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長期間の課題実践の結果得られる「治る」という報酬 [2006年09月12日(火)]

長期間の課題実践の結果得られる「治る」という報酬

 =前部帯状皮質の機能

 認知行動療法やマインドフルネス心理療法(自己洞察瞑想療法もその一つ)のような課題遂行型 の心理療法が成功するには、クライアント(患者)が課題を実行することが必要になる。それは、 動機づけであり、脳神経科学では、報酬回路が深く関係する。2,3か月先に「治る」という報酬 効果が出てくるが、そのようなすぐには報酬が選れない課題を実行することが、心理療法である。 そういう長期間の実践行動で得られる効果(報酬=治ること)を聞いて「快感」(長期報酬)を起こ さないと、課題を実行しないだろう。
 そのような長期報酬は、通院方式のカウンセリングの場合、自宅での実行時に、長期報酬を想起 しないと、課題を実行しないだろうということが推測されるので、前頭前野の機能であるワーキン グメモリが影響するだろうということを次の記事で考察した。

行動発現のための報酬回路

 情動や報酬に関係する情報処理過程は多岐にわたるが、目標を達成して報酬を得ようという動機 づけ、行動の計画、実行という目標到達行動がある。設楽氏によれば、こうである。
     「我々の日常生活での行動で最もよく見られる過程の一つ、即ち、目標を達成し報酬を得ようと いう動機づけによって行動を計画し、それを実行に移す目標到達行動の過程を考える。この過程で は、もし試みた行動によって報酬が得られなければ、試行錯誤によって行動を修正して報酬を得ら れるような方向に進むよう学習し、よりよい行動をとるようになっていく。」
     「この際、我々は絶えず現在の状態と到達目標とを比較し、目標に近づくほど期待が高まる。従 って、このような動機づけに基づく目標到達行動の情報処理に際しては、報酬に対する期待の大き さが重要な要素の一つであり、これに対応する神経活動が脳内に存在することが予想される。」 (1)
 では、報酬期待の大きさの情報処理を行なっている部位はどこだろうか。

大脳皮質→大脳基底核→視床→大脳皮質

というループ回路がいくつかあるが、どこを、通るかで機 能的な違いがあるといわれている。
 [前部帯状皮質→腹側線状体→腹側淡蒼球→視床背内側核→前部帯状皮質〕という回路も、この ループ回路の一つであるが、「この回路は情動や動機づけに関連した重要な刺激に反応して運動を 開始するときに重要であるといわれているものである。」(2)
 このループの中で、腹側線状体(側坐核)は、次のような位置にある。
     「側坐核(腹側線状体)は、視床下部、視床背内側核、扁桃体、海馬、前部帯状回およびOBF( 眼窩前頭前野)からの入力をもっている。」
     「すなわち側坐核は情動系および学習・記憶などの認知系の両方の情報が入力する。したがって 側坐核は、刺激を判断し学習して続行するか回避するか、動物に適切な行動をとらせる位置を占め ているのである。」(3)
 このような報酬期待は、長い(3カ月〜2年)治療期間を必要とする心理療法を継続するために 、患者の長期報酬期待をカウンセリングの中で考慮することが、治療に成功することになる。薬物 療法だけだと、3か月、効果がないと、患者の報酬期待は急速に失われていくだろう。
    (注)
    • (1)「Clinical Neuroscience」(月刊 臨床神経科学)、中外医学社、2005 Vol.23 No.11(帯 状回) 、「帯状皮質における動機づけ・報酬期待の情報処理機構」、設楽 宗孝(産業技術総合研 究所脳神経情報研究部門システム脳科学研究グループ)、1236頁。
    • (2)同上、1237頁。
    • (3)同書、「自律神経系と帯状回」大村裕(九州大学名誉教授)、1265頁。

長期報酬に反応する前部帯状皮質

 設楽宗孝氏は、前部帯状皮質の報酬期待の機能を調べた。
     「帯状皮質は脳梁の背側に位置する前後に位置する前後に長い皮質領域で、内側面の 帯状回および帯状溝内部よりなり、情動や動機づけに深く関わっているとされており、歴史的 には、Papezの提唱した情動回路(海馬体、乳頭体、視床前核群、帯状回、海馬傍回を結ぶ神経回 路)の一部となっている。」
     「その前半(吻側部)がより情動に直接的に関係するaffective division(情動部位)であるの に対し、後半(尾側部)はより認知制御に役割を果たすcongnitive division(認知部位)と考え られてきている。」(1)
 長期報酬を求めて行動する時に、まだ、報酬がえられていない期間に反応するニューロンが、前 部帯状皮質にあることがわかった。多試行報酬スケジュール課題によって確認された。
     「日常生活で我々が行動するとき、通常、目標を達成して報酬を得ようというモチベーション( 動機付け)によって行動を計画しそれを実行に移す。この際、我々は目標に近づくほど期待が高ま る。この期待の大きさは脳内のどこでどのように表現されているのだろうか?この点を調べる為、 我々はモチベーションの大きさをコントロールして報酬期待の大きさを調べることのできる実験課 題を開発した。この課題は「画面中心にあるターゲットの色が赤から緑に変わったら、1秒以内に バーから手を離す」という単純な試行から成る。通常の課題では、この試行を1回正解すればサル に報酬のジュースが与えられるが、ここでは4回正解しないとジュースが得られないとした。する とサルは1回目、2回目、3回目と報酬に近い試行ほど正解率が上がり、報酬への期待が高まった。 この時、サルの前頭葉内側部にある前部帯状皮質より単一神経細胞の活動を記録・解析したところ 、図のようにスケジュールが進行するに従って反応強度が徐々に大きくなるものがあることが分か り、報酬への期待の大きさを表していると考えられた。」(2)
 前部帯状皮質の報酬期待のシグナルの特徴について、こう述べる。
     「前部帯状皮質では、目標に到達するまでの前段階である無報酬ステップでのみ反応が漸増する ニューロン群が、報酬試行で反応が最大になるニューロン群とほぼ同数存在し他の領野よりも割合 が多いことから、これが報酬の予測や葛藤・いらだちの大きさに最も関わるシグナルである可能性 がある。また最近、松元らは、報酬期待と運動意図の組み合わせを表現するシグナルが前部帯状皮 質にまず現れ、視覚刺激呈示後の遅延期に前頭前野背外側部に広がることを、サルを用いた単一ニ ューロン活動解析結果から報告し、前部帯状皮質は報酬期待から運動意図を引き出す過程を担って いると考えている。」(3)
 松元氏らの報告は、上記の前頭前野の記事でふれた(4)。→(C)

