パニック障害 [2010年05月24日(Mon)]
<シリーズ>うつ病や不安障害がなぜ薬物療法だけでは治らないのか、自己洞察瞑想療法(SIMT)で治るのか
1、背景の神経生理学的基盤と自己洞察法の哲学
2、疾患や問題の各論
3、なぜSIMTで治るのか(別の連続記事)
(4)パニック障害
パニック障害がなぜ薬物療法で治らない人がいるのか、自己洞察瞑想療法(SIMT)や認知行動療法でなぜ、治る
のか。
胸の苦しさ、動悸、息切れまたは息苦しさ、めまい、はきけなどの症状が同時に起こる。現実に激しい発作が起
きる。そして、
「また起こるのではないか」という予期不安に見舞われる。それが高じて、外出するのがこわくなる、乗り物に
乗れなくなる人も多い。種々の場所に行けなくなる。
回避場所が多くなると
職業や文化的生活などに支障をきたす。
現状では、この病気であると診断されるまでに長期間かかり、診断がついても治りにくい障害である。
パニック障害の病理や環境にもいくつかの局面がある。この局面をわけて考えるのが、薬物療法で治る部分と
薬物療法だけでは治りにくい理由がわかるだろう。
- (1)予期しないパニック発作が繰り返し起こる。(急性のパニック発作の苦痛)
突然、胸の苦しさ、動悸、息切れまたは息苦しさ、めまい、はきけなどの症状が起こる。発作は10〜20分ほ
どで治まるが、発作の最中には、立っていることは難しい、仕事や他者とのコミュニケーションなどは困難であ
り、嵐が過ぎ去るまで何もできない。この発作が非常につらい
- (2)もっと発作が起こるのではないかという心配の継続(予期不安)。
日常的に、発作の脅威のことを考える。心理的に苦痛の思考を繰り返す。
- (3)予期不安による睡眠障害
発作は就寝中に起きることもある。一度、就寝中に起きた経験のある人は、眠ると眠っている時に発作が起きる
のではないかという不安思考(予期不安)それによる不安感情が起きて興奮して、眠れない。睡眠障害をもたら
す。
- (4)この障害を不可解と思う苦痛
発作またはその結果がもつ意味(例:コントロールを失う、心臓発作を起す、別な人格になるのではないか、
死ぬのではないか、重大な病気ではないのか)についての心配。
- (5)急に起きる自律神経系の反応を発作の前ぶれと勘違いしておびえる(勘違い反応)。
予期不安などの思考を繰り返すので、交感神経や扁桃体が過敏になっていて、ささいなことで交感神経、扁桃
体の興奮が起こり、動悸、過呼吸、はきけ、痛み、不安が起こり、「ああ! また発作が起きる!!」とおびえ
る。現実には、発作ではないのであるが、発作の前ぶれだと不安恐怖の思考を起こす。その思考がかえって不安
恐怖の感情を引き起こして、交感神経と扁桃体の亢進による身体反応と不安感情が強化され、疲弊することが多
い。
- (6)慢性的な種々の身体症状。
上記の症状や以下の状況を毎日、思考するので、交感神経や扁桃体の亢進、ストレスホルモンの分泌などによ
り自律神経系の失調のような症状(種々の内臓の変調、アトピー、痛みなど)が慢性的に起きる。
- (7)発作と関連した行動の大きな変化、特に回避(広場恐怖)。
発作が起きることの不安が直接の要因であるが、種々の場所、交通機関、社会的文化的な行動(職業、趣味、地
域など)を回避する。
乗り物に乗れなくなる人も多い。自動車はよくても高速道路がだめ、渋滞がだめとなって、
回避する場所が増えていき、歯医者、美容院、映画館などに行けない、
買い物などの行列に並ぶことができないなども起きる。こうした回避が多くなると
職業や文化的生活などに支障をきたす。この回避症状を総称して「広場恐怖」という。
- (8)特定の対人関係の回避
ある個人との対話や行動が発作のきっかけであったり、あおうとすると、身体症状、身体反応を悪化させる場
合、その人にあうことを回避する。
この障害についての理解がなかったり、激しく叱責された経験があると起きやすい。
相手は、職場の人、学校の教師、家族、親族、友人など。
学校の教師である場合、不登校の一つの要因となる。家族である場合、その家族と不和になったり、部屋にとじ
こもることになる。離婚もありえる。
- (9)家族同伴の行動ができない(家族との行動回避)。
急性の症状が現実に起きる、予期不安不満、慢性的な身体症状のために、家族とともに行動(行楽、旅行など
) できなくなる。家族のための世話(育児、食事、家事など)ができないとか、家族のための行事(子どものた
めの 授業参観、教師との面談、家族のための支援行動など)や親族に関する行事支援(冠婚葬祭に参加できない
、親戚づきあいができないなど)に参加できない。こうしたことから、家族に迷惑をかけてすまないと悩む思考
を起す。家族から不満の言葉を強く言われたり、家族の理解がないと特に苦しむ。家族間の緊張、不和、離婚な
どに至ることもある。これは、症状を悪化させる。
家族に理解があって、ある年月療養できても、治らないと、親の不就労、親の病気(精神疾患、身体疾患)、
親の離職もありえるし、親が老いる時がきてはささえきれなくなる。
- (10)職業生活、文化的活動の後退、回避(「願い、価値実現の困難さ」)。
