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PTSDの予防段階から治療段階へ [2011年04月27日(Wed)]

被災者の心のケア、心の病気の予防のためのマインドフルネス心理療法

 (19)PTSD(心的外傷後ストレス障害)を予防法(6)

PTSDの予防段階から治療段階へ

 PTSDの患者には前部帯状回(内側前頭前野)、海馬、前頭前野の体積の減少がみられます。
 「海馬と前頭前野はエピソード記憶と意味記憶の符号化と検索に携わっていることから、その体積減少は陳述記憶システムの相対的劣性を生じやすい基盤となる。PTSD患者に認められた記憶と前頭葉機能に関する障害の多くもこれに関連しているものと解釈できる。また、前部帯状回は扁桃体を調節することによる条件付けの消去に関与しているので、その体積減少はいったん恐怖体験によって条件付けられた反応を容易に消去できない基盤となる。」(西川,2008,213頁)

 PTSDには海馬の容積減少が影響していると報告されていますが、PTSDの発症前からあった可能性が示唆されています。ただ、外傷直後でなく、6か月以上経過してからPTSDが発症する人もいるので、外傷後のストレス反応によって海馬の減少が進行することも考えられます。外傷前の脆弱性と、外傷後にひきおこされた可能性も否定できないといわれています。
 海馬容積の減少は、うつ病の患者にも見られます。そして、うつ病が薬物療法で治る患者がいるのですが、海馬の容積が回復するのでしょう。薬物療法の効果について、次のことが言われています。
 「動物実験ではストレスによって副腎ステロイドが増加し。興奮性アミノ酸系を通じて海馬に神経細胞新生の抑制や樹状突起の短縮、細胞死の生じることが知られており(McEwen,2000)、またヒトではparoxetineによる薬物治療を施されたPTSD 患者の海馬体積が9-12カ月の間に平均4.6%増大するとともに陳述記憶の成績が改善したという報告もみられ(Vermetten et al.,2003)、海馬が想像以上の可塑性を有していることには留意しておかなければならない。」(西川,2008,214頁)

 抗うつ薬によって、脳由来神経栄養因子(BDNF)が増加して、細胞の新生、樹状突起の回復などによって容積が改善されるようです。抗うつ薬でそういう効果が不充分でない患者さんには、心理療法によって同様の改善が期待できます。心理療法の場合には、課題に実践によって関連の部位の使用頻度を増加させることが、その部位の容積を改善するような神経生理学的変化を起こすのだと思われます。

 災害の後に、すぐにPTSDの重い症状が現われていなくても、不安過敏な反応、過覚醒の状況は自覚されるはずです。そういう時に、こうした前駆的な症状を軽くすることは、PTSDの発症に至るのを予防するのに効果がある可能性は無視できません。 別の記事で述べたことは、マインドフルネス心理療法からの予防法です。ほかにも、専門家による予防法を実施していただきたいと思います。
 うつ病の場合、出来事のあった後の心理的ストレス反応によって、前頭前野、前部帯状回、海馬、セロトニン神経などに変化がみられるのですが、出来事によってPTSDになる人とPTSDにならずうつ病になる人がいます。違いがあるからには、発症 前からの違いもあるのでしょう。 どちらとも、治療の後では回復するのですが、回復するのはどういう仕組みでしょうか。薬物療法の効果は、脳由来神経栄養因子(BDNF)の増加によって萎縮していた脳部位(前頭前野、海馬など)の容積回復が推測されます。
 しかし、薬物療法だけでは回復しないPTSDもうつ病もあります。それが、心理療法で回復する人がいます。PTSDには、認知行動療法、EMDRが効果があるとされています。マインドフルネス心理療法も効果がありますので、その効果を推測してみます。
 東日本大震災の被災者の方も、もう治療の段階にはいるでしょう。こうした心理療法が提供される必要があります。

(続)
    (注)
    (西川,2008)「PTSDと解離性障害にみる記憶と自己の多重性」西川隆(大阪府立大学総合リハビリテーション学部)(「精神の脳科学」加藤忠史編、東京大学出版会、2008)。

  • <目次>災害時、心の病気の予防のためのマインドフルネス心理療法
  • 参考記事
     風邪をひいてしまい、頭が回転しなくなり、色々なことができなくなっていました。ようやく回復してきました。 自分の体調が悪いと、社会的活動はできませんね。気をつけなければ。
  • Posted by MF総研/大田 at 18:38 | 災害とストレス | この記事のURL