 こうした前部帯状皮質における報酬期待の機能の障害が、種々の精神疾患に関係しているようで ある。これを考慮して、治療のすすめ方、カウンセリングを工夫する必要がある。
     「動機づけの障害が背景機序として推定される強迫性障害や薬物乱用の患者の脳を機能的MRIや PETなどで調べると、前部帯状皮質に通常よりも強い活動が見られるという報告があり、 うつ病患者では前部帯状皮質の活動の減少が見られるという報告もある。」(5)
    (注)
    • (1)「Clinical Neuroscience」(月刊 臨床神経科学)、中外医学社、2005 Vol.23 No.11(帯 状回) 、「帯状皮質における動機づけ・報酬期待の情報処理機構」、設楽 宗孝(産業技術総合研 究所脳神経情報研究部門システム脳科学研究グループ)、1236頁。
    • (2)「前頭葉内側部に報酬への期待の大きさを表す脳神経 細胞を発見」設楽 宗孝、 日本生理学会HP(http://physiology.jp/exec/page/stopics4/ )
    • (3)前掲、「帯状皮質における動機づけ・報酬期待の情報処理機構」1239頁。
    • (4)「Clinical Neuroscience」(月刊 臨床神経科学)、中外医学社、2005 Vol.23、Np.6「 前頭前野と目的指向的行動」田中啓治、松元健二、643頁。
    • (5)前掲、「帯状皮質における動機づけ・報酬期待の情報処理機構」1237頁。 「前頭前野と目的指向的行動」田中啓治、松元健二、642頁。
   すぐには報酬が得られない行動でも、後に報酬が得られることを期待して、行動するということ は、心理療法の治癒過程にもある。治る期待が強まれば、治療を継続する。心理療法は、特に、こ れが重要である。前部帯状皮質が関係するだろう。
 心理療法の現場では、患者の中には、カウンセリングを1、2回で中断する患者もいる。治るだ りうという報酬期待を得ることができない重症の患者だ。課題をクライアントによっては、前部帯 状皮質が障害されていると、長期報酬の課題を実行しないことが推測できる。中断するクライアン トの一部は、そういうことを想定して、治療方針をたてる必要があるかもしれない。
 うつ病や不安障害の患者には、記憶機能、ワーキングメモリの機能の不全の患者もみられるが、 治らないうちに、カウンセリングを中断してしまうクライアント(患者)は、記憶、ワーキングメ モリや、長期報酬にかかわる脳部位に変調があるのかもしれない。心理療法を提供する場合、そう いうことを留意して、治療法を工夫したほうがいい。

(続)
Posted by 埼メンタル協会/大田 at 07:27 | 帯状回の神経科学 | この記事のURL
帯状回と課題の記憶形成と取り出し [2006年09月04日(月)]
帯状回・ワーキングメモリや感情の抑制(6)=帯状回と課題の記憶形成と取り出し
 =うつ病や不安障害(パニック障害、PTSD、対人恐怖など)治す心理療法(認知療法、マイ ンドフルネ心理療法など)の方向

 次の続きです。

帯状回の情動領域と認知領域

 最近、脳神経科学の進展がめざましい。これによって、うつ病やパニック障害などの病態が解明 されつつある。それらの研究成果をとりいれて、こういう病気の薬物療法ばかりでなく、心理療法 を開発する。

 人は、怒ったり、不安、恐怖、悲しさ、嫌悪、ゆううつ、などの感情を起こす。こういう感情が 異常に亢進したり、対処法がうまくいかないと、心の病気になったり、非行犯罪を犯したりする。
 感情を起こすのは、「扁桃体」が中心的な役割をになっているが、そのほかに、帯状回も重要な 役割を果たしている。帯状回は、扁桃体と同様、大脳辺縁系に位置する。帯状回は、図(T-2)の ように、いくつの領域に区分されて、異なる機能をもっている。特に、感情に関係するのは、前部 帯状回吻腹側部である。
  • (A)前部帯状回吻腹側部=情動領域
  • (B)前部帯状回背側部=認知領域
  • (C)後部帯状回吻側/中間部=空間認知領域
  • (D)脳梁膨大後方部=記憶領域

 うつ病や不安障害などについて考察するために、情動領域と認知領域の機能をみる。

帯状回もワーキングメモリの機能を分担

 ワーキングメモリについて、前の記事で、次のように述べた。
     適切な判断や選択を行い、目的を達成するためには、外界でおこっている出来事のモニタリング 、必要な情報へ注意を向ける、必要な情報の選択、長期記憶からの情報の取り出し、必要 な情報の処理、必要な情報の出力、不必要な出力の抑制などが必要であり、これらのプロセスがう まく協調して働く必要がある。このように、ある目的を遂行するためにさまざまな機能系を協調し て働かせる仕組みがワーキングメモリであるが、ワーキングメモリは、前頭前野背外側領域 (DLPFC)や腹外側領域(VLPFC)と帯状回の認知領域が協調して働く。
     注意制御はワーキングメモリの中でも特に加齢の影響で衰退しやすいが、ACCとPFC間の機能的結 合性が加齢の影響で劣化しているためではないかと推測される。
     心の病気(うつ病や不安障害など)の人は、帯状回の認知領域の機能が低下し、情動領域が過敏 になっている。認知領域と情動領域は、相互に、抑制しあっている。そうすると、 次のことが言える。
    • 情動(感情)が過敏になっている場合、認知領域の活動がおさえられる。
    • 情動(感情)が起きても、認知領域の機能が活動すると、情動を抑制できる。
     すなわち、ワーキングメモリ(前頭葉と帯状回認知領域)が十分に機能しない場合、これがため に、人は、感情にかられて、認知で他の有効な選択肢を選んで行動できずに、回避、強迫、依存、 自殺、暴力、自傷、犯罪などの行動をしてしまう。また、心の病気を改善するような長期的な実践 の結果、治癒するような心理療法の課題(長期目標の実現のために、今、課題を遂行する)の実行 がむつかしくなっている。だから、心の病気や非行犯罪を治すためには、ワーキングメモリの機能 を活性化するような方向で助言することが肝要であることになる。

