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うつ病の治療ガイドライン(5) [2012年07月31日(Tue)]

うつ病の治療ガイドライン(5)

 7月26日、日本うつ病学会が、うつ病治療のガイドラインを公表 しました。  このガイドラインで、うつ病の治療には、精神療法(認知行動療法 など)が重視されています。不安障害やパーソナリティ障害の並存 の場合には、薬物療法だけでなく精神療法の併用が効果的、推奨され ています(p18)。
 しかし、認知行動療法も手放しで、推奨しているわけでもないよう です。認知行動療法にも課題がありそうであることがガイドラインか らうかがわれます。

完治割合はいまいち

 「米国のSTAR*D研究の結果によれば(Rush et al,2006)、各種の 抗うつ薬投与や、増強療法(オーグメンテーション)、認知行動療法 を併用しても、48-60週間での累積寛解率は67%程度に留まっている。 」(p15)という。
 認知行動療法を併用しているアメリカでも、寛解率は高くない。治 らない人がいる。だから、新しいうつ病の治療法として、マインドフ ルネス心理療法が研究開発されたのだろう。

認知行動療法のスキルは差がある

 これから、認知行動療法のできる医師や心理士を育成するだろうが 、楽観していないようである。
 「ただし、精神療法は、いくら構造化しても治療者間の技術には差 があり、対象となる症例によっても効果が異なる可能性がある。」
 「精神療法の場合、他国で開発されたEBPTが、文化社会背景、歴史 、風土が異なる本邦においても有効であるという保証はない。今後の 本邦からのエビデンスを期待したい(Fujisawa et al,2010)」(p36)
 (EBPT=治療効果のエビデンスが示されている精神療法)

 従来の研究では、認知行動療法を併用しても寛解率は67%どまりで あること、認知行動療法のスキルに治療者間で差があること(=習得 が容易ではない)、欧米で開発された認知行動療法が日本人にも有効 である保証はないなど、認知行動療法の難しさがにじみでているガイ ドラインである。
 私は、うつ病の人ともう20年近く関わっているが、たしかに、認 知を修正する手法がむきそうもないタイプの人も多かった。 認知行動療法をどのように、どのくらい行うか、難しいものがある。 マインドフルネス心理療法ならば、呼吸法(自己のさまざまな作用を 観察しながら)なら、「30分以上」と数値で目標を示すことができ る。そして、月1回のグループでのプログラムに参加して、自習実践 して、6か月でかなり軽くなり、1年ほどでほぼ寛解に至る。 もちろん、これができない人がいる。
 認知療法も数値目標をもたないと、保険の対象にはできにくいだろ う。保険扱いとなって、無制限に認知行動療法を受けると保険の財政が破綻する。
 「今後の本邦からのエビデンスを期待したい」という段階である 。治療割合の高い認知行動療法を全国どこでも 受けられるようになるには、まだ課題が多いことがガイドラインから 見て取れる。
 このような状況であるから、一応、セッション1から10まで構造 化された自己洞察瞑想療法(SIMT)も、いくつかの改善したエビデンス 、実施量のデータがあるので、試していただければ嬉しい。月2回の グループ支援とか、個別支援を併用すれば、治癒割合はもっと高まる だろう。
タグ:うつ病
Posted by MF総研/大田 at 23:33 | うつ病 | この記事のURL