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精神科医がすすめる生き方―「利己主義」を抑制 [2019年08月18日(Sun)]
今日は、マインドフルネス瞑想療法士🄬の認定講座の3回目です。

精神科医がすすめる生き方―「利己主義」を抑制

続いて、精神医学者の深い洞察をみていく。

直接、幸福について述べたものではない。「こうすべきだ」ということでは、ひとは「利己主義」つまり、エゴイズム、自利我利を優先して他者を苦しめることがあるが、「利己主義」と、それを制限する秩序を述べていて、それが、先に検討した「幸福」論と類似することを扱っている。

 利己主義な人間は、他者を不幸にするので、それを抑制することが他者の幸福になる。利己主義的な心理を大乗仏教は「煩悩」とよび、抑制すべきことをすすめたことは、よく知られている。(しかし、大学や他の組織では、必ずしも、教えられていないが)

 生き方全般にわたってのマインドフルネス(自己洞察)ならば、これにそった実践方針として、参考にすべきである。しかも、これは、東洋の最も深い絶対無と関連がある。

今の話題とは別であるが、道元も己見我利我執を捨てよといっている。道元の思想は「ただ坐禅だけ」といった単純なものではないという学者も多い。

★「未熟な0人称」「一人称」「超越的0人称」

 泉谷氏は、人の精神の成熟度を3段階に分類している。 「未熟な0人称」「一人称」「超越的0人称」と呼ぶ。(参考書B,p102)(参考書A,p56,96)

未熟な0人称は、確固とした変わらない主体を持たない人間、相手との関係で変わってしまうカメレオン的主体である。自分がない人間である。人間の内的成熟という観点からすれば、緒にもついていないような段階にある(B、p102)。

 「一人称とは主体を持つ存在としての個人の在り方を示すもので、相手との関係に応じてコロコロと変わったりしない」(A,1p56)

 超越的0人称とは「東洋には、古くから「空」や「無我」といった言葉で表されるような、自我を超越することを窮極の在り方として希求する伝統があります。そのように想定される在り方を私は「超越的0人称」と名付けます」(A、p96)といっている。

 こういう自己は、西田哲学でいう絶対無を基礎にしたものであり、宗教者としては道元、白隠、盤珪など多数が説示しているが、精神科医としては、フランクルや神谷美恵子など少数の人がいっている。最近は、仏教者でさえも言わない人が多いのだが、精神科医の泉谷氏が言っているので、驚いている。深い精神問題の解決に貢献するだろう。

★利己主義の抑制

では、このように深い立場をも認める泉谷氏のエゴイズム、利己主義の抑制についてみていく。

 「現代フランスの哲学者アンドレ・コント=スポンヴィル氏は、『資本主義に徳はあるか』(2004)という著書において、「利己主義」と「社会」の関係を考える上で有用な<四つの秩序>という視点を提示しています。」(p89)

 ということで、彼の4つの秩序を紹介している。

 「利己主義に傾く性質を持っている人間という存在は、そのままでは集団生活が成り立ちません。そのため利己的な欲望を「制限」するものが必要になってくるわけですが、これについてコント=スポンヴィル氏は四つの重層的な秩序があるとし、それらをきちんと区別して考えるべきだと論じています。」(p89)

 このように、この問題は、現代の日本中に、世界中に渦巻く「利己主義」の制限についての切実なテーマである。今も、数々のハラスメント、いじめ、家庭内暴力、虐待がある。 ブームになっている「マインドフルネス」も金儲けに傾いているという批判があるように、人間は、利己主義的、エゴイズム的、独断的、「至誠」でないところがある。

 ブームのマインドフルネスは「無評価」で感覚を観ることが中心となっているが、大乗仏教は、自分と他者の人生全般の幸福ないきかたを探求していたので、観察する範囲が、人間のすべての意識、思考、行動におよぶ。その時の、観察の指針は、ここでの言葉でいえば、自他の感覚、思考、行為が「利己主義」でないかである。

 似たことが「幸福論」として、哲学者が考察しており、深く広い観察にわたる。哲学も科学である。特に、人格を否定された苦悩や、死の問題にかかわるターミナルケアには欠かせない哲学であろう。哲学に導かれた個人の内面の観察(自己洞察)実践を研究すべきである。 無評価の観察だけが「科学」であるような言い方は、誤解を拡大させるおそれがある。

(続く)

【参考書】
泉谷閑示(2009)『「私」を生きるための言葉―日本語と個人主義』研究社。(参考書A)
泉谷閑示(2017)『仕事なんか生きがいにするな』(参考書B)



https://blog.canpan.info/jitou/archive/4333
【目次】生きがい、生きる意味、依存症、うつ自殺・・・

Posted by MF総研/大田 at 06:10 | さまざまなマインドフルネス | この記事のURL