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非定型うつ病が、なぜ治るのか [2010年05月01日(Sat)]

<シリーズ>うつ病や不安障害がなぜ薬物療法だけでは治らないのか、自己洞 察瞑想療法(SIMT)で治るのか

1、背景の神経生理学的基盤と自己洞察法の哲学 2、疾患や問題の各論 3、なぜSIMTで治るのか(別の連続記事)

(1)非定型うつ病

 まず、非定型うつ病がなぜ、自己洞察瞑想療法(SIMT)で治るのか。 非定型うつ病の重大な症状は、拒絶過敏性による対人関の悪化、鉛様麻痺感、過眠 である。

症状と治りにくいわけ

 仕事関係や対人関係における不満・怒りや疲労、睡眠不足、その他何かの刺激に よって扁 桃体が過剰に興奮するとか、激しく感情的になるとかあると、こういう興奮が、鉛 様麻痺感、過眠症状を起す領域にスイッチを入れると推測 される。そのために、朝、起きることができず、学校、仕事に行けない。
 鉛様麻痺感は、メランコリー型うつ病の「抑うつ症状」とは異なる。前者は急性 で持続期間が長くない、身体が重く感じる、起き上がるのも難しい。後者は、身体 は起き上がれるが、頭が重い、急に起きるのではなく持続期間が長い。責任部位が 異なると推測される。現在の抗うつ薬で治りにくいのは前者である。後者は抗うつ 薬がききやすい。ただし、抑うつ症状を軽くするところである。前頭前野の機能低 下による症状(意欲、ワーキングメモリ、コミュニケーションなど)がなかなか回 復しない人がいる。
 鉛様麻痺感、過眠への通路を遮断する薬、心理的ストレスのうち不満、怒りをし ずめるいい薬がまだないので、薬物療法だけでは治りにくい。 非定型うつ病は、対人関係による急に起きる心理的ストレスによって症状を頻発さ せるので、発作の回数を少なくすること、前頭前野の背外側前頭前野を活性化して 心理的ストレスに強くなることをしないと治りにくい。不安障害との併存が多いが 、根底に自己存在への自信の低下、自己評価の低いこと(「隠れた本音」)がある 。拒絶過敏性はそこから起こりやすい。 自己というものの探求が大切である。

どんな心理療法か(この部分はすべての問題に共通)

 (詳細に書いたら制限の文字数を超えましたので、別の記事にします。こちらを ご覧ください。⇒ 自己洞察瞑想療法(SIMT)はどんな心理療法か

 

非定型うつ病が治るわけ

 以上のような、トレーニングをよく実践できる人は、 症状が軽くなる、残る症状や回復不能な病気(現在の医学ではわからない難病、終 末期がんなど)、回復不能な障害(事故や脳血管疾患による身体障害や先天的な障 害など)が残ることがあるが、あっても受け容れて生きていく。
 非定型うつ病ならば、他者の言葉を聞くのも思考、解釈するのも、不満も怒りも 自分の作用であると受け 止めるようなトレーニングを重ねて、自己の精神作用や自己存在を探求して他者の 評価に左右されない自分に自信を持つと、激しい感情が長く続くことが少なくなる 。
 幸福そうな他者を見て自分は不幸であると自己否定の思考を起したり、 対人関係などにおいて、通常ならば起こるはずのないことがらに発作的に感情が高 まるので、その瞬間の感情処理が決めてとなる。別な考え方を考えている余裕はな い。「今の瞬間」しかない、今の瞬間をいかに生きるか、強い意志作用が重要であ る。
 感情が高まりすぎると、理性の回路(背外側前頭前野〜帯状回認知領域)は抑制され、他の考えに置き換える余裕はな い。感情が高まらないういちに、その瞬間に、意志作用の回路が活性化 し、不快事象(これも自己の上にあるもの)を観察し受容して合目的的行為に意識 を向ける。 そうすると、意識の対象がその瞬間に苦痛の対象からそれるので感情の高ぶるのが弱まる。激しい怒り、落ち込み、鉛様麻痺感などへのスイッチが入らないですむ。 この時には、背外側前頭前野 、前部帯状回認知領域、眼窩前頭前野などが活性化すると推測される。
 一方、悲観的な思考、ネガティブな感情を長びかせることが少なくなるので、内 側 前頭前野(否定的な思考回路の部分)、前部帯状回情動領域、扁桃体の興奮がしずまると推測される。神経生理 学的な変化が起きると推測される。特に、瞑想(呼吸法)を多用すると、背内側前頭前野、海馬などが活性化するようである。呼吸法の中で、価値崩壊の反応パターン(意志的反応)をリハーサルするのである。 自己の深い探求によって、このままの自己存在に満足できるようになり、他者の評 価を気にしなくなる(自己存在の見方の変化は薬物療法では起こりえないし、他の 心理療法とも異なる特徴である)。 こうして、対人関係などにおいて、激しく感情 的になることがなくなって、鉛様麻痺感、過眠などにスイッチがはいることがなくな る。 この発作的な症状を起す頻度が少なくなると、神経生理学的な特徴により、発作部 位への回路が消滅したり、発作部位の亢進がなくなると推測される。こういう状況が半年から1,2年継続するとも う、相当のストレスを受けても、発作的な部位が興奮することはない。完治である 。

