアルに立ち上げる。
(ポプラ社HPより)
伊藤さんの作品は、いつも登場人物の心の描写が細やで、物語の中にすっと引き込まれます。
「一生懸命にやっていれば、必ず道は開ける。世の中ってのは、そういうものなんだ」(P.168)
「最初から上手な人間なんていやしねえんだよ。だれでも最初は下手くそなんだ」(P.176)
「泣かせるようなことをしたのでなければ、かまやしねえんだよ」(P.177)
狛犬(獅子)の〈あ〉(石工の親方 孫七)がいいですね
いかにも江戸の職人という感じで粋で、若くて危なっかしい佐助をたしなめるキツい台詞も、弟子への愛情が感じられます。
『鬼の橋』の征夷大将軍坂上田村麻呂、『えんの松原』の伴内侍といい、伊藤さんの作品は、サブキャラも魅力的で、作品の深みになっています。
親方の目に、一筋のかかがやく道が映りました。
「おい、佐助。帰れるかもしれないぞ。道が見える」(P.170)
というところは、『えんの松原』P.284〜285の
……ひと筋の光る糸のようなものが音羽の目の前にあり、彼はよく考えせずそれをたどって走っていった。(略)
光る糸にみちびかれ、音羽が内裏へ帰りつくと、糸はわずかに開いた門の中へと続いた。(略)…音羽は、暗がりに立つ伴内侍に会った。(略)
衵をさし出す伴内侍の胸のあたり、光る糸は消えていた。(略)
「…おれも無事にもどってこられた。待っていてくれる人がいたから……」
と通じるものがあります。
また、6歳までの子どもにしか狛犬の声が聞こえないという設定は、『きつね。きつね、きつつねがとおる』の子どもにしかあやかしが見えないという設定に通じます。
100歳になったら、聞こえるそうですから、それを目指しましょうか…。
"迷子の巻"となっているのでシリーズ化されるんですよね、伊藤さん。
次作をお待ちしています。
蛇足ですが、京都の哲学の道を
南下し坂を上っていったところに大豊神社という神社がありますが、
そこの大国社には狛子【ねずみ】がいます
それだけではなく、狛巳、狛猿(日吉社)や狛鳶(愛宕社)までいます
(以上、2016年4月6日18:00頃撮影)
なお、哲学の道には、『えんの松原』の憲平親王の御陵、冷泉天皇櫻本陵【さくらもとのみささぎ】があります。