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治療回避・まぎらし行為 [2006年08月12日(土)]
治療回避・まぎらし行為
 =機能の連合(心の病気、非行)
 心の病気や暴力をする人は、自分の感情やつらさを緩和しようとして「まぎらし行為」をする。 回避、逃避、依存物の摂取(食べ物、アルコール、薬物)、自傷行為、他者へのいじめ・暴力などで ある。また、カウンセリングを受けて、治る可能性を説明するのに、2度と現れないクライアント がいる。これは、何が起きているのだろうか。

 心の病気を治すためのカウンセリングを受けて、課題(呼吸法の実行や早起き、運動など)を実 行するのは、目的指向的行動である。これは、前頭前野の働きであることは、次の記事で述べた。 心理療法の面接を受けて、治したいという強い願いを持つに至る人は治るのである。  要約の部分を再録する。

目的に合う行動を選択して実行

 長い時間をまたいで、報酬を得られるような状況では、作業記憶が働く必要があるが、2つの段 階にわけられる。(A)自分の記憶の中から種々の因果関係の選択肢を想起する段階、(B)そして、特 定の行為ー報酬の連合を想起する。それによって運動の選択をする。
     「複雑な環境の中で目的を実現するためには、時間をまたいで情報を維持して行動を制御し、ま た時間をまたいだ因果関係を発見する必要がある。そのために作業記憶が重要である。 発見された因果関係を記憶し、状況依存的に読み出して最適な行動を誘導することも必要である。 これらの過程には前頭前野の主に外側部が重要な働きをしている。」----(A)
     「さらに、複雑な環境の中で目的を実現するためには、その時点での環境の中で目的を実現する 可能性の高い行為を過去の経験に応じて選択して実行する必要がある。最も原始的な目的は一次報 酬を得ることであり、特定の報酬期待からその報酬を引き起こすはずの行為を選ぶ過程は目的指向 的行動の核をなす。この行為ー報酬の連合を行動制御に用いる過程は、前頭前野内側部でお こっている。」(1)----(B)
(注)自己洞察瞑想療法では、課題(呼吸法の実行など)を与える。それは、カ ウンセリング期間中、治るまで、そのクライアントにとって選択すべき「行動」となる。従って、 クライアントにおいて、その報酬を強調する。すぐには、実現しないので、長期間をまたいだ因果 関係となる。この課題と報酬(うつ病などが治ること)を強調する。「価値保持・価値確認」の技 法である。そのクライアントの願い・実現したい価値(たとえば、就職したい、復帰したい、など )を明確にしてもらう。それを、長期的な価値・願いと位置づける。そういう願いがあるならば、 その前に、短期の価値・願いがあると強調する。それは、「治ること、治りたい」ということだ。 それを忘れないようにと強調する。そして、「こういう課題を実行すれば、治る、と説明する。報 酬期待を明確に理解してもらい、カウンセラーのいないところでも、この「カウンセラーと約束し た課題」は報酬(自分の願い=治る)を得ることを忘れないようにしてもらう。
 これが、「自己洞察瞑想療法」の中の、「価値保持・価値確認」の技法であるが、これをカウン セラーが努力しても、放棄してしまうクライアントもいる。そこを補うプログラムを研究・開発す べき余地はある。
 

治療回避・まぎらし行為

 自分の問題を解決できる可能性を、読書やカウンセリングなどで学習して、病気や非行犯罪を改 善する行動を選択できればいい。その時には、いくつかの選択肢を想起し、選択し、実行できるス キルが必要である。これは、前頭前野の機能である。
 心の病気や暴力をする人は、自分の感情やつらさを緩和しようとして「まぎらし行為」をする。 回避、逃避、依存物の摂取、自傷行為、他者のいじめ・暴力などである。これらは、患者の繰り返 される非機能的行動であり、「習慣的行動」である。
また、カウンセリングを受けて、治る可能性を説明するのに、2度と現れないクライアントがいる 。これも、治るための行動(初回のカウンセリングで説明したのに)を選択しない、いつもの回避、 ひきこもりであり、習慣的行動である。これは、何が起きているのだろうか。


 目標指向的行動の場合は、前頭前野が機能するが、習慣的行動は、扁桃体→前頭眼窩野が働く。 「習慣的行動において環境刺激が行為を直接引き起こす」。
     「行動には刺激、行為、結果の3要素があると考えられている。ある刺激が与えられたときにあ る特定の行為をすると報酬が与えられるという経験を何度も繰り返すと、刺激と行為が脳の中で固 く結びつき、刺激から行為が自動的におこるようになっていく。このような行動を習慣的行動と呼 ぶ。習慣的行動では、報酬は刺激と行為の結びつきを強化し、維持する働きをするが、個々の行為 に先だって特定の報酬を予想することはない。」(2)
     「霊長類の場合、刺激と報酬の間の素早い連合は前頭眼窩野を中心とした神経ネットワー クでおこると考えられる。」(3)
     「側頭葉内側部にある扁桃体を破壊したサルは、刺激ー報酬連合を必要とする課題で重篤な障害 を示す。扁桃体は、視覚、聴覚、体性感覚に加えて、嗅覚、味覚の入力を受け、さらに視床下部へ の結合を持つ。この豊富な結合によって、扁桃体は物体の持つあらゆる感覚的属性をその報酬的価 値と連合すると考えられる。扁桃体破壊効果は、物体の報酬的価値が短時間に変化する課題で大き い。前頭葉の腹側部に広がり、扁桃体と解剖学的に強く結合している前頭眼窩野 の破壊でも、扁桃体破壊と同様の効果が現れる。さらに、一側の扁桃体と他側の前頭眼窩野 (および前交連)を破壊することにより、両者の相互作用をなくすると、刺激ー報酬連合に基づい た行動が障害される。」(4)
 うつ病や不安障害などでは、ひきこもり(外出しない、カウンセリングも行かない)によって、 やっかいな行動をするよりも、習慣的行動をとる。過食症(リストカット)では、つらい時に、食 べる(自傷行為する)ことによって、気がまぎれるという習慣的行動をする。自分がイライラする 時に、他者をいじめたり、暴力をふるって、うっぷんをはらすのも、これである。これが、習慣的 行為であり、障害や非行、いじめを継続維持している。目標を想起して、他の選択肢をとることを しない。