近時記憶・長期記憶の形成と取り出し

   今回は、上記の太字の部分である。心理療法は、長期記憶が関係する。カウンセリングに来ても 、1回だけとか、2,3回で、カウンセリングを中止するクライアントがいるが、それでは、治癒 しない。通院方式によるカウンセリングでは、面接の時に、課題を与えて、次の面接までに、実行 してもらうことがある。だが、ワーキングメモリの機能が、特に、低下したクライアントは、実行 すべき課題を近時記憶、長期記憶に形成できない、または、適切に、取り出すことができないかも しれない。そのために、カウンセリングを中断するのかもしれない。(ほかに、意欲がない、長期 報酬にむすびつける機能が働かない場合も推測される。これは、次で考察する。)
 クライアントが、指導者から与えられた課題は、「選択肢」になる。課題を近時記憶(作業記憶 ではなく、数日間の記憶)か長期記憶(長期記憶は、短時日ではなくある日数かかるが)に形成で きれば、次回の面接までに、取り出して、実行するかもしれない。記憶される部位は、海馬や大脳 新皮質(側頭葉など)などである。
 ところが、前頭前野や帯状回記憶領域の機能がことに、おとろえているクライアントは、実行す べき課題を記憶し、適切な時間に思い起こすことがむつかしいだろう。
 記憶については、前頭前野と、図のように、帯状回の記憶領域(D、脳梁膨大後方部)が重要な 役割をはたしている。
     「この領域(記憶領域)は側頭葉内側部と前頭前野背外側部との連絡が密である。海馬を中心と した側頭葉内側部は、症例H.M.の報告以来長期記憶の形成に不可欠であることが知られており、前 頭前野背外側部はワーキングメモリを司る代表的な皮質である。脳梁膨大後領域は海馬台の錐体細 胞からの投射を多く受け、前海馬台に投射する。」
     「海馬への入力のかなりの部分は直接・間接に脳梁膨大後領域から入ってくるといってよい。」
     「脳梁膨大後領域は、前頭前野とも密接に連絡している。そのうち、主溝の深部や背側壁(46野) と、さらに背側にある9野が最大の入力源であり出力先でもある。」
     「前頭前野は背外側部以外にも、眼窩面と内側面の皮質が脳梁膨大後領域に投射し、また逆方向 の投射を受ける。このように入出力から見ると、脳梁膨大後領域は長期記憶形成とワーキングメモ リ処理の間のインターフェイスとして機能していると考えられる。」 (1)
 課題の遂行が重視される心理療法を通院方式で行なう場合、クライアントが、課題を記憶すて、 適切な時期にワーキングメモリを機能させて、長期記憶からひきだして、実行することが必要であ る。
 そんなわけで、記憶機能が特に、おとろえているようなクライアントの場合、心理療法を行うに は、くふうが必要だろう(次回の長期報酬とも関係する)。
 課題を思い起こせるような工夫(プリントを与える、家族が同行する、毎日か2,3日に1回の デイケアに参加など)や、入院方式が考慮されるべきだろう。また、うつ病は、記憶機能が低下し ているのも症状の一つであるが、帯状回の記憶領域を活性化するような課題(記憶し、思い出す練 習)を繰り返し行なうことも効果があるかもしれない。 (続)
    (注)
    • (1)「Clinical Neuroscience」(月刊 臨床神経科学)、中外医学社、2005 Vol.23 No.11(帯 状回) 、「霊長類における帯状回の機能解剖学」小林靖(防衛医科大学)、1229頁。

    図= 「Clinical Neuroscience」(月刊 臨床神経科学)、中外医学社、2005 Vol.23 No.11(帯状回) 、「霊長類における帯状回の機能解剖学」小林靖(防衛医科大学)、1228頁。
Posted by 埼メンタル協会/大田 at 21:17 | 帯状回の神経科学 | この記事のURL
帯状回の認知領域と情動領域は相反 [2006年09月03日(日)]
帯状回・ワーキングメモリや感情の抑制(5)=帯状回の認知領域と情動領域は相反
 =うつ病や不安障害(パニック障害、PTSD、対人恐怖など)治す心理療法(認知療法、マイ ンドフルネ心理療法など)の方向

 次の続きです。

帯状回の情動領域と認知領域

 人は、怒ったり、不安、恐怖、悲しさ、嫌悪、ゆううつ、などの感情を起こす。こういう感情が 異常に亢進したり、対処法がうまくいかないと、心の病気になったり、非行犯罪を犯したりする。
 感情を起こすのは、「扁桃体」が中心的な役割をになっているが、そのほかに、前頭前野や帯状 回も重要な役割を果たしている。帯状回は、扁桃体と同様、大脳辺縁系に位置する。帯状回は、図 (T-2)のように、いくつの領域に区分されて、異なる機能をもっている。
  • (A)前部帯状回吻腹側部=情動領域
  • (B)前部帯状回背側部=認知領域
  • (C)後部帯状回吻側/中間部=空間認知領域
  • (D)脳梁膨大後方部=記憶領域

情動領域

 扁桃体は、怒りや不安などの感情(情動)の発現に、扁桃体のほか、前部帯状回の情動領域が重 要な役割を果たしている。

認知領域

 認知領域は注意や運動の選択、運動のモニタリングなどに関係する。
 認知領域は背外側前頭前野(DLPF)と眼窩前頭前野(OBF)に相互連絡する。視床ー海馬からの情報 は、帯状回背側部とDLPFで統合処理されて、そこからの司令が海馬に到達する。さらにこの司令は 、海馬から視床下部へ伝達される。従って視床下部には情動系と認知系の高次の司令が届き、洗練 された自律神経性活動と情動行動が発現する。

視床下部

 情動領域、認知領域ともが視床下部と連絡があるが、視床下部には内蔵からの情報が入る。

前頭前野と帯状回の認知領域がワーキングメモリの機能

 適切な判断や選択を行い、目的を達成するためには、外界でおこっている出来事のモニタリング 、必要な情報へ注意を向け、必要な情報の選択、長期記憶からの情報の取り出し、必要な情報の処 理、必要な情報の出力、不必要な出力の抑制などが必要であり、これらのプロセスがうまく協調し て働く必要がある。このように、ある目的を遂行するためにさまざまな機能系を協調して働かせる 仕組みがワーキングメモリであるが、ワーキングメモリは、前頭前野背外側領域(DLPFC)や腹外側 領域(VLPFC)と帯状回の認知領域が協調して働く。
 心の病気や非行犯罪、他者を苦しめることなどを予防するには、ワーキングメモリが、そうなら ないように適切に機能する必要がある。
 以上が、前回までのあらすじです。