以上のような、心理的、身体的な状況から、自分が希望し、願う職業に現実に従事できない、進路変更を余儀
なくされる、趣味や文化社会活動に参加できない。結婚することをあきらめる人もいる。理解してくれるパート
ナーにめぐりあうといいが、つきあいに、臆病になる。次の自己評価にも関係する。
たとえば、医者、教師、看護師、その他こういう進路にすすみたかったのに、高校、大学の頃、この障害となっ
て、夢を実現できなくなる。働くようになってから発病して退職して、復帰できなくなることもある。
こうした、自分の願う職業につけないことや人生の願いが実現しないことによって、長期間にわたって心理的
に苦悩する思考が起きる。
- (11)自己評価、自己人生評価の低下。
現在の自分、
将来のこと(仕事、結婚、人生設計など)が不安に満ちたもの、悲観的なものであるという思考の繰り返しが起
きる。そのことから、自己評価、自己人生評価の低下がみられる。心理的な苦痛である。
このことによって、「願い、価値実現の困難さ」と苦痛の連鎖を起す。
これが重症化すると、うつ病を併発する。
- (12)治療法や副作用に悩む(治療法の悩み)
パニック障害は本人にも内科医にもわかりにくくて、
正確な診断遅れて治療開始が遅れることがある。正確な診断がつくまで、不可解で悩む。
パニック障害であると診断がついてから、薬物療法を受ける。薬物療法によって一部の人は発作自体は起きな
くなって治る。しかし、発作が起きなくなっても
広場恐怖、予期不安、身体症状などが治らない人も多い。認知行動療法やマインドフルネス心理療法が効果があ
るが、薬物療法しか受けることができない環境である患者が多くて、いつまでも完治しないで、苦しむ
人が多い。
- (13)症状の悪化に影響している外的なストレス要因を軽減できない(外的、社会的な要因が軽減されない
)
パニック障害は心理的、身体的ストレスが症状を悪化させることがある。うつ病のところにも書いたが、長時
間勤務、変則勤務、債務、個人事業、向かない仕事、セクハラ、パワハラ、いじめ、人間関係、介護する状況な
ど容易には変えることができずに、心理的経済的苦痛が持続すると、パニック発作や身体症状が持続する要因となる。
- (14)発病の要因、症状の悪化持続に影響している身体の病気が治らない。(身体疾患が治らない)
心理的経済的ストレスによって他の身体疾患(特に心身症)を悪化させることがある。他の病気があると
心理的ストレスとなるので、パニック障害も治りにくい。
- (15)収入の減少による経済的な問題からの心理的苦痛。
就労困難となり経済的に困窮して、それが心理的ストレスとなり、症状を悪化させる。苦悩が大きいとうつ病を
併発する。
- (16)孤立、孤独。
治りにくい場合、家族、地域、患者会、行政などによる経済的、心理的な支援が少なく孤立して孤独を深めて
苦痛を強める。家族の理解があっても、家族ぐるみ孤立する。
- (17)うつ病の併発。以上の状況が継続すると、パニック障害に加えて、うつ病の症状が起きる。
重症化すると自殺も起きる。
パニック障害そのものには死亡に至る異常所見はないのであるが、うつ病を併発して、(長期にわたって療養で
きない状況になり)追い込まれるとうつ病の症状として自殺の危険性がある。パニック障害に併存するうつ病は
非定型うつ病が多い。
なぜ治りにくいのか
パニック発作が起きるのは、脳神経領域のどこかが急に興奮してその影響が周辺に広がるためであるが、
その責任部位はPAG(中脳水道周辺灰白質)ではないかと言われている
。
責任部位が発火するのは、心理的ストレスや他の身体内部の興奮や摂取した食物(カフェインで発作を誘発する
人も)による。
責任部位が興奮するのを鎮めたり、その部位への神経伝達を遮断する薬が開発されればいいのだが、まだ特効薬
はなく、抗うつ薬、抗不安薬などが用いられている。薬物療法で発作を起こさなくなる人も多い。しかし、(1)の
症状が起きなくなっても、(2)以下の心理的、行動的な問題が大きくなる人が多い。特に広場恐怖、予期不安は、
心理的ストレスの対処が大きく関係しており、薬物療法だけでは治りにくい。発作のつらさは耐え難いものであり、それが起きることの予期不安による恐怖反応が起きるので行動できない。行動は、一定時間(30分とか)の行動を継続することになるが、抗不安薬を服用してもその行動中にも予期不安の思考が渦巻いて、薬の効果を上回る恐怖が起きて、行動を継続できない。
発作をおそれるほかに、発作が起きなくても、長引いてくると、他の局面が多数現われて、
込み入った思考、心理作用が関係していて、薬物で変えることは難しい。
なぜ、治るのか
(次の記事に続く)
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Posted by
MF総研/大田
at 21:30
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新しい心理療法
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