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直接経験としての「意志」(1) [2009年12月03日(Thu)]

直接経験としての「意志」(1)

=マインドフルネス心理療法と西田哲学

 マインドフルネス心理療法の救われる構造を西田幾多郎の言葉で簡単に見ている。 西田幾多郎は<自己>を哲学的に記述した。哲学は心理療 法ではないが、マインドフルネス心理療法と似たように、自己や精神活動について記 述している。 マインドフルネス心理療法に応用できるようなところをみている。

直接経験としての「意志」

 我々の現実の世界は、物理的空間、「意識の野」「絶対無の場所」の3層の構造である。直接経 験は最も深い場所で起きる。意識の野で起きるのではない。 「絶対無の場所」の場所は、知識が成立する場所であり、思惟、感情、意志、行為や感覚(見るこ とは特に直観)などの直接経験が成立し、あらゆるものが於いてある場である。 意志も直接経験である。行為のあるところに意志がある。西田は後に「行為的直観」というように なるが、行為と直観が自己同一であるからには、意志も直観と自己同一となる。 「行為的直観」を考察する前に、「意志」とは何か、西田のいうところを見ておきたい。苦痛にな らない「行為的直観」が現在から現在へと流れていくのが健康な人であるが、「行為的直観」が苦 痛になるような形で流れていくと苦痛を感じたり、心の病気になったりする。意志によって行動す るのであるから、心理療法においては、意志から行動への連鎖を別の連鎖に変えるトレーニングを することになる。

意志

 「意志は多くの場合において動作(行為)を目的としまたこれを伴うのである」(37頁)が「動作 は必ずしも意志の要件ではない」(37頁)。「単に運動を想起するのみではまだ直ちにこれを意志す るとまではできぬようであるが、そは未だ運動表象が全意識を占領せぬ故である、真にこれに純一 となれば直に意志の決行となるのである」(38頁)。
 「意志的動作においても、我は一の欲求をもっていても、直にこれが意志の決行となるのではな い、これを客観的事実に鑑み、その適当にして可能なるを知った時、始めて実行に移るのである。 」(40頁)
 「欲求はよく客観と一致することによりてのみ実現することができる、意志は客観より遠ざかれ ば遠ざかるほど無効となり、これに近づけば近づくほど有効となるのである。我々が現実と離れた 高き目的を実行しようと思う場合には種々の手段を考え、これによりて一歩一歩と進まねばならぬ 、しかしてかく手段を考えるのは即ち客観に調和を求めるのである、これに従うのである、もし到 底その手段を見出すことができぬならば、目的そのものを変更するより外はなかろう。これに反し 目的が極めて現実に近かった時には、飲食起臥の習慣的行為のごとく、欲求は直に実行となるので ある、かかる場合には主観より働くのではなく、かえって客観より働くとも見られるのである。」 。(41頁)

マインドフルネス心理療法への方法

 西田が後期にいう「行為的直観」は上記のようなゆっくりと経過する精神活動ではなくて、ほと んど自動化されている。あとで考察することにして、心の病気や心理療法との関係を考える場合に は、上記のような分析がわかりやすい。
 予期不安を起して、電車に乗ることを回避する、不安障害の場合やつらいことがある場合にアル コールや薬を飲む場合を考えてみよう。
 電車に乗ろうとして、不安を感じて、乗ることを断念することを決意するのは意志で ある。不安を回避する目的による乗車回避の行動である。これを繰り返す間は、不安障害は治癒しない。回避するのは、不安を避けるという目的があ る。
 つらいことや不満がある時に、アルコールを飲む、薬を服用するのは、苦痛を軽くする目的によ る意志によって飲む、服用する行為をとるのである。これ以外の目的、行動を思いつかなければ繰 り返される。苦痛が軽くなれば、飲む、服用は停止されるかもしれないが、苦痛が持続する場合に は、その意志、行動が繰り返される。
 心理療法で治すというのは、不安を避けるとか、飲むことによる一時的な楽による意志、行動で はなくて、別の高次の目的を強く想起して、そちらの目的のための意志を起こし、行動する決意を するようにトレーニングすることである。一時的な楽ではなく、「治る」「卒業」「就職」「家庭 平和」などの高次の目的を想起して、その実現のためになる行為をする決意をして決行することで ある。それが「現実と離れた高き目的を実行しようと思う場合」である。心の病気の人にとって、回避する行為、飲む行為が「現実」であり、それをしない行為は高い目標となる。高い目標を強く想起して、課題と日常生活の行動中に、高い目的を実現する意思を起し、課題を決行する。 当初はこれを相当の努力をしてゆっくりと実行し、それを繰り返して、やがて、自動化されることである。マインドフルネス心理療法は、現在しかないという立場であるので、現在の場面において(文脈)、即座に価値実現の意志決定と行為ができるようにトレーニングする。
 従って、心理療法においては本人が高次の目的を強くもたない限り効果がない。高次の目的を想 起するように助言するのも心理療法の手法の一つである(価値確認法)。それを助言しても高次の目的をもつこと をできない人、病識がない人は未だ心理療法による治療には不向きである。
 (続)
    (注)
  • 上記の( 頁)は 「善の研究」岩波文庫。



Posted by MF総研/大田 at 20:10 | 私たちの心理療法 | この記事のURL