帯状回の認知領域と情動領域は相互に抑制

 心の病気(うつ病や不安障害など)の人は、帯状回の認知領域の機能が低下し、情動領域が過敏 になっている。認知領域と情動領域は、相互に、抑制しあっている。
     「ヒトの前部帯状回の活動様式をfMRIで調べてみる。ストループ課題を実行させると、前部帯状 回の背側部の認知系活動が上昇している。一方、殺人などの情動的な言葉課題テストでは、吻側部 の情動系の活動上昇がおこってくる。面白いことに吻側と背側は相反関係にあり、片側の活動 上昇では、他側は抑制されている。これらのことは生体の高次の覚醒状態を示すものであり、 視床下部→視床→帯状回→連合野の情報伝達を示している。 」(1)
そうすると、 次のことが言える。
  • 情動(感情)が過敏になっている場合、認知領域の活動がおさえられる。
  • 情動(感情)が起きても、認知領域の機能が活動すると、情動を抑制できる。
 このことは、私どもの心を顧みれば、納得できるだろう。感情的になった時、無茶な行動(依存症になるような行動 、暴力、非行犯罪、心の病気になる行動など)をしたりせずに、しっかりと抑制しておいて、自分 の位置、立場、将来をわきまえておいて、どのような対処法できりぬけるか、冷静に考えて、適切 な行動を選択する。すなわち、情動領域の活動を抑制することは、認知領域を活性化するのだろう。
 逆に、ふだん、理性的、誠実な人でも、感情的になった時には、その理性的な思考、判断、行動は、どうなるかわからない。心の病気(無茶な行動)や非行犯罪は、こうした感情的な出来事が持続する人におきるだろう。
 心の病気や非行犯罪を治すためとか、予防するためには、前頭前野から帯状回の認知領域を活性 化するようなことをすればよいであろう。そして、情動領域の亢進状況を沈静化するようなことを すればよいであろう。
 マインドフルネス心理療法や認知行動療法は、そういう効果があるようである。

(続)

(注)
  • (1)「Clinical Neuroscience」(月刊 臨床神経科学)、中外医学社、2005 Vol.23 No.11(帯 状回)、「自律神経と帯状回」大村裕(九州大学名誉教授)、1264頁。 1227頁。
  • (2)同、1244頁。
Posted by 埼メンタル協会/大田 at 20:05 | 帯状回の神経科学 | この記事のURL
帯状回のワーキングメモリ機能 [2006年09月03日(日)]
帯状回・ワーキングメモリや感情の抑制(5)=帯状回のワーキングメモリ機能
 =うつ病や不安障害(パニック障害、PTSD、対人恐怖など)治す心理療法(認知療法、マイ ンドフルネ心理療法など)の方向

 次の続きです。

帯状回の情動領域と認知領域

 最近、脳神経科学の進展がめざましい。これによって、うつ病やパニック障害などの病態が解明 されつつある。それらの研究成果をとりいれて、こういう病気の薬物療法ばかりでなく、心理療法 を開発する。

 人は、怒ったり、不安、恐怖、悲しさ、嫌悪、ゆううつ、などの感情を起こす。こういう感情が 異常に亢進したり、対処法がうまくいかないと、心の病気になったり、非行犯罪を犯したりする。
 感情を起こすのは、「扁桃体」が中心的な役割をになっているが、そのほかに、帯状回も重要な 役割を果たしている。帯状回は、扁桃体と同様、大脳辺縁系に位置する。帯状回は、図(T-2)の ように、いくつの領域に区分されて、異なる機能をもっている。特に、感情に関係するのは、前部 帯状回吻腹側部である。
  • (A)前部帯状回吻腹側部=情動領域
  • (B)前部帯状回背側部=認知領域
  • (C)後部帯状回吻側/中間部=空間認知領域
  • (D)脳梁膨大後方部=記憶領域

 うつ病や不安障害などについて考察するために、情動領域と認知領域の機能をみる。

情動領域

 扁桃体は、怒りや不安などの感情(情動)の発現に、扁桃体のほか、前部帯状回が重要な役割を 果たしている。前頭前野や帯状回認知領域は感情や衝動の抑制に重要な役割をはたしている。

認知領域

 この領域は注意や運動の選択、運動のモニタリングなどに関係するとされる。
 認知領域は背外側前頭前野(DLPF)と眼窩前頭前野(OBF)に相互連絡する。視床ー海馬からの情報 は、帯状回背側部とDLPFで統合処理されて、そこからの司令が海馬に到達する。さらにこの司令は 、海馬から視床下部へ伝達される。従って視床下部には情動系と認知系の高次の司令が届き、洗練 された自律神経性活動と情動行動が発現する。

