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認知療法があるのになぜマインドフルネス心理療法か [2011年07月25日(Mon)]

認知療法があるのになぜマインドフルネス心理療法か

 認知療法(第2世代)の弱点を補う形でアメリカではマインドフルネス心理 療法が発展しています。 うつ病などが治る原理は、認知の修正によるのではなく、認知から距離を置くこと であるらしいと、アメリカのマインドフルネス心理療法者は、分析しています。
 脳神経生理学的にいえば、うつ病はセロトニン神経の低下で起きるというよりも、 HPA系(視床下部ー下垂体ー副腎皮質ーストレスホルモン分泌)の亢進による 前頭前野の機能低下であろうということも、治療標的と治療法のずれが言われています。
 頭が回転せずに判断、思考力が低下して仕事ができない、人と会話できないなどが起きるのは、前頭前野の障害のようであるが、そこを直接、標的にする薬はないので、セロトニン神経に作用させる薬を投与する。
    (いや、セロトニン神経に作用させて、その軸策は前頭前野にも伸びているので、前頭前野の障害部位に作用しているのかもしれないということもできる。ただ、上流のHPA系(視床下部ー下垂体ー副腎皮質)の亢進には作用しないだろうから、治りにくいうつ病も出てくる。 傷つける作用(否定的思考、ストレスホルモン)と修復しようという薬の作用とのバランスがあるだろう。 非定型うつ病の鉛様麻痺感、拒絶過敏性による対人反応は、セロトニン神経との関連は考えにくいので、抗うつ薬がききにくい。こうして、うつ病の問題を起こす部位と薬との関係がわかりにくい。)

 認知療法は、否定的思考回路を使わず肯定的思考回路を使うことが 治るという原理といえるでしょう。しかし、治るのは、患者が認知を修正したことによるのではなくて、 認知から離れるためであるという説をシーガルらの「マインドフルネス認知療法」にのせています。それで、最近の第3世代の認知行動療法は、認知の修正ではなくて、認知から離れる手法が用いられる理由だというのです。
 マインドフルネス心理療法は、思考回 路ではなくて、前頭前野の機能のうち、現在進行形で働く、ワーキングメモリ(作 業記憶)や衝動的行動の抑制機能の活性化のために、繰り返しのトレーニングをするものといえるのでしょう。なお、脳神経生理学的なことばかりではなくて、不快事象の受容、自己や世界についての哲学的な変化も大きいのですが、症状の変化は脳神経生理学的な説明がつきます。脳神経生理学的変化と哲学的な変化です。マインドフルネス心理療法で治癒した人は、認知療法で治癒した人よりも再発率が低いかもしれないのです。生きること、自己、他者、環境世界などについての哲学的な変化のためです。認知療法とは違って、自己や世界についての探求があるからです。治る理由や再発しにくい理由の検証は、今後 の課題です。少なくとも、脳神経生理学的な効果について、課題実行中の脳部位の活性化、治療前後の脳神経生理学的な変化を計測する研究を大学や病院などで 実施していただきいたい。
 認知療法とマインドフルネス心理療法との違いをすでにいくつか記事にしていま すので、索引を掲載します。
 認知療法とマインドフルネス心理療法は、かなり違う、原理もクライエントへの 説明もちがうので、同一のクライエントにはある期間に並行して用いるのは適切で はないかもしれません。課題が全く違うので、クライエントが迷うからです。 一定期間、どちらかを提供して効果がない場合に、他方を 適用するのはいいかもしれません。研究者の今後の研究課題でしょう。
 認知行動療法は、種々の領域に貢献してきているので、第2世代の認知行動療法か 第3世代の認知行動療法(種々のマインドフルネス心理療法)のどちらを習得する か迷われることでしょう。しかし、第2世代の認知療法は、効果があると評価があると認められています。マインドフルネス心理療法は、日本では、これからです。日本では、うつ病、不安障害、依存症などに、マインドフルネス心理療法を継続して提供してくれる医師、心理カウンセラーがほとんどいません。認知療法でも治らない難治性の精神疾患にも効果があるというのに、日本では普及しません。新しいものは、当初はなかなか受け入れられないものです。従来の立場があり、それが尊重されるところ(現状に満足であるという世界=支援者、支援される人)では受け入れられないのです。 現状に満足できない世界(支援者、支援される人)で新しいものを開発し受容します。 西田幾多郎は、対象的に見た自己の立場、自我の立場、利己的な立場ではなくて、自我を空しくした立場、世界の立場に立つといいます。マインドフルネス心理療法は、そのような立場から、自己自身、世界、苦悩を見ようとしています。治療法の開発提供も、治療者側、製造者側(の利益、便宜など)の立場ではなく、世界側(患者と治療者の相互作用の全体)の立場からということでしょう。現状に満足できない患者さんや支援者側の働きがあって、世界全体が発展していくのでしょう。宮沢賢治が「世界が全体幸福にならないうちは個人の幸福はありえない」というのも、同様の精神かもしれません。

認知療法からマインドフルネス心理療法への記事目次

  • 認知療法のように認知とは戦わない
      ☆マインドフルネス心理療法では、過去(今日1日)となった自分の思考を振り返 り 、その思考内容を支持する/または反論する証拠を集めることを 強調しない。
  • 認知療法(第2世代)とは違う
      ☆うつ病患者は自己の問題に関する反すう(想起と思考)に多くの時間を費やす。 反すうは抑うつ を深刻化させる。 マインドフルネス心理療法では、反すうのプロセスを取り扱い、反すう(思考、認 知)の内容ではなく種々の機能を特定して、機能の改善を標的とした作業を行う。
      自己洞察瞑想療法(SIMT)では、種々の機能の現在進行形での観察、価値実現の反応 パターンの選択行動を「意志作用」と呼ぶ(西田哲学の用語)。
  • メタ認知の心理学
      ☆心理学も作用の作用についての研究にはいってきている。メタ認知心理学。まだ 、うつ病、不安障害、依存症などの治療に応用するまでには至っていないが、マイ ンドフルネス心理療法の方向にすすんできている。
  • 認知の修正ではなく意志作用の活性化
      ☆意志作用は知りつつ働くこと。現在進行形で苦悩を作らない意志作用の活性化の トレーニングが自己洞察瞑想療法(SIMT)。
  • 認知の修正ではなく意志作用の活性化
      ☆判断作用よりも、思考作用よりも深い意志作用。現在進行形で働く本音はエゴ的 な判断作用である。現在進行形の本音に気づくこと(これも意志作用の一つの要素 )が心の病気の改善になる。
  • 認知の修正ではなく意志作用の活性化
      ☆人の心理作用は種々あるが、同一レベルではない。知覚、思考、感情、本音より も深い意志作用。(さらに深い「直観」がある)

  • 従来の認知行動療法は軽症のうつ病には効果が確認されていない
  • 2種のタイプの心理療法
 マインドフルネス心理療法といっても、弁証法的行動療法、アクセプタンス・コ ミットメント・セラピー(ACT)、マインドフルネス認知療法、行動活性化療法 、自己洞察瞑想療法(SIMT)など数多くあり、理論も手法も類似点と相違点がありま す。

( SIMT: Self Insight Meditation Therapy =自己洞察瞑想療法、第3世代の認知 行動療法の一つ)
Posted by MF総研/大田 at 09:46 | 新しい心理療法 | この記事のURL