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こどもと本ジョイントネット21・山口


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えんの松原 [2018年04月01日(Sun)]
えんの松原.jpg

2018年3月11日(日)に元福音館編集長の松本徹さん講演会「子どもの本に向き合う“覚悟”」で「表現者」として2冊目に紹介されたのが、伊藤遊さんの

『えんの松原』(太田大八/画 福音館書店)

ですぴかぴか(新しい)
初版は2001年5月、福音館文庫版(2014.1)もあります。

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(2018年3月11日 山口県立山口図書館での講演会「子どもの本に向き合う“覚悟”」において『えんの松原』を紹介される松本徹さん)

伊藤遊さんは、前作『鬼の橋』で第3回ファンタジー大賞、第46回産経児童出版文化賞推薦、2000年IBBYオナーリスト文学作品を受賞し、続いて、本書で第35回日本児童文学者協会新人賞、第46回産経児童出版文化賞を受賞をし、周囲の人から、いよいよ大人向けの作品ですね、と言われた時、子ども達のための物語を腰を据えて書き続ける、という決意を 、自分はだれに向かって書こうとしているのか、自分の場所はどこか、臆ぜず、打算もなく、思うところを述べられたそうですかわいいかわいいかわいい


で、私も『えんの松原』を読んでみましたexclamation×2
前作『鬼の橋』に続く平安朝ファンタジーです。


時は平安中期。年若い皇子・憲平は夜ごと現れる怨霊に怯えていた。偶然彼と知りあう少年・音羽は、故あって女童になりすまし下働きをする身。憲平に崇るのは一体何者か?死に至る運命から彼を救うことはできるのか?二人の少年の命を賭けた冒険に、老女官や怪僧阿闍梨、美少女夏君といった面々がからみ、息もつかせぬ物語が栄華の都のまん中に展開する。多感な世代に訴えるテーマ性を合わせ持つ骨太な作品、読みごたえ抜群!
福音館書店のHPより)

帝の住まう内裏のとなりに鬱蒼と広がる松の林。そこは「えんの松原」とよばれる怨霊たちのすみかだった。少年でありながら女童として宮中に仕える音羽は、東宮・憲平に祟る怨霊の正体を探るべく、深い闇のなかへと分け入っていく。そこで彼が見たものは?……真実を求める二人の少年の絆と勇気、そして魂の再生の物語。
福音館文庫版のHPより)


憲平は後の冷泉天皇、主人公音羽丸は伴氏の一族で、音羽丸が音羽として仕える伴内侍は伴保平(やすひら)の娘だったり……歴史的事実や言い伝えなどをうまく落とし込んでいるところも、本書の面白さの一つでしょう。


タイトルとして使われている「えんの松原」は、「宴の松原」または「縁の松原」と記し、 平安京大内裏(宮城)内、内裏(御所=天皇の私的エリア)の西側にあった、内裏に匹敵する広さを持つ、実在した空き地だそうです。饗宴のための広場として用いられたとする説や内裏を建て替える時のための余地という説がありますが、いずれもその事実を示す記録はなく明らかではないとのこと。ここで、若い女性が鬼に惨殺されたとか、肝試しに通り掛かった貴公子が怪しい声に怯えて逃げ帰ったとか、伝えられているそうです。
それをうまく取り入れ、まさに、帝の住まう内裏の隣に鬱蒼と広がる松の林である「えんの松原」を、存在を信じその祟りを怖れていた、怨霊のすみか「怨の松原」として描いています。

奇行が目立ったという憲平、後の冷泉天皇の有名なエピソードも、しっかり効果的に使われています。
三種の神器の一つ、御璽(勾玉)の箱の紐を解いているところを臣下が奪い取って元通りに結び直した、というエピソードを、別の神器・鏡に変えて、音羽と憲平が出会う冒頭の大切な場面としています。

冷泉天皇、御璽の結緒を解き開かんとし給ふ事
 故小野宮右大臣 (實資) 語りて云はく、
冷泉院、御在位の時、大入道殿(兼家)【たちま】ち参内の意有り、よりて俄 【にはか】に単騎馳せ参ず、御在所を女房に尋ぬ、女房云はく、
夜の御殿【=清涼殿】に御す、只今、御璽の結緒を解き開かしめ給ふなり
  【にはか】に驚き、闥【たつ=宮中の小門】を排【おしひら】きて参入す、女房の言の如く筥の緒を解き給ふ間【ころほひ】なり。因【よ】りて奪ひ取り、本の如く之を結ぶ
云々。
(『江談抄』(2-3)より)

江談抄.jpg江談抄 文.png

また、御所の番小屋の屋根に登った、というエピソードも、東宮が自己に目覚め、主体的に生きる決心をする終盤のクライマックスとなっています。

本書は、怨霊をただ恐れる存在ではなく、怨霊を普遍的な“寓意”としても受け取れるようになっていて、真実と対峙するために闇に分け入った二人が、少年として成長していく様子が確固たる筆致で描かれています。

裏表紙の衣が舞う絵も、女性の衣を脱ぎ捨て、音羽が音羽丸として生きていく象徴となっていて、さすが、太田大八さん、深い〜、と感激しました。

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いろいろな意味で、児童書ですが、おとなも楽しめる内容ですので、
是非、おとなの方にも手に取っていただきたい本です。
私自身一気に読み終えましたが、心に残るものがありました。
伊藤遊さんの他の作品も読みたくなりました。


画を描かれた太田大八さんにお目にかかったことがあります揺れるハート
とっても素敵な紳士でした。


なお蛇足ですが、皆さんよくご存知の映画『陰陽師』(2001)は、冷泉天皇が幼い時の東宮指名騒動を描いています。憲平親王は、別腹の異母兄の広平親王を蹴落として東宮の座についた結果、ライバル皇子の外祖父・藤原元方に恨まれ、祟られてしまう、という本書でも語られる“あの”エピソードです。




るんるん伊藤 遊(いとう ゆう)るんるん
1959年京都府京都市生まれ。本名、伊藤 恭子。立命館大学文学部史学科卒業。京セラ(株)勤務を経て、児童文学作家へ。北海道札幌市在住。
原稿応募の96年『なるかみ』で第2回児童文学ファンタジー大賞(主催:絵本・児童文学研究センター)佳作賞、97年『鬼の橋』で第3回児童文学ファンタジー大賞、『フシギ稲荷』で第6回小川未明文学賞優秀賞を受賞。
刊行作品に、『鬼の橋』(太田大八/画 1998年 福音館書店)(99年第46回産経児童出版文化賞推薦、2000年IBBYオナーリスト文学作品)、『えんの松原』(太田大八/画 2001 福音館書店)(2002年第49回産経児童出版文化賞、第35回日本児童文学者協会新人賞)、『ユウキ』(上出慎也/画 2003 福音館書店)(04年第44回日本児童文学者協会賞)、『つくも神』(岡本順/画 2004 ポプラ社)、『きつね、きつね、きつねがとおる』(岡本順/画 2011 ポプラ社)(12年第17回日本絵本賞)、『狛犬の佐助 迷子の巻』(岡本順/画 2013 ポプラ社)(13年第62回小学館児童出版文化賞、うつのみやこども賞)。
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