治ったと思っても油断しない

 鉛様麻痺感などが起こらなくなって、どのくらいの期間が経過すれば、その部位 への通路、その部位の衰滅が起きるのかは不明であるから、治ったと思っても、 過労は注意すること、そして、自己洞察瞑想は、3−5年は怠らないように助言し ている。 自己洞察を怠っていると、大きな心理的ストレスが起きた時に、また、否定的思考 を始める。 だから、治ったと思っても、毎日、15分程度(セッション10くらいまでの治療 期間には30分から60分) は基本的自己洞察を行い、行動中の自己洞察は常に怠らず続けるべきである。 できれば、生涯継続すると、中高年になってのうつ病、不安障害の発症を防止する だろう。
 毎日、15分は基本的自己洞察を行うのがよいと書いたが、人によっては、これ を毎日、1時間ちかく、行うようになる人がいる。こうなる人は、自己洞察法その ものに、喜びを感じているのだろう。それは、自己洞察法の実行が多くなるにつれ て、自己や世界の見方が変化してきて、種々の出来事を自己と対立する対処不能な 悩ましいこととは感じなくなるためだろう。 つまり、自己や世界の見方(哲学)が深まるためであろう。西田哲学でいえば、叡 智的世界にすむ、叡智的自己になるのであろう。このことは、メランコリー型うつ 病が治り、再発しない理由であると思われるので、メランコリー型うつ病の項で述 べる。
 非定型うつ病が治った人も、自己洞察法の時間を多くすれば、自己が叡智的自己 に深まり、さらに再発しなくなると思われる。

自殺の背景に長引く非定型うつ病も

 非定型うつ病は喜びの回路は傷害されていないので、自殺することは少ない。し かし、非定型うつ病がずっと非定型うつ病でありつづけるわけではない。非定型う つ病が長引くと、メランコリー型うつ病も併発すると思われる。つまり、非定型う つ病が長引いて、就職できない、復帰できないなどの苦しい状況が継続すると、当 然、つらい思考を繰り返すので、副腎皮質ホルモンの過剰分泌となり、前頭前野、 帯状回、海馬などを傷つけると推測される。
 こうして、非定型うつ病が長引くと、抑うつ症状も加わり、前頭前野の種々の機 能低下も起きる。 意欲がない、頭が回転しない(仕事ができない、記憶できないなど)、死にたくな る、人とのコミュニケーションができない、などの症状である。 それはメランコリー型うつ病の併存というべき状況となる。極めて危険な状態にな る。 非定型うつ病も早く治療して治すべきである。クライアントの方におあいして、2 ,3回あっている間は、非定型かメランコリー型うつ病か鑑別できないことがある 。クライアントの方が初回の面接で、すべての症状、生活状況を話せないからであ る。継続したカウンセリング、日記提出をしていると、非定型うつ病らしい様子、 不安障害らしい反応、症状がみられて、非定型うつ病の傾向やパニック発作らしい 症状もあるということがわかることもある。心理療法も半年ほどは受ける必要があ る。
 最近、うつ病が治らないとか、自殺の背景にうつ病があると言われているが、非 定型うつ病、不安障害、依存症との併存が多いのではないだろうか。薬物療法だけ では治りにくいのである。心理的ストレスが強い出来事に対して、ストレスの処理 のしかた、心の使い方、自己評価の向上がかかわるので、薬物療法だけですむ状況 ではない。国家的、長期的な視点から対策を考えてほしい。

 メランコリー型うつ病も、薬物療法だけでは治りにくい人がいるのはなぜだろう か。 次に、メランコリー型うつ病について考察する。
Posted by MF総研/大田 at 18:20 | 新しい心理療法 | この記事のURL