視床下部

 情動領域、認知領域ともが視床下部と連絡があるが、視床下部には内蔵からの情報が入る。

帯状回もワーキングメモリの機能を分担

 次にワーキングメモリと帯状回について、述べる。ワーキングメモリは、次の記事で触れた。  保持や処理が”脳のメモ帳”の容量を超え、一時的にオーバーフローすると”物忘れ”や行為の 認知のミスなどが生じる。(非行犯罪や心の病気が治らないような行動もこれであるとみられる)
 情報の処理に多くの容量を使ってしまうと、情報の保持には残った容量しか使えなくなる。この ような場合、保持と処理の両者は互いにトレードオフ trade-off の関係にある。つまり、処理と 保持の総計が一定量(ワーキングメモリの容量で個人内ではほぼ一定)を超えない範囲で、両者に 適切な量を割り付けて、問題解決や認知課題の達成をすると考えられている。
 前頭葉(ACC)と前部帯状回の認知領域が協調して、ワーキングメモリの機能を実行していると考 えられている。保持と処理の二重課題を課すテストで、ワーキングメモリの容量が測定される。 リーディングスパンテスト(RST)やリスニングスパンテスト(LST)という測定法である。
     「例えば、RST課題ではACC(32/24野)とPFCが協調的にはたらくと推定されている。ちなみに、 ACCは認知領域および情動領域に分けることができるが、RSTでは認知領域が活性化される のである。このネットワークが、認知的制御の効率とかかわり、したがってワーキングメモリ容量 と密接にかかわるものと思われている。ACCはストループ課題のような認知的葛藤課題、エラー の検出や報酬期待などでも活性化するが、情報の更新や調整といった注意シフティングを要するワ ーキングメモリ課題でも大きな役割を演じている。」(1)
 容量の大きい人は、HSSで、低い人は、LSSである。
     「ここ数年、高次脳機能のイメージング研究は、ワーキングメモリがPFCの機能を中心とした高 次脳機能とかかわることを明らかにしてきた。とくに、前頭前野背外側領域(DLPFC)(Broadmannの 領域で46/9野など中前頭回)や腹外側領域(VLPFC)(44野など下前頭回)が二重課題下で活性化する ことが知られている。」
     「HSSでは実行系はACC-PFCネットワークとして活発にはたらいているが、LSSではその活性化の 程度は相対的に低くなるのである。
     注意制御はワーキングメモリの中でも特に加齢の影響で衰退しやすいことが知られており、高齢 者が適切な注意制御を行なうことができないのは、ACCとPFC間の機能的結合性が加齢の影響で劣化 しているためではないかと推測される。注意と高次脳がかかわるさまざまな障害や症例には、ワー キングメモリのACC-PFCの実行系機能が深くかかわっているものと思われるのである。」(2)
 心の病気(うつ病や不安障害など)の人は、帯状回の認知領域の機能が低下し、情動領域が過敏 になっている。認知領域と情動領域は、相互に、抑制しあっている。そうすると、 次のことが言える。
  • 情動(感情)が過敏になっている場合、認知領域の活動がおさえられる。
  • 情動(感情)が起きても、認知領域の機能が活動すると、情動を抑制できる。
 すなわち、ワーキングメモリ(前頭葉と帯状回認知領域)が十分に機能しない場合、これがため に、人は、感情にかられて、認知で他の有効な選択肢を選んで行動できずに、回避、強迫、依存、 自殺、暴力、自傷、犯罪などの行動をしてしまう。また、心の病気を改善するような長期的な実践 の結果、治癒するような心理療法の課題(長期目標の実現のために、今、課題を遂行する)の実行 がむつかしくなっている。だから、心の病気や非行犯罪を治すためには、ワーキングメモリの機能 を活性化するような方向で助言することが肝要であることになる。
 こういう点で、マインドフルネス心理療法の実践は、効果があるようである。アメリカでは、こ のような心理療法が薬物依存で犯罪を犯した人に対しても行なわれて、改善の効果をあげたと報告 されている。認知行動療法やマインドフルネス心理療法(自己洞察瞑想療法もその一つ)は、感情 的になる思考・行動を少なくするような助言をして、帯状回情動領域を沈静化し、認知領域(およ び、前頭前野)を活性化するような心の持ち方を訓練するので、ワーキングメモリの機能(前頭前 野と帯状回認知領域)の向上ということにより、心の病気の予防・治癒、非行犯罪の予防・再発防 止に効果があるのだと推測される。

(続)

(注)
  • (1)「Clinical Neuroscience」(月刊 臨床神経科学)、中外医学社、2005 Vol.23 No.11(帯 状回)、「ワーキングメモリと前部帯状回皮質」苧阪直行(京都大学)、1242頁。 1227頁。
  • (2)同、1244頁。
Posted by 埼メンタル協会/大田 at 08:18 | 帯状回の神経科学 | この記事のURL
帯状回の認知領域 [2006年09月01日(金)]
帯状回・ワーキングメモリや感情の抑制(4)=帯状回の認知領域
 =うつ病や不安障害(パニック障害、PTSD、対人恐怖など)治す心理療法(認知療法、マイ ンドフルネ心理療法など)の方向

 次の続きです。

帯状回の情動領域と認知領域

 最近、脳神経科学の進展がめざましい。これによって、うつ病やパニック障害などの病態が解明 されつつある。それらの研究成果をとりいれて、こういう病気の薬物療法ばかりでなく、心理療法 を開発する。

 人は、怒ったり、不安、恐怖、悲しさ、嫌悪、ゆううつ、などの感情を起こす。こういう感情が 異常に亢進したり、対処法がうまくいかないと、心の病気になったり、非行犯罪を犯したりする。
 感情を起こすのは、「扁桃体」が中心的な役割をになっているが、そのほかに、帯状回も重要な 役割を果たしている。帯状回は、扁桃体と同様、大脳辺縁系に位置する。帯状回は、図(T-2)の ように、いくつの領域に区分されて、異なる機能をもっている。特に、感情に関係するのは、前部 帯状回吻腹側部である。
  • (A)前部帯状回吻腹側部=情動領域
  • (B)前部帯状回背側部=認知領域
  • (C)後部帯状回吻側/中間部=空間認知領域
  • (D)脳梁膨大後方部=記憶領域

 うつ病や不安障害などについて考察するために、情動領域と認知領域の機能をみる。

情動領域

 扁桃体は、怒りや不安などの感情(情動)の発現に、扁桃体のほか、前部帯状回が重要な役割を 果たしている。

認知領域

 この認知領域は、前部帯状回背側部で、24a',b',c'野、32'野からなる。この領域は注意や運動 の選択、運動のモニタリングなどに関係するとされる。
 この領域は扁桃体との連絡が乏しい。
 海馬は外界の情報を主として視床より受け、また学習記憶の大きな座である。海馬は視床下部へ 入力している。海馬はさらに前部帯状回の背側部に入力する。
 扁桃体と海馬は相互に連絡している。両者は基底核(線状体と淡蒼球)に接続して情動行動発現 に関与する。ここで重要なことは、扁桃体軸と海馬軸とが前部帯状回ー連合野(OBF,DLPF)に入力し て、これらから下行性に基底核を支配していることである。すなわち、情動性および認知性情報が 統合され処理された後の判断が、情動行動を発現させていることになる。
 認知領域は運動関連領野と密接に連絡する。OBF,DLPFからの情報を認知領域で受けて、補足運動 野ー運動野(4野)に送る。
 視床は種々の体内環境を監視し調節している。視床下部には内臓からの情報が入力する。そして 、扁桃体に伝えられる。

 認知領域は背外側前頭前野(DLPF)と眼窩前頭前野(OBF)に相互連絡する。視床ー海馬からの情報 は、帯状回背側部とDLPFで統合処理されて、そこからの司令が海馬に到達する。さらにこの司令は 、海馬から視床下部へ伝達される。従って視床下部には情動系と認知系の高次の司令が届き、洗練 された自律神経性活動と情動行動が発現する。(1)

(注)
  • (1)「Clinical Neuroscience」(月刊 臨床神経科学)、中外医学社、2005 Vol.23 No.11(帯 状回)、「自律神経系と帯状回」大村裕(九州大学名誉教授)、1263頁。