 心の病気の治療には、前頭眼窩野を中心とした悪しき習慣的行動を中断して、前頭前野の 目標指向的な働きを強化させることが重要となる。すなわち、前頭前野の機能の活性化と、種々の 良き対処法、選択肢を教えることである。
 面接に、1回しか来ないで、2回目に現れないクライアントは、この習慣が強固であるためであ ろう。うつ病患者でも、症状が異なる。面接の翌日から、課題を実行しない、次回の面接におとず れないのは、前頭前野の目標指向的機能が特に低下しているクライアントであると考えられる。そ ういうことを減少させるために、いくつかの工夫が必要である。
 本人の願いを最初から強く確認する。説明の順序を変える。説明資料を渡す。図を多くする。家 族と同伴してもらう。8週間プログラムのメニューを呈示する。入院方式で治療する。こういう工 夫をすることによって、脱落者を少なくしていく必要がある。
    (注)
  • (1)「Clinical Neuroscience」(月刊 臨床神経科学)、中外医学社、2005-No.6=Vol.23、643 頁。「前頭前野と目的指向的行動」田中啓治氏、松元健二氏。
  • (2)同上、642頁。
  • (3)同上、643頁。
  • (4)同上、641頁。
Posted by 埼メンタル協会/大田 at 17:39 | 注目の前頭前野 | この記事のURL
前頭前野は感情・攻撃行動を抑制(1) [2006年08月12日(土)]
前頭前野は感情・攻撃行動を抑制(1)

 感情や攻撃行動(キレる、暴力・犯罪)、エゴイズムを抑制できない人が多くて社会問題になっ ている。これを抑制する機能が前頭前野にある。これについて脳神経科学の研究をみておく。 前頭前野は感情や攻撃行動(キレる、暴力・犯罪)を抑制する機能がある。この抑制が十分でない と、心の病気になったり問題行動(自傷行為、暴力など)を起こしたりする。

 前頭前野のうち、背外側前頭前野は情動(感情)を抑制する。
     「背外側前頭前野は、抽象的思考など「高次認知活動」に関与し( Miller and Cohen, 2001 )、 一般的に情動発現に対して抑制的に働くと考えられている。悲しい状況のビデオや性的な感 情を抑制させると背外側前頭前野の活動が上昇する( Beauregarad et al., 2001 ; Levesque et al., 2003 )。この否定的および不快な感情を抑制する能力が慢性的に欠如した人では、うつ病や不 安症になりやすい、 あるいは攻撃行動や暴力行為をきたしやすいことが示唆されている。」(1)
 眼窩前頭葉皮質も、感情や行動の抑制にかかわっている。
     「脳機能画像研究によれば、眼窩面は、モラルなどの高次の情動発現や長期的展望に基づいた意 思決定を行い、扁桃体を抑制的に制御し、自己を適切な感情に調節しているようである。。以上の 研究結果より、眼窩前頭葉皮質は、社会的行動を制御し、社会的能力を向上させている領域である と考えられている。」(2)
 うつ病や不安障害の患者は、このような前頭前野の機能のおとろえがみられている。
     「前頭前野は、気分障害の病態生理に重要な役割を演じるとされている。著者らは、寛解した 気分障害患者にToM能力の欠損が生じていることを初めて明らかにした。ToM能力の欠損は、心理的 相互交流に支障を生じやすくさせ、適応的な生活に破綻を生じることにより、気分障害を引きこし うると考えられる。」(3)
 セロトニン神経に作用する薬物療法で軽くなっただけでは、このような前頭前野の感情、行動の 抑制機能が十分に回復していない場合が多く、薬物療法だけで、このような前頭前野の機能回復を 自然回復(医者から指導されずに、自分で運動や趣味などをしたことにより)にまかせているので は、完治までに長引く場合があり、なかには、自然には回復しない場合もあることが推測できよう 。前頭前野の機能低下ということを理解し、その回復のための心理療法を積極的に行なうことが、 うつ病、不安障害、依存症、境界性パーソナリティ障害(4)などの早期治癒に効果があるだろうとい うことも推測されるだろう。
  • (1) 「Clinical Neuroscience」(月刊 臨床神経科学)、中外医学社、2005-No.6=Vol.23、636頁、「 前頭前野と情動発現」小野武年、西条寿夫(富山医科薬科大学)
  • (2)同上、645頁。「前頭前野と心理的相互交流」井上由美子、山田和男、神庭重信(山梨大学 )
  • (3)同上、647頁。
  • (4)依存症は何かのストレスによる感情の抑制ができずに、依存物の摂取行為を抑制できない。 境界性パーソナリティ障害は、怒りの感情、暴力・自傷行為を抑制できない。
Posted by 埼メンタル協会/大田 at 09:57 | 注目の前頭前野 | この記事のURL