カウンセラーも自己洞察スキルの体験が必要(1) [2011年06月20日(Mon)]
カウンセラー(セラピスト、医者)も自己洞察スキルの体験が必要(1)マインドフルネス心理療法は、アメリカでは、うつ病、非定型うつ病 、種々の不安障害、依存症、パーソナリティ障害など、広範囲に活用さ れています。薬物療法や認知療法で治らない人でさえも、改善効果を発 揮しています。認知よりも高次の精神作用のトレーニングをするからで しょう。 (当研究所では、スタッフの体制が整っていないので、非常に重症とか、 ある種の障害の方には提供できていない。月1,2回のグループ・セッションで、あとは、毎日、自習できる人にのみ提供している) 日本でも、翻訳書が多数出版されて、注目を集め始めました。しかし 、問題があります。支援者(医師、カウンセラー)が、マインドフルネ ス心理療法を教えるのですが、その人自身が、実践せずに、文献で得た 知識だけで「技法」として用いていると、クライアント(患者)さ んをうまく治すことはできません。 日本では、まだ経験の少ない心理療法であるために、セラピスト自身 がこの心理療法に精通していないのです。 心の病気が治らない人が多い。その難しい病気をも治す新しい心理療 法は、それなりに習得が難しいのです。 翻訳書を読むだけでは(実践しなければ)十分使えません。 本を訳した、本を読んだだけで、わかったつもりでクライアント(患者 )さんに教えると、うまく治すことができずに、患者さんを尊重してい るとはいえません。支援者の倫理に関わります。 この心理療法 を研究、開発しているアメリカの心理療法者たちは、セラピスト(この 心理療法を提供する医者、カウンセラー)は、自己自身が自己洞察のス キルを訓練した方が、すぐれたカウンセラーになるだろうと予測してい ます。 文献で理解しようとするより自分で直接体験すること「我々の臨床研究のチームでは、我々のセラピーの概念化が、単なる 1つの治療アプローチに留まるのではなく、より普遍的に、生きること とは何かを問う哲学であるという強い主張を掲げる。我々のスーパービ ジョンのミーティングでは、通常、これまでの訓練と経験の両方から、 情動とマインドフルネスの役割を検証する(Follete & Batten,2000)。 したがって、セラピストはマインドフルネスのスキルを鍛錬するのと 同時に、情動に名前をつけたり、表現したり、引き起こしたりする能力 をレパートリーとしてもっていることが重要だと考える。」(末尾 の本、9章、294頁)「研究者の中には、マインドフルネスを学習するには、直接にそれ を 体験することが一番の方法だと主張する者もいる(Segal,Williams, & Teasdale,2002)。経験に基づく学習は教示よりも効果的であるという研 究の知見を踏まえると(Bennett-Levy et al,2001)、マインドフルネスを 常に実践しているセラピストの方が、クライエントがマインドフ ルネス を実現する際の障壁や恩恵に優れた理解をもつと考えられる。すると、 そういったセラピストの方が、より効果的な治療を提供し、また優秀な 指導者になると考えられよう。」 (9章、295頁) こうして、マインドフルネス心理療法は、セラピスト(医者、カウン セラー)に、自己洞察スキルの体得が必要と主張されています。 本当に、クライエント(患者)の利益を重視する、つまり、本当にクラ イエントの病気を完治させようとするならば、カウンセラー、セラピス トも、自分自身に変革を必要としています。 自分で実践していないと患者さんからの質問疑問に答えられないマインドフルネス心理療法は、セラピストが、他の心理療法のように 「技法」を知識として知っている(それは「認知」レベルです)だけで は、充分に、効果を発揮しないようです。セラピスト自身が、日常生活 で、マインドフルネスやアクセプタンスを実行する生活を送るのが必要 であるようです。特に、次のことを体験することが望まれています。 読み理解するだけでは体験できません。だから、この心理療法を熟練するセラピストは日本に は多くはないかもしれません。アメリカでは、アクセプタンス、マインドフルネスの自己洞察法をと りいれた行動療法が盛んに研究されていて、クライエント( 問題、病気をもっている人)に、自己洞察法のスキルを指導するのです が、実は、それを教えるセラピスト(カウンセラー)自身が、それを実 践している人の方がすぐれて、よくクライエントを治癒に導くという 認識が高まっています。 カウンセラーが、読書だけの知識であって、自己洞察のスキルを体得 していないことがあります。それでは、心 の病気を治癒させることはできないということです。認知レベルの指導 になってしまいます。 マインドフルネス心理療法の課題を実践してもらうと、患者さんは種々 の質問、疑問を起こします。それに、適切な回答、助言をしてあげない と 課題の実践意欲を失います。マインドフルネス、アクセプタンスの実際は、 微妙なのです。 自分でも、よくマインドフルネス、アクセプタンスの実践をしている人 は即座に助言できます。 私は、メタファー(比喩)を言います。ゴルフの本を千冊読んだ(実際 にはしたことがない)指導者よりも、本は読まなくても、実際、フェア ウェイでプレーしている人の方がよきゴルファーを指導できるでしょう 。マインドフルネス心理療法は、認知レベルではなくて、意志作用レベ ル、行動レベルだからです。 治療場面で支援者も感情的になるクライエント(患者)さんと対話していると、人によって、種々の反 応をしま す。人によっては、医者、カウンセラーの言葉、応対、技法に、 「激しい理想化とこきおろし」のゆれうごく対人関係様式を示すことも あり、面接場面や、メールや電話のやりとりでも、感情的になること、 激しく怒ることが起きる場合もありえます。そういう場面で、医者、カ ウンセラーが、感情的になったり、おちこんだり、治療継続拒否(医者 、カウンセラーの回避、逃避です) をしかねなません。マ インドフルネス、アクセプタンスの心得がないと、カウンセラー側が、 疲弊します。カウンセラーが、うつ病や不安過敏になることもあるでし ょう。支援者がマインドフルネス、アクセプタンスを実行していないか らです。クライアントに指導することを自身が実行できていないという ことが起きるのです。薬物療法でも、従来の認知行動療法でも傾聴でも 治らない患者さんがおいでになる。それだけに難しいのです。しかし、アメリカでは、そういうこともある(すべてではない) と認識されていて、支援者を支援、助言する(スーパーバイズ)体制を とっています。 マインドフルネス心理療法は、認知レベルの心理療法ではないので、 支援者がよくマインドフルネス、アク セプタンス(認知レベルではない、意志作用レベル=メタ認知が近づい ているように思います)を日々、実践している人でないとうまく提供で きないでしょう。マインドフルネス心理療法そのものが、認知レベルを超えた心理作用を扱っていますから。 こういう意味では、医療関係者の方も、マインドフルネス心理療法のスキルがあれば、自分自身の感情や行動のコントロールに効果的だと思います。実際に実践するならば、医療関係者自身のためにもなるでしょう。
編著=S.C.ヘイズ、V.M.フォレット、M.M.リネハン、 監修=春木豊、ブレーン出版、2005 ◆セラピスト・カウンセラーを育成する人には哲学が必要にな る ◆カウンセラー(セラピスト、医者)も自己洞察スキルの 体験が必要 |