視床下部

 情動領域、認知領域ともが視床下部と連絡があるが、視床下部に次のような部位があって、内蔵 からの情報が入る。それぞれ(  )の化学物質に反応する。 (1)
  • 性欲中枢(性ホルモン)
  • 睡眠中枢(睡眠物質であるプロスタグランジンD2-アデノシン)
  • 飲水中枢(血圧の浸透圧およびアンシジオテンシンU)
  • 体温調節中枢(血液温度の変化)体温が下がると、体温を上げるように、代謝を増やしたり、 皮膚の毛を逆立てたり、筋肉をふるえさせるなどして熱生産を促す。一方、体温が上がれば汗腺を 刺激して発汗を促す。
  • 免疫調節中枢(抹消免疫担当細胞が分泌するインターロイキンなどのサイトカイン)
  • 体内時計とよぶ概日リズムの調節部位
  • 食欲に関係する摂食中枢(空腹物質に促進性に応答して活動が上昇するが、満腹物質には活動 が抑制される)
  • 食欲に関係する満腹中枢(空腹物質で活動が抑制され、満腹物質では活動が促進する)
  • 覚醒中枢(摂食中枢ニューロンが産生しているオレキシンに反応して活動上昇するニューロン があって、それらが軸策を睡眠中枢に伸ばして、このニューロン活動を抑制する。)
  • 攻撃および防御の情動行動が発現する部位。血圧上昇、脳下垂体ホルモン分泌などの自律反応 を起こす。
 認知領域は、痛みにも関与している。24a',b'野は視床のMDvc核、束傍核と双方向性に連絡があ る。これらの核は脊髄後角T層からの痛覚入力を中核している(2)。
 消化管からの信号は脊髄神経の感覚ニューロンが受容し、発火すると脊髄後根から脊髄後角ニュ ーロンに信号を伝える。そこから視床ー島ー前部帯状回ー前頭前野に信号が投射され、刺激強度が 高い場合か、感覚閾値が低ければ内臓知覚を起こす。過敏性腸症候群の患者では、前部帯状回の亢 進がみられる。(3) 

 パニック障害は、認知療法が効果があるものの、就寝中にも発作が起きる人があるので、認知( 思考)によらずして、身体の臓器に上記の視床下部に関連する部位に何かが就寝中に起き て、それが、パニック発作の責任部位(視床下部か?、中脳水道か?)を刺激して、発作を誘発す るのかもしれない。
 パニック障害やうつ病を治す心理療法は、こういう過敏になっているところを、生活の変更や運動(身体と心の運動)で、過敏性を変えていく、そういう方向があります。もう少し、神経科学の動向をみてから、パニック障害、うつ病の治療の心理療法への応用について述べます。

(注)
  • (1)「Clinical Neuroscience」(月刊 臨床神経科学)、中外医学社、2005 Vol.23 No.11(帯 状回)、「自律神経系と帯状回」大村裕(九州大学名誉教授)、1261頁。
  • (2)同、「霊長類における帯状回の機能解剖学」小林靖(防衛医科大学)、1228頁。
  • (3)同、「内臓知覚と帯状回」福土審(東北大学)、1247頁。
(続)
Posted by 埼メンタル協会/大田 at 17:58 | 帯状回の神経科学 | この記事のURL
帯状回・ワーキングメモリや感情の抑制(3) [2006年08月24日(木)]
帯状回・ワーキングメモリや感情の抑制(3)
 =うつ病や不安障害(パニック障害、PTSD、対人恐怖など)治す心理療法(マ インドフルネス、自己洞察瞑想療法)の方向

 次の続きです。

帯状回の情動領域と認知領域

 最近、脳神経科学の進展がめざましい。これによって、うつ病やパニック障害な どの病態が解明されつつある。それらの研究成果をとりいれて、こういう病気の薬 物療法ばかりでなく、心理療法を開発する。

 人は、怒ったり、不安、恐怖、悲しさ、嫌悪、ゆううつ、などの感情を起こす。 こういう感情が異常に亢進したり、対処法がうまくいかないと、心の病気になった り、非行犯罪を犯したりする。
 感情を起こすのは、「扁桃体」が中心的な役割をになっているが、そのほかに、 帯状回も重要な役割を果たしている。帯状回は、扁桃体と同様、大脳辺縁系に位置 する。帯状回は、図(T-2)のように、いくつの領域に区分されて、異なる機能をも っている。特に、感情に関係するのは、前部帯状回吻腹側部である。
  • (A)前部帯状回吻腹側部=情動領域
  • (B)前部帯状回背側部=認知領域
  • (C)後部帯状回吻側/中間部=空間認知領域
  • (D)脳梁膨大後方部=記憶領域

 うつ病や不安障害などのついて考察するために、情動領域と認知領域の機能をみ る。

情動領域

 扁桃体は、怒りや不安などの感情(情動)の発現に最も重要な部位である。 24a,b,c野、25野、32野からなる。
扁桃体には、五感覚(視覚、聴覚、体性感覚、味覚。嗅覚)各々の新皮質感覚連合 野や前頭葉から直接投射がある。海馬体にもこれらの感覚連合野からの投射があり 、また、扁桃体と海馬体の間にも相互に結合がある。
 扁桃体は外部情報のほかに、内部情報として血液内の化学情報を直接に、また視 床下部から受け取る。視床下部には、内臓求心性交感神経系などを介して、内臓 からの感覚が入力する。  情動領域は、前頭前野背外側部(9,46野)、ならびに眼窩面(12,13,10野)と連絡が ある。
 吻側帯状回(情動領域)と眼窩前頭前野からは、視床下部ー視床ー扁桃体の情報 を統合し処理した後に、その司令を下行性に扁桃体および視床下部に戻している。
 25野から孤束核へ、24野から中脳中心灰白質への出力がある。中脳中心灰白質 は、情動の表出や情動に伴う自律神経系の反応(心拍数、呼吸、血圧の変化)や 行 動面での反応(恐怖の場合のすくみ反応、逃避反応、怒りの場合の攻撃反応)の生 起─に関与している。
 こうして、前部帯状回吻腹側部、前頭前野背外側部、眼窩面は外界および内界の あらゆる情報がはいってくるところである。したがって、これら連合野は情報を介 する判断ができる。
 外界からと内臓からの感覚、情報が扁桃体に集まり、それが前部帯状回を経由し て前頭前野(眼窩回や背外側部)に情報を送り、そこで統合された情報がまた、前 部帯状回を経由して扁桃体に伝える。感情となり、この結果は、視床下部から自律 神経を興奮させる。感情の発現に、前部帯状回も重要な役割を果たしている。
 ただし、この情動の発現を修飾しているのが、帯状回の「認知領域」である。認 知領域が十分抑制できるかどうかが、うつ病や不安障害の発病や悪化に関係してい る。

認知領域

(続く)

Posted by 埼メンタル協会/大田 at 19:03 | 帯状回の神経科学 | この記事のURL
帯状回・ワーキングメモリや感情の抑制(2) [2006年08月23日(水)]
帯状回・ワーキングメモリや感情の抑制(2)
 =うつ病や不安障害(パニック障害、PTSD、対人恐怖など)治す心理療法(マ インドフルネス、自己洞察瞑想療法)の方向

 次の続きです。  ワーキングメモリ(作動記憶、作業記憶=ごく短期の記憶機能)は、私たちの瞬間 々々の精神作用、行動を制御している。そのうち、実行機能が重要である。
 実行制御は、次のような機能である。
     「適切な判断や選択を行い、目的を達成するためには、外界でおこっている出来 事のモニタリング、必要な情報へ注意を向ける、必要な情報の選択、長期記憶から の情報の取り出し、必要な情報の処理、必要な情報の出力、不必要な出力の抑制な どが必要であり、これらのプロセスがうまく協調して働く必要がある。 また、外界の出来事のモニタリング機能一つをとっても、これをうまく行なうため には、さまざまな感覚系や運動系の強調が不可欠である。このように、ある目的を 遂行するためにさまざまな機能系を協調して働かせる仕組みが実行制御であり、こ のような仕組みによって生み出される機能が実行機能である。」(1)
 この機能をはたすためにワーキングメモリが働くが、それを遂行している部位は 、前頭前野であることは、次で述べた。今回は、ワーキングメモリは、前頭前野と 帯状回が協調して働くことを理解する。そして、心の病気の治療のための心理療法 への応用の道をさぐる。
     「ワーキングメモリとは、ある作業に必要な情報を、必要な期間、ある種のプロ セス(リハーサル機構など)を働かせて能動的に保持するメカ二ズムである。」(2)
     「ワーキングメモリを、情報の一時貯蔵機構、情報の選択・入力機構、情 報の出力機構、情報の処理機構、そして調節信号などのサブプロセスから構成され る一つのシステムと考えたモデルである。」(3)

ワーキングメモリは「保持」と「処理」

 ワーキングメモリは、現在の行動の瞬間に必要な情報を一時的に「保持」し並行 して「処理」している。
     「会話や暗算などを例にとると、会話の目標は理解であり、暗算の目標は正しい 答えである。これらの課題に共通しているのは、情報の一時的保持と並行的な処理 である。会話の場合は相手の話の内容をしばらく保持し、そこに含まれる情 報を統合するという処理を行なわないと理解が困難であり、暗算の場合は桁に繰り 上がりがあれば、その情報を一時的に保持し並行して計算という処理を進める必要 がある。保持した情報を生かして処理に使うことができ、処理した情報を有効に保 持することができれば、ワーキングメモリはその役割を果たしているといってよい だろう。」(4)
 うつ病になると、他者と会うこと、外出することを嫌がるようになるのは、「 会話」に必要となるワーキングメモリがうまく機能しないのも、その理由だろ う。

ワーキングメモリは個人によって容量が違う

     「しかし、保持や処理が”脳のメモ帳”の容量を超え、一時的にオーバーフロー すると”物忘れ”や行為の認知のミスなどが生じる。これは、保持と処理の最適な ダイナミックスのバランスが崩れないからであり、処理に保持の容量を加えた全体 容量が個々人のワーキングメモリ容量をはみ出ないためである。」 (5)
     「さて、情報の処理に多くの容量を使ってしまうと、情報の保持には残った容量 しか使えなくなる。このような場合、保持と処理の両者は互いにトレードオフ trade-off の関係にあると考える。つまり、処理と保持の総計が一定量(ワーキン グメモリの容量で個人内ではほぼ一定)を超えない範囲であれば、両者にどのよう な量を割り付けてもよいという考えである。保持と処理のダイナミックな相互作用 は問題解決や認知課題の達成には必要不可欠であると考えられている。」(6)
 うつ病になると、仕事・家事や勉強(学生の場合)ができなくなるが、ワーキン グメモリの容量が小さくなっているためであるのも理由であろう。うつ病の場合、 薬物療法で寛解になっても、気分や身体症状が回復しても、ワーキングメモリが回 復しなければ、人に会うことや仕事はうまくこなせないだろう。
 不安障害の場合も、日常、感情的になることが多いために、ワーキングメモリが 小さくなって、仕事に支障をきたしたり、適切な対処法を想起し選択したりするこ とが苦手になるだろう。
 さらに、どの障害の場合でも、いざという時に、他者を批判する思考や最悪の状 況を予期する思考や、誤った処理対策・方法への思考などに、ワーキングメモリの 大部分を使ってしまって、適切な対策を想起したり、保持できず、いつもの苦しめ る思考、感情、行為のパターンを選択して、苦しみ、障害を持続させ、治ることを 阻害するだろう。
    (続く)
    (うつ病や不安障害患者のワーキングメモリの活性化という視点からの、心理療法 としての技法の開発への方向は、「帯状回もワーキングメモリの機能を分担」して いることをみた後で、うつ病・不安障害の新しい心理療法について私の研究方針を 述べたい。)
(注)
  • (1)「Clinical Neuroscience」(月刊 臨床神経科学)、中外医学社、2005 Vol.23 No.6、619頁。「前頭前野とワーキングメモリ」舟橋新太郎(京都大学教授) 。
  • (2)同上、619頁。
  • (3)同上、620頁。
  • (4)「Clinical Neuroscience」(月刊 臨床神経科学)、中外医学社、2005 Vol.23 No.11、1241頁。「ワーキングメモリと前部帯状回皮質」苧阪直行(京都大学 教授)。
  • (5)同上、1241頁。
  • (6)同上、1241頁。

Posted by 埼メンタル協会/大田 at 13:21 | 帯状回の神経科学 | この記事のURL
帯状回・ワーキングメモリや感情の抑制(1) [2006年08月23日(水)]
帯状回・ワーキングメモリや感情の抑制(1)
 =うつ病や不安障害(パニック障害、PTSD、対人恐怖など)治す心理療法(マ インドフルネス、自己洞察瞑想療法)の方向

 次の記事で、前頭前野とワーキングメモリについてみた。  ワーキングメモリは、私たちの瞬間々々の精神作用、行動を制御している。その うち、実行機能が重要である。
 実行制御は、次のような機能である。
     「適切な判断や選択を行い、目的を達成するためには、外界でおこっている出来 事のモニタリング、必要な情報へ注意を向ける、必要な情報の選択、長期記憶から の情報の取り出し、必要な情報の処理、必要な情報の出力、不必要な出力の抑制な どが必要であり、これらのプロセスがうまく協調して働く必要がある。 また、外界の出来事のモニタリング機能一つをとっても、これをうまく行なうため には、さまざまな感覚系や運動系の強調が不可欠である。このように、ある目的を 遂行するためにさまざまな機能系を協調して働かせる仕組みが実行制御であり、こ のような仕組みによって生み出される機能が実行機能である。」(1)
 この実行機能がうまく働かないと、心の病気になる。または、非行犯罪を犯す。 自分にとって、つらい状況がはいってくる。怒り、不安、恐怖、不満、イライラ、 後悔、憂うつ、絶望、とまどい、など「感情」が起きる。その時に、(逃避、依存 、他者攻撃、になるような行動をせずに)重要な情報に注意を向けて、心の病気や 非行犯罪に陥らない方法を自分の記憶を照合して最も妥当な対処法をみつけて選択 して、それを実際行動にださなければならない。
 このように、瞬間瞬間の自分の刺激、環境を観察し、感情を抑制して、適切な対 処法を検索し、選択して、行動指令を出す「ワーキングメモリ」の機能は、心の病 気を治すのに、注目すべきである。心の病気の人は、この ワーキングメモリ」の機能の変調がある。ワーキングメモリは、前頭前野が関与し ているが、帯状回も重要な働きをしていることがわかってきた。
 ワーキングメモリの機能を薬物療法によらずに、活性化して、うつ病や不安障害 を治す、さらに、予防する心理療法の技法の開発がすすめられる。
 (次の記事で、ワーキングメモリと帯状回について述べ、さらに、うつ病、パニ ック障害の治療法(心理療法)について述べたい)
  • (注1)「Clinical Neuroscience」(月刊 臨床神経科学)、中外医学社、 2005 Vol.23 No.6、619頁。「前頭前野とワーキングメモリ」舟橋新太郎(京都大学 教授)。
Posted by 埼メンタル協会/大田 at 07:50 | 帯状回の神経科学 | この記事のURL
うつ病と帯状回(2)グリアの異常 [2006年08月11日(金)]
帯状回の神経科学(4)
 =うつ病と帯状回(2)グリアの異常

 最近、脳神経科学の進展がめざましい。これによって、うつ病やパニック障害などの病態が解明されつつある。自己洞察瞑想療法は、それらの研究成果をとりいれて、こういう病気の治療(言葉でのアドバイスによる心理療法)を行ないたい。

 人は、怒ったり、不安、恐怖、悲しさ、嫌悪、ゆううつ、などの感情を起こす。こういう感情が異常に亢進したり、対処法がうまくいかないと、心の病気になったり、非行犯罪を犯したりする。
 感情を起こすのは、「扁桃体」が中心的な役割をになっているが、そのほかに、帯状回も重要な役割を果たしている。帯状回は、扁桃体と同様、大脳辺縁系に位置する。帯状回は、図(上)のように、いくつの領域に区分されて、異なる機能をもっている。特に、感情に関係するのは、前部帯状回吻腹側部である。
  • (A)前部帯状回吻腹側部=情動領域
  • (B)前部帯状回背側部=認知領域
  • (C)後部帯状回吻側/中間部=空間認知領域
  • (D)脳梁膨大後方部=記憶領域
 次の記事で、パニック障害(PD)と前部帯状回(ACC)について、述べた。  今回は、うつ病も帯状回が関連しているという研究がある。

うつ病と帯状回(2)

 最近、脳神経の研究によって、うつ病の患者に、前頭前野、海馬、扁桃核、前部帯状回において 活動低下が認められる。  うつ病患者の帯状回の活動低下がみられるというが、細胞レベルでどういうことが起きているのか。グリア細胞の異常(数=密度の減少)が起きているという報告がある。
     「Ongur らは、家族歴のある感情障害(双極性障害14例、うつ病9例)の帯状回膝下部で皮質の容積の減少を認めた。神経病理学的に確かめられた容積減少は、MRI研究報告以外にPET研究での血流量の減少にも一致するものである。」(1) ----- (A)
     「現時点では、報告者により内容に相違がみられるものの、うつ病の前部帯状回ではニューロンに関しては、統合失調症や双極性障害にくらべると異常の程度は軽い〜認められないとされている。グリアに関しては賛否はあるが、その数(密度)の減少が認められるようである。グリアは脳の細胞の大部分を占めており、とくにアストロサイトは脳の中で数が最も多く、高等動物ほどその構成比率が高い。」
     「グリアのもつ大きな形態や機能の多様性と可塑性は、グリア系が精神機能の調整に関わっていることを示しているようであり、前部帯状回の機能的側面からグリアの異常がクローズアップされている。」(2) ----- (B)
 これまで、ニューロンとシナプスが研究されてきて、グリア細胞の機能がよく知られていなかった。グリア細胞は、血管とニューロンの間にあって、栄養分をニューロンに渡す働きをもつ。電気的な興奮はおこさないが、化学的な興奮をおこすことがわかってきた。それによってニューロンの興奮をも引き起こすことが明らかになった。

 うつ病は、ミトコンドリア(ニューロン内の小さな器官)の異常という説もあり、ここでは、ニューロンとは別のグリア細胞の異常という報告がある。
 現在では、うつ病は、セロトニン神経の再取り込み阻害の薬理で治療しているが、将来は、ミトコンドリアやグリアに直接作用する薬を開発されるのかもしれない。その場合でも、薬で軽くなっても、また、心理的なストレスを受ければ、再発するに違いない。人生上には、何度も、心理的なストレスを受ける試練があるので、心理的なストレス(嫌悪、解決不能という心理)から起きるうつ病は、やはり、心理的な対処法から克服しないと根本的な解決にはならないだろうと思う。
 薬以外で、前頭前野や帯状回の変調が回復する方法があるのならば、そちらの研究も重要だ。  こういう脳神経科学の研究から、そのような心理療法の開発の研究もひらけてくるだろう。 前頭前野に効果がある心理療法によって、うつ病が、改善するのであれば、帯状回も改善したのであろう。どのような仕組みで、改善するのか、脳神経科学者の研究がすすむのを期待したい。
    (1)Clinical Neuroscience 2005 Vol.23 No.11、1299頁。池田研二(財)慈圭病院「うつ病と帯状回」
    (2)同上、1300頁。
Posted by 埼メンタル協会/大田 at 15:58 | 帯状回の神経科学 | この記事のURL